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私の紹介
しおりを挟むチリンチリンー…。
「いらっしゃいませ~」
蜜の香りと少し湿ったひんやりした空気。ああ、また今日も1日が始まる。そんな気持ちにさせられた。
窓から差し込む朝日が気持ちいい。
「あっ、おはようございます!田村さん。」
「おはよう、香澄ちゃん。今日もいつものお花、頼むね。」
「はい、少々お待ちください。」
優しい田村さんの雰囲気に自然と私も笑顔になった。
今日最初のお客様は常連のおばあちゃん、田村潔子さんだ。
「今日もお天気でよかったね。あらでも、お花からしたらあまり雨が続かないんじゃ困るのかしら。」
「ふふ、大丈夫ですよ。お花には私がついてます!」
ここはとある町の、一軒の花屋。名前はfiore。フィオーレというらしい。
イタリア語で花って意味なんだとか。なんだ、そのまんまの意味じゃん、しかもなんでイタリア語…って思ったのは店長には秘密である。
この店は、私の出身高校の近くにある店だった。
卒業シーズンになる保護者やら学生やらで賑わい、駅に近いので、町で音楽コンサートがあったりすると通るついでに、と花束を買う人がいたり、とにかく結構有名。花の種類も豊富でラッピングも可愛いと評判であるため、私も学生の頃、異動の先生に買って手向けたりしていた。
まさかここで働くことになるとは、高校生の頃の私は思ってもみなかっただろう。
黄色、紫、白…この三色を中心に菊やカーネーションで仏花をあつめていく。
「実は今日で主人がなくなってから一年経つのよぉ。早いものね…」
田村さんは少し寂しそうに、店の窓から差し込む朝日を眺めた。
「そうなんですか。きっとこんな潔子さんが来てくれるなら、ご主人喜んでると思いますよ。」
「ふふ、そうだといいけどね。主人はお花が好きな人だったもんだから…」
いつもの世間話を明るい調子でしてくる田村さんとは少し違っていた。
「主人と出会ったのは私が23で彼が35の頃。ふふっ、若いわねぇ、戻りたいわぁ。同じ会社で働いていたのよ。」
へぇ、結構年の差があったんだ…そう思いながらふむふむと頷く私に田村さんは続ける。
「プロポーズの時は真っ赤なバラの花を100本渡してきてね。今でも忘れられない、あんなおっきい花束隠せるわけないのにねぇ。車に乗るときに、お花の匂いがしたし、足元に何枚か花びらが落ちていたから。なんか特別なことされるのかなって薄々気づいちゃったのよ。」
そういってケラケラ笑う田村さん。
「でもやっぱり、結婚しようって言われた時は嬉しかったわねぇ。感動で、こんな私でも涙が出たわ。」
朝日から目をそらして、入り口近くに飾ってあるたくさんのバラの花を見る。
「彼と結婚できてすごく幸せだった。」
潔子さんは微笑みながらゆっくり目を閉じた。
ああ、私はこのお店が本当に好きだな。
こんな素敵なお客様がいらっしゃって。
それに寄り添うことができるなんて。
「…田村さん、花束できました」
そういって田村さんは仏花と、バラが混ざった花束を受け取った。
「あら?このお花…初めて入れてくれたのかしら?」
「はい、モッコウバラというお花で。お墓にトゲのあるお花はよくないのでトゲのないバラです。黄色、しかなかったんですが…」
私は鼻の頭をぽりぽりとかいた。
驚いた顔をした田村さんにあわてて
「あ、気になるようでしたら、全然今から変えられます!」
と言うほどのカッコ悪さだったが、それを見て
田村さんは顔をくしゃっとして微笑んだ。
「ありがとう、主人も喜ぶよ。また来るねぇ。」
といってお店を出ていった。
「香澄ちゃーん」
「ひっ…!」
頭上から声が聞こえた。
「店長…」
「はは、おはよ。」
私を驚かせた彼は満足げに微笑んだ。
「相変わらず、背ちっちゃいね」
「150はあるから普通ですよ。というか、上から見下ろすのやめてください。」
「香澄ちゃんの返事はまともすぎるんだよ」
いつものニコニコ笑顔を顔に貼り付けたまま、店のエプロンを着けているこの彼はこのフィオーレの店長、佐藤 岳だ。
「店長がちゃらんぽらんすぎなんだと思います」
「ん?なんか言った?」
「いえ。」
ぽそっと呟いた声はさすがに聞こえてないようで、私は安心した。
彼は今、26歳という若さである。と言っても私の3個上だ。三年後の私が一軒、店を経営することができるかと言われると、どうなんだろう、実感がわかない。そう考えるとこの人割としっかりしてるのかな、ともたまに思う。
「今日朝の番組で俺の好きな女優がゲストでさ。インタビューしてて」
「だからいつもより遅かったんですね」
「はは、ごめんごめん」
少し癖っ毛の自然な黒髪が朝日に照らされてきらきらひかる。この人は笑うと、目が糸みたいになる。
チリンチリンー…
「こんにちはー、あら岳くん!!」
「あっ、いらっしゃいおばちゃん!イェーイ」
店長は昔からこの町に住んでいたらしく、地元にお住いのお客さんの知り合いも多い。まるで親戚の人が来たかのような親しさである。おばちゃんと店長は笑い合いながらハイタッチをして世間話をはじめる…この人は遅れて来た上に全く。
まあ、お客さんが楽しそうならいいんだけど…。
変な店長、楽しい客さん達、とある町の一軒の花屋フィオーレ。
私は、今私を取り囲んでいるこの環境を、実は結構気に入っていたりする。
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