【新編】オン・ユア・マーク

笑里

文字の大きさ
上 下
3 / 68

かるた部にきまってるでしょ?

しおりを挟む
「じゃあ、部活行こっか」とミオ。
「えっ、どこに?」と風花。
「かるた部に決まってるでしょ」
 ——はい?

 入学して教室でのオリエンテーションが終わり、今日はこれで終わりらしい。あとは校庭などで各部の勧誘があるので、自由に校内を歩きながら入りたい部を探していいという。
 風花はまだ何をしたいか決めていないため、今日のところは様子見をしようとのんびりと席に座っていたところ、先に席を立ったミオから手首を掴まれた。
 最初の自己紹介で宣言したとおり、ミオはどうやら本気でかるた部に入るつもりらしいが、何をどうしたらそうなったのかわからないが、ミオの中ではいつの間にか風花も一緒にかるた部に入るという前提になっていたのだ。
「ちょっ、ちょっと待って。私まだ何も……」
 手を引かれて風花が慌てて立ち上がると、ミオが風花を、「わお」と感嘆の声を上げた。
「思ってたよりも背が高いね。何センチ?」
「えっ? ああ、多分だけど今は六十六くらいかな」
「座ってたときに気がつかなったわ」
とミオは上から下まで何度も風花を眺めまわした。ミオの声に釣られて、近くの男子——まあ、孝太たちであるが——が、チラチラと見ていたが、ここは気づいても無視することにした。
「だからさ、やっぱり風花ちゃんはかるた部ね」と改めてミオが言う。
「かるたって、子供の頃お正月した、犬も歩けば棒にあたるとかいうあれ?」
「違う違う。百人一首よ。知らない?」
「まったく」とかぶりを振る。
「まあ、やってみればわかるよ。さっ、かるた部探しに行こ」とミオは再び風花の腕をとった。どうやら風花に選択肢は与えてもらえないらしい。

「だいたい、なんて私なの? 例えば一緒の中学からきた友達とか——」
 二人で廊下を歩きながら、もう一度ミオに聞いてみた。側から見ると、なかなかいい凸凹コンビに見えているかもしれない。
「なんでだろ。昔からさあ、一緒にかるたしようって友達誘うでしょ? そしたら友達もみんな、スススーっていなくなっちゃうんだよね」ははは、とミオの薄乾いた笑い。「でも、風花は……あっ、ちゃんはいいよね。風花は体育系が苦手で文化部選択でしょ? もう断然風花にはかるた部を熱烈にお薦めしちゃうわけよ」
 そこでミオは「ふう」とため息をついた。
「うちもわかってんのよ。みんな興味が湧かないってことなんてさ。だって百人一首なんて、古文の勉強の続きをしている気分になっちゃうでしょ。でも、本当はそうじゃない。競技かるたって、絶対そんなんじゃない。やってみたらわかるから。だから、一度でいいから体験してみてほしいの。やっぱり……だめ、かなあ?」
 これだけ熱く語られては風花は性格的に嫌とは言えなかった。
「わかった、やってみる。その代わりさ、やっぱり苦手って思ったらやめる権利はもらえる?」
 そう言うと、「もちろん! 断られるのは慣れてるから、全然大丈夫!」と言いながら、ぱあっとミオの顔が明るくなった。喜怒哀楽がはっきりした子。きっと大好きだな、私。

 しばらく二人で校内をぶらぶらと歩いてみたが、かるた部らしきものが見当たらない。仕方がないので、誰かに聞いてみようと茶道部の看板の前で立ち止まると、どうやらここも新入部員に飢えているらしく——
 とりあえずお茶を飲んで行きなさいと捕まり、お茶を点てる間の三十分の正座の後、目的がかるた部だとわかると茶道部の先輩たちはあからさまにガックリと肩を落としたのだ。どうやらかるた部は、校舎の一番片隅にあるらしい。
 そうそう、ひとつ風花がわかったことがある。ミオという子は、畳の上に座るとき、立つとき、あれって確か「所作」っていうんだったっけ? それが綺麗なんだ。背筋がピッと伸びて——そう、とても素敵だった。体つきは華奢なのに、それはまるでアスリートのごとく。

