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かるた部にきまってるでしょ?
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「じゃあ、部活行こっか」とミオ。
「えっ、どこに?」と風花。
「かるた部に決まってるでしょ」
——はい?
入学して教室でのオリエンテーションが終わり、今日はこれで終わりらしい。あとは校庭などで各部の勧誘があるので、自由に校内を歩きながら入りたい部を探していいという。
風花はまだ何をしたいか決めていないため、今日のところは様子見をしようとのんびりと席に座っていたところ、先に席を立ったミオから手首を掴まれた。
最初の自己紹介で宣言したとおり、ミオはどうやら本気でかるた部に入るつもりらしいが、何をどうしたらそうなったのかわからないが、ミオの中ではいつの間にか風花も一緒にかるた部に入るという前提になっていたのだ。
「ちょっ、ちょっと待って。私まだ何も……」
手を引かれて風花が慌てて立ち上がると、ミオが風花を見上げながら、「わお」と感嘆の声を上げた。
「思ってたよりも背が高いね。何センチ?」
「えっ? ああ、多分だけど今は六十六くらいかな」
「座ってたときに気がつかなったわ」
とミオは上から下まで何度も風花を眺めまわした。ミオの声に釣られて、近くの男子——まあ、孝太たちであるが——が、チラチラと見ていたが、ここは気づいても無視することにした。
「だからさ、やっぱり風花ちゃんはかるた部ね」と改めてミオが言う。
「かるたって、子供の頃お正月した、犬も歩けば棒にあたるとかいうあれ?」
「違う違う。百人一首よ。知らない?」
「まったく」とかぶりを振る。
「まあ、やってみればわかるよ。さっ、かるた部探しに行こ」とミオは再び風花の腕をとった。どうやら風花に選択肢は与えてもらえないらしい。
「だいたい、なんて私なの? 例えば一緒の中学からきた友達とか——」
二人で廊下を歩きながら、もう一度ミオに聞いてみた。側から見ると、なかなかいい凸凹コンビに見えているかもしれない。
「なんでだろ。昔からさあ、一緒にかるたしようって友達誘うでしょ? そしたら友達もみんな、スススーっていなくなっちゃうんだよね」ははは、とミオの薄乾いた笑い。「でも、風花は……あっ、ちゃんはいいよね。風花は体育系が苦手で文化部選択でしょ? もう断然風花にはかるた部を熱烈にお薦めしちゃうわけよ」
そこでミオは「ふう」とため息をついた。
「うちもわかってんのよ。みんな興味が湧かないってことなんてさ。だって百人一首なんて、古文の勉強の続きをしている気分になっちゃうでしょ。でも、本当はそうじゃない。競技かるたって、絶対そんなんじゃない。やってみたらわかるから。だから、一度でいいから体験してみてほしいの。やっぱり……だめ、かなあ?」
これだけ熱く語られては風花は性格的に嫌とは言えなかった。
「わかった、やってみる。その代わりさ、やっぱり苦手って思ったらやめる権利はもらえる?」
そう言うと、「もちろん! 断られるのは慣れてるから、全然大丈夫!」と言いながら、ぱあっとミオの顔が明るくなった。喜怒哀楽がはっきりした子。きっと大好きだな、私。
しばらく二人で校内をぶらぶらと歩いてみたが、かるた部らしきものが見当たらない。仕方がないので、誰かに聞いてみようと茶道部の看板の前で立ち止まると、どうやらここも新入部員に飢えているらしく——
とりあえずお茶を飲んで行きなさいと捕まり、お茶を点てる間の三十分の正座の後、目的がかるた部だとわかると茶道部の先輩たちはあからさまにガックリと肩を落としたのだ。どうやらかるた部は、校舎の一番片隅にあるらしい。
そうそう、ひとつ風花がわかったことがある。ミオという子は、畳の上に座るとき、立つとき、あれって確か「所作」っていうんだったっけ? それが綺麗なんだ。背筋がピッと伸びて——そう、とても素敵だった。体つきは華奢なのに、それはまるでアスリートのごとく。
それは本当に校舎の片隅にあった。長机がひとつに、ぽつんとメガネをかけたショートボブの先輩がパイプ椅子に座っていた。長机の上に、A四の用紙とボールペンが置いてあり、だからといって、誰が通りかかっても勧誘する言葉もかけずに先輩はじっと前を向いて座っていた。
その姿を認めたミオは早足で近づき、何も言わずペンを取ると机に置かれた紙に名前を書くと、ショートボブ先輩は、
「やっぱり会えたね」
とニヤリと笑った。
「はい。お正月の試合のリベンジに来ました。よろしくお願いします」
とミオは頭を下げた。そして風花の手を取り、
「この子はまだ入るかどうかわかりませんが、大道風花ちゃんです。体験入部からお願いします」
と先輩に紹介してくれた。
「もちろん喜んで。とりあえず、一試合やる? 試合したくてうずうずしてたの」
ショートボブ先輩はそう言うが早いか、机を片付けると「ついてきて」と言いながらさっさと歩き出した。
「確かねえ、中堂って名前の先輩だから」
ミオが後ろを歩きながら、風花にこそっと耳打ちした。
「知り合い?」
「うん。かるたの大会で何回か会ってね。しかも今年の新春のかるた大会で決勝で負けたの。この高校の方だってのは知ってたけど、かるた部を作ってるかどうか知らなくてさ。見つかってよかった」
ミオは傍目にもおかしいくらい、目を爛々と輝かせていた。
そして、風花は想像していた「かるた」とはまったく違う世界を知ることになる。
「えっ、どこに?」と風花。
「かるた部に決まってるでしょ」
——はい?
