花と君

えりんぎ

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俺の紹介

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「ふぁ~…あ…」


時計の針は七時を指している。

むくりと起き上がり、カーテンを開ける。ああ、今日も晴れだ…
顔を水でバシャバシャと洗い、歯を磨いている間にトーストをオーブンに入れた。
実は俺、朝ごはん前後に二回歯磨きする派なんだよね。

歯磨きが終わるタイミングでパンが焼けた。イチゴジャムを塗り、テレビをつける。

「お、堀西マキ…」

朝のニュースに出るっつーことは、新しいドラマでもやるのかな。番宣か?パンにサクッとかじりつきながらそんなことを思っていた。

そういえば、今日の朝は香澄ちゃんとオープンだなぁ。

俺の店である花屋、フィオーレでバイトしている香澄ちゃんの顔が浮かぶ。

そういや、ちょっと雰囲気似てるような。少し控えめな感じとか、ちっちゃいとことか、顔つきとか。
香澄ちゃんは一度も髪を染めたことがないそうで(俺と同じだ)、毛先にゆるっとしたパーマをかけている。
いつも毛糸でできた花がついたヘアゴムでポニーテールを束ねている。

そのままボンヤリテレビを眺め、香澄ちゃんのことを考えていると、堀西マキの出演シーンが終わった。

「…今って」

8時。

うん、全力でチャリこげば間に合う。
ほんとは8時にはついてなきゃいけないんだけどね。
ああ天パでよかった、寝癖ついててもよくわかんないから。
手ぐしでさっさと髪をとかし、2回目の歯磨きを済ませ、急いで着替えて財布とケータイだけを持って家を出た。

ゆっくり漕いだら30分はかかる道を俺は今日驚異の15分で漕いで行った。


ゼエゼエ息が切れる。
汗もかなりかいた。やば、俺汗臭いかも…
裏口のドアをガチャリと開ける。
事務室兼更衣室へ入ると、香澄ちゃんのロッカーにバックが置いてある。
彼女は開店作業をもう済ませてくれているようだった。

ーチリンチリン…

「いらっしゃいませ~

あっ、おはようございます!田村さん。」

お客さんが入ってくるベルの音とともに香澄ちゃんの澄んだ声が聞こえた。

香澄ちゃんと、ご主人の仏花をいつも購入されていく常連の田村潔子さんの会話が聞こえてくる。
途切れ途切れだが、いつもと違う雰囲気の田村さんのもとへとフラフラ入っていくほど空気の読めない俺ではなかった。

汗を拭きながらハンガーにかけてあるエプロンを手に取り、パイプ椅子に腰掛け、聞き耳をたてる。


…モッコウバラか。
香澄ちゃん、本当に、一生懸命にやってくれてるなぁ。仕事に対する姿勢が真面目っていうか。
入ってきたときは、花についての知識もそんななくて。
まだバイトだった俺が、いろいろ教えてたんだけど、今では逆に教えられることがあるくらい、花に詳しくなった彼女である。
彼女の俺に対する視線が冷たいときもあるが、多分ここの仕事を気に入ってくれてることは間違いない。はは…。


店へ入る扉をそーっとあける。
彼女は田村さんが店から出て行った方を見ている。彼女の柔らかそうな髪が朝日に暖かく照らされている。
後ろ姿ではあったが、俺は彼女の考えていることが手にとってわかるような気がした。




「香澄ちゃーん」

「ひっ…!」


こうして今日も、この町一番の花屋、フィオーレの1日が始まるんだ。

香澄ちゃんと一緒に。

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