お持ち帰りされた私に一途な恋

能登原あめ

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北の場合  中





 いや、こんなことは望んでなかった。
 目が覚めるとスッキリとした白とベージュでまとめられた部屋のふとんで寝ていた。
 ベッドは空で、隣の部屋から味噌汁の匂いがしている。
 起き上がると下着姿だが、脱いだ記憶もない。

(頭が痛い……あの酒は色からしてやばかった)

 ため息をついて、この後どうしようかと迷う。
 幸い、今日は土曜日で予定もない。
 そろそろと扉が開いた。

「森村起きた? 具合どう? 何か食べれそう?」
「……迷惑かけてすみません。全然覚えてなくて。頭がちょっと痛いですが、この匂い味噌汁ですか? 飲みたいです」
「あー、昨日はごめんね? あの店のサワーは名物なんだけどだめだったね、悪酔いしちゃったかな。だから、こちらもこれはお詫び」

 まず、シャワーどうぞとタオルに歯ブラシ、着替えを渡された。
 さっぱりしたところでミネラルウォーターが出てくる。
 今日の予定を聞かれ、暇だと答えればゆっくりしていってと、脱いだものを洗濯機に入れた。
 昨日の夜吐いたらしく、汚れたシャツはすでに洗われていたし、スラックスは無事だったがスチームをあててくれていてぱりっとしていた。
 現在、弟のものだというスウェットの上下を借りている。

「北さん……マメですね。助かりました」
「あー、やりすぎた? ごめん」

 褒めているのになぜか謝られた。
 尽くしすぎてフラれてきたのがトラウマらしい。

「なるほど、それで会社では大雑把を装っている、と」
「仕事は手を抜いてないよ? やりすぎないよう気をつけてるだけ」
「仕事中は細やかな気遣いだから、不思議だったんです」

 朝からする話じゃないよね、もう少し寝たら?と北に促された。

「さすがに眠れないので、布団片しますね……これ、彼女さんも使うんですか?」
「使うよ。弟もな」

 一緒に寝ないんですね、と森村が笑うと寝相悪いから、と答えが返ってくる。
 天気も良くふとんを干したところで、

「やっぱり動いたら気持ち悪いです……横になっていいですか?」

 ちらりとベッドに視線を送る。

「吐かないなら」

 北が仕方なく頷いた。

「冷やすものとかいる?」
「……甘やかされるの、クセになりそうで困りますね。……欲しいです」

 冷たいタオルを額にのせてくれる。
 森村はその手をつかんだ。

「こっちの方が気持ちよさそう」
「元気あるなら追い出すけど?」
「……北さん、彼女さんとどんな付き合いしてるんですか?男はダメですか?」

 一緒に出かけたり、ご飯食べたり?普通だよ。男はしばらくいいかなと答えるのを聞いて握ったままの手をゆっくりさすった。

「なるほど。では僕を仮の彼氏にしませんか? 会社で変なやつに声かけられなくなりますよ」
「それ、……森村にメリットある?」
「堂々と北さんをからかえるじゃないですか。それに、僕も無駄に誘われなくなるので」

 冗談めかしていう森村に北はじーっと見つめてきた。

「ねぇ、実は本気で口説いてる?」

 察しが良くて、男前。
 森村が言葉に詰まった、のは一瞬のことで。

「北さん、好きです。彼女と別れて俺と付き合ってください」
「ふむ……とりあえず、今日泊まっていけば?」

 頷いて額のタオルを目の上にのせた。
 顔が熱い。

「顔赤い。森村さー、いつも素直だったらかわいいのに」
「北さんは……男前ですよね」





***


 その後うとうとして寝てしまったようだ。隣の部屋で北の話し声が聞こえる。

「みなちゃん、今日来れる?……あー、そう……じゃあ、その時寄ってくれる?」

 彼女と話しているんだろうなと複雑な気持ちになる。
 会わせようとしているのだろうか、すっぱりさっぱり未練を残さないようにふられるのだろうか。
 頭の上のタオルを外すとうつ伏せになって、シーツに移る北の匂いを吸い込んだ。
 
「森村? 寝てる?」
「……寝てます」
「そう、パスタ食べる?」
「……食べます」
「何系? さっぱり和風? トマト系? がっつりニンニク系? 意外とクリーム系?」
「……がっつりニンニクで」
「わかった」

 彼女が来るのに二人でニンニクとか、おかしいでしょ、と思いながら頼む。
 頭痛も残っていない。キッチンとダイニングを兼ねた隣の部屋へ向かう。

「何か手伝います?」
「うーん、特にないなぁ。座ってて」

 北が手際よく料理する様を眺めた。
 何かつまむ?と聞かれ首を横に振る。
 じゃあ、お茶飲んでてと冷蔵庫からポットとグラスが出てきた。
 
「……まずいです、男をダメにしますね」
「かあちゃんか!ってふられたからね」
「残念ながら、うちの母は尽くされて当然タイプだったのでそれには当てはまりません。僕、家事は一通りできます」
「……売り込むね?」

 そうこう言ってる間にパスタが皿に盛られる。
 厚切りベーコンの入ったペペロンチーノにミックスリーフのサラダが添えられる。

「……おいしそうです」
「薄かったら、これ」

 塩、胡椒にマヨネーズ、醤油を渡される。
 不思議に思いつつも、とりあえず受け取る。
 一口食べて、ちょうどいい塩加減だと思う。

「おいしいです。……もしかして歴代の彼氏に味覚音痴がいたんですか? 甘やかしすぎです」
「食の好みって育った環境があるからさ、いちいち気にしない」
「それは納得いかないですね。好みが一緒の方が分かち合えていいですよ。まず、入る店で揉めるじゃないですか」

 確かにそういうことあったな、それでおうちご飯が増えてマンネリ化して別れた面もあるかもしれないと北は思い出す。

「朝の味噌汁も、パスタもそのままでおいしいです。だから」  

 僕はどうですか?と言う前にチャイムが鳴った。
 まだ半分も食べていないのに、もう彼女の登場かと思うと森村の食欲が失せた。

「ちょっと待ってて。冷めちゃうから食べててね」

 にこにこしながら北が立ち上がると、部屋を出て玄関で、立ち話をしているようだった。
 
「こんにちはー」

 背後から声をかけられて振り向くと、小学生くらいの女の子が立っていた。
 北を幼くしたような、目元がそっくりに見える。

「はじめまして、みなです」
「はじめまして、森村です」

 二人でしばし見つめ合う。

「これ、ママからデザートにどうぞって。私、一時に友達と待ち合わせしてるからこのまま行くね」

 森村にペコリとお辞儀して玄関で北と小声で話す。

「合格でいいんじゃない? かっこいい」
「みなちゃんがそういうならそうかな。ママによろしくね? 今日はありがと」
「でもさ……ニンニク食べたらチュウできないよ? ガム持ってる?」
「……ぅん」
「うそだ……じゃあこれあげる、手出して。がんばってね」

 ジャラジャラという音がした。
 丸聞こえでなんだかむずむずする。
 玄関の閉まる音が聞こえて北が目の前に座る。

「姪っ子さんですか?」
「そう。姉の子。十歳だけど、一丁前に女子なんだよね、私の彼女」

 北がにっこり笑った。
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