 それは本当に校舎の片隅にあった。長机がひとつに、ぽつんとメガネをかけたショートボブの先輩がパイプ椅子に座っていた。長机の上に、A四の用紙とボールペンが置いてあり、だからといって、誰が通りかかっても勧誘する言葉もかけずに先輩はじっと前を向いて座っていた。
 その姿を認めたミオは早足で近づき、何も言わずペンを取ると机に置かれた紙に名前を書くと、ショートボブ先輩は、
「やっぱり会えたね」
とニヤリと笑った。
「はい。お正月の試合のリベンジに来ました。よろしくお願いします」
とミオは頭を下げた。そして風花の手を取り、
「この子はまだ入るかどうかわかりませんが、大道風花ちゃんです。体験入部からお願いします」
と先輩に紹介してくれた。
「もちろん喜んで。とりあえず、一試合やる? 試合したくてうずうずしてたの」
 ショートボブ先輩はそう言うが早いか、机を片付けると「ついてきて」と言いながらさっさと歩き出した。
「確かねえ、中堂って名前の先輩だから」
 ミオが後ろを歩きながら、風花にこそっと耳打ちした。
「知り合い?」
「うん。かるたの大会で何回か会ってね。しかも今年の新春のかるた大会で決勝で負けたの。この高校の方だってのは知ってたけど、かるた部を作ってるかどうか知らなくてさ。見つかってよかった」
 ミオは傍目にもおかしいくらい、目を爛々と輝かせていた。
 そして、風花は想像していた「かるた」とはまったく違う世界を知ることになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

へたくそ

MO
青春
野球が大好きなのに“へたくそ”な主人公、児玉良太。 チームメイトで野球センス抜群なキャッチャー、松島健介。 後輩マネージャーで児玉に想いを寄せる、町村早苗。 3人の視点から物語は進行していきます。 チームメイトたちとの友情と衝突。 それぞれの想い。 主人公の高校入学から卒業までの陵成高校野球部の姿を描いた物語。 この作品は https://mo-magazines.com/(登場人物一覧も掲載しています) 小説家になろう/カクヨム/エブリスタ/NOVEL DAYS にも掲載しています。

赤ちゃんプレイの趣味が後輩にバレました

海野
BL
 赤ちゃんプレイが性癖であるという秋月祐樹は周りには一切明かさないまま店でその欲求を晴らしていた。しかしある日、後輩に店から出る所を見られてしまう。泊まらせてくれたら誰にも言わないと言われ、渋々部屋に案内したがそこで赤ちゃんのように話しかけられ…?

#星色卒業式 〜きみは明日、あの星に行く〜

嶌田あき
青春
 2050年、地球の自転が止まってしまった。地球の半分は永遠の昼、もう半分は永遠の夜だ。  高校1年の蛍(ケイ)は、永遠の夜の街で暮らしている。不眠症に悩む蛍が密かに想いを寄せているのは、星のように輝く先輩のひかりだった。  ある日、ひかりに誘われて寝台列車に乗った蛍。二人で見た朝焼けは息をのむほど美しかった。そこで蛍は、ひかりの悩みを知る。卒業したら皆が行く「永遠の眠り」という星に、ひかりは行きたくないと言うのだ。  蛍は、ひかりを助けたいと思った。天文部の仲間と一緒に、文化祭でプラネタリウムを作ったり、星空の下でキャンプをしたり。ひかりには行ってほしいけれど、行ってほしくない。楽しい思い出が増えるたび、蛍の胸は揺れ動いた。  でも、卒業式の日はどんどん近づいてくる。蛍は、ひかりに想いを伝えられるだろうか。そして、ひかりは眠れるようになるだろうか。  永遠の夜空に輝くひとつの星が一番明るく光るとき。蛍は、ひかりの驚くべき秘密を知ることになる――。

