この夜を忘れない

能登原あめ

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 バタンと扉が閉まる音がして、私は投げ出されるようにベッドに下ろされた。

「エルナンド様?」

 馬車に向かっていると思ったから、驚いて体が固まる。

「なんでこんなことになってんだ? 馬鹿にも程がある。そもそもあいつにこの手のものは効かない。俺と会わなかったら他の男に喰われちまうところだった……緩めるぞ」

 エルナンド様はののしりながらも丁寧な手つきでドレスを緩める。

「私じゃない……っ、お母様が……」

 ぼんやりした頭で思ったことを感情的に口にした私に、エルナンド様が舌打ちする。

「おかしいと思ったら飲むなよ、どのくらい飲んだんだ?」
「お茶に、いれて……半分」

 エルナンド様が私の顔にかかった髪を後ろに撫でる。その仕草が優しくて。

「ん……、くすり、は……?」
「はぁ? 今さら薬なんて効くかよ。……ったく、仕方ねぇな。一応試してみるか。……ちょっと待ってろ」

 いつもより言葉の荒いエルナンド様が私から離れた。
 一人でいたいと思うのにエルナンド様にそばにいて欲しいと訳のわからないことを考える。

「もう、いや……」

 この状態をなんとかやり過ごそうと体を丸めた。

 体が熱い。
 下肢が濡れているような気がして気持ち悪いのに、じくじくとうずきを感じている。
 まさかこんなことになるなんて思わなくて、感情がぐらぐら揺れて泣いてしまいたかった。

「……ハリエット、これを飲め」

 私をのぞきこんだエルナンド様の顔が険しい。
 でもその顔を見たら涙が引っ込んだ。
 もしも、優しく気遣われたらすがって大きな声で泣いてしまったと思うから。

「ん……」

 体を起こされ、口元に陶器が当たる。
 苦い薬湯に顔をしかめたけれど、進んで飲んだ。
 楽になるなら、これくらい何ということはない。

「まぁ、今さらだが少しは楽になるかもな。……俺はお前を甘やかしたいとずっと思っていたが、これは予想しなかった」

 エルナンド様の低い声は、飲むのに集中していた私の耳を通り抜けた。
 飲み干したところで、エルナンド様がドレスを脱がしにかかる。

「だ、めっ……!」
「だめもなにも。ドレスがしわになったら帰るの困るだろ。……だいたい、俺がさっき飲ませたのが別の媚薬だって言ったらどうすんだよ。まったく、手はかかるし目が離せない女だな」

 エルナンド様の言葉が断片的に引っかかり混乱した。

「別の、媚薬……?」
「頭が回るようになるまで黙れ。中和する薬だ、悪いようにはしない。エドウズ侯爵にも連絡しておくから」
「じ、侍女に……っ、着替え……」

 着替えなら女性がいい。 
 お互い未婚で、密室にいることが知られたら困る。

「あー、悪いが離宮にいることを知られたくないんだ。諦めろ、俺が責任をとる」
「離宮……?」
「俺が借りている」

 下着姿にされて、ほんの少し熱さから解放されてホッとした。けれど――。

「いつもこんなの着てるわけ?」

 エルナンド様の声がさらに低く響いて、なぜか一瞬で体温が上がる。
 いつもより上質で、繊細なレースが施されているから、身につけた時は少し大人っぽく感じた。
 それをジロジロ見られて恥ずかしいのに、今の私は腕を上げるのがやっとだった。

「ち、違います……」
「なんか、腹立つけど、まぁいい」

 エルナンド様の大きな手が、下着越しに胸を包んだ。痛いくらい先端が立ち上がり、その刺激だけで声が漏れる。

「あ、……」

 恥ずかしくて、でももっと触ってほしくて唇を噛むと、エルナンド様のもう片方の指が唇を撫でた。

「こうなっているのは薬のせいだ。ここには誰も来ないし、我慢しないで声出したほうが早く薬も抜ける。早く帰りたいんだろ?」

 真上から見つめられて、かすかに頷くとエルナンド様の唇が私の唇と重なる。柔らかくて驚いた。

「んっ……」
「口塞いでやるから、遠慮するな」

 初めてのキスだった。
 逆らわなきゃいけないのに、エルナンド様の触れ方がとても優しい。少しも嫌と思えない。
 何度も柔らかく唇が重ねられ心地よい気持ちでいると、胸の先端を摘まれて思わず体を押しつけた。

