学校に行きたくない私達の物語

能登原あめ

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2 日曜の駆ける約束

4 告白

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「奈津、なんで逃げ回るの?」

 校舎の裏、香先輩に壁際に追いやられた。
 見る人が見ればおかしな構図で。

「すみません……」
「別に謝って欲しいわけじゃなくてさ。こっちも受験落ち着いたからこうしているわけだし」
「あ、合格おめでとうございます……」

 保から志望していた大学に総合型選抜で合格したなんて話を聞いていた。
 少し前までAO入試と呼ばれていたからまだちょっと言い慣れない。

「ありがとう、いや、そうじゃなくて。保から聞いてるけどさ、部活辞めちゃったのは残念だけど人それぞれあるし。そんなに避けるようなことしなくてもいいんじゃない? 私なんかした? まぁ私も受験優先したからお互い様なのかな」

「……ごめんなさい。香先輩は何も悪くないです。最後まで続けられなかったのが、情けなくて……」

 じわりと涙が込み上げてきて、そんな私の髪を香先輩がぐしゃぐしゃに撫でる。

「まったく、案外繊細なんだよなぁ。完璧主義なところもあるし。いいじゃん、やりたいようにやれば」

 全然責められることもなくて、私は勝手に悪いほうへ思い込んでいた。
 もう話すこともできないと思っていたから、香先輩の変わらない態度に気持ちが高ぶって涙が溢れた。

「ごめんなさい……」
「そんなに謝ることないんだけどな。あー、なんだ。もっと早くに声かければよかったね。保が大丈夫って言うから……」

 保とは選択授業が一緒で、時々顔を合わせていたけど深い話なんてすることもなく。
 香先輩ががさごそと何かを探すしぐさに、彼女はいつもハンカチを持ち歩かない人だったのを思い出す。

 部活の時は大きなタオルを持っていたから……変わっていない一面に気持ちがほんの少し和んだ。
 それから私は涙を手で拭って言う。

「香先輩、ありがとうございます……ずっと好きです」
「え?」

 香先輩の驚きが伝わってきて、慌てて続ける。
 これってまるで告白みたいで。

「えっと、その、ずっと憧れています! 先輩がいたから私頑張ることができました。だから」

 いきなり横から強く腕を引っ張られて、驚いてその先を話すことができなかった。
 見上げれば、険しい顔をした蓮君が香先輩を見つめていて――。

「香先輩、どうして奈津さんが泣いているんですか?」

 きょとんとした顔の香先輩が私と蓮君を見比べて、それからにんまり笑う。

「……それはね、今奈津から告白を」
「香先輩、ちょっと!」

 そうだった、香先輩は人をからかうのが好きだった。
 すでになにか誤解しているような蓮君を見ながら楽しそうに笑う。

「私も奈津が好きなの。山口君、諦めてくれる?」
「無理です! 絶対、譲れません! 俺達の間を壊さないでください」
「え。つき合ってるの? 保から何も聞いてないけど」

