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12 アーサー様のことを知りたい
しおりを挟む夕食までの時間、私は手紙を書き、アーサー様はひと休み。
姫様からの手紙にはこんなことが書かれていた。
『エヴァ、元気にしている?
最近王都で「ここあ」という飲み物がはやっているのよ!
小さい子にはしげきが強いから飲めないらしいの。
お兄様がエヴァとのお茶会で、とくべつに少しだけ用意してくれるって。
だから、一緒にはじめての「ここあ」を飲みましょう。
早くもどってきてね。 ルーナより』
読むだけで何だか優しい気持ちになる。
きっと『ここあ』を我慢させるために私を理由にしたのかな。
大人のお楽しみだって聞いたことがあるから。
私も楽しみにしていることと領地の様子を手紙に書いて、前もって準備していた押し花を添えて封をした。
それから、手帳を取り出して今日の出来事を書き始める。
アーサー様は隣の領地の伯爵家の生まれで、ずっと寄宿舎に入っているらしい。
あれ?
伯爵の名前はジョンじゃない。
それに、伯爵にも伯爵夫人にも似ていなくて……。
家族みんなが知っているみたいだったの私は知らない。
伯爵夫妻の子供は私より年下の女の子がいたと思うけど、体が弱いらしくて会ったことはない。
色々とアーサー様に訊きたいけれど、話したくないことかもしれない。
私の脚も幼い頃は目立っていたから、どうしたのかってしつこく訊いてくる大人にうんざりしたもの。
父様か母様に訊いて、って言ったらみんな黙る。
なんだかとっても嫌な気持ちになったのを思い出した。
そうして悶々としたまま晩餐の時を迎えた。
「時々ジョンと会っているかい?」
「はい。先週、顔を出しました」
「そうか、ジョンも喜んだだろうね。なかなか会えないと寂しがっていたから。同じ兄弟でも伯爵とはずいぶん性格が違うだろう?」
「……はい。父はのんびりしていますが、伯父は礼儀を重んじて自分自身に厳しい真面目な方だと思います」
「そうだな……昔からそうだった」
アーサー様が長文で、父様と話している!
私の疑問は二人の会話で何となく繋がった。
アーサー様は伯爵の甥にあたるのかな?
そんなことを考えて、じっくりアーサー様を見つめながら食事を済ませた。
時々私と視線が合うのだけど、そうするとすぐ父様か兄様が話し始めるの。
食事の後も、男同士で話そうってアーサー様が連れて行かれちゃった……。
だから私は早々に寝る準備をしながら母様とおしゃべりした。
「どうして、みんな私に内緒にしたの?」
「内緒にしていたわけじゃないのよ。ちゃんと確認したかったの。間違っていたらがっかりするでしょう? それと……みんなエヴァがかわいくて大好きだから、むやみに男性を近づけたくないのね」
「それって、アーサー様以外の男の人も?」
「もちろん」
そっか。
理由は分かったけど、アーサー様に対してはやめて欲しいな。
「彼のことはね、たまたま話す機会がなかっただけなのよ」
母様が言うには、伯爵夫妻は子供に恵まれず、男爵家に婿養子に入った末弟のジョンさんの次男を伯爵の跡取りとして五歳の時に受け入れたんだって。
それから思いがけず一年半ほどして二人の間に女の子が産まれたものの病弱で手がかかったそう。
そんな時に伯爵の他の弟達がやって来て……冒険者や、船乗りになった彼らの息子の誰かと実の娘を結婚させて後継にと騒ぎ出したらしい。
断ると、今度はアーサー様と彼らの娘を婚約させろと言い出したから、『良識の範囲でアーサー自身に選ばせる』と宣言して、ゴタゴタに巻き込まれないように寄宿学校に入れたんだって。
ちなみに、彼らの娘達はみんなひと回り近く年上で結婚適齢期を迎えていたから、しばらくしたら話も消えたらしい。
隣の領地でそんなことが起きていたとは思わなかった。
「アーサー様、家族と離れて寂しくなかったかな?」
私は家族に囲まれて賑やかに暮らしてきたから、ポツンと一人にされたら寂しいかも。
「それは、本人に訊かないとわからないけど……そうね。きっと、寂しい思いもしたかもしれないわね」
「……母様はどうして教えてくれたの? アーサー様は私が母様から聞いたこと、嫌がらないかな?」
「みんな知っていることだし、貴族の間では時々あることよ。……エヴァがね。ずっと、アーサー様を見ていたから説明しないとって、思ったの……彼のことが、好き?」
「はい! 大好きです!」
母様が包み込むような優しさで私を見る。
「そう、大好きなのね」
私はその夜、眠りにつくまでアーサー様のステキなところを母様に話し続けた。
だから薄れる意識の中で、母様が父様にそっくりねってささやくのが聞こえたような気がした。
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