警部補「日暮のんの」の捜査日記

笑里

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美月のあ参上!

署長の憂鬱

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「うわあ、いい眺め!」

 のんのが思わずため息のような声をあげた。夕方が近くなり空はだんだんと赤くなりはじめていた。どうやら明日は天気が崩れるらしい。

「うん。たいして高くないビルなのに景色はいいよね、ここ」

 かれんがポツリと言う。

「でも、空を見るためにここに座ってるわけじゃないんでしょ?」

 さりげなく、のんのがもう一度話をふった。

「実はあんたに言って解決することかどうか、さっきから考えてたの」

 遠くの空を見ながらかれんが言う。そしてまた黙り込んだ。のんのはなにも言わないでかれんを見つめながら話の続きを待った。

「ねえ、あんた階級は?」

 かれんが突然話を変えた。

「えっと、警部補」

 のんのは少し照れ臭そうにうなづいた。

「偉い人じゃん」
「別に偉くはないよお」
「だって、あたしとタメで警部補っていったら偉い子じゃない」
「よくわかんない。公務員試験を受けて警察庁を希望したら、じゃあとりあえず警部補だって」
「へえ、そんなことあんの? で、なんで警察希望だったの?」
「なんかさ、子どもの頃に正義の味方ってかっこいいって思っちゃって。で、リアルで正義の味方って警察かなあって」
「まさか、その服着て正義のお仕事してる…ってこと?」
「これはたまたま。近くでコミケやってたから」
「だよね。さすがにそのカッコで上がってきたときは驚いたわ」
「えーっ、正義の味方がきたって喜ばれるかとおもったんだけどなあ」
「子供じゃねえし」

 ふたりは顔を見合わせて笑った。

 その頃、屋上でだらだらとふたりの緊迫感のない会話が続いてるとも知らないビルの下ではさらに人が増え続けていた。

「おい、山根! 日暮からまだ連絡はないのか!」

 現状にイライラする課長の倉橋から状況を聞かれても、もちろん先ほどから課長と一緒にいる山根巡査部長もそれ以上の情報があるはずもない。

「いやあ、まだ何も。刺激して飛び降りられても困るので、とにかく今は警部補を信じて合図を待つしかないです」
と山根が答えた矢先に倉橋課長の携帯がなった。

「なんか、出たくねえな」

 着信の表示を見た倉橋はそうつぶやき、一呼吸おいて「はい、倉橋です」と言いながら電話にでた。電話は署長だった。

 ——おい、どうなってるんだ! テレビで速報が流れたぞ

 やたらとでかい声で署長の怒鳴り声がする。倉橋は電話を少し耳から離しながら、

「今、日暮警部補が説得に向かっています。すでに接触はできましたので、もうすぐ解決できると思います。おまかせください」

 ——日暮? ありゃあ日暮なのか? あの変な服を着た娘が?

「はい」

 ——あちゃー! ワイドショーは、打つ手がない警察に代わって正義の味方が救助に行ってると面白おかしく放送しとるわい。

「いや、あれは間違いなく日暮警部補です」

 署長が少し黙り込んだ。そしてしばらくして、

 ——おい、倉橋。いいか、事件が片づいたらまず日暮をマスコミから隔離しろ。絶対にマスコミに接触させるな。できれば警察の人間ではなく、民間の協力者とかなんとかにして身元がバレないようにしろ。いいな?

「わかりました。できるだけやってみます」

 ——ああ、明日本庁に呼び出しをくうかもしれん。頭痛い。

 それだけ言うと、署長は電話を切ってしまった。

「おい、山根。屋上には誰か待機してるのか」
「はい、屋上に出る扉の階段の踊り場で課の連中がいつでも行けるように三人ほど待機しています」
「よし、その連中にすぐに連絡だ。いいか、署長命令だ。女を確保したら、マスコミに見られないように日暮を隠して脱出させろ。もし日暮のことをマスコミに聞かれたら女の知り合いらしい、居場所はわからんととぼけろと伝えるんだ」
「わ、わかりました」

 倉橋課長から指示を受け、山根巡査部長はすぐに屋上の待機班に連絡を入れたのだった。
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