シング 神さまの指先

笑里

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風に吹かれて

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「じゃあ、日を変えたら彼女にはここで会えますか?」
 圭太がそう言うと、先生はゆっくりと首を横に振った。
「ここは学校です。ご家族の方ならいいですが、お話を聞いてるとまったくの他人ということですよね? 生徒の安全に配慮するのは私たち教師の、というか学校の義務ですから。このままお引き取り願います。」
「理由は先ほど言いました。彼女にはすごい才能があると思ってる。このまま埋もれさせるのはもったいない。なんとか会わせてください。お願いします」
 深々と頭を下げる圭太に、先生はガンとして首を縦には振らないのだ。さらに追い討ちをかけるように、
「いいですか。もしこのまま立ち去らないようなら、警察を呼ぶことになります。諦めて帰ってください」
とにべもない返事をするのだ。圭太ががっかりと打ちひしがれていると、
「ねえ西川先生、じゃあやっぱりこの子うちの学校にいるの?」
とそこへ、ちょっとタメ口の生徒がその先生に話しかけた。先生は西川という方らしい。
「ええ、今年から入るエフの子よ。仲良くしてあげてね」
と先生が言うと、そこにいた生徒たちが
「ああ、やっぱりい。だから英語上手いんだねえ」
「歌も超絶。スカイシーに勧誘しようかな」
「ああ、そうよね。ねえ、先生。うちの生徒ならスカイシーに入れてもいいよね?」
と先生に口々に話しかけた。
「もちろんエフの子もうちの生徒だから、全然構わないのよ」
と先生は柔かに返事をするのを横で聞いていた圭太が、
「あの……、ひとつ聞いていいですか? そのエフって」
と恐る恐る聞いた。
「エフはうちの学校の特色のひとつですよ。イングリッシュフレンド、縮めてEFをエフと発音するんです。うちは英語教育に力を入れてるんです。英語が堪能な英語圏の外国人を特待枠で入学させるんです。ほら、日本人って綺麗な英語を喋るのを少し照れて引っ込んじゃうでしょ? だから生徒たちと同じ年代の外国人を入学させ、いつも過ごす教室とか、授業以外で友達として英語を話す機会を作ってる、それがエフのシステムですね」
 そんなシステムが少し学校の自慢なのだろう、先生は嫌な顔をせずに説明してくれた。
「だからあんなに発音がよかったんですね」
と圭太が納得していると、校門前にあるバス停にバスが止まって、ひとりだけ私服の女の子がバスから降りてきた。あのとき「ケイ」と名乗った、まさしく圭太が探しにきた彼女がタイミングよく降りてきたのだ。
「あら、高橋さん、学校は明日の朝からよ。どうしたの」
と彼女に気がついた西川先生が話しかけた。すると彼女は小走りに近寄ってきて、
「明日、ちゃんとバスで来られるか不安になっちゃって、試しにバスに乗ってみたの」
と少したどたどしい日本語で照れたように答えた。どうやら彼女と先生はすでに面識があるらしい。
「ケイちゃん、俺を覚えてるかい」
 千載一遇、圭太は2人の会話に割り込むようにあえて名前を入れて話しかけた。この出会いが偶然だというなら、もう2度とこのチャンスを逃すべきじゃないと圭太は思ったのだ。
「ちょっと、あなた……」
 あわてて西川先生が圭太とケイの間に立ち塞がるように入り、圭太との接触を防ごうとした。だがそんな先生の気も知らず、
「あー!」
とケイが圭太の顔を見てうれしそうに大声をあげたのだ。どうやら覚えていてくれたらしい。圭太は右手を差し出して、
「もう一度君とセッションをしたいんだ。また歌ってくれないか」
というと、ケイはパチンと圭太の手に自分の手を合わせ、大きく頷いて、
「いいよ、どこでやるの?」
と今すぐにでも歌い出しそうな勢いだ。すると、
「このギター、使っていいですよ! プロの演奏聞いてみたい!」
とギターの子がいう。先生はあわてて、
「ダメです、こんなところでとんでもない」
と必死に止めるので、
「じゃあ、音楽室ならいいですか? ね、いいですよね。音楽室、借りまーす」
と圭太とケイの手を取って生徒たちが走り出したのだ。
「えっ? えっ? あっ!」
 先生は止める間もなくその場に呆然と立ちつくしたのだった。
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