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第2話 付喪神神
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クラスメイトの詩織から、何かが取り憑いている不気味なラジオを押し付けられた巫女見習いの風子。声が気になり眠れない夜を過ごしていると、深夜に廃品回収車の声が響いていた。
「不要になった電化製品を引き取ります~。お気軽にお声掛けください~」
「カエリタイ……ざざ……ざ……カエリタ……ざ……カエ……ざざざ……」
「何この状況……?」
部屋のラジオからは不気味な声、外からは廃品回収、風子は、深夜1時に内と外から精神攻撃を受けていた……。
「私に出来ることはただひとつ……。それは廃品回収車を止めること……」
風子は自分のため、そして近隣の住人のために、得体の知れない深夜の廃品回収車の元へ向かった。
『テレビ、エアコン、冷蔵庫などご不要の物がございましたら……』
「あ、いたいた……。あのーすみませーん」
白い1台の軽トラが風子の視界に入った。荷台にはゴチャゴチャと物が積まれていて、いかにもな廃品回収車のビジュアルをしていた。
『はい。ご不要の物ですか?』
(それはお前だ……!)
心の中で突っ込みを入れつつ、風子は運転席を見た。廃品回収車を運転していたのは若い男だった。白い肌にボサボサの銀髪、さらにシックな着物姿という浮世離れした見た目をしていた。
風子は得体の知れない男に警戒心を張り巡らせつつ、このまま放っておく訳にもいかないので注意することにした。
「いやそうじゃなくて……。こんな時間に拡声器使って何考えてるんですか……? 近所迷惑ってレベルじゃないですよ……?」
『え? なんですって?』
「いや、だから拡声器使うのやめてくださいって……。なんで普通に会話してる時も使ってるんですか……」
「ん……?」
謎の男は突然、風子の顔をジロジロ見回し始めた。深夜の暗がり、路上で怪しい廃品回収業者と2人っきりの風子は、いつでも逃げられるように身構えていた。
「君はもしかして人間っすか……?」
「は……?」
「この回収車は人間には見えないはず……。あぁ……なるほど……。巫女さんなんすね……」
「ちょ、ちょっと何いろいろ言って勝手に納得してるんですか……?」
「すいません。この車はあやかし廃品回収車なんす」
「あやかし廃品回収車……?」
次々と耳に入る奇っ怪なワード。風子の頭は男の話に付いていけないでいた。
「拡声器の音も本来人間の耳には聞こえないはずなんですが、巫女さんのような神聖な存在には聞こえてしまったようっすね……」
「えぇ……? あ、あの、あなたは誰なんですか……」
「俺は付喪神神っす」
「付喪神……!?」
「じゃなくて、付喪神神っす」
「え……付喪神神神…?」
「いや、神がいっこ多いっす……」
ただでさえ頭が混乱している風子。ややこしい名前を聞いてますます頭がこんがらがってしまっている。
「巫女さんなら聞いたことあるかもしれないっすけど、付喪神は長い年月を経た物に魂が宿った存在のことっす」
「物が付喪神に生まれ変わる瞬間はとても不安定なんす。俺は付喪神を導く存在として、付喪神化した物に呼びかけながらこうして夜の街を巡回しているという訳なんすよ」
「はぁ……」
