この夜を忘れない

能登原あめ

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 エル様のご両親、ソリス公爵夫妻は私のことを快く受け入れてくださった。
 目前に迫ったハーヴィー殿下の婚約お披露目パーティーが終わったら、エル様と共にソリス公爵家の屋敷に移り住み、花嫁修業に入ることになっている。
 
 すべてが順調に進んで怖いくらい。
 ハーヴィー殿下がイライザ様を選んだことはすぐに知れ渡り、婚約者候補だった彼女達もそれぞれ婚約した為、私もそれに紛れるようにエル様との婚約を周りに知らせた。

 特別に驚かれることもなく、なぜか殿下が私とエル様を結びつけたという話になっていて。

「私が元々紹介しようと考えていたのもエルナンドだったんだ。だから結果的にその話も合っていると思うんだよね。あの日も……なにも問題なかったでしょ?」

 笑顔でほのめかす殿下の前で顔がひきつりそうになったけれど、そうですねと赤くならずに答えることができた。
 離宮に泊まった夜のことは、王族の敷地の中でのことだから、お抱えの情報組織から聞いたのかもしれない。

 その上で、噂が流れないようにしてくれたと思えば、その後も私達のことを揶揄からかってきたのも恥ずかしかったけれど受け流せた。

 今回私が被害を受けた側だからか、婚約者候補として長い時間拘束していた負い目からか見逃してくれたみたいだけれど、両親に関しては次はないと思う。

 殿下ににらまれたお父様には、胃をキリキリさせながらお母様を見張って、エドウズ侯爵家と爵位を残して欲しい。

 国内の寄宿学校に入る予定だった弟は、エル様と相談して私達の屋敷近くのしっかりした学校に留学させることに決めた。
 これからは私も時間ができる分、弟と会う時間も増えるんじゃないかと思う。

 婚約披露パーティーは、殿下もイライザ様も始終笑顔で、私とエル様は幸せな気持ちを分けてもらって隣国へと渡った。








 そして私達の結婚式は周りに祝福されて挙げることができた。
 その夜は、私達にとって本当の初めてで――。

「ハティ、やっとだ。長かった」

 身を清めて二人きりになると、エル様が私を抱きしめた。
 震えているのは私かと思ったのに、エル様のほうみたいで……。

「本当に半年で式を挙げてしまうなんてね」
「これ以上待てなかったからな。早く俺の妻にしたかった」

 時間があればすぐに私のそばにやってくるし、困ったことがあれば助けてくれるし、案外独占欲が強くて驚いた。

 それに外に連れ出してくれていろんなところへ出かけたのは楽しい思い出。
 国民の人柄も全体的に明るくて、楽しくなるとすぐ踊り出しているように感じる。

 場所によって料理が違うものの、新鮮な魚介類がとても美味しい。
 すごく肌に合うと思う。
 いつも隣にいるエル様は相変わらず思ったことをそのまま話すけど、ずっと笑顔で私を見つめる。

 そんなエル様のことをますます好きになっていく。
 今だって彼は自然と私を抱きしめ、キスを落とした。

「なんだか愛されているみたい」
「馬鹿だな……今さらなんだよ、ハティは本当に馬鹿だ」

 呆れたように呟くから、私も言い返す。

「だってエル様に好きとか愛しているなんて言われたことないもの」
「…………嘘だろ」

 そう言って少し間抜けな顔をするから、私は笑ってしまった。

「エル様だって、馬鹿だわ」
「……あぁ、本当に馬鹿だな。……愛しているよ、ハティ。馬鹿真面目なところが腹立たしかったけど、それさえ好きらしい。ずっともどかしかった。こっち向けって、思っていたよ。俺が愛してるのにって」

「……エル様は一言多いといつも思っていたわ。見透かされているみたいで、時々胸に刺さって痛かった。でも、私も愛してます。大好き」
「…………」
「…………」

 お互いに顔を見合わせて笑う。
 彼が私の両頬を大きな手で包み、そっとキスした。
 それから私を抱き上げ、ベッドに下ろして再び唇を重ねる。
 
 キスはたびたびしてきたけど、媚薬を口にしてしまったあの夜のようなことはしていない。
 ずっと公爵夫妻の屋敷の別棟に住まわせてもらい、結婚前の二人が同じ寝室は好ましくないと言って、使用人達の目も厳しくて。