 香先輩がびっくりした顔で私を見る。

「つき合ってません!」
「つき合ってます!」

 私は蓮君を見上げた。
 いったい何を言い出すのかと。
 見つめ合ったのはほんのわずかな時間。

「ふぅん……奈津、あとで報告して。じゃあ、山口君。青春だね。がんばれ!」

 そう言って笑いながら香先輩が立ち去ったわけだけど――。

「…………」
「…………」
「蓮君、なに今の」
「……奈津先輩、つき合ってください」
「蓮君、暴走しすぎ」
「だって、奈津先輩が泣いていたから」
「…………」

 思考停止している場合じゃない。

「とりあえずさ、帰ろう。だから、腕を離して」
「逃げませんか?」
「逃げませんよ」

 もし走り出したら、追いかけてくるんだろうな。
 そんな想像ができて思わず笑いが込み上げた。
 このままここで話したほうがいいのかもしれない。

「香先輩を好きなのは恋とかじゃないからね。頼りになるお姉さんみたいな感じ」
「……はい」
「信じてないでしょ」
「はい」

 即答した彼は、私の表情を見逃すまいと必死な顔をしているから――。

「蓮君のこと、好きだよ」

 そう言うと一瞬だけ瞳を輝かせて、すぐにスン、と戻った。
 疑い深い?
 なんだかずいぶん重たい性質なのかもしれない。

「奈津さん、好きです」
「あ、うん。ありがと。私も」
「……軽い、ですね」
「蓮君が重すぎる」
「蓮ですよ、奈津さん」
「なんで、さっきから奈津さんて呼んでいるの?」
「だって、香先輩は奈津って呼んでるし、悔しいし……」

 可愛いけれど、ちょっと面倒くさいかもしれない。
 しかも私の初めての彼氏がコレって、どうなの?
 これは付き合うと決めたらかなりの覚悟が必要かも。

 でもすでに私の心の中で決まっている。
 結局目の前の選択肢から良いと思うほうを選ぶしかなくて、どちらも選ばないってことは私の性分ではありえない。
 そして結果はしばらくするまでわからない。

 私がなんて言うのかじっと待つ姿に、胸の中になんともいえない気持ちがわき上がる。
 よし。

「蓮、つき合おうか」
「はい! 末永くよろしくお願いします!」

 即答。それに末長く、とか。

「…………」
「大丈夫です、よそ見はしません。俺、粘り強いんで」
「……そこは心配していないけど」
「奈津さん、初デートいつにしましょうか」

 遊園地、室内プール、やっぱり俺の部屋がいいかな、などとつぶやいている。
 声が弾んでいるし笑顔だし、尻尾がついているんじゃないかと後ろ姿をちらりと見た。

「奈津さん?」

 顔をのぞきこまれて、不意に悪戯心がわき上がる。
 彼の肩に手を乗せてそっと背伸びをしてキスをした、目を閉じてしまったから口の端に。

「ごめん、間違えた」
「…………」
「黙られると恥ずかしいんだけど」
「間違いって……俺に今、キスしたことがですか?」
「ちょっと待って」

 人気がいないとはいえ、学校にいて浮かれた行動をとったのは私。
 だけど説明するはめになるんだったら、キスなんてしなかった!
 
「初めてだったから、場所間違えただけ。仕方ないでしょ……っ!」

 言い終わると同時に唇が重なった。
 お互いの視線が絡んで、キスって目を開けたままでもできるんだって知った。
 
「……死ぬかと思いました」
「なにそれ」
「心臓痛いです。止まるかもしれません。多分もう一度……」
「……しないから! 早く帰ろう」

 彼に背を向けて歩き出す。
 心臓が止まりそうなのは、私のほう。

「奈津さん」

 嬉しそうに隣に並ぶから、私はさらに早足になる。
 照れくさくて、どんな顔をしたらいいのかわからない。

「奈津さん、赤くなってますね。……可愛い」

 すぐに追いついた彼が隣に並んで言う。

「……蓮だって、顔ゆるみ過ぎ」
「だって、幸せなんです」

 私も。
 そう思ったけど、口に出さないでいたら。

「……奈津さんもですよね? 幸せですよね?」

 こういう時は、可愛く頷くものだったのかな。
 つきあい始めた初日だし。

「好きです」
「……私も好き」
「奈津さん、それ録らせて下さい! もう一回、お願いします!」

 スマホを取り出して私の口元に寄せるから、眉間にしわが寄った。

「絶対、やだ」
「あ~~! 次は最初からボイスレコーダーを」
「絶対、ダメ」
「そこをなんとかお願いします!」
「絶対、無理。……そんなの録らなくても言うから」

 蓮が目をキラキラさせて嬉しそうに笑った。
 あれ? 私、余計なことを言った?
 
「約束ですよ!」

 でも、お互いの気持ちがわかっていいのかもしれない。
 きっと彼は何度も伝えてくれるだろうから。
 毎日が楽しくなりそうな予感に胸が弾んだ。







        日曜の駆ける約束  終



 




******


 お読みくださりありがとうございました。
 
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