お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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17 危機!



 次に目が覚めた時、起きあがろうとして頭がクラクラした。
 とっても嫌な夢を見たって思ったけど、ぼくは硬いベッドに横になっていて、全く見覚えのない場所で混乱している。
 
「……あら、起きたのね。可哀想に、あんた……売られたのよ」

 知らない女がぼくを見て笑った。
 少しも可哀想だなんて思ってもいない顔で。

「ここは、どこ、ですか?」

 声が出しづらい。なんで?
 ぼくは、アベラさんに声をかけて……それで捕まって、売られた?
 本当に売られちゃったの?

「娼館よ。館長を呼んでくるから。……逃げることはできないわよ」

 女が扉に向かい、顔を出して何か言う。
 ぼくは逃げだそうともがいたけど、口の中が変な味がして上半身を起こすのが精一杯だった。

 どうしよう。
 ショウカンってなに?
 ロイクさんから教えてもらっていない。
 ただ、なんとなくよくない場所に連れてこられたのはわかる。

 女が体を起こしたぼくを見ておや、という顔をした。

「逆らわなければ悪いことにはならないわよ」

 女がそう言い終わると同時に扉が開いた。
 初老の男がのっそり入ってきて、ニヤニヤしながらぼくに近づく。

「こりゃまた、売り飛ばすのがもったいないね。若い分高値をつけられそうだが……幾人か好みそうなお客様がいるから、売り飛ばさずに手元に残したほうが稼げそうなのになぁ」
「そうしたらいいじゃない……船に乗せる約束をしたけど、この街に来て日が浅いって聞いているからバレっこないわ」
「化粧すればどんな子も変わるからなぁ」

 いきなりぼくの顔をペタペタ触るから驚いてのけぞる。
 一瞬で鳥肌がたった。

「いやだッ……」
「いい反応だ。ここは初物好きが多いから、競わせてもいいかもしれんなぁ。ちとひょろっこいが……大丈夫、大丈夫。うちはとても客層がいいからね。うまくやれば人気も出るし、贅沢ができるぞ。……まぁ数年、誰も思い出さないくらいの時間はここから出せないがね。せいぜい気に入られるようにするのがここで生き抜く道だよ」

 よくわからないけど、ぞわぞわする。

「でもぼく、来月結婚する予定でこんなところにいるわけにはいかないんです」
「結婚ねぇ……可哀想に。だけどあんた、相当恨まれていたんだねぇ。もう金銭のやり取りが終わっているし、その金を支払えないならここから出て行くことはできないよ」

 女が横からニヤニヤしながら口を出す。
 いっぱい稼いでいるらしいロイクさんが十年働くくらいの金額を払えるならって言うけど、ぼくにそんなお金はない。

「アベラ、あれ私の異母妹いもうとなの。あの子が気に入らない子はたいていここに連れてこられて売られてしまうのよ。みんなここに残ることはなかったけど、あんたはここで可愛がってもらえてよかったね。海の向こうじゃ生きているかさえわからないもの」
「船に乗せて、売る……」

 それって、ぼくが小さい頃にばあちゃんの言うことを聞かないと言われたことだ!
 奴隷にされるってこと……。

 アベラも目の前の人達もこの場所も、全部ひどい!
 ばあちゃんは口だけだったし、ぼくがわがまま言ったからいけなかったんだ。
 気に入らないからって、罪のない人をそんな目に遭わせるなんて信じられない!
 
「ちょっと落ち着いてからあんたがここにいるってアベラに伝えたら、その男と仲良く店をのぞきに来るかもしれないね。男ってのは近くにいるいい女に簡単に乗りかえるものだからさ」

 ロイクさんが彼女のことを好きになることはないって断言できるけど、一瞬でもそんな想像をしてしまったぼくが情けない。

「そんな人じゃないから!」
「誰だか知らないけど、アベラと同じ男を好きになったのがあんたの不幸だね。男なんてみんな同じなんだから諦めればよかったのに」
「同じじゃない、同じなんかじゃない……」

 なんでこうなっちゃったのか悔しくてそれ以上言葉が出ない。
 体が重くなかったら、走って逃げ出すのに。
 とにかくここにいることはよくない。
 でもこの状態でどうやって逃げたらいいんだろう。

「逃げようなんて考えても無駄だよ。あんたの味方をする奴なんてここにいないからね」

 女がぼくを見て笑い、様子をみていた男が口を開く。

「ところで相手の男は人間か? 獣人だったら匂いで追いかけてくるから訳を言って今夜お得意様につけてしまうか。それで匂いがわからなくなるだろう」
「アベラが獣人なんて好きになるはずないわよ。前回懲りているはずだろうし。そうでしょ?」

 ぼくは無言でうなずいた。 
 獣人だって答えちゃいけないって思った。
 ロイクさんなら、ぼくを見つけてくれるはず。
 それにお得意様につけるとか何をするかわからなくても聞いてて嫌な気持ちになった。
 どうにかして逃げ出さないと……!

「じゃあ、さっそく今晩顔見せだけでもするか。明日にでも俺が仕込むからその後から客をつけよう」
「このあと支度を整えさせるわ」
「ああ、頼む」

 そう言って男が出て行くと、入れ替わるように三人の煌びやかな女達が入ってくる。
 ツンとすましていて味方になってくれそうもない。

「さぁさあ、時間がない! 新人の世話はお前達に頼んだよ! 私も忙しいからね」

 どうしよう。
 人が増えて、ますますぼくの逃げ道がなくなった。
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