 時々エル様が私の部屋に忍び込んでは、すぐに見つかって追い出される、なんてこともよくあった。
 結婚式までの間に私が公爵家について学び、エル様の領地の屋敷の改修も終わって。

 これから旅をしながら半月ほどかけてゆっくり領地へと向かうけれど、今夜は王族御用達の特別室で過ごすことになっている。

「ハティ、こんなに長く触れられないと思わなかった」

 あれは私にとって夢みたいな夜で忘れかけていたけれど、こうして触れ合うとやはり思い出してしまう。

「先に謝るけど、やめてと言われても止まれない、多分」

 多分。
 それならきっと、私が嫌がったらやめてくれるような気がする。

「エル様の優しいところも好き」
「……馬鹿だろ、こんな時にそんなこと言う奴あるか! 我慢なんて……我慢なんてできない、多分」

 どうしよう、やっぱりエル様が優しくて笑いたくなって、私は抱きついた。

「エル様、大好き」
「……媚薬なんかじゃなくて、俺が濡らす」

 それからのエル様は本当に容赦なかった。
 深く唇を合わせて、舌が思いもかけないところを嬲る。
 食べられてしまうと思った。

「んんっ……」

 本気の深いキスにめまいがして、腰のあたりからぞくぞくと何かが這い上がり、エル様にしがみつく。
 
「エル、さま」

 うまく息が吸えないし、手加減して欲しくて吐息混じりに名前を呼んだ。
 
「……そんな顔したって、止められないから」

 この半年、エル様は本当に抑えていたのだと思う。
 怖くないとは言えないけれど、私は止めるつもりもなかった。
 私は答えずにゆっくり目を閉じる。

「おい、ハティ! 全部、俺の都合のいいほうに考えるぞ」

 そう言って再びキスが落とされた。
 そっと目蓋まぶたを上げると、真剣な顔のエル様が私を見つめていて――。

「エル様、好き」
「……! 調子が狂う」

 そんなエル様もやっぱり好きで、何をしてもいいと言いそうになったけどやめた。
 彼の手が私の寝衣のリボンを力任せに引っ張ったから。

「柔らかいな」

 彼の手が素肌をなぞり、やわやわと胸をむ。
 それから頭を下げ、先端の周りを舌でなぞる。
 どうして先端に触れてくれないのだろうともどかしい。
 あの夜はすぐに触れたのに。

「ハティ、触って欲しいか?」

 首を縦に振ると、熱い口に包まれた。
 指とは違う刺激に体温が上がる。

「んっ! エルさま……っ」

 硬く立ち上がった先端を舌で弾いたり、吸ったりされてお腹の中が重たく感じてきゅんとした。
 でも少し何か足りない。
 そう思っていると甘噛みされて、背中が浮いた。

「あぁっ」

 私を逃さないように腰に腕を回されて、様子を見ながら噛んでは宥めるように舐める。
 もう片方も同じようにされて、痛いのか気持ちいいのかわからなくなって頭は混乱するのに、体は快楽と受け止めて目の前が真っ白になった――。

「ハティ、暴れるなよ?」

 荒い息を吐きながらぼんやりと見ていると、エル様の頭が下へ向かう。
 私の太ももを開いてその間に体を置いた。
 
「エル様!」
「大丈夫だから、力を抜け」

 脚を閉じようとエル様の体を挟んでしまったまま、緊張からうまく力が抜けない。

「エル様、恥ずかしい」
「……見るのは初めてじゃない。あの夜、俺が綺麗にしたんだし」
「……っ!」

 拭かれたことは覚えていないけど、確かに朝は体がさっぱりしていた。
 あの日の下着は消えて、あっさりしたものを身につけていたけれど……。

「俺達、夫婦だろ。不公平だと思うなら、あとで俺を見ればいい」
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