【実話】高1バスケ部マネ時代、個性的イケメンキャプテンにストーキングされたり集団で囲まれたり色々あったけどやっぱり退部を選択しました

Rua*°
青春
『スクールカーストの上位中の上位の男子』しか、恋愛対象として見れないという難儀な体質の筆者の高校時代の話を綴っています。【実話】です。 ※エロなし。笑いのみ。 ~あらすじ~ 高校生になった筆者るあは、チャラチャラした高校生に憧れを持ち、期待を胸にE高校へ入学したものの、特別進学コースの選抜Sクラスに選ばれてしまい、ガリ勉男子と勉強漬けの日々で、薔薇色の高校生活とは無縁の環境に置かれてしまった。 中学時代同じクラスだった『推しメン』との楽しかった毎日を思い出してはため息な日々。 そんな生活に脱却を試みて、部活動に入ってみたが、そこには二年生で同じく選抜Sクラスでもあり、時期キャプテンのモテモテのハイスペック男子な先輩がいた。しかし、彼は少々変わり者で、ストーカー気質だった! この変わった先輩が面白かったので、笑いを共有したいので綴りますw 中学3年の時の話はこちら⬇ 【実話】カースト×トップ男子@中学生の歪んだ恋愛

キミ feat. 花音 ~なりきるキミと乗っ取られたあたし

若奈ちさ
青春
このあたしがなんでカーストど底辺のキリコと入れ替わんなきゃならないの!? 憧れの陽向くんとキリコが幼なじみで声をかけてくれるのはうれしいけど、なんか嫉妬する! 陽向くんはもとに戻る方法を一緒に探してくれて…… なんとか自分に戻れたのに、こんどは男子の夕凪風太と入れ替わり!? 夕凪は女の子になりたかったと、訳のわからないこというし…… 女王様気取りの音無花音が、まったく立場の違うクラスメイトと入れ替わって奔走する。

LAYBACK CAT !

旭ガ丘ひつじ
青春
ねこはバスケでまるくなる! この物語は、3x3バスケを舞台に、ねこと踊る少年少女たちの青春舞踏会ですの! 元ねこバスケ日本代表選手に、ねこバスケしよう、と誘われるも無関心。 そっぽを向く高校生の少年、犬飼創。 彼はそのある日、春という名前の猫ちゃんを賭けた先輩とのタイマンを経て、ねこバスケと向かい合うことを決めた。 そして、ねこに招かれた友達といっしょにU18県大会への出場を決意する。 この小説は熱血スポーツ小説でも、本格バスケ小説でもございません。 ねこバスケを全力で楽しむ青春娯楽小説ですわ。 また、ねこに対して最大限の配慮を心得ており苦痛を与えるようなことはございません。 てか、男性か女性かという偏りでしか選べないHOTランキング用ジャンル選択いらなくない? だって、どちらにもおススメですから! 午後5時更新予定(=^ェ^=) 3x3バスケについて! http://3x3.japanbasketball.jp/what-is https://3x3exe.com/premier/whats3x3/ 普通のバスケだけど分かりやすいの https://www.alvark-tokyo.jp/basketball_rule/

光のもとで1

葉野りるは
青春
一年間の療養期間を経て、新たに高校へ通いだした翠葉。 小さいころから学校を休みがちだった翠葉は人と話すことが苦手。 自分の身体にコンプレックスを抱え、人に迷惑をかけることを恐れ、人の中に踏み込んでいくことができない。 そんな翠葉が、一歩一歩ゆっくりと歩きだす。 初めて心から信頼できる友達に出逢い、初めての恋をする―― (全15章の長編小説(挿絵あり)。恋愛風味は第三章から出てきます) 10万文字を1冊として、文庫本40冊ほどの長さです。

佐城沙知はまだ恋を知らない

タトバリンクス
青春
島田頼那は同じクラスの女子である佐城沙知に一目惚れした。 ある日、頼那は偶然沙知と話すきっかけを得るが、彼女はどこか変わった女子だった。 沙知は頼那が自分に好意があることを知ると、好奇心旺盛な彼女は頼那にある提案をした。 『あたしに恋を教えて!!』 沙知は自分が恋心を知るために頼那と恋人同士になることに。 これは二人の恋を知る物語。 こちらの小説は『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載中。

処理中です...