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雪女、授業を受ける。

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ユキはリンたちのクラスに混じり、魔法の授業を受けていた。モエが親切にいろいろと基礎知識を教えてくれたが、それでも全く魔法に馴染みのないユキにはちんぷんかんぷんであった。

「今日は魔法で、
 魚を生きたまま
 捕まえてもらいます。」

「各々、創意工夫して、
 魚を生け捕りに
 してみてください。」

大きな水槽に入った魚を捕まえようと、クラスメイトたちが悪戦苦闘しながら、魚を捕まえている。ユキも見よう見真似でやってみる。

「んん…。」

魚を人差し指で指しながら念じるも、何も起こらない…。ユキはモエから教わったこと、授業中に学んだことを必死に思い出しながら実践するが、彼女に“魔法”は使えなかった。

魔法学生でFランクはほんの僅かしかいない。魔法学校には元々魔法の素質がある者が多く集まっているからである。
ユキのように事情を抱えて魔法学校に行き着いた者など、レアケースであった。

魔法が使えない新入生に、憐れみの視線が向けられていた。

「……ふぅ。」

別に魔法使いになりたかった訳ではないのだが、ユキはなんとなく悔しさと居心地の悪さを感じていた。授業が終わり、人がいなくなった教室で、ユキは一人で黄昏れていた。

「ユキさん…。」

モエがユキの様子を気にして声を掛けた。
ユキは彼女に向けて笑顔を見せる。

リンとは全く打ち解けていないユキであったが、モエのその心優しい性格と可愛らしい容姿にすっかり心を許していたのだった。

「あんまり気にすること
 ないっすよ…?まだユキさんが
 転入してから2週間しか経って
 ないんすから…。」

ユキが初めて魔法学校を訪れてから2週間が経過していた。慣れている者からしたらあっという間の期間だが、何もかも初めてのユキにとっては、かなり長い間学校生活を送っている感覚だった。

「私も最初はFランク
 だったんすよ…。」

「え…?」

「…ってまだひとつ上の
 Eランク止まりなんすけど…。
 たははは…。」

「私も何も出来なくて、
 悲しくて惨めな気持ちに
 なって、ユキさんと同じように
 一人で塞ぎ込んでいたんすが…。」

「リン先輩が声を掛けて
 アドバイスしてくれたっす…!」

「その頃はまだ全然リン先輩と
 話したことなかったっすが、
 あの時は嬉しかったっす…。」

「あの子が…?」

ユキはリンのことをなんとなく毛嫌いし、ほとんど口を聞かないままであるが、確かに真っ先に記憶喪失の自分を気遣ってくれたり、名前を付けてくれたり、きちんと思い返してみれば、彼女は人を気に掛ける優しさを持っていた。

「リン先輩のアドバイスを
 実践したら、Eランクに
 上がれたんっす…!」

「たったひとつでも、
 自分はやれば出来るんだと
 そう思えて、それ以来
 前向きになれたんす…。」

「だからきっと、ユキさんにも
 何かそう思えるきっかけが
 あるんじゃないかと思って…。
 えっと、その…。」

モエはなんとかユキを励まそうとするが、上手く言葉が出て来なくて言葉に詰まってしまう。
しかし、ユキはその優しさをしっかりと受け止めていた。

「ありがとうモエちゃん…。
 私も前向きに考えてみる…!」

「ユキさん…。」

親友と悲劇的な別れを経験し、とても前向きな気分にはなれないままであったが、モエの話を聞いて、少し気持ちが動き始めていた。

(私は、元の世界のことが
 忘れられなくて、ずっと
 自分の殻に閉じこもっていた。)

(でも、ここにいるのは
 私一人だけじゃない…。
 今の私は人間なんだ…。)
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