3 / 8
第3話 巫女とラジオ
しおりを挟む
成り行きで不気味なラジオを預かることになってしまった風子。付喪神神の力によって、ラジオは付喪神の少年の姿へと変わっていた。
「わ、私がそのラジオの子預かるんですか……? え……? なんで……?」
「物というのは人間の思いが込もっているっす」
「付喪神神の自分より、物と身近な存在の巫女さんなら、きっと付喪神を導けるはずっす」
「お願いしますっす……。このままだとこの子は、ラジオにも付喪神にもなれないまま苦しみ続けてしまうっす……」
(そ、そんな無茶な……)
クラスメイトから押し付けられたラジオは付喪神と化し、今度は付喪神神から押し付けられようとしている……。
(さすがに男の子なんて預かれないっつーの……! なんとしても断らなければ……)
風子が断る算段を整えようとしていた時、少年化したラジオの視線が目に入った。
(な、何その目は……。やめてよ……そんな目で見ないでぇ……!!)
自分のことを見放そうとしていることに気付いたのか、ラジオは切ない表情で風子のことを見つめている……。
「うぅ……帰りたい……」
(風子負けるな……! ここで負けたら、男の子とひとつ屋根の下で同棲することになるよ……!)
「うぅ~……お姉ちゃん……」
「うぐぅ……!!」
ラジオの視線にノックアウトされた風子。気付いた時にはラジオは風子の傍らに立っていた。
「ワ、ワカリマシタ……」
「おぉー! さすが巫女さんっす! 自分は定期的にこの辺を巡回するようにするので、何かあったら言ってくださいっす」
(うぅ……。なんで私はいつもこうなのか……)
結局、風子は断ることが出来ず、付喪神化したラジオを預かることになってしまった……。どこまでもお人好しな自分に、風子はほとほと呆れていたのだった。
不安そうにしているラジオの手を繋ぎ、風子は家族が寝静まっている中こっそりと家へ帰った。
「うぅ……帰りたい……」
「私、明日学校休みだから、明日お話聞いてあげるから……。大人しくしててね……?」
「帰りたいよぉ……」
(だ、駄目だこりゃ……)
人の姿になっても、部屋の隅でひたすら帰りたいを繰り返すラジオ。結局、風子は眠れぬ夜を過ごすことになってしまった。
翌日。
「ふわぁ……えっと……。それで、ラジオくん。君は一体どこへ帰りたいのかな? もしかして、おばあちゃんの家?」
約束通りラジオの話を聞くことにした風子。心当たりを尋ねてみるが、ラジオは首を横に振っていた。
(そういえば、おばあちゃんの家にいる時にはもうカエリタイって言ってたもんな……。じゃあ一体どこへ帰りたいの……?)
「うぅ……あの頃に帰りたい……」
「あ、あの頃……?」
「おばあちゃんがおばあちゃんになる前の、懐かしい頃に帰りたい……」
「昭和の頃ってこと……?」
今度は首を縦に振ったラジオ。場所ならともかく、過去の時代に帰りたいと言うラジオに、風子は頭を抱えて考え込んでいた。
「うーん……じゃあ、お姉ちゃんと少しお出かけしようか……?」
可能な限りラジオの望みを叶えるため、風子はラジオと共に外出するのだった。
「ここは……?」
人の姿になってから初めての外出に怯えるラジオ。風子の袖を掴みながら、目の前の素朴な外観の建物について尋ねる。
「ここは駄菓子屋さん! ほら、懐かしい物がたくさんあるでしょー?」
風子がラジオを連れて訪れたのは、昔ながらの駄菓子屋だった。年季の入った木造建築、棚に入った品揃え豊富な駄菓子。壁にはスーパーボールやキャラクターのお面なんかも貼り付けられて売られている。
「あら、風子ちゃん。その子は弟さんかしら」
「いやぁ~おばちゃん……。なんというか訳あって預かってる子と言いますか……」
駄菓子屋の店主にラジオのことを当たり障りなく説明する風子。風子はよくこの駄菓子屋を訪れていた。慣れた様子で店内をフラフラと見て回る。
「ほら、ラジオくん。このノスタルジックな雰囲気。昭和成分を補給出来るでしょ?」
「わぁ……!」
