シング 神さまの指先

笑里

文字の大きさ
92 / 97

震え

しおりを挟む
 携帯が震える音で目が覚めた。スタジオなどで不意に着信音が鳴ってはいけないので、いつもマナーモードにしている携帯が、テーブルの上で動いていた。
 誰だよ、朝っぱらから——
 時計は十時を回ったところだった。結局謹慎ということになり、とりあえず何もすることがないので、昨夜はあれからしこたま飲んだ。
 二日酔いの頭で体を無理やり起こし、携帯に手を伸ばして画面を見ると「西川先生」と表示されている。
「おはようございます。珍しいですね、こんな時間に」
 自分でもおかしいくらいに声が枯れて呂律が回ってない気がする。
「圭太くん、今どこ?」
「自分の部屋っすけど」
「あ、あのさ、もしかして圭とは一緒にいるってこと、ない……よね?」
 突拍子もないことを先生はいう。
「いきなりなんすか、先生。やめてくださいよ。この部屋に圭を連れ込んだことなんかないっすよ。いや、そんな冗談、本当に勘弁してくださいよ」
 ——そんなことしたら、マジ圭司さんに殺される
 思わず苦笑いをしていた。
「あっ、ごめん。そんな意味じゃなくて」
 先生が妙に慌てている。
「どうしたんすか。また圭に何かあったとか?」
「いや、そうじゃなくて。あー、なんて言えばいいのかな。あのね——いないのよ」
「えっ? いないって」
「朝ね、あの子、学校に行くっていつも通り確かに家を出たのよ。さっき一時間目が終わって、他の先生が、教室に圭がいなかったけど休みですかあって聞かれて、教室に見に行ったら——やっぱりいなかったの。今日、教室にも来てないって同じクラスの子が。もしかして、圭太くんに電話とか来てないかな」
「いや、ないです」
 先生の息が荒い。
「あっ、ごめん。授業が始まるから、また後でかけ直すね。それからさあ、まだ誰にも言わないでね。ホント、フラッと一人になりたかっただけかも知れないから」
「わかりました。とりあえず俺、そっちへ今から向かいます」
 そう言って電話を切ると大急ぎで顔を洗い、壁に掛けたダウンのジャンパーを手に取り、昨日から着た切りの服の上に引っ掛けて部屋を飛び出した。
 車にしようかと思ったが、まだアルコールがたっぷり体に残っている。しかたなく走って駅へ向かい、売店で買った牛乳をムカムカする胃に流し込んで少し落ち着いた。

 タイミングよく間に合った電車に飛び乗って、横浜まで三十分弱。そのままタクシーをつかまえて学校に向かった。そしてもう少しで学校に着くというところで、また先生から電話が入った。
「もう少しでそっちに着きます」
 電話を受けてそう言ったとき、学校の正門が見えた。
「わかった。そっちに行くから」
 先生はそれだけ言って電話を切ると、すぐに校舎の方から駆けてきた。

「ごめんね、わざわざ。どこ行ったんだろ、あの子。電話も電源を切ってるみたいないのよ」
「何か心当たりとか——、まあ、昨日のあれが原因なのはわかるけど」
「でも、今日はバスで行くって普通に家を出たんだけどな。ちょっと元気なかったけどさ。私、学校には事情を説明して休みもらってきたから、ちょっと一回家に帰ってくるわ。圭太くんは?」
「俺、二日酔いなんで電車で来たんですよ。一緒に行っていいっすか?」
「わかった。じゃあ、車出してくるから、ちょっと待ってて」

 先生の自宅について、家の中を探してみたが、帰っている様子もない。一応、何か置き手紙でもないかと圭の部屋も探したが、特に変わった様子もない。
 いつも貴重品を置いている引き出しに財布はないが、それは学校に行く時も持っていくのでいつもと同じだという。あとはパスポートなどはちゃんと揃えて収めてあった。
 制服は部屋にないので、おそらくそのままだと思われた。出かけた先で私服に着替えていることも考えられないこともないが、最近テレビ出演とかもあり、私服で出ることもあるため、それなりに衣類は増えている。先生でも服が全部あるかどうかはわからないらしい。

 とりあえず思いついたところを二人で探してみようということになった。ただ、昨日の騒ぎのこともあるので、事務所にだけはちゃんと話しておこうということになり、圭太が恵に電話しておいた。事件に巻き込まれたことも全く考えられないわけではないので、皆で心当たりをあたってみることになった。
「私、プライベートで圭がどこに行ってるのか、実のところ、あんまり知らないんだよね。学校以外、ほとんど圭太くんたちと、っていうか、圭太くんと一緒だし。結局、あなたが一番圭のことを知ってるのかもね。どこか圭が行きそうなところ、知らない?」
「そう言われても、ほとんどスタジオに—— お気に入りの場所っていうなら、ベイブリッジの本牧側っすかねえ」
「じゃあ、まずはそこに行ってみましょう」
 そうやって一日中、二人は先生の車で思いつくまま探し回った。だが、結局夕方になっても圭の行方はわからず、探す場所がなくなり、いつの間にか横浜にある圭の家、つまり西川史江の実家に全員集まっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

処理中です...