学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ

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1 雨とピアノ

5 彼女?

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 チョコマフィンおいしかったって別れて三十分もしないうちに連絡がきた。
 夕食の前に食べてしまうとは思わなかったけど、おやつも食べないで勉強したからお腹空いていたのかも。

 あれ?
 私って本当に気が利かない。
 途中で休憩した時に食べてって渡してもよかったのかも。
 でも、私が作ったものを目の前で食べられるのって緊張しそう。
 やっぱり帰りに渡してよかったのかな。

 甘すぎないからいくつでも食べられるって大絶賛だったからお姉ちゃんのレシピのセレクトもよかった。
 材料と分量忘れないうちにメモしておこうと思う。

 そう考えて、また作るつもりになっている自分の浮かれ具合に呆れる。
 
「勉強しよ……」







 銀のおかげで、テストも無事に乗り越えられた。
 あとは春休みを待つばかり。

 最近の昼食時の話題は春休みにどこのゼミに行くとか、来年の選択授業何にするかとか少し変わってきた。

 彼氏ができた子もいれば、気になる人に彼女ができて落ち込んでいる子もいて。
 なんとなく恋愛話は避ける雰囲気になっている。

 バレンタインの話題が出なかったのもそのせいかもしれない。
 彼氏が欲しいって散々言っていたけど、やっぱり誰でもいいわけじゃなくて好きな人がいいんじゃないかな。

 最初はただ気になる人だったかもしれないけど、落ち込み具合を見ていると本気で好きだったようにみえる。

 ずっと同じ気持ち、同じ関係が続くわけじゃないんだなって自分のことを重ねてみても思った。
 
 今の私は浮かれていて、気を引き締めていないと余計なことを考えてしまう。
 可愛い洋服がたくさん欲しくなる理由も少しわかった。 

 純粋におしゃれすることが好きって以外に、好きな人に可愛いと思われたい。
 好きな人ができた時にベストな状態でいたい。
 彼女達を見ていると、そういうことなのかなって。
 私にとって優先順位はそれほど高くないけど……。
 
 保健室に逃げることは少なくなったから、銀と顔を合わせることもほとんどなくて、SNSでのやりとりだけでちょっと寂しい。

 あとは雨の日は一緒に登下校しているけど、それって天気次第だからどうしようもない。
 憂鬱だった雨の日が待ち遠しいなんて、これまでの私だったら考えられないから。

「福島はさ~、あの子とつきあってるの? よく帰っているよね」

 突然話題を振られて目が泳ぐ。

「え、なにその反応。つき合ってんだ、いいな~!」
「違う、違う。つき合ってない。同中だから、勉強教えてもらってただけ」
「あーね」

 そう言いながらにまにまして見てくる。

「いつデートすんの? 勉強教えてもらったお礼した?」
「あー……したような? してないような?」

 私が言葉をにごすと、みんなが前のめりになる。

「なんだよそれ! お礼がしたいって誘えばいいじゃん。なんか……ドーナツ食べに行こうとかさぁ!」
「え?」
「よりによってドーナツ……?」
「いま私が食べたかったから! だけどラーメンとか無理じゃん! あと、カレーとか匂い気になるし!」

 どっと笑いが起こって、その後はうやむやになった。
 その会話が夜まで頭に残っていて、本当に誘ったほうがいいのかなんて、スマホ片手にぐるぐる考える。

 お姉ちゃんならどうしたらいいかわかっていそうだけど、からかわれそうだからやっぱり訊けない。

「ピアノ、弾こ……」

 何となく適当に指慣らしで弾いているうちに夢中になる。

「よし、あの曲を弾こう」

 銀が好きだと言った曲。
 あの後必死で練習した。
 せっかくだからスマホで手元だけ映るように動画を撮ってみようかな。
 動画サイトみたいな雰囲気で。
 
 一回目は部屋のごちゃごちゃしたところまでうつり、二回目は気負いすぎてミスをして。
 三回目でまあまあの出来。

 でももうちょっと上手に弾きたい。
 流石にうちに呼ぶのは恥ずかしいし、学校のピアノとか銀の前で弾けたらいいけど……。
 そんなチャンスないかも。

「あれ? いつの間にか通知がいっぱい……」

 集中しすぎて気づかなかった。
 その中には、銀のおやすみコールもあって、私は慌ててスタンプを押す。

「あ……っ!」

 さらに前へとスクロールして、私は気づいた。

 “土曜日空いてる?”

「空いてる! 会いたい!」

 こっちから誘おうと思ったのに、嬉しくて興奮する。
 だから、空いてるよって打つつもりが、会いたいよって送信してしまって。

「やだっ! 既読ついた……! 今さら取り消したら感じ悪い?」

 慌てているうちに、通知がきた。

 “俺も”

 用件はわからないけど、ドキドキしすぎて私は嬉しいとおやすみを連続で打ってスマホをベッドに投げ出した。

「……あっ! スクショ! スクショとろ!」

 ちょっとずつずらしながらスクショをとって、ベッドの上でゴロゴロした。


 





 翌朝、寝ぼけたままSNSの通知を開く。
 銀からのおはように、私も同じように返して昨日のやりとりをもう一度眺める。

「夢じゃなかった……」

 会いたいとか嬉しいとか、夜のはしゃいだ返信が身悶えするほど恥ずかしい。
 でももう一度見ずにはいられない。

 浮かれ過ぎて、どんな内容か全く聞いてないから、もしも『彼女ができたから一番に紹介したかった』とか言われたらどうしよう。
 銀の『俺も』は社交辞令かもしれない。

「それは落ち込む……」
  
 想像しただけで悲しくなった。
 なんだろう、私ものすごく情緒不安定?

 その後、あの図書館で土曜の一時に会う約束をしたけど何がしたいのかわからない。

 ただ本当に本が読みたいのかな。
 今回も勉強しようってこと?
 それともやっぱり彼女を連れてきちゃうとか?
 私が勘違いしないように、教えてくれるつもりとか……?

 訊けばスッキリするのに怖くて訊けない。
 失恋確定はつらい。

 モヤモヤしたままその日がやって来た。
 図書館の前で深呼吸してから、中に入る。





「あ……」

 ちょっと泣きそう。
 この間と同じテーブルに座る銀の横に小柄な女の子が立っている。
 仲良さそうだしまさか本当に彼女なのかな。
 
 笑顔で会話してるし、私ってやっぱり親友枠?
 具合が悪くなったって連絡して帰っちゃおうかな。
 だけど、銀は私がいることに気づいてしまった。

 できることならここから逃げたい。
 でも。私は前に足を踏み出した。
 
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