上 下
3 / 9

しおりを挟む


 第二王子のダグラス・リー・ヘップワースは、病弱なのは昔から変わらないらしく、私と同い年だけど来年入学予定と聞いた。
 
「……わかった。つまり、パラメーターが足りないんだわ。登場しなかったのはそのせい!」
 
 ということで、セシルに見つかる前にグラウンドで走っていた武官志望のウマ獣人、パット・マントンにアドバイスをもらった。

 さわやかな笑顔で汗までキラキラしてみえる!
 R18ものだったら攻略対象の可能性あるかもねー?

「運動能力を上げる方法? まずは基礎体力をつけるために走り込みだろう。グラウンドを20周、楽に走れるようになることが先だ。できるようになったらまた話を聞くよ」

「ありがとうございます、やってみます」

 ボタンぽちぽちじゃなくて、リアルに走るのか……運動不足だしいいかも!
 休憩時間は勉強しよう。
 効率の良い勉強方法を知ってる人を探さなきゃ。
 天才型よりコツがわかっていそうな努力型のほうがいい。
 誰がいいかな。

「おはよう、シンシア。今朝も早いな」

 話しかけてくるのはセシルただ1人。
 女の子はこっちから話しかければ答えてくれるけど、近くにセシルがいるとソワソワしてすぐ離れていく。悲しい。

「おはようございます、セシル。私は知らないことがたくさんあるので学ばないといけなくて」

 男爵家の使用人をしてたから、この世界の基礎学力はない。前世の記憶がなければ詰んでたと思う。

「そうか。何がわからない? 俺が協力する」
「ありがとうございます。でも、ひとりで乗り越えたいので! お気持ちだけで!」

 番のことは初日に聞いただけで、言われなくなったからあれはファッション番なんだろう。
 きっとゲーム設定上の形だけ。

 学園では私の隣にぴたりと張りついていて慣れつつあるけど、別の授業を受けている時が1番気楽。
 このタイミングで聞くしかない!

「あの……コリン・ポヴェイ様。少しお聞きしたいことがあるのですが……」

 彼は文官の家系で、ヤギ獣人らしい。
 間違えたら紙を食べちゃうのかな~と想像して、ほっこりしつつ話しかける。
 さっと顔を青ざめ、辺りをキョロキョロしてから小声で答えてくれた。

「なんでしょう? 手短にお願いします」

 学園の男子たちの反応はほぼこれ。
 私が凶悪な背赤サラマンダー族の恋人と思われているようで、絶対に目を合わせない。
 関わりたくないヤンキー枠みたいなとこに入れられちゃったのかな、私も。

「学力をつけたいのですが、効率の良い方法を教えていただきたくて……」
「効率……。あ、それなら……姉に! 姉に伝えておきますので、準備ができたら書いてお渡しします」

「わかりました、ありがとうございます!」

 コリンのお姉さん、いい人だといいな。
 
「彼には今のやりとり、内緒にしてください!」
「はい、もちろんです」

 セシル、普段は怖くないんだけどな。
 いつも周りの男子をにらんでいるけど、喧嘩しているのは見たことない。
 迫力の問題?
 
 クラスメイトと円満な友好関係は結んでおきたいけど、王子様が現れるまでパラメーター上げに集中できるんだから、これでいいのかも。
 すべてを前向きに考えよう!
 
 翌日コリンのお姉さんが数冊参考書を持って来てくれた。
 コリンの伝言は、これを読めば確実に学力が上がるから理解できるまでじっくり読み込んで、返却はいつでもいいとのこと。
 よーし、パラメーター上げ頑張るぞ!




 

 そして1年後、入学式で第2王子のダグラス・リー・ヘップワースを見つけることが……できなかった。
 なんでも、少しだけ顔を出して帰ってしまったらしい。

「ひと目、お会いしたかったですわ」

 クラスメイトに私がそう言うと、
 
「あら残念でしたね。わたくしは廊下をすれ違いましたけど、優しげな雰囲気で威厳のある王太子様とは正反対の儚げな方に見えました」

 じゃあ、昔から変わってないってことかな?
 早く会いたい、楽しみ!

「普段は家庭教師もいらっしゃるから毎日は顔を出さないようですよ」

 私がシュンとしたからか、クラスメイトが慌てる。
 男爵令嬢の私にも優しい可愛い伯爵令嬢や子爵令嬢たち。キラキラして少女漫画っぽい。
 ここは優しい世界だー。
 
「人脈作りが目的でしょうから、交流パーティーには顔を出しますわよ。ですが……」

 ちらっと教室のドアを見る。
 今日のセシルは担任のコーンズ先生に呼ばれていないけど、いつ戻ってくるかわからない。
 
 外国籍で色々面倒くさい手続きがあるんだとか。
 父の跡を継ぐとは言ってたけど、貴族とも平民とも聞いてないしわからない。
 
 セシルの国は遠く離れていて、文官志望のコリンから借りた本には1ページ程度しか背赤サラマンダー族や国について載っていなかった。
 サンショウウオの仲間だって。やっぱり戦闘種族なのかな~。

「セシル様はあの有名な背赤サラマンダー族ですし……彼らは、女性にも手をあげる過激な種族と聞いています。だから、お気をつけになって」
 
 え? それってこのまま一緒にいたらDVヤローになる可能性があるってこと?
 だから、令嬢たちも怖がってたの?
 今のところボディガード状態で、学園でいじめられることはなかった。
 
 遠巻きにされてるけど。無視されてる感じはあるけど。
 乙女ゲームっぽい意地悪されて攻略対象者に助けられるイベントも発生してないけど!
 王子様ルートのためにはそれでいいんだけども!
 
 本当に? これ、セシルルートじゃないよね?
 セシルと恋愛イベント起こらないもん。
 
 いつも隣にいるけど……。
 ご飯も一緒に食べるけど……。
 私が馬車に乗り込むまで見送ってくれるけど……。

 うん、これって、やっぱり――。
 ボディガードだ!
 
 
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

転生先が同類ばっかりです!

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:154

獣人だらけの世界に若返り転移してしまった件

BL / 連載中 24h.ポイント:22,394pt お気に入り:1,380

浦島太郎異伝 竜王の嫁探し

BL / 完結 24h.ポイント:28pt お気に入り:300

転生王子はダラけたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:10,827pt お気に入り:29,349

傲慢悪役令嬢は、優等生になりましたので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:220pt お気に入り:4,401

ただのADだった僕が俳優になった話

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:138

今宵、鼠の姫は皇子に鳴かされる

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:113pt お気に入り:10

転生したら幼女だったので取り敢えず”運”極振りでお願いします。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:14pt お気に入り:418

処理中です...