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1 雨とピアノ
4 居心地がいい
しおりを挟む「うーん、よくわからない……」
私の言葉に銀がシャープペンを親指の上でクルクル回す。
他の誰かがしていたらイラッとする癖だけど、なめらかな動きに目を奪われる。
「俺、わかりやすい参考書持ってるから土日どっちか会えない? その時ポイント説明してもいいし」
「迷惑じゃない? お互いテスト前だから大変でしょ?」
「うーん、そうでもない。教えるのも復習になるし」
「でも全然範囲違うでしょ?」
銀が笑って大丈夫だっていう。
「……ありがと。じゃあ、土曜日の午後?」
「いいよ、じゃあ明日の一時。場所はどうしようかな、……図書館にする?」
もし地元で誰かと会ったら、どうしよう。
なんて言ったらいいのかな。
そんな気持ちが顔に出たのかも。
「この駅降りて五分も歩かないところに図書館あるの知ってる? 子どもが多いからかちょっと騒がしいのが難点だけど予約取らなくていいし、空いてるんだ」
「へぇ……知らなかった。いいね、じゃあお願いします」
二人でポテトを分け合って、おしゃべりして。
どうして話すことがこんなに出てくるんだろう。
話題が尽きない。
「……だから、ピアノばっかり弾いてる」
「ふぅん。じゃあさ、あの曲弾ける? 俺すごい好き」
アーティストは知っていたけど、銀が好きだというアルバムの曲は知らなくて。
「これ。ちょっと聴いて」
差し出されたイヤホンを受け取り耳に当てる。
銀が片方を自分の耳に当てて、めっちゃ近い。
スマホを操作する彼を見つめていたら、ちらっと視線が上がった。
「あ、ごめん。ワイヤレスイヤホン、片方無くしちゃって。小遣い貯まるまでしばらくこれ」
「そっか。あれ、ポロっと落ちて割れたことがあるよ」
「あー。俺は完全にどこで落としたかもわからない。今回二回目だからさすがに反省してる」
ドキドキするけど意外と普通に話せてるかな。
「ランナーが使ってるタイプにしたらいいんじゃない? 首の後ろにワイヤーみたいなのがあるの見たことある」
「へー。じゃあ、調べてみようかな。……あ、この曲」
お互いに黙って曲を聴いて。
私は何となく銀の短く切られた爪と、節の目立つ長い指に見惚れる。
「あ、このサビ知ってる! なんだったかな。TV?」
「ドキュメンタリーで使われていた。多分その印象もあって好き」
「うん、いい曲だね。ちょっと弾いてみたいな」
私がそう言うと、聴いてみたいって笑った。
その笑顔があまりに無邪気で、嬉しそうで。
頑張って練習したいって思ってしまって、指がうずうずした。
「約束はできないけどね」
「うん、楽しみ」
「いやだから、無理かもだし」
「うん、いいよ」
銀のペースは調子が狂う。
その後、途中まで一緒に帰って手を振り合った。
「また明日」
「また明日……じゃあね、銀!」
私はそう言って前を向いて歩き出した。
何回か声に出せば慣れるかな。
彼の後ろ姿を見たくて振り返って思わず声が出る。
「え……」
さっきの場所にそのまま立つ銀の姿。
表情はよくわからないけど、多分驚いた私のことを笑っている。
「振り向かなくていいから。気をつけて帰れよ!」
「うん、バイバイ」
心がくすぐったい。
もう一度振り向きたい気持ちを我慢して、歩いた。
浮かれたまま家に帰ると、珍しくお姉ちゃんがキッチンにいる。
「え? 珍しい。チョコ? 私も食べたい!」
「あんた……今年もチョコすら渡す相手がいないの? 今回は週末だからか……」
今日の日付けは二月十三日。
「お姉ちゃん! 手伝うから私にも分けて! 明日勉強教えてもらう子に渡したい。友チョコ仕様で!」
「…………へぇ。いいけど? これから作るところだし」
「ありがと!」
結局お姉ちゃんは、指示するだけでほとんど私に作らせた。
真ん中にチョコを入れたチョコマフィンは言われた通り混ぜるだけで簡単だったし、貰えるから嬉しいけど。
お姉ちゃんは彼氏に渡すのにそれでいいのかとは思う。
ちょっと苦めの大人味。
銀にさりげなく渡すならありだよね?
「ラッピングもあるから。一人分でいい?」
「やった! ありがと! アルミホイルに包もうと思ってた!」
「……その女子力の低さ」
呆れられたけど、仕上がったものは完成度が高くて、高すぎる?
本気すぎる?
これ渡したら好きってバレる?
「……お礼で渡すなら可愛い方がいいじゃん。せっかく作ったんだし。がんばれ」
お姉ちゃん!
何か勘づいている⁇
土曜の朝も私の服を見て、こっちを着ろだの髪はこうしろだのお姉ちゃんが騒がしかった。
そのせいでお父さんもお母さんもデート?みたいな雰囲気になっちゃってつらい。
「テスト前だから、勉強してくるだけだから。じゃあ、行ってきます!」
ひさしぶりに休みに外に出たかも。
風は冷たいけど、晴れていてよかった。
図書館は本当にわかりやすい場所にあったから中に入って銀の姿を探す。
ひらひらと小さく手を振る姿を見て、近づいた。
「待たせちゃった? ごめんね」
「俺も今来たところ。ここ座って」
「ありがと」
テーブルが大きくて向かい合わせでは話しづらいから隣に向かう。
一つ席を空けようか一瞬悩んだけど、何でもない顔をして真横に座った。
体温を感じそうな距離でもある。
「迷わなかった?」
「全然。案内出てたし、見えてたから」
小声で喋っても周りに睨まれることもない、ほかの図書館とは違う空間。
隣が児童館で、大きな絵本コーナーでは小さな子に読み聞かせもしている。
集中して勉強をするスペースというより、わいわい宿題をこなす場所として解放されているような雰囲気がした。
二階に予約制の間仕切りのある自習室があると聞いて納得する。
今日は科学と数学を持って来ていた。
夜のうちにSNSで話し合って決めたけど、銀は世界史の教科書を一冊持ってきているだけ。
読むだけで頭に入るらしい。
ノートにまとめるとか問題集解くとか、最小限しかしないんだって。
すごく羨ましい。
「歴史は好きだから」
「私も嫌いじゃないけど、カタカナの長いフルネームとか覚えるのが嫌になる」
「ははっ……!」
銀が笑って、慌てて口を押さえる。
ここが図書館なのを忘れるくらい楽しい。
その後は参考書を貸してもらいながら教えてもらった。
集中したせいかあたりが暗くなっていることに気づいて、私達は慌てて片づける。
かばんに入っているチョコマフィンの存在感が大きくて、早く渡してしまいたいけど気まずくなるのも嫌だからそわそわしてしまう。
昨日と同じ場所まで一緒に帰り、私はかばんからチョコマフィンを出した。
よかった、手、震えてない。
「今日は本当にありがと。すごくわかりやすかった。……それで、これ、お礼」
押し付けるように渡して、私は一歩下がる。
返品不可だよって。
「え……これ」
「あー、えーと、チョコ! 今日バレンタインだし。お礼だから……じゃあ、バイバイッ」
驚いて固まる銀にそう言って背を向ける。
あんなに驚かれるなら、やめておけばよかったかな。
それか、コンビニで買えばよかったかも。
「ありがとう、しずく!」
名前を呼ばれて振り返る。
「バイバイ、しずく」
「バイバイ、銀……」
お互いに手を振り合って別れた。
どうしよう、あんなに嬉しそうにされたら胸がぎゅってして痛い。
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