17 / 97
シャウト!
しおりを挟む
「こらっ、待ちなさーい!」
走り出した生徒たちと圭太の後を、西川先生が必死に追いかけてきたが、あからさまに年代の差が出た。先生が音楽室にたどり着いたときには着々と機材の準備が始められていたのだ。
「まったく。……新井さん。校長先生に……見つかったら……どうすんのよ。はあ……。先生、責任取れないよ」
息をぜいぜいと切らしながら、先生がギターを抱えていた生徒に言っている。新井という名前らしい。
「でも、先生が言ったんじゃないですか。あの子をスカイシーに入れてもいいって。これは入部試験なんですよ。ねえ、いいでしょ、お願い、先生」
先生の気苦労など知りもせず、その新井さんはしれっとして先生に両手を合わせた。
「い、1曲、1曲だけですからね。いいですね」
どうやら先生も諦めたようだ。先生と新井さんのやりとりの間にも、着々と準備は整っていっている。マイクも用意され、マイクテストも着々と進む。
圭太は借りたギターを首から掛けてギターの高さを調整すると、軽くチューニングを始めた。
「グリップのとこが細いなあ。やっぱり女の子用だね。まあ、なんとかなるか」
そう言いながら、適当に音階を鳴らして調整をする。ただそれだけで、周りにはアマチュアとプロの違いがはっきりと伝わったようだ。集まってきた生徒たちの顔が期待する表情になっていた。
「よっしゃ、準備オッケー。軽くスタンド・バイ・ミーあたりでいいかい」
圭太がプロとしての余裕を見せながら小声でケイに話しかけた。
「ジョン・レノンが好き」
ケイは圭太を見ながら、「大丈夫でしょ?」という表情を見せた。圭太はニヤリと笑い、ダウンストロークから始まるジョン・レノンバージョンのスタンド・バイ・ミーが始まったのだ。
まるで録音で聞いてるような、ケイの完璧なボーカルと圭太の軽快なギターのリズムに音楽室にいた生徒たちだけでなく、外にいた部活帰りの生徒たちまで集まってきた。
「これ、なんて曲?」
「知らないけど、いい曲!」
「歌ってるの誰? すごくいい声! 憧れるわ」
気持ちよく目の前で繰り広げられるセッションを聴きながら、生徒たちのいろんな感想が飛び交っていた。
曲が終わると「わあ」という歓声と拍手に被さるように、さらにケイのロング・トール・サリーが炸裂する。
——すっげえ……。
実は圭太もさっきまでケイの実力を分かり兼ねていた部分があった。なぜなら初めてのセッションは、マイクも反響もない屋外だった。だが、今日は違う。この学校の音楽室はまるでホールのようであり、音響もすごくいいのだ。ケイのボーカルの凄さを、ケイの特異な才能をまざまざと感じるのだった。
2曲終わるとケイが一息ついた。さらにものすごい拍手と歓声が上がる。
「もう一曲!」
どこからかそういう声が聞こえる。声のする方を見ると、間違いなく西川先生だ。結局一番気持ちよく聞いてたようだ。
「先生のリクエストは?」
圭太が聞く。
「ビートルズ以外ありえないでしょ」
先生がそう言うのを聞き、ケイが圭太に近寄り耳打ちをした。意外な選曲に圭太は少し驚いたが、首を縦に振った。そして「イン・マイ・ライフ」の前奏の美しいメロディと共に、ケイが静かに歌い出した。先生は嬉しそうに目を閉じて聞き入っていた。
美しいメロディが終わると、ケイに何も話しかけず、いきなり強烈なギターが響き出した。「ジョニー・ビー・グッド」の軽快なリズムに乗り、再びケイのシャウトが音楽室に響き渡った。圭太にはこの曲をケイが知らないはずがないという信頼が生まれていたようだった。
2人のセッションは30分ほど続き、オールディーズを中心とした2人の見事な息のあったプレイにその場にいた皆が酔いしれた、入学式前日のサプライズであった。