「存分に好きなの選んでね! お姉ちゃんが買ってあげるから!」
(まぁ、安いし……)
目を輝かせながら駄菓子を選ぶラジオ。これで少しは気持ちが晴れるだろうと風子はひと安心していた。
ひと通り買い物を終え、いくつかの駄菓子を大事そうに抱えるラジオ。風子は、駄菓子屋の前に設置されているベンチで、なるべく昭和の空気に触れさせたまま、ラジオに駄菓子を楽しんでもらうことにした。
「どう? おいしい?」
コクンと頷くラジオ。きびだんごや海老せんべいを無我夢中で頬張っていた。
(元ラジオとはいえ、こうして見るとただの可愛い男の子ね……)
風子は問題が解決した安堵から、ラジオを愛おしく見つめる余裕も出てきた。付喪神化した小さな身体は、小型ラジオの面影を残していた。
(きっとおばあちゃんにも大事に可愛がられたから、付喪神にまでなったんだろうな……)
「ふぅ……」
「食べ終わった? どう? 満足したでしょ?」
「う、うぅ……」
「へ……?」
昭和の雰囲気を堪能させ、満足そうにしていたラジオだったが、駄菓子を食べ終えるとその表情は暗くなっていた……。
「うぅ~……帰りたいよぉ……。あの頃に帰りたいよぉ~……」
「ええええ……?」
ラジオは再び帰りたいを連呼し始めた。その様子は駄菓子屋を訪れる前よりさらに悪化していた……。
「そ、そんなぁ……。これでやっと解決したと思ってたのにぃ~……」
「どうっすか? 調子は?」
「あ。付喪神神神……」
「だから神がいっこ多いっす……」
泣き出したラジオに困り果てる風子。その風子の元に、ラジオの様子を見に来た付喪神神が姿を現したのだった。
「わ、私がそのラジオの子預かるんですか……? え……? なんで……?」
「物というのは人間の思いが込もっているっす」
「付喪神神の自分より、物と身近な存在の巫女さんなら、きっと付喪神を導けるはずっす」
「お願いしますっす……。このままだとこの子は、ラジオにも付喪神にもなれないまま苦しみ続けてしまうっす……」
(そ、そんな無茶な……)
クラスメイトから押し付けられたラジオは付喪神と化し、今度は付喪神神から押し付けられようとしている……。
(さすがに男の子なんて預かれないっつーの……! なんとしても断らなければ……)
風子が断る算段を整えようとしていた時、少年化したラジオの視線が目に入った。
(な、何その目は……。やめてよ……そんな目で見ないでぇ……!!)
自分のことを見放そうとしていることに気付いたのか、ラジオは切ない表情で風子のことを見つめている……。
「うぅ……帰りたい……」
(風子負けるな……! ここで負けたら、男の子とひとつ屋根の下で同棲することになるよ……!)
「うぅ~……お姉ちゃん……」
「うぐぅ……!!」
ラジオの視線にノックアウトされた風子。気付いた時にはラジオは風子の傍らに立っていた。
「ワ、ワカリマシタ……」
「おぉー! さすが巫女さんっす! 自分は定期的にこの辺を巡回するようにするので、何かあったら言ってくださいっす」
(うぅ……。なんで私はいつもこうなのか……)
結局、風子は断ることが出来ず、付喪神化したラジオを預かることになってしまった……。どこまでもお人好しな自分に、風子はほとほと呆れていたのだった。
不安そうにしているラジオの手を繋ぎ、風子は家族が寝静まっている中こっそりと家へ帰った。
「うぅ……帰りたい……」
「私、明日学校休みだから、明日お話聞いてあげるから……。大人しくしててね……?」
「帰りたいよぉ……」
(だ、駄目だこりゃ……)
人の姿になっても、部屋の隅でひたすら帰りたいを繰り返すラジオ。結局、風子は眠れぬ夜を過ごすことになってしまった。
翌日。
「ふわぁ……えっと……。それで、ラジオくん。君は一体どこへ帰りたいのかな? もしかして、おばあちゃんの家?」
約束通りラジオの話を聞くことにした風子。心当たりを尋ねてみるが、ラジオは首を横に振っていた。
(そういえば、おばあちゃんの家にいる時にはもうカエリタイって言ってたもんな……。じゃあ一体どこへ帰りたいの……?)