「――――っ!」

 お腹の奥が熱いようなきゅんと絞られるようなおかしな感覚がしてたまらない。

「達したのか?」

 顔を上げたエルナンド様に見つめられたけれど、何を言われたのかよくわからなかった。
 ただ体の中で一度熱が弾けて、でもまだくすぶっている。

 苦しくなってわずかに口を開けると、にゅるりと舌が滑り込み口内をなぶった。
 熱く肉厚な舌が私の上顎を撫で、私はその感覚に耐えられなくて目の前の体にすがる。

 エルナンド様の手がなだめるように私の髪に指を差し入れた。
 大きく無骨な手の動きにさえ私はぞくりとして体を震わせてしまう。

「ハリエット、苦しいか?」
「は、い……」

 エルナンド様のキスは、うずきが楽になるような気がする。
 体は熱いままだけど、私の頭はもうそれしか考えられなくて――。
 自ら唇を求めた。

「……っ!」

 驚いて一瞬身をひきかけたエルナンド様だけど、すぐに私に深いキスをおくる。 
 唇を合わせることがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。

 それに大きな手で胸に触れられると体がたかぶって、じわじわと熱がたまる。
 触れてもいないのに下肢がむずむずした。
 私の様子に気づいたのか、エルナンド様の手が太ももを撫で、下着をかき分けて直に脚のあわいに触れる。

「あっ」

 そんな場所に触れさせてはいけないのに、強烈な快楽に体が跳ね、逃れるつもりが押しつけることになって。

「こんなに……濡らしてたのか……」
「や、……そこは……っ!」

 撫でられるだけで体がびくびくと震え、何かとてつもないものが近づいてくるのを感じておののいた。

「薬のせいだ。怖かったら声を出せ。責任とるから――」

 いきなり蜜口に侵入してきた指によって頭が真っ白になる。

「ああ――っ!」
  
 がくがくと震える私を彼の指が内壁を探りながら撫でた。
 激しい動きではないし、宥めるようでいて私を再び高めるような動きで。

「……あと何回か達すれば抜けるだろ」

 訳のわからないまま指を増やされ、中を探りながら外側も親指で刺激を加える。
 陰部の先端の硬くなった場所を撫でられただけで、私はあっさり弾けた。

「……あッ!」
「ん、花芯か? ほら、いくらでも触ってやるよ」
「あっ、やっ……、あ、エルナンドさまっ……」

 聞いたことのない音が響き、快楽に身を任せた私は彼にただひたすら縋りつく。
 今の私はそれが少しもいけないことだと思わなくて、ただ彼から得られる快楽に頼った。

「なぁ……あいつの心にお前はいない。それでもあいつを愛するのか?」

 ぴたりと動きを止めたエルナンド様に、私の体が物足りなくて悶える。
 どうして今、殿下の話をするのだろう。

「……やめないで」
「その前に答えろよ」
「……愛して、ない、わ」

 彼の指が抜かれ、あわい全体を柔らかく滑らせるように撫でる。
 物足りなくて、もどかしい。
 無意識に腰を前に押し出した私に、エルナンド様が口角をあげる。

「俺ならお前を幸せにするし、なんだってやる。俺にしておけよ」
「それは……」

 頭がぼんやりとしているものの、微かに残った理性が頷くことを躊躇ためらった。

「もっとお前の全てを可愛がりたいんだけどな。――まぁ、今言っても仕方ないか」

 物足りない、満たされたい、そんな思いに囚われている私には理解が追いつかない。
 彼の指が再び花芯をかすめるように動く。

「ん……エルナンド、さま……」
「悪いな。体を貸せ」

 エルナンド様が下着ごとトラウザーズを下げた。
 初めて見る男性の体に驚き、体が強張る。

「それは、私達……」

 殿下の婚約者候補から外れたけど、私達は何も約束をしていない関係で――。
 未婚の私にとって純潔は命の次に大事にしなければいけないものと教わってきた。

 ああ、でもはしたなくも彼を受け入れてしまいたいと本能がいう。
 一体どんな感じなのだろう。

 やっぱり、だめ。
 きっと後悔するのだから、そんなことを考えてはいけない――。

「……だめ、です」

 絞り出すように私は言った。

「お互いが気持ち良くなるだけだ」
「でも……っ! あ、……」

 彼自身の先端でひだを開き蜜をまぶせてから何度もあわいを往復させた。
 強烈な刺激に私は言葉を失って。

「今、純潔は奪わない。だが、俺もこのままはきつい」

 混乱する私の太ももに彼自身を挟み、ゆっくりと大きく腰を動かした。
 先端が花芯をこすり、再び熱がたまる。
 いやらしく水音が響き、思わず腰が浮いてしまう。
 丸みを帯びた先端が一瞬私の中へ入ってくるかと思った。

「……っあ!」
「ハリエット、挿れるのは今じゃない。その時が来たら俺を全部受け取れ」

 さっきよりも強く、速く動くから私の体はすぐに絶頂に追いやられたけれど、いつまで経ってもエルナンド様は動きを止めない。

「あぁっ、もう、……ああ、あっ――!」

 強い快楽に涙が流れ、私の声がますます大きくなった。

「ハリエット、俺にゆだねろ」

 欲を孕んだ瞳で私を見下ろし、時折体中に触れながら何度も熱が弾けるまで繰り返す。
 
 私の意識が朦朧もうろうとした頃、ようやくエルナンド様が私の腹の上に欲望を吐き出した。
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