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28 冬になり
しおりを挟む冬になり一層寒さが増すと、室内で過ごすことが多くなった。
今朝もこれまでのように二人で朝食をとり、マルスランが先に立ち上がる。
「……いってらっしゃいませ、旦那様」
「あぁ、暗くなる前に戻る」
昨夜、晩餐の時にマルスランが街へ買い物へ行くと言っていた。
寝室に戻ってから、ロゼールも一緒に行かないかと誘われて首を横に振った。
二人で出かけたい気持ちもあったけれど、まだ不安が消えたわけではない。
それに教会の子供達に刺繍を教えることになっていたから断った。
彼らにとって冬の収入源の一つになるかもしれないから。
ロゼールは日課としている教会へさっそく歩いて向かう。
荷物が多いなら馬車を用意すると言ったアントワーヌに、マルスランは馬でいいと言って出かけた。
きっと、森を駆け抜けて行きたいのだと思う。
馬が好きなのだろうと思うし、もうそろそろしたら雪が降るかもしれない。
ロゼールは子供達の元へ行く前に、礼拝堂に寄った。
いつもの祈りに加え、日々穏やかに過ごすことができていることへの感謝を。
マルスランに何事もないように。
ずっと休んでいたバベットの体調が早く回復するように。
最近になって短時間だけ働くようになったバベットは貧血が続いているという。
けれど、このまま横になっていたら一生起き上がれない気がするから働かせてください、と笑った。
幼い時からそばにいてくれているから、家族も同然だし完全に元気になるまで休んで欲しいのが本音。
クレマンの診察を時々受けていて、彼女が無理をしなければ大丈夫と聞いた。
そう言われてしまえばロゼールも頷くしかなくて。
バベットがいると心強いけれど……。
数日前に久しぶりに着替えを手伝ってもらった時、バベットはロゼールの背中を見て微笑んだ。
『旦那様は顔にも態度にも出ませんでしたけど、案外……ロゼール様にご執心なのですね』
『そう、かしら……』
『冬だから背中の空いたドレスは着ませんから、わかってやっているのでしょうね』
どうしてそう思ったのかと眉をひそめると、バベットがますます笑みを深めた。
『背中は見えませんものねぇ……。その、こちらをご覧ください』
手鏡を持たされ、大きな鏡に背を向けて立ち、小さな鏡をのぞき込む。
いくつも、虫を刺されたような痕が残っていた。
時々、マルスランが背中に唇を這わせていたのは気づいていたけど、あの最中はよくわからなくて、こんなふうになっているとは思わず、一瞬で顔が赤くなる。
『うまくいっているようで安心しました』
『バベット、このことは内緒にしていてね。どこに誰がいるかわからないんだもの』
侍女の眉が下がる。
『ロゼール様……わかりました。私は何も言いません。マルスラン様はお強いから大丈夫でしょうが、ロゼール様を大切にしてくださる方は、私も大事にしますから!』
『ありがとう、バベット。信頼しているわ』
その日の夜、マルスランにそれを訴えると後ろから抱きしめて、ロゼールの背中で笑っていた。
『バベットの言う通りだな。ずっとこうしていたいくらいだ』
マルスランは、あの香りの良い蝋燭も買うと言っていた。
あれは特にロゼールが気に入っているから、二人で過ごす時は欠かせない、かもしれない。
そんな会話を思い出しながら、子供達が刺繍を刺すのを眺めた。
あの蝋燭も子供達が作れるようになったら、収入源が増えるのではないかと、一度作り方を聞いてみたくなった。
今日はロゼールが刺繍を教えたけれど、別の日には他の人に編み物などの手仕事を子供達に教えてもらっている。
塩田で働くのが合わない子達が他の仕事につきやすくなるように。
成人して出て行ってしまう子もいるけれど、この地で家族を作る様子を見るのは嬉しかった。
それに……恋人を連れて戻って来る子もいないわけではなかったから、そんな時はこの地の領主でよかったと心から思えた。
「領主様! 大変です! 旦那様が……っ!」
扉が大きく開け放たれて、領民が駆け込んできた。
「どうしたのです? 何があったのですか」
冷静になれと、頭の中で声が響くけれど、鼓動が速まりぐっと両手を握りしめた。
そうしていないと、震えてしまう。
「落馬したらしくて、意識が戻らないそうです!」
ロゼールは全身の血が引くのを感じた。
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