「うぅ……あの頃に帰りたい……」
「あ、あの頃……?」
「おばあちゃんがおばあちゃんになる前の、懐かしい頃に帰りたい……」
「昭和の頃ってこと……?」
今度は首を縦に振ったラジオ。場所ならともかく、過去の時代に帰りたいと言うラジオに、風子は頭を抱えて考え込んでいた。
「うーん……じゃあ、お姉ちゃんと少しお出かけしようか……?」
可能な限りラジオの望みを叶えるため、風子はラジオと共に外出するのだった。
「ここは……?」
人の姿になってから初めての外出に怯えるラジオ。風子の袖を掴みながら、目の前の素朴な外観の建物について尋ねる。
「ここは駄菓子屋さん! ほら、懐かしい物がたくさんあるでしょー?」
風子がラジオを連れて訪れたのは、昔ながらの駄菓子屋だった。年季の入った木造建築、棚に入った品揃え豊富な駄菓子。壁にはスーパーボールやキャラクターのお面なんかも貼り付けられて売られている。
「あら、風子ちゃん。その子は弟さんかしら」
「いやぁ~おばちゃん……。なんというか訳あって預かってる子と言いますか……」
駄菓子屋の店主にラジオのことを当たり障りなく説明する風子。風子はよくこの駄菓子屋を訪れていた。慣れた様子で店内をフラフラと見て回る。
「ほら、ラジオくん。このノスタルジックな雰囲気。昭和成分を補給出来るでしょ?」
「わぁ……!」
「存分に好きなの選んでね! お姉ちゃんが買ってあげるから!」
(まぁ、安いし……)
目を輝かせながら駄菓子を選ぶラジオ。これで少しは気持ちが晴れるだろうと風子はひと安心していた。
ひと通り買い物を終え、いくつかの駄菓子を大事そうに抱えるラジオ。風子は、駄菓子屋の前に設置されているベンチで、なるべく昭和の空気に触れさせたまま、ラジオに駄菓子を楽しんでもらうことにした。
「どう? おいしい?」
コクンと頷くラジオ。きびだんごや海老せんべいを無我夢中で頬張っていた。
(元ラジオとはいえ、こうして見るとただの可愛い男の子ね……)
風子は問題が解決した安堵から、ラジオを愛おしく見つめる余裕も出てきた。付喪神化した小さな身体は、小型ラジオの面影を残していた。
(きっとおばあちゃんにも大事に可愛がられたから、付喪神にまでなったんだろうな……)
「ふぅ……」
「食べ終わった? どう? 満足したでしょ?」
「う、うぅ……」
「へ……?」
昭和の雰囲気を堪能させ、満足そうにしていたラジオだったが、駄菓子を食べ終えるとその表情は暗くなっていた……。
「うぅ~……帰りたいよぉ……。あの頃に帰りたいよぉ~……」
「ええええ……?」
ラジオは再び帰りたいを連呼し始めた。その様子は駄菓子屋を訪れる前よりさらに悪化していた……。
「そ、そんなぁ……。これでやっと解決したと思ってたのにぃ~……」
「どうっすか? 調子は?」
「あ。付喪神神神……」
「だから神がいっこ多いっす……」
泣き出したラジオに困り果てる風子。その風子の元に、ラジオの様子を見に来た付喪神神が姿を現したのだった。
0
あなたにおすすめの小説
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする
九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる