あやかし廃品回収

ざとういち

文字の大きさ
2 / 8

第2話 付喪神神

しおりを挟む
 クラスメイトの詩織から、何かが取り憑いている不気味なラジオを押し付けられた巫女見習いの風子。声が気になり眠れない夜を過ごしていると、深夜に廃品回収車の声が響いていた。

「不要になった電化製品を引き取ります~。お気軽にお声掛けください~」

「カエリタイ……ざざ……ざ……カエリタ……ざ……カエ……ざざざ……」

「何この状況……?」

 部屋のラジオからは不気味な声、外からは廃品回収、風子は、深夜1時に内と外から精神攻撃を受けていた……。

「私に出来ることはただひとつ……。それは廃品回収車を止めること……」

 風子は自分のため、そして近隣の住人のために、得体の知れない深夜の廃品回収車の元へ向かった。

『テレビ、エアコン、冷蔵庫などご不要の物がございましたら……』

「あ、いたいた……。あのーすみませーん」

 白い1台の軽トラが風子の視界に入った。荷台にはゴチャゴチャと物が積まれていて、いかにもな廃品回収車のビジュアルをしていた。

『はい。ご不要の物ですか?』

(それはお前だ……!)

 心の中で突っ込みを入れつつ、風子は運転席を見た。廃品回収車を運転していたのは若い男だった。白い肌にボサボサの銀髪、さらにシックな着物姿という浮世離れした見た目をしていた。

 風子は得体の知れない男に警戒心を張り巡らせつつ、このまま放っておく訳にもいかないので注意することにした。

「いやそうじゃなくて……。こんな時間に拡声器使って何考えてるんですか……? 近所迷惑ってレベルじゃないですよ……?」

『え? なんですって?』

「いや、だから拡声器使うのやめてくださいって……。なんで普通に会話してる時も使ってるんですか……」

「ん……?」

 謎の男は突然、風子の顔をジロジロ見回し始めた。深夜の暗がり、路上で怪しい廃品回収業者と2人っきりの風子は、いつでも逃げられるように身構えていた。

「君はもしかして人間っすか……?」

「は……?」

「この回収車は人間には見えないはず……。あぁ……なるほど……。巫女さんなんすね……」

「ちょ、ちょっと何いろいろ言って勝手に納得してるんですか……?」

「すいません。この車はあやかし廃品回収車なんす」

「あやかし廃品回収車……?」

 次々と耳に入る奇っ怪なワード。風子の頭は男の話に付いていけないでいた。

「拡声器の音も本来人間の耳には聞こえないはずなんですが、巫女さんのような神聖な存在には聞こえてしまったようっすね……」

「えぇ……? あ、あの、あなたは誰なんですか……」

「俺は付喪神神っす」

「付喪神……!?」

「じゃなくて、付喪神神っす」

「え……付喪神神神…?」

「いや、神がいっこ多いっす……」

 ただでさえ頭が混乱している風子。ややこしい名前を聞いてますます頭がこんがらがってしまっている。

「巫女さんなら聞いたことあるかもしれないっすけど、付喪神は長い年月を経た物に魂が宿った存在のことっす」

「物が付喪神に生まれ変わる瞬間はとても不安定なんす。俺は付喪神を導く存在として、付喪神化した物に呼びかけながらこうして夜の街を巡回しているという訳なんすよ」

「はぁ……」

「でもなかなか集まらなくて困ってるんすよねぇ……。物でも付喪神でもない中途半端な存在なもんで……」

(なるほど……付喪神を回収するための廃品回収車ってことか……。って、ちょっと待てよ……)

 頭の中で付喪神神の話をまとめる風子。そして、ひとつ気が付いたことがあった。

「あの……私の家に付喪神いるかもしれません……」

「なんかずっと一人で喋ってる古びた変なラジオなんですけど」

「お! マジっすか……!? それは助かりますっす! ちょっと連れて来てもらってよろしいでしょうか……?」

「あ、はい。ちょっと待っててくださいね……!」

 ラジオに困っていた風子の元に現れた付喪神神。この機会を逃したらラジオを手放せないと思った風子は、急いでラジオを取りに家へと引き返した。

『カエリタイ……カエリタイ……。ざざ……カエ……ざ……タイ……』

「ラジオちゃん! あなたの帰る場所が決まりそうだよ! だからね! ちょっと黙れ……!」

 不気味な声を発し続ける小型のラジオを抱え、一目散に付喪神神の軽トラの元へUターンした。

「付喪神神さん……! ぜぇ……ぜぇ……」

「いやぁ、お疲れ様っす。お。それが件のラジオっすね」

 息を切らす風子を気遣いつつ、抱えているラジオを預かる付喪神神。次々に持つ角度を変え、上から下からラジオをぐるぐると見回している。

「かなり不安定っすね……。よしよし。今から付喪神に昇華させてあげるっすから……」

 右手の上に乗せたラジオに、左の人差し指と中指を向ける付喪神神。すると、ラジオは白い輝きを放ち始めた。

「うわっ……!?」

 光に驚き思わず目を瞑る風子。再び目を開くと、残光の中にぼんやりと人影が見えた。

「うぅ……帰りたいよぉ……」

(キャラ変わってねぇ!)

 ラジオは着物を着た10歳程の少年の姿に変わっていた。しかし、元ラジオは尚も帰りたいと嘆き続けている。

「どうしたっすかラジオくん? どこに帰りたいんすか?」

「うぅ……あの頃に……」

「あの頃……? あの頃とはどの頃っすか……?」

「うぅ……ぐすっ……」

「ありゃりゃ……。困ったっすね……。このままだと付喪神からまた喋るラジオに逆戻りしそうっす……」

「え……? ま、まさか……」

 チラッと風子を見る付喪神神。風子は、強烈に嫌な予感を感じていた……。

「あなたは巫女さんっすよね……。ちょっとこの子が付喪神になれるように面倒見てくれないっすかね……?」

「ええええええ……!?」

 預かっていた喋るラジオは、嘆く少年へと進化を遂げ、風子の負担はさらに重くなっていた……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

行き遅れた私は、今日も幼なじみの皇帝を足蹴にする

九條葉月
キャラ文芸
「皇帝になったら、迎えに来る」幼なじみとのそんな約束を律儀に守っているうちに結婚適齢期を逃してしまった私。彼は無事皇帝になったみたいだけど、五年経っても迎えに来てくれる様子はない。今度会ったらぶん殴ろうと思う。皇帝陛下に会う機会なんてそうないだろうけど。嘆いていてもしょうがないので結婚はすっぱり諦めて、“神仙術士”として生きていくことに決めました。……だというのに。皇帝陛下。今さら私の前に現れて、一体何のご用ですか?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...