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暴露
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携帯が鳴る。音楽事務所を経営する友人からだった。
「菊ちゃん、不味いことになるかもしれない」
菊池が電話に出ると開口一番、彼がそう言った。彼の事務所は菊池のところより大きな事務所だったが、菊池とは妙に馬が合い、色々仕事を回してくれたりと円満な関係を築いていた。
「不味いこと? うち、ちゃんと税金払ってるし、違法残業もさせてないよ?」
菊池にはまだ軽口を叩く余裕があった。どうせ大したことじゃない。
「いや、そう言う事じゃなくて、オタクんとこの、ほら、ロック少女?」
「圭ちゃんのことかい?」ん? あの子がなんだ?
「日本に来る前のことをすっぱ抜かれたみたいだ。来週の週刊日日に記事が掲載されるらしい」
「すっぱ抜かれたってさあ。日本に来る前って、あの子ってほんの子供だよ。そんな週刊誌に掲載されるほどのことがあるとは思えないよ、悪いけど」
何だよ、心配すんなって。ふふん、と鼻で笑う。
「いや、この際本当かどうかなんて、週刊誌の奴らは関係ないんだよ。ある事ない事でっちあげて、雑誌が売れりゃあ勝ちさ。本が売れたら名誉毀損で訴えられて賠償なんてなっても、奴らにゃ屁みたいなもんさ」
「だからよお、子供の頃のことなんて、どうせ大した記事じゃあんめえ。大丈夫だよ」
「その子供の頃に、大人相手に街で体売ってたって記事でもか?」
妙に落ち着いた小声で彼は言った。ひょっとしたら周りに聞こえないように配慮したのかもしれない。
瞬間、カッと菊池の頭に血が上った。
「何馬鹿なことを。それ、どういう意味かわかって言ってんのかよ。あの子は圭司が大切に育ててきた子だよ。そんなことあるわけないだろ」
圭司と言われても、相手は知らない。だが、菊池はつい怒りを電話口にぶつけてしまった。
「落ち着けって。俺が言ってんじゃない。あの日日のゴミがつまんねえ記事を上げようとしてるって情報が俺んとこに入ってんだ。怒る気持ちはわかるが、ちょっと本気で対処方法を考えないと、せっかくここまで売り出しに成功したのに一気に潰れちまう。怒りに任せてってのが一番奴らの思う壺なんだよ」
怒る菊池と反対に、彼がむしろ冷静に言った。大きな事務所を経営するところでは、こんなこともしょっちゅうあるのかもしれない。言われて菊池も少しトーンダウンをせざるを得なかった。
「それって、どんな内容なのか事前にわかるの?」
「うん。出版社から情報が漏れるからね。なんだったっけなあ。ああ、今話題のロック少女の暴かれた闇とか、総力特集記事としてぶち抜きで載るらしい」
「そんなこと——、だってまだ十七歳になろうかってときだよ。未成年相手にいくらなんでも」
「そりゃあ、奴らも百戦錬磨さ。話題のロック少女ときて、得意のアルファベットさ。しかもA子じゃないぜ。もろにK子、かっこ仮名さ。こんなの隠したって誰のことかなんて、誰だってわかるだろ。相手が未成年でも売れるとなりゃ人格まで全否定するような記事を平気で上げてくる。今までどんだけ若い子が潰れていったよ。ひでえ話、ハイエナ以下さ」
「そんなの嘘に決まってるだろ。ちゃんと説明すれば、さすがに世間もわかってくれるだろうさ。なっ、そう思わないかい?」
さすがに菊池も不安が押し寄せてくる。
「本当に嘘だとわかれば、ワイドショーなんかもそれ以上騒がないさ。ただね、なんか元ネタがあるはずなんだ。きっかけになった元ネタが。それを潰しゃあいいんだけどな。なんかあの子から聞いてないかい?」
「いや、そんなこと全く聞いたこともない。確かに小さい頃、児童養護施設みたいなところにいたことは聞いた。でも、まだ小学生の頃のことだよ? さすがに大人相手にどうとかって、ありえないよ」
圭司から聞いた圭を引き取るきっかけから順に思い出しながら、菊池が否定した。
「だろうな。でも、相手は結構な長期間、アメリカで取材してきたみたいだよ。近いうちに発売前のゲラが手に入るはずだから、持って行くよ。それからどうするか、考えよう」
「わかった。色々世話になるけど、よろしく頼むよ」
菊池は頭を下げた。昼間に事務所じゃなく、個人の携帯にかけてきたのも、できるだけ情報を漏らさないようにしてくれたのだろう。細かい心遣いに感謝しかない。
——それにしても、誰に何を聞けばいいんだよ。
ソファに深々と座り、菊池は考えた。
圭司には——さすがに言えねえな。発売は来週だったか。あいつがアメリカに帰ってからだ。ここは事務所だけでなんとかしないとな。
「めぐちゃん、ちょっと」
菊池は社長室のドアを開けて、事務所にいた恵を呼んだ。今はできるだけ情報は少ない人数だけで共有しておいた方がいい。恵にはどうしても隠し通せるものじゃないなら、早めに話して彼女に緘口令を敷いた方が得策だ。
「なんです?」そう言いながら入ってきた恵を向かいのソファに座らせて、部屋のドアを閉めると、菊池は先ほど入った電話のことを恵に伝えた。
芸能界ズレしていない恵が怒り狂ったのも、仕方あるまい。圭太にはまだ絶対に漏れないように菊池は念を押したのだった。
「菊ちゃん、不味いことになるかもしれない」
菊池が電話に出ると開口一番、彼がそう言った。彼の事務所は菊池のところより大きな事務所だったが、菊池とは妙に馬が合い、色々仕事を回してくれたりと円満な関係を築いていた。
「不味いこと? うち、ちゃんと税金払ってるし、違法残業もさせてないよ?」
菊池にはまだ軽口を叩く余裕があった。どうせ大したことじゃない。
「いや、そう言う事じゃなくて、オタクんとこの、ほら、ロック少女?」
「圭ちゃんのことかい?」ん? あの子がなんだ?