入学して教室でのオリエンテーションが終わり、今日はこれで終わりらしい。あとは校庭などで各部の勧誘があるので、自由に校内を歩きながら入りたい部を探していいという。
風花はまだ何をしたいか決めていないため、今日のところは様子見をしようとのんびりと席に座っていたところ、先に席を立ったミオから手首を掴まれた。
最初の自己紹介で宣言したとおり、ミオはどうやら本気でかるた部に入るつもりらしいが、何をどうしたらそうなったのかわからないが、ミオの中ではいつの間にか風花も一緒にかるた部に入るという前提になっていたのだ。
「ちょっ、ちょっと待って。私まだ何も……」
手を引かれて風花が慌てて立ち上がると、ミオが風花を見上げながら、「わお」と感嘆の声を上げた。
「思ってたよりも背が高いね。何センチ?」
「えっ? ああ、多分だけど今は六十六くらいかな」
「座ってたときに気がつかなったわ」
とミオは上から下まで何度も風花を眺めまわした。ミオの声に釣られて、近くの男子——まあ、孝太たちであるが——が、チラチラと見ていたが、ここは気づいても無視することにした。
「だからさ、やっぱり風花ちゃんはかるた部ね」と改めてミオが言う。
「かるたって、子供の頃お正月した、犬も歩けば棒にあたるとかいうあれ?」
「違う違う。百人一首よ。知らない?」
「まったく」とかぶりを振る。
「まあ、やってみればわかるよ。さっ、かるた部探しに行こ」とミオは再び風花の腕をとった。どうやら風花に選択肢は与えてもらえないらしい。
「だいたい、なんて私なの? 例えば一緒の中学からきた友達とか——」
二人で廊下を歩きながら、もう一度ミオに聞いてみた。側から見ると、なかなかいい凸凹コンビに見えているかもしれない。
「なんでだろ。昔からさあ、一緒にかるたしようって友達誘うでしょ? そしたら友達もみんな、スススーっていなくなっちゃうんだよね」ははは、とミオの薄乾いた笑い。「でも、風花は……あっ、ちゃんはいいよね。風花は体育系が苦手で文化部選択でしょ? もう断然風花にはかるた部を熱烈にお薦めしちゃうわけよ」
そこでミオは「ふう」とため息をついた。
「うちもわかってんのよ。みんな興味が湧かないってことなんてさ。だって百人一首なんて、古文の勉強の続きをしている気分になっちゃうでしょ。でも、本当はそうじゃない。競技かるたって、絶対そんなんじゃない。やってみたらわかるから。だから、一度でいいから体験してみてほしいの。やっぱり……だめ、かなあ?」
これだけ熱く語られては風花は性格的に嫌とは言えなかった。
「わかった、やってみる。その代わりさ、やっぱり苦手って思ったらやめる権利はもらえる?」
そう言うと、「もちろん! 断られるのは慣れてるから、全然大丈夫!」と言いながら、ぱあっとミオの顔が明るくなった。喜怒哀楽がはっきりした子。きっと大好きだな、私。
しばらく二人で校内をぶらぶらと歩いてみたが、かるた部らしきものが見当たらない。仕方がないので、誰かに聞いてみようと茶道部の看板の前で立ち止まると、どうやらここも新入部員に飢えているらしく——
とりあえずお茶を飲んで行きなさいと捕まり、お茶を点てる間の三十分の正座の後、目的がかるた部だとわかると茶道部の先輩たちはあからさまにガックリと肩を落としたのだ。どうやらかるた部は、校舎の一番片隅にあるらしい。
そうそう、ひとつ風花がわかったことがある。ミオという子は、畳の上に座るとき、立つとき、あれって確か「所作」っていうんだったっけ? それが綺麗なんだ。背筋がピッと伸びて——そう、とても素敵だった。体つきは華奢なのに、それはまるでアスリートのごとく。
それは本当に校舎の片隅にあった。長机がひとつに、ぽつんとメガネをかけたショートボブの先輩がパイプ椅子に座っていた。長机の上に、A四の用紙とボールペンが置いてあり、だからといって、誰が通りかかっても勧誘する言葉もかけずに先輩はじっと前を向いて座っていた。
その姿を認めたミオは早足で近づき、何も言わずペンを取ると机に置かれた紙に名前を書くと、ショートボブ先輩は、
「やっぱり会えたね」
とニヤリと笑った。
「はい。お正月の試合のリベンジに来ました。よろしくお願いします」
とミオは頭を下げた。そして風花の手を取り、
「この子はまだ入るかどうかわかりませんが、大道風花ちゃんです。体験入部からお願いします」
と先輩に紹介してくれた。
「もちろん喜んで。とりあえず、一試合やる? 試合したくてうずうずしてたの」
ショートボブ先輩はそう言うが早いか、机を片付けると「ついてきて」と言いながらさっさと歩き出した。
「確かねえ、中堂って名前の先輩だから」
ミオが後ろを歩きながら、風花にこそっと耳打ちした。
「知り合い?」
「うん。かるたの大会で何回か会ってね。しかも今年の新春のかるた大会で決勝で負けたの。この高校の方だってのは知ってたけど、かるた部を作ってるかどうか知らなくてさ。見つかってよかった」
ミオは傍目にもおかしいくらい、目を爛々と輝かせていた。
そして、風花は想像していた「かるた」とはまったく違う世界を知ることになる。
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