学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ

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1 雨とピアノ

6 雨とピアノ 

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 震えそうになる足をなんとか前へと動かして笑顔を浮かべて近づく。
 笑えているかわからないけど。
 女の子が私をじっと見るから、ぺこりと挨拶した。

「こんにちは……遅かった?」
「いや時間通りだよ。……あぁ、この子は俺の」
「彼女さん?」

 先走って言った私に二人が黙る。
 なにこの沈黙。耐えられない。
 焦って私が早口になる。

「あの、えっと、邪魔だったら私」
「いやいや、ここにいて。この子は」
「いとこのやえです。今さっきたまたま会っただけで銀兄の彼女とかないです。……じゃあ、えーと、邪魔してごめん、なさい」

 礼儀正しくきっちりお辞儀して去っていく。

「え……?」
「しずく、出よう」

 戸惑う私の腕を掴んで銀が前を歩く。

「え? なに?」

 図書館の裏の公園に入り、人気がなくなった辺りでくるりと振り向いた。

「しずく、好きだ。つきあって欲しい」
「え? 嘘……?」
「やえを彼女だと勘違いして、泣きそうになっているなら……俺、調子に乗りそう」

 そんなことを言われて、なんて答えたらいいかわからない。
 キャパオーバー。
 
「今日、ホワイトデーだから一緒に出かけて何かお返しを買いたかったんだ」
「……ホワイトデー……?」

 そっか。
 だからお姉ちゃんも、おしゃれしていて私にもアドバイスしてきたんだ。納得。

「え? 気づいてなかった?」
「うん。なんで呼び出されたのか不思議だったけど」

 呆れた顔で私を見つめ、口を開く。
 
「俺、会いたいって言ったじゃん」
「言ってない。『俺も』って言った。私が会いたいよって送っちゃったから……」

 私はいったいなにを言っているんだろう。
 今も銀に掴まれた腕が熱い。

「…………しずくが好きだから会いたいし顔を見たくなった。会って声も聞きたいし。中学の時から、気にはなっていた。高校で会って、話すの楽しいしやっぱ好きだなって思ったんだよね。だから彼女になって」
「……案外ストレートに言うんだね……」
「茶化すなよ」
「私も好き。銀の彼女になりたい」

 そう答えると、彼が私の腕をぱっと離してしゃがみ込み、顔を覆った。

「好きな子に好きって言われるのって……俺、今なら空飛べそう」
「飛んでみてよ」

 私って可愛くない。
 こんな時にそんなこと言っちゃうんだから。

「しずく」

 ちらっと赤い顔を上げて私を見る。
 これまで見たことのない表情にドキッとして、思わずもらす。

「顔真っ赤」
「ばーか」

 また顔を伏せるから、手持ち無沙汰になった私は彼の髪を撫でた。
 思った通り、柔らかい。

「……なにそれ」
「なんとなく?」

 私の手に銀の手が重なる。

「泣かないの?」
「……泣いてほしかったの?」

 いつも落ち着いている銀がそんな態度をとるから驚いて涙が引っ込んだ、なんて今は言わない。

「そうでもない」

 大きく息を吐いて、私の手を握ったまま立ち上がる。

「……行こうか」
「どこへ?」
「内緒! あ、でも行きたいところある?」

 まだ少し赤い顔で、私をのぞきこんで言う。
 銀が彼氏になったなんて。

「うーん、銀の行きたいところがいい。今はなにも考えられない」
「なんで?」
「夢みたいでふわふわしてる。ね、つなぎなおしていい?」

 一度してみたかった恋人つなぎ。

「……そういうとこ。いきなり素直かよ」
「え? ごめん? やだった?」

 離そうとする私の手をぎゅっと握る。

「困る。可愛くて、もっと好きになる」
「……銀のほうがそういうとこ……心臓持たないからやめて。好きがあふれて死んじゃいそう」
「バカップルか」
「……私も思ったけど! 言わなかったのに」

 私達に甘い雰囲気は続かないらしい。

「今日くらいバカップルでいいじゃん」

 銀に手を引かれて私は歩く。
 ショッピングモールへ向かった私達だけど、元手のかかってないチョコマフィンに高額なお返しもなんだか違う気がしてカフェ代をおごってもらうことにした。