「日本に来る前のことをすっぱ抜かれたみたいだ。来週の週刊日日に記事が掲載されるらしい」
「すっぱ抜かれたってさあ。日本に来る前って、あの子ってほんの子供だよ。そんな週刊誌に掲載されるほどのことがあるとは思えないよ、悪いけど」
何だよ、心配すんなって。ふふん、と鼻で笑う。
「いや、この際本当かどうかなんて、週刊誌の奴らは関係ないんだよ。ある事ない事でっちあげて、雑誌が売れりゃあ勝ちさ。本が売れたら名誉毀損で訴えられて賠償なんてなっても、奴らにゃ屁みたいなもんさ」
「だからよお、子供の頃のことなんて、どうせ大した記事じゃあんめえ。大丈夫だよ」
「その子供の頃に、大人相手に街で体売ってたって記事でもか?」
妙に落ち着いた小声で彼は言った。ひょっとしたら周りに聞こえないように配慮したのかもしれない。
瞬間、カッと菊池の頭に血が上った。
「何馬鹿なことを。それ、どういう意味かわかって言ってんのかよ。あの子は圭司が大切に育ててきた子だよ。そんなことあるわけないだろ」
圭司と言われても、相手は知らない。だが、菊池はつい怒りを電話口にぶつけてしまった。
「落ち着けって。俺が言ってんじゃない。あの日日のゴミがつまんねえ記事を上げようとしてるって情報が俺んとこに入ってんだ。怒る気持ちはわかるが、ちょっと本気で対処方法を考えないと、せっかくここまで売り出しに成功したのに一気に潰れちまう。怒りに任せてってのが一番奴らの思う壺なんだよ」
怒る菊池と反対に、彼がむしろ冷静に言った。大きな事務所を経営するところでは、こんなこともしょっちゅうあるのかもしれない。言われて菊池も少しトーンダウンをせざるを得なかった。
「それって、どんな内容なのか事前にわかるの?」
「うん。出版社から情報が漏れるからね。なんだったっけなあ。ああ、今話題のロック少女の暴かれた闇とか、総力特集記事としてぶち抜きで載るらしい」
「そんなこと——、だってまだ十七歳になろうかってときだよ。未成年相手にいくらなんでも」
「そりゃあ、奴らも百戦錬磨さ。話題のロック少女ときて、得意のアルファベットさ。しかもA子じゃないぜ。もろにK子、かっこ仮名さ。こんなの隠したって誰のことかなんて、誰だってわかるだろ。相手が未成年でも売れるとなりゃ人格まで全否定するような記事を平気で上げてくる。今までどんだけ若い子が潰れていったよ。ひでえ話、ハイエナ以下さ」
「そんなの嘘に決まってるだろ。ちゃんと説明すれば、さすがに世間もわかってくれるだろうさ。なっ、そう思わないかい?」
さすがに菊池も不安が押し寄せてくる。
「本当に嘘だとわかれば、ワイドショーなんかもそれ以上騒がないさ。ただね、なんか元ネタがあるはずなんだ。きっかけになった元ネタが。それを潰しゃあいいんだけどな。なんかあの子から聞いてないかい?」
「いや、そんなこと全く聞いたこともない。確かに小さい頃、児童養護施設みたいなところにいたことは聞いた。でも、まだ小学生の頃のことだよ? さすがに大人相手にどうとかって、ありえないよ」
圭司から聞いた圭を引き取るきっかけから順に思い出しながら、菊池が否定した。
「だろうな。でも、相手は結構な長期間、アメリカで取材してきたみたいだよ。近いうちに発売前のゲラが手に入るはずだから、持って行くよ。それからどうするか、考えよう」
「わかった。色々世話になるけど、よろしく頼むよ」
菊池は頭を下げた。昼間に事務所じゃなく、個人の携帯にかけてきたのも、できるだけ情報を漏らさないようにしてくれたのだろう。細かい心遣いに感謝しかない。
——それにしても、誰に何を聞けばいいんだよ。
ソファに深々と座り、菊池は考えた。
圭司には——さすがに言えねえな。発売は来週だったか。あいつがアメリカに帰ってからだ。ここは事務所だけでなんとかしないとな。
「めぐちゃん、ちょっと」
菊池は社長室のドアを開けて、事務所にいた恵を呼んだ。今はできるだけ情報は少ない人数だけで共有しておいた方がいい。恵にはどうしても隠し通せるものじゃないなら、早めに話して彼女に緘口令を敷いた方が得策だ。
「なんです?」そう言いながら入ってきた恵を向かいのソファに座らせて、部屋のドアを閉めると、菊池は先ほど入った電話のことを恵に伝えた。
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