学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ

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2 日曜の駆ける約束

2 陸上部の後輩

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 なんで河原で二人、並んで座っているんだろう。
 ぶらぶら揺れるコンビニの袋を見せて、断られるだろうなと思いつつ訊く。
 
「お菓子食べる?」
「いえ、大丈夫です」
   
 わかっていたけど。
 汗をかいている様子もないし軽く体を伸ばす程度で座ったから、それほど走っていないのかもしれない。

「山口君って、この辺に住んでたの?」

 それなら、中学が一緒でもおかしくないけれど見たこともないしそんなはずはない。

「この川の向こう側のあの辺りです。祖父母の家がすぐそこなので、今日は走って家に戻るつもりでした」

 彼の自宅のある辺りと、川沿いに建つマンションを指さすから、意外と近くて驚いた。

「同じ市内だったんだ。学区と学年が違うと会うことないよね」

 同じ市内の一中と三中だったとか。
 なんで部活の時に話さなかったんだろう。
 話す時間だってあったはずなのに。

「……そうですね、サッカー部だったんでよくそっちの中学に行くことは多かったですよ」
「私もバスケの練習試合で行ったことあるなぁ。一、二年の時は」

 先生同士が仲が良かったらしいけど、三年の時に顧問が代わってからは練習試合をすることがほとんどなくなった。
 体育館を借りる都合だとか、申請書がややこしいって新しい顧問が言っていた記憶。

 元々バスケは活動日の多い部活だったのと、水泳部の副顧問も兼任していたから大変だったのかもしれないし、もしかしたら仲が悪かったのかもしれないって今なら思う。

「そうだったんですね。俺は、先輩のこと知ってましたよ」
「え?」
「俺、けっこうグラウンドから見てました」

 何言ってんの、この子。

「……引かないでください。体育館からいきなりでっかい声援が聞こえたら結構びっくりしますよ。しかも、PK戦の時」
「あー……ごめん。集中力大丈夫だった?」
「ダメでした」

 そう言って何か思い出したみたいに笑う。

「初回は外しましたし、負けましたけど。……すぐ慣れました」
「そう、なんだ。なんか、ごめん」

 それは文句の一言もつけたかったのかもしれない。

「いえ、いいんです……宮崎先輩の声、響きますよね。あの声は誰だ、って探し当てた時は気分よかったです」
 
 バスケ部の応援コールは、気分があがる。
 オフェンスとディフェンスでリズムが違うし熱が入って声も大きくなった。
 あの頃は、若かったから。

「気の強い怖い女に違いないと思っていたので、ギャップがありましたね」

 一体彼の目にはどんなふうに映っていたんだろう。
 訊きたいような、訊きたくないような。
 色々なことを思い出して少し恥ずかしい。

「……悪い印象じゃないです。次の試合からは俺の声援と思うことにしましたから」

 驚くほど前向き。
 ミッドフィルターだったというのもなぜか納得。
 もともと華やかなフォワードというイメージもなかったけれど。
 彼らしいと思う。しっくりくる。
 
「ゴール決まった後にナイスシュートって言われた時はものすごく嬉しかったです」
「それはすごいタイミングだね」

 私はサッカー部の練習試合を意識したことは一度もないけど。
 他の学校の子が来てるんだなーってくらいで。

「運命だと思いました」

 どう突っ込んでいいかわからなくて私は黙る。

「初回はアレでしたけど、正体が判明してからは楽しみになりましたよ」
「……よく聞き取れたよね」

 当時は一度だって話したことないし、こっちは存在さえ知らなかったのに。
 それにしても部活中はこんなに不思議な子だったとは思わなかった。

「……なんで、バスケじゃなくて陸上にしたんですか?」
「誘われたからかな。もともとバスケはやらないつもりでいたんだよね。……山口君だって、なんでサッカー辞めたの?」
「誘われたからです。サッカーはやらないつもりでいましたけど」

 お互いに同じで。
 お互いに力の抜けた笑いが出た。

「陸上、もう戻らないんですか? 先輩が俺を誘ったのに」

 思いがけず真剣な顔で見つめられて私は息を呑む。

「先輩がいたから陸上部に入りました」
「……えっと、……ごめん」

 なんとなく謝らないといけないようなそんな気分になって居心地が悪い。

「悪いと思っているんですよね。じゃあ、たまに一緒に走ってもらえませんか?」
「……私、長距離苦手。というかさ。山口君、長距離に変更したの?」
「はい、走るの楽しいですし、こっちのほうが向いていると思います」

 そう言って彼は無邪気に笑い、ドリンクホルダーに手を伸ばして水筒を取り出し一口飲んだ。

「意識が内側に向かうのがおもしろいです。今日の呼吸は浅いなとか心臓速いなとか。頭の中がクリアになるのも好きです」
「へぇ……苦しいとか、早く終わらないかなとかそんなことしか考えられなかった」

 人には向き不向きがあると思うけど、私は長距離の楽しみを見つけることができなかった。
 これまでに言われてきた長距離の良さとかアドバイス――景色を見ればいいとか、楽しいことを考えろとかより、私の中にすんなり入ってくる。

「もし先輩が辞めなかったら、ずっと短距離だったかもしれません」
「なにそれ……」

 彼の横顔を眺めていると、こちらをちらりと見て苦笑いした。

「それだけ影響を受けたってことです。……先輩だって、群馬先輩の影響受けてますよね。えっと、今の部長じゃなくて香先輩のほうです」

 一年生から見てもわかりやすかったのかな。

「俺はずっと先輩を見ていたので……。先輩って女性が好きな人ってわけじゃないですよね?」
「それはないよ。香先輩のことは人間として好きだけど……今は嫌われていると思うし」

 思いがけないことを言われて戸惑った。
 購買に近寄らなくなったらほとんど見かけることがなくなったし、彼女がいそうなところには近づかないようにしていて、こんな後輩なんてがっかりしていると思う。

「すごく仲良かったですよね。それを聞いて安心しました」
「安心って……」
「香先輩が特別に好きって話のほうです」

 そんな風に言われると、まるで彼が私に気があるみたいに聞こえる。
 すっきりした顔立ちは黙っていると話しかけにくい雰囲気なのに、笑うと犬みたいに人懐っこい。
 犬というのは、言い過ぎかも。

「山口君ってヘンな子だね」
「どこがですか? あまり言われたことなかったんですけど……母親と親友くらいかな」
「……やっぱり」

 私の漏らした言葉に、笑った。

「一度好きになったら、ずっと好きなんです」

 

 
 

 

 
 
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