ここは番に厳しい国だから

能登原あめ

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13 サディアスside

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 たまった休暇を使って、たった一人の妹に会いにやってきた。
 妹は結婚した後王都で暮らしていたが、子どもが生まれたと連絡があって、ブレアに色々なものを持たされて向かった。

 小さくて弱々しい。
 そんな印象の赤ん坊を怖々抱いた。
 幼かった妹が母親となり、俺とも血の繋がりのある姪っ子。
 守ってあげたい気持ちが湧き上がった。

 妹の家に泊まるように言われたが、近くに宿を取っていたからのんびり王都を見て回るつもりでいた。

 そして宿に向かう途中、番と出会った。
 四十近くになって俺にそんな相手など現れないと思っていたから、思わず彼女に腕を伸ばして抱きしめた。

 しかし彼女はすでに結婚していて、子供を産んだばかり。
 妹の子どもよりさらに小さい。

 番が産んだ、俺の子ではない赤ん坊。

 それでもさっき姪っ子を抱いた時の気持ちを思い出す。

 今幸せなのだとふんわり笑うから、せっかく出会った番なのに、彼女と共に人生を過ごすことができないのかと胸が痛んだ。
 そのままその場を走り去るのを静かに見送る。

 商店街だったからか、周りの人がこっちをじろじろ見ていた。
 目立つの本意ではない。

 また彼女に会えるだろうか。
 胸に甘さと苦さを感じながら、そのまま宿へと向かった。

 辺境で共に育った仲間と会ったり、妹家族のもとへ出かけたりして番のことは打ち明けないまま、なるべく考えないように過ごしていた俺を、八百屋の奥さんが呼び止めた。

 あの子の番ではないか、どうなっているんだ、と。
 
 どうやら、夫が赤ん坊を連れて出て行ったらしいが、あれから五日も経っているのに家のカーテンは閉じたまま、人の気配はあるのに明かりも灯らないらしい。

 彼女を訪ねると言うので俺のことは内緒にしてもらい後ろをついて行った。
 声をかけても扉は開かないし中は静まり返っていたけれど、番がそこにいることはわかった。

 俺は扉が開くのをじっと待ち、わずかに開いた瞬間彼女を抱き込んで中へと踏み込んだ。

 あの日見た番は赤ん坊を抱えて幸せそうだったのに。
 今は打ちひしがれ、ボロボロになって、惨めな姿で泣き叫んでいる。

 俺と出会った結果がこれなのか?
 番と出会うことは幸せなはずなのに、お互いに苦しい。

 ただ、慰めの言葉もろくに口にすることができなくて、すまないとただ繰り返すだけの自分が不甲斐ない。

 彼女を早くこの淀んだ場所から引き離したくて慌ただしく連れ出した。

 宿屋に着いて、まず風呂を用意した。
 泣き疲れて放心状態の彼女は、あの日出会った服のままで。
 そのことにも胸が締めつけられる。

 何も考えないようにして脱がした彼女を風呂の椅子に座らせて、一旦自分も裸になって戻ると乳を絞っていた。
 
 妹は幸せそうに娘に乳をあげていたのに。
 俺の番は、表情の抜けた顔で淡々と処理している。

 こんな顔をさせたかったわけじゃない。
 幸せに笑っていてほしかった。
 こんなふうに彼女だけが取り残されるなんて、一体どんなやりとりがあったのだろうか。

 番に子どもを産ませたとして、その夫と子どもを亡き者にした例は過去に度々ある。
 もちろん国の法で裁かれ、番に関する法律はますます厳しくなるばかり。
 馬鹿なことを、と思っていたが今なら気持ちが分からなくもない。

 俺も、妹夫婦の赤ん坊に対する愛情をみていなかったら。
 妹の赤ん坊に会って、抱っこさせてもらわなかったら、もしかしたらその衝動が湧き上がったのかもしれない。

 初めて出会った時に彼女が赤ん坊に向ける愛情が心底理解できなかったかもしれないのだから。
 
 元夫に対して怒りが湧くが、あっさり別れているし今は彼女が優先だ。

 彼女が笑えるように。
 今はただ近くにいて寄り添うことしかできない。
 
 黙々と彼女の身を清めて風呂に浸かり、彼女が息を吐いた。
 久しぶりの風呂で、気持ちが良かったのだろう。
 ほんの少しほっとして、身体を拭き、布で包み込んで抱えて食事をした。

 と言っても、彼女はすりつぶした果汁をコップに半分ほど飲んだだけだった。
 どうしてもっと早く彼女のことを知ることができなかったのかと自分を責める。
 
 今さら仕方ないが、あの八百屋の奥さんは一番最初から近くで見ていたのだから、もっと早くに声をかければよかった。

 それから彼女の着替えも持たずにきたのは、引き出しに夫のものと思われる衣類と一緒に仕舞われていたから触りたくなかった。
 吊り下がっていたマントだけ掴み彼女を包んで連れ出したから、布で包んだまま彼女を抱えて眠った。

 翌朝、彼女が眠っている間に市場で服を見繕い、宿に妹宛に帰る旨を書いた手紙を届けてもらうよう頼んだ。
 
 意外と時間がかかってしまい、部屋の扉を開けると汚れた服を着ようとする彼女の姿があって、慌てて新しい服を渡す。
 あれだけ汚れた服に袖を通そうと思うくらい彼女は何も考えられない状態で、弱っているのかと思うと、やるせなかった。

 やれることはなんでもやりたいと思って、連れ帰った辺境でも、彼女の世話をすべてこなした。

 少しでも彼女が癒されるように。
 いつか笑ってくれるように。

 一日中、ぼんやりしていた彼女に、表情が出てきたのは、悔しいがブレアのおかげだ。 
 食事を食べさせるのは俺の役目だったから、かなり残念だったが自分で食べるようになり、実家に手紙を出したいと頼まれた。

 






 * * * * *

 
 ダイジェストみたいになって申し訳ないです。。。あと一話で終わります。


 
 
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