お嫁さんを探しに来たぼくは、シロクマ獣人の隊長さんと暮らすことになりました!

能登原あめ

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18 活路



 アベラの姉だという女が出ていき、扉が完全に閉じると女達がぱたぱた寄ってきた。

「やっぱり! ちょっと前にうちが誘った子だよね? 顔を覚えるのは得意なんだ。そうそう、ジョゼフ! 私ルイーズよ。覚えている?」
「やっぱり女の子だったね」
「うちは気づかなかった!」

 そう言ったのは、山から下りて来た日にぼくをお店に誘った女の子達だった。

「うん、覚えてる。ジャクリーンさん?」
「ええ、そう。……あなた、警備隊の隊長さんの番よね? あの時の二人の様子でそう思ったの。今もちょっと匂いがするし……違う?」

 ぼくがそうだと答えると、ジャクリーンさんがもう一人の女の子に内緒でオーナーを連れて来るように声をかけた。
 その子が静かに部屋を出て、ぼくはどうしてここに連れてこられたのかをこっそり話す。

「私、この店は気に入っているの。だから、つぶれるのは困るんだけど館長とあの女は気に入らない。あなたが花として店に出ると警備隊に潰されてしまうと思う。私達、あなたを助けるから、協力してもらえない?」

 ジャクリーンさんがそう言うと、ルイーズさんがロイクさんをこっそり呼びに行くことになった。

「うん、ここから出られるならぼく協力するよ! これをロイクさんに渡してもらえる?」

 髪をまとめていた細いリボンを渡す。 
 きつく結んでいたから落とさなくてよかった。
 これだってロイクさんが買ってくれたものだったから、きっとぼくが無事ってわかってくれるかな?

 部屋に手紙を書く道具なんてなかったから、指くらいの太さのリボンを何とか広げて「大丈夫」って紅を筆にとって描いた。

 あれ? 
 なんだか汚くてわかりづらいかも。

「ちょっとこれは……」

 ジャクリーンさんが戸惑ったような声を上げたけど、ルイーズさんはそのままきれいに折りたたんで胸元にしまった。

「……それ、匂いが……」
「よし! これで無事ってわかるね! 行ってきます」

 ジャクリーンさんはヒョウの獣人さんで、ルイーズさんは人間らしく、二人の反応が全然違う。
 でも今できることはこれしかないんじゃないかな。

「よろしくお願いします!」

 





 
 その後はジャクリーンさんに色々教えてもらいながら、館長とあの女を油断させるために支度をした。
 娼館がどんなところかぼくに優しく説明してくれたけど、想像が追いつかなくて混乱するぼくを笑う。

「詳しいことは隊長さんに教えてもらえばいいわ」
「……はい」

 この街に娼館は五店舗あるそうで、ここは中堅クラスだけど、庶民が利用できる場所としては少し高級な部類らしい。

 今日は顔見せだけだという話も、しっかり作法を覚えさせてからじゃないとお客は取らせない方針なのだというから信じていいって。
 ジャクリーンさんはぼくが驚くたびに笑っていた。

「私はけっこうこの仕事が好きなの。売られて来た子もいるけど、ここは稼げるし嫌な客は弾いてくれるから。それにあともう少し稼いで外の国へ行って歌の勉強をしたい。今ここが潰れると困るのよ」

 オーナーは働きやすい環境を作ってくれて話を聞いてくれる人だけど、今は毛色の違う二号店が軌道に乗るまでそっちに集中していて、あの二人がやりたい放題していると言う。
 思いがけず味方が現れて本当によかった。
 そう言うとお互いのためよってジャクリーンさんは笑ったけど。

「ほら、こうしたら普段はこんな髪にしてもいいかも。……ジョゼフはちょっとお化粧するとこんなふうになるし……隊長さんの反応が怖いなぁ」

 そう言われて渡された鏡を見てつぶやく。

「誰?」
「あははっ、だよねぇ。美人、美人。今日は頑張って私、っていってごらんよ」
「わたし、ジョゼフ」
「そうそう。……あんまりやりすぎると怒られそうだから、これ着ようか」

 渡された服はなんとも頼りないひらひらとしたワンピース。
 薄い布が何枚も重ねられていて、不安だったけど着てみたら透けそうで透けないし、首まわりも詰まっていてほっとした。
 でも膝が隠れるくらいの丈だから落ち着かない。

「すーすーしてちょっと……」
「まぁ、でも胸元が大きく開いているのとか丸見えになってもっと恥ずかしいわよ」

 ジャクリーンさんと自分の体つきを見比べてため息をつく。

「ぼく、このまま成長しないのかなぁ」
「こら、私でしょ? それに大きさなんて関係ない。私の場合仕事上、役立っているけどあなたはあなたのままでいいのよ。隊長さんはそのままのあなたが好きなんだろうから」 

 ジャクリーンさんの笑顔を見ていたら、本当に大丈夫な気がしてきた。
 ロイクさんは絶対来てくれる。
 あとはそれまでの時間を乗り切ればいいはず!

「はい、わたしはわたしのまま……がんばる」
「その調子よ」

 和やかに話せていたのはそこまでで。

「準備はできたかい?」

 女が扉を開けてニヤッと笑った。

「おやおや、化けたねぇ。……これなら、いつでも売り出せそうだ」




 
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