学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ

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2 日曜の駆ける約束

1 夏の終わり

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 こんなに寂しく感じるなんて思わなかった。
 中学の時はバスケ部だったけど、高校は違う部活がやりたくて熱心に誘われた陸上部へ。

 個人競技だってことはわかっていたし、走るのだってそれほど嫌いじゃない。
 これからは二年生が中心になって一年生を引っ張っていくように、と。
 その時はまだ実感がなかった。

 夏の総体が終わって三年生が引退した後、なぜか私の中からすこんと何かが抜け落ちた。
 坂道をダッシュしても学校の外周を走って戻っても、待っていてくれた先輩達がいない。
 
 引退した先輩達は七名、二年の私達は十二名いて、今年の一年生は九名。

 新しく決まった部長と副部長、それなりにみんな上手くやれていると思う。
 だけど私達の学年はサバサバしていて、一年生はまだ初々しい。

 多分私は先輩達に懐きすぎていたんだと思うし、距離が近すぎたのかもしれない。
 実際可愛がってもらっていたと思う。
 特に群馬香先輩。

 同じ短距離だったのもあるし、お互い長距離が苦手で練習の時に3000m走る日は励まし合った。
 校内の持久走大会は8000mで、学年で50番以内に入らないとペナルティがあったからすごく頑張ったのもいい思い出。

 バレー部の足の速いマネージャーより遅かったらペナルティというものより理不尽ではないと思ったけど、野球部は100番以内と聞いて羨ましかった。

 とにかく私と香先輩は姉妹といってもいいくらい仲がよかったと思う。
 今年の部長で彼女の弟のたもつよりも。

 部長の保は面倒見のいい奴だ。
 周りが自己ベストを更新していく中、私はスランプでもあって。
 彼に辞めたいと漏らしてしまった。

「週に一日しか顔を出さない奴だっているし、土日は絶対休む奴もいる……クラブチームに入ってる奴とか、予備校通っている奴とか。宮崎も辞めることないよ」

 私達の学年はそれぞれ自分を持っていて自由で。
 一緒に頑張ろう、なんていう奴はいない。
 結局私は乗り越えることができず、秋季競技会の後で受験勉強を理由に退部した。

 二年生の二学期になって、ちらほら部活から受験勉強にシフトする子達が増えたから珍しいことじゃない。
 周りの反応も退部したからって態度が変わるわけでもなくあっさりしていた。
 
 保から香先輩に伝わってしまうのは分かっていたけど今はほとんど顔を合わせることがない。
 スランプだったことも、先輩達がいないから楽しくないなんて子供っぽい理由も改めて口に出したくなかったし、何かに負けた気がして悔しい。
 でも続けるという選択はなかった。

 退部届を出した夜、香先輩からどうしてやめたのって連絡がきたから勉強が大変だからです、最後まで続けられなくてごめんなさいって返信した後は未読のまま。

 あとで返信しようと思ったけどやっぱり見ることができない。
 責められるのが、軽蔑されるのが、怖かった。

 もともと通知内容も非表示だからなんて書いてあるかもわからないし、スルーしているからブロックしていると思われているかもしれない。

 日が経てば経つほど、返信も顔も合わせるのも気まずくなっていく。
 お世話になりました、とかありがとうございましたとかちゃんと伝えていない気がしたけど確認することもできなくてますます落ち込んだ。

 それに購買で見かけた時に何か言いたげな視線を感じて避けるようになってしまった。
 情けないけど、目が合った時はお辞儀だけしてその場から逃げる。

 途中で投げ出した自分の心に棘のようなものが刺さっていて、不自由で息苦しい。

 キツさで言えば中学の時のバスケ部のほうが練習も人間関係もすべてがつらかったのに三年間辞めなかった。
 なのに今の私のほうが軟弱になっているのかも。

 そんなことを考えてしまったら、学校もなんとなく行きたくないと思ってしまった。
 ずっと休んでいなかったから一日くらい大丈夫って。

 今日は半日だから。
 今日は嫌いな授業が重なったから。
 今日は小テストがない日だから。

「奈津はさー、部活やってた時の方が休まなかったよね?」

 友達に言われて休み過ぎたかと反省する。

「多分、朝練ないから夜更かししちゃうのもあるかも。やっぱり寝ないとダメなのかなぁ。体調おかしくなるよね」
「そりゃあね。私、寝ないとフラフラしてダメ。ショートスリーパーに憧れる。なりたいなぁ、そしたら好きなだけ起きて好きなことするのに」

「例えば?」
「まず、動画観まくる。なんかさ、おすすめで面白そうなのどんどん紹介してくるから追いつかないんだよね」
「わかる」

 友達は睡眠不足だと機嫌が悪くなるタイプだけど、私はお腹が空きすぎるとイライラするタイプかも。
 睡眠不足は体がだるくてやる気がなくなるって感じているけど。

「学校来ないと私が寂しいんだから、体に気をつけてよね!」
「はーい」

 帰りに短距離と中距離の子達が中庭に集まっているのを見かけたけれど、長距離の子達は外周を走るらしい。
 校門を出てなんとなく見つからないように足早になる。

 仲違いしたわけでもないからそこまで気にしなくていいんだろうけど、まだ気まずさが残っていた。
 
「宮崎先輩!」

 気づかれないように通り抜けたかったのに、一年生の山口蓮が元気よく挨拶してきた。
 あーあ。

「……頑張ってね」

 満面に笑みを浮かべるから、走りに余裕あるなぁと見つめてしまう。
 何人かが通り過ぎるのを見送ってからふと気づいた。

「あの子、短距離だったのに」


 一年生の中では一番関わりがあった。
 中学時代はサッカー部だったという彼を勧誘したのは私。
 本人の希望で短距離だったけど、考えてみればサッカーで鍛えた持久力のある子だから長距離のほうが向いていたのかもしれない。

 そんなことをつらつら考えながら、辞めてしまった私にはもう関係ないんだと頭の中から追い出した。

 それからもたまに外周を走る山口君を見かけたし、挨拶もされた。
 練習メニューが偏っている気がしないでもないけど、長距離と短距離では違うし私が口出すことでもない。
 






 休みの日の朝はゆっくり起きて、SNSのチェックをした後に動画を観始めると、あっという間に時間が経つ。
 友達が言っていた通りで、どんどんおすすめされるからキリがなかった。

 何年も週末は練習や大会が多かったから最初はやりたいことが多くてどうしようって思ったのに、ダラダラと過ごしている。
 ダラダラしているわりに、やるべきことがやれていない。

 言い訳にした受験勉強なんて、新しく買ったワークを開いたものの少しもやる気にならなかった。
 だから私は大きく伸びをして、立ち上がる。

「コンビニ行こう……」

 近くだからジャージでいいかとそのままサンダルを履く。
 店内を一回りして新商品のお菓子と飲んだことのないフレーバーの無糖炭酸水を買って、帰りはなんとなく遠回りして川沿いを歩くことにした。

 これまでは体重なんて気にしたことがなかったけど、こんな生活していたら太りそう。
 食べる前にカロリー消費も悪くない。

 川沿いの舗道は犬の散歩をしている人や走っている人も多い。
 こんなことなら、ちゃんとしたシューズを履いてくればよかった。
 コンビニの袋を手にしたまま走るのはどうかと思うけど、なんとなく体がムズムズしてくる。

「宮崎先輩?」

 なんでこんなところで会ってしまうんだろう。
 向かいから山口君が走ってきた。

 
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