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ドケチな魔法使い

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ザザザッ!

ここはとある平原。

私たちはギルドの依頼で、討伐目標のモンスターと交戦している。

討伐目標のモンスターは、中型のオオカミの姿をしている。
目は赤く発光し、体の節々にはトゲか角のような物が鋭く生えている。簡単に言うと強そうだ。

私と組んでいる剣士の少年は、剣を構え、
隣に立っている私に向けて、なにやらアイコンタクトをしている。

正直、私は彼と組んで日が浅いので、
彼が何を考えているのかあまり分かっていない。

まぁ、なんとかしてくれるだろ…。
そう楽観的に考え、とりあえず頷く。

彼がモンスターに向かって踏み込む。
だが、剣を振り下ろす前に、モンスターは
彼の視界から消えてしまった。

「モッタ!中級魔法頼む!」

「えぇ…?」

彼が私に呼び掛ける。
中級魔法…?こんな開幕に…?
まだ一撃も与えてないよ…?

体力が減ってない相手に使っても、
避けられちゃうかもしれないし…。

初級魔法で良いんじゃないの…?

でも中級魔法って言われてるのに、
初級魔法使ったらなんか感じ悪く
見える気がするし…。

えぇ…?どうしよう…。

私が長考していると、彼の左腕が、
モンスターに噛み付かれていた。

「痛だだだだッ!!」

「ちょっとモッタさん!?
 お願いしますモッタさん!?」

彼に噛み付いて動けなくなっている
モンスター、狙いを付けるには好都合だった。

中級魔法だと近くの彼を巻き込みそうなので、という理由を口実に、私は初級魔法を唱える。

「フレイ!!」

炎の塊が一発、私が持っている杖の先端から、モンスターに向かって飛び去っていく。

『ズドォンッ!!』

炎の塊は無事モンスターに着弾した。

だが、威力が足りないのか、
モンスターはまだ彼に噛み付いたままだった。

やっぱ中級魔法じゃないと駄目だったか…。
私は心の中でチッと舌打ちをした。

「ええい!いい加減離れろ!」

私の攻撃が効かなかったので、
彼が自力でモンスターを追い払う。

「いたたた…!モッタ、回復薬頼む…!」

「えぇ…?」

回復薬…?あれ高いんだよな…。
回復魔法で良いんじゃないの…?
いやでも、回復魔法もなぁ…。

回復しなくてもまだ行けるって…!
その結論に至った私は、彼に向かって叫ぶ。

「ケンジくん!ファイトっ!」

「えぇっ!?」

私は剣士ケンジ・ツカーナを応援してあげた!

負傷したままのケンジくんが、
片手で剣を構えながらうろたえている。

その時、彼の背後からモンスターが突撃した。

「ぐはぁっ!?」

「あ。」

白目を剥き気絶して突っ伏すケンジくん。

そして、モンスターはそれで満足したのか、
森の中へと走り、姿を消してしまった。

またやっちゃったなぁ…。

そう、私はドケチだ。
なるべくアイテムも魔法も使いたくない。

ドケチの魔法使い、モッタ・イネーナ。15歳。
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