こんな恋があってもいい?

能登原あめ

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友達と同じ人を好きになったけど、協力してと言われたから恋心を封印した①

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* 全三話+おまけです。同級生、体格差。再会ものです。ヒロインはやや天然。甘酸っぱいお話です(多分)







******


「私、吉川君のことが好き。だから、協力してくれない?」

 高校に入学して半年。
 彼女は私と同じグループで、それなりに仲がいい。

 吉川の良さに彼女も気づいたんだ。 
 好きになったのは私のほうが先だろうけど、彼女みたいに素直に口に出せていたらよかったのに。
 
 入学したてで知り合いがいない頃、同じ中学出身の吉川が私に話しかけてくれた。
 これまで話したことがなかったけど、音楽の趣味が似ていて、観ているテレビが一緒で、すぐに打ち解けたのを思い出す。

 いつの間にか好きになっていたけど、友達でいるのが居心地良くて、それ以上の関係になりたいなんて思ったこと……なかったわけじゃないけど、このまま近くにいたいって思っていた。
 
 でも。
 彼女の言葉に、私は恋心に蓋をすることにした。

「そうなんだ。うん、わかった。……いい奴だよね。何したらいい?」

 私の気持ちは誰にもバレていないと思う。
 夢見るような目をして笑う彼女に、私は聞いた。

「えーー! もちろん彼女になりたい! 大きくて怖いと思っていたけど、コピー室で困ってたら意外と気さくで優しかったから! だからさぁ、まずは仲良くなりたいの。リカちゃん、吉川君と仲いいでしょ」
「中学が一緒なだけだよ」
「あー、そっかぁ! じゃあさぁ……」







 それから彼に彼女を紹介して、みんなで一緒にお喋りする仲になった後、彼の友達も含めて何人かで遊園地に行った。
 その後、クリスマスの目前に二人で買い物にも出かけたらしい。

 みんなでクリパした時、プレゼント交換の品物を一緒に選んだんだって嬉しそうに彼女が教えてくれた。

 そんな話を聞くと、胸がちくりと痛んだけど、あの時好きだと言えなかった私には彼女に笑ってよかったねって言うことしかできない。
 結局、彼が選んだプレゼントは強面の男子に当たったのだけど……。





「リカさぁ、これ、裏のツイアカだから」
「そーなんだ」

 吉川から教えてもらったソレは、彼の友達から仲の良い子にしか教えてなくて彼女は知らないんだって聞かされた。
 友達が、私の顔を探るように見るから、なんとなく居心地が悪くてあいまいに笑う。

 私達の関係は大きく変わることはなくて、みんなで初詣に行ったり、テスト勉強したりしてわいわい過ごした。

 それからしばらくして、勢い余ってバレンタインに告白してしまった彼女がフラれた。
 野球に集中したいから考えられないって。
 
 それでも諦めきれない彼女は友達として卒業するまで彼の近くにいて……私はただそれを眺めていた。








「久しぶり……元気だった?」
「うん。……吉川は、元気そうだね」

 思いがけない再会は、地元で成人式が行われているその日に別の場所で。
 私はバイトが終わり、帰るところだった。

「俺は変わらないかな。リカも出なかったんだ」
「うん。吉川も。……私留学したくてお金貯めてるの。着物とか、その分留学費用にしたいって親と話して押し切っちゃった」
「リカらしいな、そうゆうとこ。……せっかくだから、ちょっと話したい。時間ある?」
「うん」







 お腹が空いているという彼と、入ったことのない定食屋さんに入る。
 ご飯と味噌汁が食べ放題らしい。 
 彼がたくさん食べるのは変わっていなくてほっとした。

 二年ぶりに会った吉川は、当たり前だけど制服を着ていた頃より落ち着いてみえるし、身体も一回り大きくなったかも。

「吉川はどうして出なかったの?」
「帰るのが面倒だったから、試合ってことにした。……それと、兄ちゃんが去年揃えたのが、ど派手な白い袴で首からふさふさのやつつけて皆で写真撮りたいとか言うから……俺もそれ着ろって言われたけど」
「あーー、それは。うん、ないかな」
「だよな」

