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子猫と誰か
しおりを挟む「…あれ?」
翌朝寧々子はいつもより早く家を出た。いつもより急ぎめで自転車を走らせる。カゴにはいつものカバンと、昨日夜にネットで調べた子猫用の温かくしたミルク。家には普通の牛乳しかなかったので仕方なくそれを代用。哺乳瓶もなかったので昨日段ボールのなかにあった皿を使うことにした。小道に着いて自転車を停める。昨日の暗闇ほどではないが、相変わらず暗くて少し肌寒い。一歩ずつ近づくにつれて声がしないことが気になり心配になる。もしかして…なんて不穏な気持ちになった時、段ボールのなかにあった小皿に白い液体が入っているのが見えて寧々子は思わず声を上げた。誰かが自分より先にミルクを与えていたことに驚いたが、その液体も残りわずかになっていた。その横で昨日かけてあげたハンドタオルがゴソゴソと動いた。
「あ、おはよう」
ミーミー
ひょこっと顔を出した子猫の声が昨日よりも心なしか元気に聞こえて内心ほっとした。起き上がることはないけれど、バタバタと四肢を動かしている。
「起き上がれないと飲めないかも」
うんうんと考えを巡らし、結局いい案が思いつかず、水筒に入れた人肌のミルクを小皿に流すと、子猫をゆっくり抱き上げた。思っていたよりもずいぶん軽いその体は風に飛ばされてしまうんじゃないかと不安になったほどだ。しゃがんだ膝の上に子猫を置いて、その口元に小皿を少し傾けた。子猫は小さな前足で小皿をぐいぐい押してしまう。飲まないのかな?指先に一滴ミルクをつけて子猫の口にとんっと触れた。何度か口をパクパクさせた後、クンクン鼻を彷徨わせ、やっと小皿のミルクを短い舌で舐め始めた。
「…かわいい」
その絵面は永遠と見ていられるほど愛らしく、これが「尊い」かと思わず頬が緩む。こんな顔を学校では絶対に見られたくない。でも今日一日この光景を何度も思い出すだろう。
結局いつもより少し遅く学校に着いた。気を抜いたら頬が緩みそうになるのを手のひらで制して我慢した。
その日からあの袋小路に通うのが朝夕の日課になった。汚れてしまう下のタオルも家にあるタオルを持ってきて取り替えたし、ミルクも毎日持ってきた。子猫も日に日に鳴き声にハリが出て、ブルーグレーの目が開いて以前より活発に歩き回るようになり、子供の成長を見る親の気持ちになって楽しく思っていた。ただずっと気になっているのは、寧々子以外にも子猫の世話をしている人物がいることだった。初めて気づいたのは小皿のミルク。次は汚れた段ボールが少し大きなお酒の柄の段ボールになっていたこと。それからミルクが飲みやすいようにペット用のシリンジが段ボールの側に置かれていたこと。日に日に整えられていく環境に驚いた。
「だれなんだろう。君は知ってるんでしょ?」
少し垂れ気味のブルーグレーがこちらを見上げる。指でふわふわの喉をくすぐってやれば、こてんと寝転びすぐに気持ち良さげに目を瞑る。
誰かわからないその人も、私のことを誰だろうと考えているだろうか?誰かも分からない人と野良猫を通じて繋がっているなんて、怖いようなくすぐったいような気持ちになる。誰かと繋がりたいとか話したいとは思ってない。でもこれくらいの距離感なら、「共有」があってもいいかもとほんの少し思えた。
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