ここは番に厳しい国だから

能登原あめ

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14 サディアスside 2

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 俺は彼女が書いた手紙を受け取り、その住所へ俺のことから、彼女の今までの状態を細々書き、赤ん坊の行方を問い……手出しはしないと約束した手紙を添えて一緒に包んで送った。

 その後、しばらくしてから彼女の母親から俺宛に元夫の姉夫婦が赤ん坊を引き取り、ここから近い港町にその家族が住むことになったという手紙が届いた。

 彼女の母親がその情報を伝えることは賭けのようなものだ。
 約束は守るつもりだが、もし俺がそれを悪用しないか考えなかったのか、それともあの手紙で信用してもらえたのかしばらく考えた。

 だから、母親宛に俺からはその件は伝えないが必要とあれば彼女宛に手紙をよこして欲しいとお願いした。

 それからすぐ、俺はその家族のことを調べた。
 最近開発された住宅地に住み、夫は船工をして、彼女の息子と体の弱い娘を妻が面倒をみていて、穏やかに仲良く暮らしているらしいことがわかった。 
 
 間もなく、彼女の母親から彼女宛に手紙が届いた。






 彼女が息子を見に行きたいと言った。
 すでに幸せに暮らしていることは知っていたが、もし彼女が引き取りたいと言ったら、俺は黙って受け入れよう、そう決めた。

 こっそり連れ帰ることも、やれなくは、ない。
 しばらくの間、匿うこともできそうだ。
 呆れながらもブレアあたりが協力してくれるだろうと思う。

 彼女がいつも笑顔でいられるなら、息子のことだって受け入れることができるだろう。
 成人するまでの間なのだから。
 それからはずっと彼女を独り占めすればいい。
 だから幾らか準備を整えて他国へ向かえばなんとかなると、そう思った。
 







 だが彼女は息子の近くへ行くことも、話しかけることさえしなかった。 
 楽しそうな親子の様子を見て引き下がることに決めた。

 こうなる予想もなかったわけではない。
 打ちひしがれた彼女を抱き上げて予約しておいた宿に向かった。

 彼女はいつのまにか眠っていて、そっとベッドに寝かせると、俺の首に回した腕をぎゅっとしめつけて、すがりつく。

「行かないで……一緒にいて……」

 起きたのかと顔を向けると、彼女は泣きながら眠っていた。
 夢の中でも追体験しているのだとしたら、たまらない。

「一緒にいる。離れない、大丈夫だ……。ずっとこのままいるから」

 何度も何度も大丈夫だと繰り返す。
 俺もそのまま横になり、彼女の背中を上下に撫でた。

 しばらくして目覚めた彼女は、俺が覚悟していた、二度目に会った時のような状態には陥らなかった。

「私は、あなたと、幸せになりたい……」

 彼女にそう言われて、初めて唇を重ね合わせた時、幸福感に包まれた。
 初めて愛していると伝え、彼女も愛を返してくれた。

 幸せな時間。
 思わず目覚めた俺自身に気づくと、彼女は俺に身体を差し出してきた。 

 二年。
 番と生活して二年の間、こっそりと処理してきた。
 絶対に彼女に悟られたくなかった。
 
 予想外のことに戸惑ったが、もう止まることはできなかった。
 俺は出会ってからずっと秘めていた思いの丈をすべて彼女に捧げた。
 そして、初めて本物の愛を交わす喜びを知った。
 
 お互いの気持ちもつなげあい、これからもっと彼女を愛していこうと思った。
 あまりの深い感動に本当に年甲斐もなく彼女を離すことができなくて、おさまらなくて、気づいた時には夕食も食べずに朝を迎えていた。
  
 ただ、彼女の我慢しなくていい、という言葉が俺の救い。
 口下手な分、たっぷり態度で愛を告げることにした。
 そうして、順番が逆になってしまったが彼女が妊娠して、籍を入れる運びとなった。

 それまでは番と呼んでいたが、彼女を妻だと公言できるのは嬉しい。

 彼女が、結婚式はしなくてもお腹の中の子どもが祝福してくれているのだから、いいのと笑った。
 実際には双子の男の子で、二倍の祝福だと、産まれた後に笑い合った。

 俺の赤ん坊を抱く妻は美しい。

 その後、妻は続けて女の子を二人産んだ。
 俺たちは賑やかで幸せな家族となった。










 そして。
 子供達が学校へ通いだすようになったある日の朝。

「あっ……なんてことっ……‼︎」

 玄関から妻の叫び声が聞こえた。
 今日はどの子が何かいたずらでもしたのだろうか。
 仕事へ行く準備を終えて、彼女の元へとのんびり向かう。
 しかし子ども達はすでに学校へ向かった後だった。

 そこにはひょろりとした胡桃色の髪と瞳の青年が立っていた。
 俺の姿を見て、瞳が揺れる。

「あの……僕は……」
「ジョナス、ね……」

 妻はそれだけ言うと涙ぐんで言葉をつまらせた。

「……俺はこれから、仕事に行ってくる。……ゆっくり話すといい。……よかったら、夕食を一緒にとろう」

 妻を抱きしめ口づけてから、彼女とよく似た青年の肩をポンと叩いて横を通り過ぎた。

「……あ、はい……。ありがとうございます!」
「サディアス、ありがとう。気をつけて、行ってらっしゃいませ」

 二人が同時に言った。
 その後、二人の小さな笑い声を背に俺は歩き出した。
 










 * * * * *


 最後までおつきあいくださり、ありがとうございました。
 この終わり方、蛇足かなぁとか迷いつつ、書きました。
 
 ジョナスがやってきた経緯を書くとなると、別の純愛話に仕立てたくなるので……このまま終わろうと思います。
 
 
 
 
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感想 45

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みんなの感想(45件)

m
2021.04.18 m

物語を読んで涙が止まりませんでした。
ジョナスのお話もいつか見てみたいです😊

2021.04.18 能登原あめ

こちらに感想嬉しいです!
不条理でハッピーエンドとは言い難い話なので……。

ジョナスの話はざっくりと考えてあって書きたい気持ちはあるので……いつの日かお届けできたらいいな、と思ってます♪
mさま、お読みくださりありがとうございました〜🤗

解除
青空一夏
2020.10.15 青空一夏

コメント失礼します🌹
運命の番って憧れます
R18のお勉強もさせていただきありがとうございました🙇‍♀️

2020.10.15 能登原あめ

なんと、こちらにも⁉️
お互い独身同士なら、運命の番って、幸せで憧れますよね〜🥰
しかし、この話はちょっと始まりが重いので💦

拙作で、Rのお勉強しちゃうとサチマルさまのファンに怒られてしまうのではないでしょうか〜:;(∩´﹏`∩);:
ありがとうございます〜🤗

解除
タチアオイ
2020.10.09 タチアオイ
ネタバレ含む
2020.10.09 能登原あめ

この重苦しい話にコメント嬉しいです〜!
産後それほど経ってないので番より子供を選ぶヒロインを書いてみたかったので、最終的にあのような幸せの形になりましたが、番にはあまり幸せではない国ですよね。。

元夫も、父親という自覚がないままだったからあんなにあっさりしてましたし。
八百屋の奥さんもお節介なタイプで、自分が広めたせいとか思ってなさそうです。
出てくる人が悪人ではないものの、良い人かと言うと??な登場人物でモヤモヤさせてすみません〜

その分、サディアスに頑張ってもらいました!
おっしゃる通り、その……甘やかしが、たいそうアレですが、ええ、でも、子沢山で幸せだと思います!
最後までおつきあいくださりありがとうございました〜🤗

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