 野球部でガッチリした身体の彼が、もし袴を着るなら古典的なものが似合いそう。

「……大学でも野球続けてるんだ?」
「うん。……楽しいよ。そういえばさ、CD借りっぱなしなの気になっててさ、こっちに持ってきてるんだけど、家どの辺? 返したいな」

 なんとなく彼と繋がっているようで、返してと言えなかったCD。
 あの頃の気持ちが蘇る。
 本当に、本当に大好きだった。

 もしかしたら、そろそろ精算しなさいってことかもしれない。
 
「私、この街に住んでる。駅の東側」
「マジか。……俺、この近くで駅の西側。じゃあさ、ご飯食べたら先にうちに寄っていい? 帰り、送るから」
「吉川、寮じゃなかった?」
「去年まではね。今年から兄ちゃんと二人暮らし」

 いつの間にか同じ街に住んでいたなんて。

「意外と会わないもんだね」
「だな」








 彼が優しいのは、昔と一緒。
 
「相変わらず、歩くのおっせーのな」

 彼の家に向かいながら、私の歩調に合わせて歩いてくれる。
 歩幅が全く違うから、私が駆け足なのに気づいて笑った。
 笑うと目がなくなって、かわいいところも変わってない。
 本人には言えないけど。
 
「しょうがないよ。身長差あるし」
「……相変わらず、ちっちぇえ」
「吉川が、また伸びたんだよ。絶対!」
「……そういや、そうだった。まだ伸びるとか俺もびっくりした」

 私は見上げる。
 多分三十センチ以上違うはず。

「あ、うちここ……。えっと、とりあえず入って。夜に一人で外に立たせとくとか危ないし。兄ちゃん、会ったことあるよな」
「うん。何度か試合の時に」

 マンションの三階で、彼がドアを開けると真っ暗で。

「あれ? まさか寝てる……?」

 玄関に靴が乱雑に転がっている。
 そこそこ片づいたリビングに通され、ソファに座って待っててと言われた。 
 共有スペースは散らかさないのがルールらしい。
 じゃあ玄関は、って思ったけどキレイにしているほうなのかも。
 
「部屋から取ってくるから。待ってて……そうだ、誰も飲まない甘い酒があってさ。三パーセントの……メロンか、苺か……葡萄。兄ちゃんの別れた彼女ので、誰か来たら勧めるけど野郎は誰も飲まない。よかったら協力して」
「……その中だったら葡萄かな」

 飲み物を飲む間だけここにいられる。
 彼が生活しているスペースに。
 こんなこと二度とないかも。
 缶を受け取りさっそく開けて一口飲む。
 
「……微炭酸で、甘くてジュースみたい」
「そっか、無理して飲み切ろうとしなくていいからな」

 大きな手が私の頭をぽんぽん叩いた。
 私はそれを見上げる。
 子どもみたいに思われてるのかな。

「お兄さん、寝てるの?」

 彼はスマホを操作して、ため息をついた。

「友達の家で飲んでるって。……じゃあちょっと待ってて」
「うん」

 ちびちび飲みながら考える。
 ここまで来て吉川に彼女がいるか考えなかった自分に呆れた。
 でもさっき、野郎は飲まないって言ってたからここに女の子を連れてきたことがないかも?

 だめだ。ふわふわしてる。
 吉川は昔からモテてた。
 彼女がいるって考えるほうが自然で、私がここに入れたのも友達だからかな。

 でも。
 今だけだし、何も考えずにおうちデート気分を味わってもいいと思う。

 隣の部屋から何かをひっくり返す音が聞こえた。
 吉川がうわっ、とか何か低く呟いている。
 しばらくかかるのかも。

 一缶飲み干す頃、CDを手にした吉川が出てきた。
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