「そんなんでいいの?」
「うん、あのさ……つきあった記念にお揃いのものがほしいかな。私からも銀に贈りたい」

 今なら、お揃いのものを持ちたい気持ちがわかるかも。
 ただし、誰とでもってわけじゃなくて好きな人に限る。

「それいいな」
「お揃いのシャープペンとか」
「……そっち? アクセサリーかと思った」

 銀が呆れているのがわかって、私は訳を言う。

「銀が持ちづらいじゃん。筆記用具なら、基本的に手にすること多いし」
「筆記用具……」
「もうすぐ春休みなのに?」
「銀は勉強合宿あるでしょ?」

 私も勉強する気が出るかも。
 すぐにクラス編成テストがあるから。

「……じゃあ、お店で色々みよう」
「そうだね……あ、そうだ! 銀が好きって言ってた曲、ちょっと弾けるようになったよ。まだ完璧じゃないけど」
「聴きたいな。あ、そういえばここストリートピアノあった気がする。弾いてよ」

 ちょっとした話題のつもりが、大ごとになりそうで焦る。

「それはちょっとハードルが高い! そうだ……えーとね、試しに動画撮ったのが……あ、でも、イヤフォン持って来てなかった」

 こんなところでピアノ弾くなんて無理。
 なんとか回避したくて慌てる私に銀がイヤフォンを差し出す。

「これ使える? 聴きたい」

 私が準備して、お互いに顔を寄せて曲を聞く。
 ドキドキがおさまらなくて、照れくさい。

「あ、これ……部屋散らかってるやつだ! 目つぶって聴いて」
「やだ。指が動いているの観たい」
「じゃあ、指以外観ないでよね」
 
 銀があまりにも嬉しそうだから、結局三つの動画を全部観た。
 
「もうちょっと上手く弾けたら披露するよ。目立たない場所で」

 そう約束して私達は初めてのデートを楽しんだ。
 結局お互いにシャープペンを贈り合うというロマンティックからは程遠い結果になったけど、相手のイニシャルを入れてもらったのが特別感が出て見ているだけで顔がゆるむ。

 図書館に入った時に泣きそうだった私は、その日は夜になっても顔が元に戻らなくて、お姉ちゃんにだけ彼氏ができた報告をした。

「私のおかげでしょ」
「そうかも。ありがと」

 お姉ちゃんの得意気な態度も、今日は気にならないし頼りになった。
 不審がるお父さんとお母さんに適当な話題を振って話をそらしてくれたのもお姉ちゃんだから。
 でもこっそりお母さんに言いそう。


 それからすぐに春休みに入り、デートは二回だけ。
 銀の勉強合宿と私の春期ゼミのせい。

 新しいクラスは勉強したい子向けの選抜クラスに入れたから、少人数で知らない子ばかりになった。
 気の合う子がいるといいな。
 特進科ほどぎっちり勉強ではないけれど、今年から0校時がある。
 
「一時間早いって結構キツイね……」
「慣れれば大丈夫だよ」

 雨の日は一緒に登下校できて嬉しい。
 それに校舎が一緒だってことも顔を合わせる機会が増えそう。

 あの時銀と会っていなかったら、私はドロップアウトしていたかもしれない。
 きっとピアノだけでは乗り越えられなかった。

「今週末、ピアノ聴きにくる? お母さんだけいるかも」
「いいの? お母さんに会うのは緊張するけど、聴きたいし動画も撮りたい」

 銀はずっとあの動画が欲しいと言っていたけど、私は恥ずかしいしもっと上手に弾けてからにしてってずっと断っていた。

「絶対手元だけにしてね。部屋を映さないでね?」
「わかってる」

 自分で動画撮る時だって緊張したのに、銀が私の部屋にいたらもっとガチガチになって失敗する未来しか思い浮かばない。
 もっと練習しよう……。
 
「お母さん、銀のこと覚えていたよ。委員長って」
「……そっか、じゃあ嫌われないようにきっちり挨拶するよ」
「それは大丈夫! すでに好印象だった」
「それはそれでハードル上がって心配……」

 そんな銀の手をこっそり握ると、そっと握り返してくれる。
 
「今日って一緒に帰れる?」
「うん」

 季節が変わるように私達もこのままではいられないかもしれない。
 それがいい変化であってほしいし、この先も一緒にいられたらいいなって思う。
 
 私が笑いかけると銀が応えるように笑顔を浮かべた。
 

 






          雨とピアノ  終
 





******


 お読みくださりありがとうございました。
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