走り出した生徒たちと圭太の後を、西川先生が必死に追いかけてきたが、あからさまに年代の差が出た。先生が音楽室にたどり着いたときには着々と機材の準備が始められていたのだ。
「まったく。……新井さん。校長先生に……見つかったら……どうすんのよ。はあ……。先生、責任取れないよ」
息をぜいぜいと切らしながら、先生がギターを抱えていた生徒に言っている。新井という名前らしい。
「でも、先生が言ったんじゃないですか。あの子をスカイシーに入れてもいいって。これは入部試験なんですよ。ねえ、いいでしょ、お願い、先生」
先生の気苦労など知りもせず、その新井さんはしれっとして先生に両手を合わせた。
「い、1曲、1曲だけですからね。いいですね」
どうやら先生も諦めたようだ。先生と新井さんのやりとりの間にも、着々と準備は整っていっている。マイクも用意され、マイクテストも着々と進む。
圭太は借りたギターを首から掛けてギターの高さを調整すると、軽くチューニングを始めた。
「グリップのとこが細いなあ。やっぱり女の子用だね。まあ、なんとかなるか」
そう言いながら、適当に音階を鳴らして調整をする。ただそれだけで、周りにはアマチュアとプロの違いがはっきりと伝わったようだ。集まってきた生徒たちの顔が期待する表情になっていた。
「よっしゃ、準備オッケー。軽くスタンド・バイ・ミーあたりでいいかい」
圭太がプロとしての余裕を見せながら小声でケイに話しかけた。
「ジョン・レノンが好き」
ケイは圭太を見ながら、「大丈夫でしょ?」という表情を見せた。圭太はニヤリと笑い、ダウンストロークから始まるジョン・レノンバージョンのスタンド・バイ・ミーが始まったのだ。
まるで録音で聞いてるような、ケイの完璧なボーカルと圭太の軽快なギターのリズムに音楽室にいた生徒たちだけでなく、外にいた部活帰りの生徒たちまで集まってきた。
「これ、なんて曲?」
「知らないけど、いい曲!」
「歌ってるの誰? すごくいい声! 憧れるわ」
気持ちよく目の前で繰り広げられるセッションを聴きながら、生徒たちのいろんな感想が飛び交っていた。
曲が終わると「わあ」という歓声と拍手に被さるように、さらにケイのロング・トール・サリーが炸裂する。
——すっげえ……。
実は圭太もさっきまでケイの実力を分かり兼ねていた部分があった。なぜなら初めてのセッションは、マイクも反響もない屋外だった。だが、今日は違う。この学校の音楽室はまるでホールのようであり、音響もすごくいいのだ。ケイのボーカルの凄さを、ケイの特異な才能をまざまざと感じるのだった。
2曲終わるとケイが一息ついた。さらにものすごい拍手と歓声が上がる。
「もう一曲!」
どこからかそういう声が聞こえる。声のする方を見ると、間違いなく西川先生だ。結局一番気持ちよく聞いてたようだ。
「先生のリクエストは?」
圭太が聞く。
「ビートルズ以外ありえないでしょ」
先生がそう言うのを聞き、ケイが圭太に近寄り耳打ちをした。意外な選曲に圭太は少し驚いたが、首を縦に振った。そして「イン・マイ・ライフ」の前奏の美しいメロディと共に、ケイが静かに歌い出した。先生は嬉しそうに目を閉じて聞き入っていた。
美しいメロディが終わると、ケイに何も話しかけず、いきなり強烈なギターが響き出した。「ジョニー・ビー・グッド」の軽快なリズムに乗り、再びケイのシャウトが音楽室に響き渡った。圭太にはこの曲をケイが知らないはずがないという信頼が生まれていたようだった。
2人のセッションは30分ほど続き、オールディーズを中心とした2人の見事な息のあったプレイにその場にいた皆が酔いしれた、入学式前日のサプライズであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる