学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ

文字の大きさ
3 / 16
1 雨とピアノ

3 顔を合わせるたびに

しおりを挟む


「今日もいた」
「あ、おはよう」

 島根が私を見つけて話しかける。
 こうして顔を合わせるのは何度目だろう。

「どうしたの?」
「なんとなくここを通るたびにいるのかなって、のぞく癖がついた」
「委員長、やっぱり今も面倒見がいいんだ」
「……ばーか」

 そう言いながら、保険医がいないのを確認して丸椅子に腰かける。

「時間大丈夫?」
「うん、一時間自習。今日六時間授業なんだけど、そっちは?」
「六時間だね……」

 でも雨も降っているし、憂鬱な気分になっちゃうし早退しようかなって思っていた。

「じゃあ、今日一緒に帰ろうか。雨だから電車なんだ」
「そうなんだ」

 七校時じゃないなんて珍しいなと思って眺めていると島根が苦笑する。

「帰り、ここにいる? それとも普通科の玄関まで迎えに行こうか?」
「あー、えーと」

 クラスメイトに島根を紹介したくない。
 真っ先にそう思って言葉を濁す私に、

「方向おんなじだし一緒に帰るくらい、いいじゃん」
「あ、えっと、帰るのが嫌とかじゃなくて。玄関まで島根が来ると女子に質問攻めにされるよ。……私はそっちがやだなって……」

 そこまで言って、一瞬で顔が赤くなる。
 まるで、島根を独り占めしたいって言ったみたいで恥ずかしくなった。
 赤くなったらますますそれを認めたみたいで慌てる。

「あー……そっか……。えーと、じゃあ……講堂の入り口にする? あそこなら雨に濡れないし、目立たないから……」

 島根まで赤くなっていて、ますます恥ずかしい。

「うん。いいよ。……じゃあ、あとで」
「うん、あとで」

 島根は首も耳も赤くしたまま部屋を出た。

 今もドキドキして困る。
 なんだろ。これ。

 島根のことは友達として好きで、他の女の子に紹介したくないって考えるのがへん。

 最近、彼と会うことが学校で唯一の楽しみに……そこまで考えて、それってやっぱり特別な好きなのかも。

「うわぁ……どうしよう。帰り、意識しちゃうよ」

 前よりクラスで過ごす時間がつらくない。
 私の心を大きく占めていた友達と合わせなきゃいけないって気持ちが、島根との交流でほんの少し肩の力が抜けたのもある。

 相変わらず気疲れはするけど、あと一月ちょっとで春休みになるし、SNSに私抜きで出かけている写真が上がっていてもこれまでほど気にならない。
 今ならそれにいいねもできるけど、揉めるのも嫌だしこのままでいい。
 
 それに私の部屋にやってきた電子ピアノは、買いたいと思っていたものよりかなりランクが上のもので憧れていたもの。

 ピアノの買取は大した金額にならなかったけど、お姉ちゃんの旅行代と同じだけ出してもらえることになったから。

 好きなアーティストの譜面を買ってひたすら弾く。
 ヘッドホンして夜中にだって弾くこともできてすごく楽しい。
 この曲が弾けるようになったら、もう少し難易度上げてもいいかも。

 それに……島根と、SNSで会話するのも楽しい。
 おはようとか、おやすみとか。
 今日学校来れる? とか。

 あれ?
 友達とだってここまでマメに連絡を取り合わなかった。
 なんか、これって特別じゃない?

 そんなことを考えていたから、私は赤い顔をしたまま教室へ戻った。








「あれ? まだ熱あるんじゃない?」
「……そうかも。でも、テスト前だしね」
「無理しないでね~」
「ありがとう」

 前だったら深読みして疲れていたけど、今は言葉通りに受け取っていいんじゃないかって思うことが増えてきた。

 それと、一人に彼氏ができそうで均衡が変わりそう。
 休みの日にデートしたとか、放課後にその子と一緒に帰るとか。

 女の子ってころころ変わる。
 今の私もそうかもしれない。

 だいたい夜も週末も部屋の中でピアノばかり弾いていたら、リビングに降りてこない私が気になったのかお父さんまでのぞきにくる。

 こうして夢中になってピアノが弾けるのも、電子ピアノ代を半分出してもらえたのもお父さんのおかげでもあるんだよね。

 いつも無視してごめんって思う。
 ありがと、って言ったらその後すぐにお父さんのおつまみが届いた。 

 塩のきいたナッツは大好きだからいいけど、ピアノに触れている時にさあ、食べろって言うのはナシだと思う。

 だけど休みがちだったから家族みんなにものすごく心配かけちゃっていたんだなぁって実感した。

 そんなことを考えながら古文と現代社会、私にとって眠くなる科目を受ける。
 意識は窓の外へ。

 北時雨ってこういう雨なんだっけ。
 北風に乗って降る雨は、このままあっさり止みそう。
 傘がないほうが顔を見て話せていい。

 だけどこのまま降っていてほしいかも。
 傘に隠れたほうが、目立たなくていって思った。
 
 
 






 同中の子と会うからと言って友達と別れた後、講堂へ向かう。
 特に突っ込まれることもなくあっさり別れた。
 

 さっき、トイレに寄ればよかったかな。
 湿気で髪の毛、変になってるかも。
 でも今さらかな? 
 保健室だともっと気を抜いていたから。

 どうしよう、どきどきしてきた。

「福島!」

 講堂から傘を差して飛び出して来た島根を見上げる。

「……そんなに大きかったっけ?」
「えー? 今頃? やっと175超えた」
「そうなんだ……。ほら、私いつも座っているか、寝ていた、から、かな?」

 なんだろ。
 そう答えて恥ずかしくなる。

「そう言えばそうだった。福島、結構休んでいたけど勉強大丈夫なの?」
「……だいたいは。保健室でも勉強したし、その分余計にレポート出されたし」
「何が苦手?」

 のぞきこまれてどきっとする。
 心臓に悪いよ、こんなの。

「もしかして委員長、教えてくれるの?」
「教えようかと思ったけど、委員長とか呼ぶからやめる」
「えー、ひどい。化学はあまり好きじゃないかな。島根は苦手な科目あるの?」
「なあ、もう名前で呼んでもいいんじゃない?」

 今の流れでそうなる?
 
「えーと、銀?」
「ははっ。顔真っ赤」

 さらっと答えたつもりなのに。
 困って傘で顔を隠す。

「ちょっ……、傘当たる。しずく」

 慌てた声が上から聞こえて。
 それに、しずくは私の名前だけど、雨のしずくなのか私の名前なのか。

 そっと傘をあげる。
 いつもの顔で笑っていて、ドキドキして損した。

「ほら、濡れた」
「あ、ごめん……」

 彼の腕におもいきり雨がかかった。
 ハンカチを渡そうとしてポケットを探る。

「気にしなくていいよ。今って化学持ってる?」
「持ってる」

 テスト前じゃなければ、持っていなかったけど。

「じゃあ、寄り道して帰ろう」
「いいよ、お腹すいたし」
「勉強メインだよ」
 
 ちょっと呆れた声にわかってる、ってこたえて私達は乗り換え駅のファーストフード店に入った。
 
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

フラレたばかりのダメヒロインを応援したら修羅場が発生してしまった件

遊馬友仁
青春
校内ぼっちの立花宗重は、クラス委員の上坂部葉月が幼馴染にフラれる場面を目撃してしまう。さらに、葉月の恋敵である転校生・名和リッカの思惑を知った宗重は、葉月に想いを諦めるな、と助言し、叔母のワカ姉やクラスメートの大島睦月たちの協力を得ながら、葉月と幼馴染との仲を取りもつべく行動しはじめる。 一方、宗重と葉月の行動に気付いたリッカは、「私から彼を奪えるもの奪ってみれば?」と、挑発してきた! 宗重の前では、態度を豹変させる転校生の真意は、はたして―――!? ※本作は、2024年に投稿した『負けヒロインに花束を』を大幅にリニューアルした作品です。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

迷子を助けたら生徒会長の婚約者兼女の子のパパになったけど別れたはずの彼女もなぜか近づいてくる

九戸政景
恋愛
新年に初詣に来た父川冬矢は、迷子になっていた頼母木茉莉を助け、従姉妹の田母神真夏と知り合う。その後、真夏と再会した冬矢は真夏の婚約者兼茉莉の父親になってほしいと頼まれる。 ※こちらは、カクヨムやエブリスタでも公開している作品です。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。

久野真一
青春
 羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。  そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。  彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―  「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。  幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、  ある意味ラブレターのような代物で―  彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。  全三話構成です。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

処理中です...