「でもなかなか集まらなくて困ってるんすよねぇ……。物でも付喪神でもない中途半端な存在なもんで……」
(なるほど……付喪神を回収するための廃品回収車ってことか……。って、ちょっと待てよ……)
頭の中で付喪神神の話をまとめる風子。そして、ひとつ気が付いたことがあった。
「あの……私の家に付喪神いるかもしれません……」
「なんかずっと一人で喋ってる古びた変なラジオなんですけど」
「お! マジっすか……!? それは助かりますっす! ちょっと連れて来てもらってよろしいでしょうか……?」
「あ、はい。ちょっと待っててくださいね……!」
ラジオに困っていた風子の元に現れた付喪神神。この機会を逃したらラジオを手放せないと思った風子は、急いでラジオを取りに家へと引き返した。
『カエリタイ……カエリタイ……。ざざ……カエ……ざ……タイ……』
「ラジオちゃん! あなたの帰る場所が決まりそうだよ! だからね! ちょっと黙れ……!」
不気味な声を発し続ける小型のラジオを抱え、一目散に付喪神神の軽トラの元へUターンした。
「付喪神神さん……! ぜぇ……ぜぇ……」
「いやぁ、お疲れ様っす。お。それが件のラジオっすね」
息を切らす風子を気遣いつつ、抱えているラジオを預かる付喪神神。次々に持つ角度を変え、上から下からラジオをぐるぐると見回している。
「かなり不安定っすね……。よしよし。今から付喪神に昇華させてあげるっすから……」
右手の上に乗せたラジオに、左の人差し指と中指を向ける付喪神神。すると、ラジオは白い輝きを放ち始めた。
「うわっ……!?」
光に驚き思わず目を瞑る風子。再び目を開くと、残光の中にぼんやりと人影が見えた。
「うぅ……帰りたいよぉ……」
(キャラ変わってねぇ!)
ラジオは着物を着た10歳程の少年の姿に変わっていた。しかし、元ラジオは尚も帰りたいと嘆き続けている。
「どうしたっすかラジオくん? どこに帰りたいんすか?」
「うぅ……あの頃に……」
「あの頃……? あの頃とはどの頃っすか……?」
「うぅ……ぐすっ……」
「ありゃりゃ……。困ったっすね……。このままだと付喪神からまた喋るラジオに逆戻りしそうっす……」
「え……? ま、まさか……」
チラッと風子を見る付喪神神。風子は、強烈に嫌な予感を感じていた……。
「あなたは巫女さんっすよね……。ちょっとこの子が付喪神になれるように面倒見てくれないっすかね……?」
「ええええええ……!?」
預かっていた喋るラジオは、嘆く少年へと進化を遂げ、風子の負担はさらに重くなっていた……。
「不要になった電化製品を引き取ります~。お気軽にお声掛けください~」
「カエリタイ……ざざ……ざ……カエリタ……ざ……カエ……ざざざ……」
「何この状況……?」
部屋のラジオからは不気味な声、外からは廃品回収、風子は、深夜1時に内と外から精神攻撃を受けていた……。
「私に出来ることはただひとつ……。それは廃品回収車を止めること……」
風子は自分のため、そして近隣の住人のために、得体の知れない深夜の廃品回収車の元へ向かった。
『テレビ、エアコン、冷蔵庫などご不要の物がございましたら……』
「あ、いたいた……。あのーすみませーん」
白い1台の軽トラが風子の視界に入った。荷台にはゴチャゴチャと物が積まれていて、いかにもな廃品回収車のビジュアルをしていた。
『はい。ご不要の物ですか?』
(それはお前だ……!)
