現世に馴染めなかった雪女は異世界転生でリミットブレイク

ざとういち

文字の大きさ
1 / 25

雪女、ギャルと会う。

しおりを挟む
雪山の森の中を徘徊していると、目の前に巨大な熊が見えた。この時期は大体大人しく寝ているのだが、たまに何かの拍子に起きている子がいるのだ。

気が立っているのか、私を見つけると私を攻撃対象として睨み付けてきた。
私はやれやれと思いながら熊を見る。

『グアウウウウウウッ!!』

唸り声を上げながら熊は突進してきた。
私は熊に向かって右手をかざす。

『パキンッ。』

熊は全身が凍り付いていた。ピクリとも動かなくなった。私が凍らせたから。

『妖怪。それは古くからその存在が
 確認されている人ならざる者たち。
 彼らは人間に友好的な者もいれば、
 危害を及ぼすことこそが存在意義と
 なっている者もいる。』

『そんな妖怪の中で幾つも伝承が
 語られている存在のひとつ。雪女。
 雪女は白装束を身に纏い、
 人間を凍死させる危険な妖怪という
 イメージが強い。』

『彼女はそんな危険な妖怪の一人だった。』

私は、物心ついた時から雪山の中で暮らしていた。寒さは全く感じない。そして、冷気を操る能力を持っていた。それが私には普通だった。

私の周りには仲間や家族なんて者はなく、何もない雪山の中、ずっと一人で過ごしていた。それはもう寂しくて寂しくて気が狂いそうだった。

そんな生活に耐えられなくなった私は雪山を降り、人間という存在を知る。自分と姿形は似ている。仲良く出来るのではないかと思った。

しかし、現実は非情だった。

話し掛けようとするとみんな悲鳴を上げて逃げてしまう。私の白装束がどうやら恐怖心を煽るようだった。
しかし、私はこれしか服を持っていないのだ…。他の服が欲しくても、人間と接触出来なければ手に入れることは出来ない。

私は詰んだと思った…。

雪山にいても何もないので精神的におかしくなりそうになる。寂しくて街へと降りれば人に見つかり怖がられる。
そんな日々を過ごしていたある日、私はあてもなく、夕暮れ時にフラフラとひと気のない路地を歩いていた。

そうすると、一人の少女が小型の機械をいじりながら段差に座っていたのが目に入った。 私はまた怖がられるだろうな…と思い、彼女に見つかる前に踵を返そうとした。

「もしかしてあんた雪女?」

あっさりと声を掛けてきた少女に、私はビックリして2度見してしまう。

「ぶっ、何そのリアクション!
 マジウケるんだけど!」

なんかテンションの高い少女だった…。あまりにも私との温度差があるので、私は話し掛けてくれた喜びよりも、どう接したら良いのか分からず、どんどん彼女と距離を取り、物陰に隠れて様子を伺う。

「ちょ…ちょっとちょっと!
 隠れなくてもいーじゃん!」

「あたし、怖くないよ?ほれ!」

彼女は両手を広げて、自分は武器など何も持ってないとアピールした。

「ふふふっ…!」

私がいつも怖がられる側なのに、怖くないと言われたのは初めてだったので、なんだかおかしくて笑ってしまった。

「笑ってくれた!よっしゃ!
 ほれほれ、こっち来なよ!」

異様に馴れ馴れしい彼女は、私を隣に座らせてくれた。

「うわっ!冷たっ!
 マジもんの雪女じゃん!」

私の体温に驚き飛び上がる少女。なんだか申し訳ないが、普段からこんな感じなので、我慢してもらうしかなかった。

「こんなとこでなにしてんの?」

彼女にふと聞かれた。なにしてる…?自分でも自分が何してるのか分からなかった。

「い…いえ、別に何も…。」

そう答えるしかなかった。

「あっそー。ふ~ん…。」

私の回答に物珍しげな顔をしながら、小型の機械を何やらいじっている。さっきからずっと気になっていたので、私は思わず聞いてしまう。

「あ…あの…。
 なんですかそれは…?」

「え?…これのこと?
 これはスマホ!
 なんかいろいろ出来んの!」

私は説明になっていない説明を聞きながら、とりあえず納得したフリをする…。

「はぁ…。スマホ…。」

「スマホ知らないってマジヤバイね!
 人間のことあんま知らない系な感じ?」

「は、はい…。知らない系な感じです…。」

「マジかー…。じゃ、あたしが
 教えてあげるよ!WINEやってる?」

「わ…わいん…?」

「あー!ごめんごめん!
 やってる訳ないっつーの!
 スマホ知らないんだから!」

「馬鹿だね!あたし!あはははっ!」

勝手にいろいろ喋って勝手に一人で笑っている…。
よく分からないが、優しくて親切な人だということは分かった。

「んじゃそうだな~…。
 ここで待ち合わせでいっか?」

「このくらいの時間に
 気が向いた時にここに来てよ!」

「あたしも気が向いたら来るから!
 来ない時もあるかもしんないけど、
 そん時はごめんね!あははっ!」

「は、はい…。分かりました…。」

彼女のペースで全てが決まっていく…。
だけど、私は他に何もすることなんてないので、彼女に委ねることにした。

「んじゃまたねー!」

立ち去ろうとする彼女。私は大事なことを聞いていなかったので急いで呼び止める。

「あ、あの…!お名前は…?」

「あー!だよねー!
 名前言ってないつーの!」

「あたしは朝風 鈴子!
 じゃあねー!バイバーイ!」

さらっと名乗り、そしてまたすぐ去っていく鈴子ちゃん。
私は初めて人間が話し掛けてくれた喜びで、暖かい気持ちで胸をぽかぽかさせながら、山の中へと帰っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

処理中です...