心の中で突っ込みを入れつつ、風子は運転席を見た。廃品回収車を運転していたのは若い男だった。白い肌にボサボサの銀髪、さらにシックな着物姿という浮世離れした見た目をしていた。
風子は得体の知れない男に警戒心を張り巡らせつつ、このまま放っておく訳にもいかないので注意することにした。
「いやそうじゃなくて……。こんな時間に拡声器使って何考えてるんですか……? 近所迷惑ってレベルじゃないですよ……?」
『え? なんですって?』
「いや、だから拡声器使うのやめてくださいって……。なんで普通に会話してる時も使ってるんですか……」
「ん……?」
謎の男は突然、風子の顔をジロジロ見回し始めた。深夜の暗がり、路上で怪しい廃品回収業者と2人っきりの風子は、いつでも逃げられるように身構えていた。
「君はもしかして人間っすか……?」
「は……?」
「この回収車は人間には見えないはず……。あぁ……なるほど……。巫女さんなんすね……」
「ちょ、ちょっと何いろいろ言って勝手に納得してるんですか……?」
「すいません。この車はあやかし廃品回収車なんす」
「あやかし廃品回収車……?」
次々と耳に入る奇っ怪なワード。風子の頭は男の話に付いていけないでいた。
「拡声器の音も本来人間の耳には聞こえないはずなんですが、巫女さんのような神聖な存在には聞こえてしまったようっすね……」
「えぇ……? あ、あの、あなたは誰なんですか……」
「俺は付喪神神っす」
「付喪神……!?」
「じゃなくて、付喪神神っす」
「え……付喪神神神…?」
「いや、神がいっこ多いっす……」
ただでさえ頭が混乱している風子。ややこしい名前を聞いてますます頭がこんがらがってしまっている。
「巫女さんなら聞いたことあるかもしれないっすけど、付喪神は長い年月を経た物に魂が宿った存在のことっす」
「物が付喪神に生まれ変わる瞬間はとても不安定なんす。俺は付喪神を導く存在として、付喪神化した物に呼びかけながらこうして夜の街を巡回しているという訳なんすよ」
「はぁ……」
「でもなかなか集まらなくて困ってるんすよねぇ……。物でも付喪神でもない中途半端な存在なもんで……」
(なるほど……付喪神を回収するための廃品回収車ってことか……。って、ちょっと待てよ……)
頭の中で付喪神神の話をまとめる風子。そして、ひとつ気が付いたことがあった。
「あの……私の家に付喪神いるかもしれません……」
「なんかずっと一人で喋ってる古びた変なラジオなんですけど」
「お! マジっすか……!? それは助かりますっす! ちょっと連れて来てもらってよろしいでしょうか……?」
「あ、はい。ちょっと待っててくださいね……!」
ラジオに困っていた風子の元に現れた付喪神神。この機会を逃したらラジオを手放せないと思った風子は、急いでラジオを取りに家へと引き返した。
『カエリタイ……カエリタイ……。ざざ……カエ……ざ……タイ……』
「ラジオちゃん! あなたの帰る場所が決まりそうだよ! だからね! ちょっと黙れ……!」
不気味な声を発し続ける小型のラジオを抱え、一目散に付喪神神の軽トラの元へUターンした。
「付喪神神さん……! ぜぇ……ぜぇ……」
「いやぁ、お疲れ様っす。お。それが件のラジオっすね」
息を切らす風子を気遣いつつ、抱えているラジオを預かる付喪神神。次々に持つ角度を変え、上から下からラジオをぐるぐると見回している。
「かなり不安定っすね……。よしよし。今から付喪神に昇華させてあげるっすから……」
右手の上に乗せたラジオに、左の人差し指と中指を向ける付喪神神。すると、ラジオは白い輝きを放ち始めた。
「うわっ……!?」
光に驚き思わず目を瞑る風子。再び目を開くと、残光の中にぼんやりと人影が見えた。
「うぅ……帰りたいよぉ……」
(キャラ変わってねぇ!)
ラジオは着物を着た10歳程の少年の姿に変わっていた。しかし、元ラジオは尚も帰りたいと嘆き続けている。
「どうしたっすかラジオくん? どこに帰りたいんすか?」
「うぅ……あの頃に……」
「あの頃……? あの頃とはどの頃っすか……?」
「うぅ……ぐすっ……」
「ありゃりゃ……。困ったっすね……。このままだと付喪神からまた喋るラジオに逆戻りしそうっす……」
「え……? ま、まさか……」
チラッと風子を見る付喪神神。風子は、強烈に嫌な予感を感じていた……。
「あなたは巫女さんっすよね……。ちょっとこの子が付喪神になれるように面倒見てくれないっすかね……?」
「ええええええ……!?」
預かっていた喋るラジオは、嘆く少年へと進化を遂げ、風子の負担はさらに重くなっていた……。
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