現世に馴染めなかった雪女は異世界転生でリミットブレイク

ざとういち

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リン班、忍び寄る魔の手。

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魔物を討伐し、ユキとリンが打ち解け、すっかり気が抜けた3人は、しばらく座り込んで動けなくなっていた。

「…朝までこの村で
 休ませてもらいましょう。」

「どこか泊めてくれる家を
 探さないと。」

リンがまだ起きている村人がいないか様子を見ようと立ち上がる。

全て解決した。当然誰もがそう思っていた。

「…うっ。」

モエが突然小さく呻くとその場に倒れ込んだ。
モエは魔物が来る以前からあくびをしていた。さすがにもう眠気が限界なのかとリンは思っていた。

…違った。モエの左肩には光の矢が突き刺さっている。暗闇でよく見えないが、光の矢に薄っすら照らされた肩からは出血しているように見えた。

「い、痛いっ…!うぅっ…!」

「……え?」

苦痛にモエの顔は歪み涙が溢れた。
突然のことに訳が分からず青ざめるリン。
矢を無理やり引き抜けば出血は酷くなるはず。どうすればいいのか分からず固まってしまう。

ユキは光の矢が飛んできたのを目撃していた。矢が放たれたと思われる方向を睨んだ。

「……。」

魔法で作ったと思われる光の弓を持つ、フードを目深に被ったローブ姿の謎の人物が立っていた。遠距離からの射撃に加え、暗闇で身体的特徴はほとんど分からなかった。

「誰なのあいつ…ッ!?」

モエを傷付けられ頭に血が上るリン。相手の目的は全く分からないが、敵であることは間違いなかった。

「……。」

弓がリンたちに向けて構えられた。…まだ攻撃を続けるつもりのようだ。

「…ユキはモエちゃんを
 連れてここから離れて!」

「それから…
 村の医者をなんとか
 探して診てもらって…!」

「こいつはあたしが
 引き受ける…!!」

「わ、分かった…!」

リンは魔力を込める。手加減するつもりは毛頭なかった。その気迫に押され、ユキはすぐこの場から離れることを決めた。

「リ、リン先輩…!」

負傷したモエに肩を貸し、なんとか立たせると必死で村へと運ぶユキ。

「あたしの大事な後輩ちゃんに
 何してくれてんのよッ!!」

激昂するリン。両手からは風が舞い始めていた。

「トルネオンッ!!」

リンが使える最強の風の魔法を放った。両手から発生した2つの竜巻が敵の元へと突き進む。敵は竜巻に巻き込まれまいと距離を取るが、凄まじい風圧に弓を構える腕が震えている。

「……チッ!」

リンに狙いを付けられず、舌打ちをするローブ姿の人物。その隙をつき、接近戦を仕掛けるリン。
右足で相手の腹部を蹴り上げる。

「ぐっ…!!」

筋肉ではない柔らかい感触が足に伝わる。微かに聞こえた声。相手は自分と近い年頃の少女であるようだった。

リンに蹴られよろめく謎の敵。接近戦は分が悪いと執拗に距離を取ろうとする。

「誰なのよあんたは…ッ!?
 魔法使ってるってことは
 魔法学生なのよねッ!?」

「こんなこと許されると
 思ってるの…!?」

「……。」

謎の敵は何も答えない。そのまま弓をリンに向けて構え続けている。

相手は弓で攻撃することにこだわっている。遠距離戦に持ち込ませたくない。魔法を駆使しながらひたすら相手に接近し続けるリン。

突如、敵は空に向けて弓を構えた。瞬時に5発、空に光の矢を放つ。
自分との実力差にヤケにでもなったかとリンは思った。

それに構わず風を巻き起こしながら相手に接近し続けるリン。風の勢いに乗り、二度目の蹴りが再び相手の腹部を直撃する。

「ぐあっ…!!」

悲鳴を上げる敵。自分も女の身であるため、腹を何度も蹴ってしまったことに少し気が引けていた。

その時、左腕と両足に激痛が走った。

「うッ…!?」

上空に放たれた光の矢5本のうち、3本がリンの体を貫いた。相手の身を案じてしまったことを後悔した。

力なく倒れるリン。両足をやられてしまったのだ。逃げることが出来ない…!

「ブリズ…ッ!!」

倒れたままの姿勢で氷の刃を放つリン。お返しに相手の両足も貫いてやろうと思ったが、難なくかわされた。

(つ…強い…ッ!?)

Aランクの自分がここまで追い詰められているのだ。相手はSランクで間違いなさそうだった。
何故、Sランクの魔法学生がこんな闇討ちのようなことをしているのか、リンは怒りを通り越して悲しい気持ちになっていた。

「……。」

地面に倒れているリンに向けて光の弓を構える敵。両足を撃ち抜かれ立ち上がれない。魔法で攻撃しても避けられる。為す術がなかった。

死を覚悟して目を瞑るリン。せっかくユキと仲良くなれたのに…!そんなことを思っていた。

「やめろッ!!」

ユキの声が響いた。モエを村人に託し、リンの元へ戻ってきていた。一瞬、リンは安堵した気持ちになってしまった。しかし、すぐさま冷静になり、ユキに向かって叫ぶ。

「何してるのよ!!
 早く逃げなさい!!
 あんたに敵う相手
 じゃない!!」

Fランクのユキに戦うことなど出来ない。
自分さえ見捨ててここから逃げ出せば、ユキだけは助かるかもしれない。そして、先生に報告すればこいつは処罰を受けるだろうと思った。

だが、ユキに逃げるという選択肢はなかった。

(…こいつは確か新しく
 入った新入生だったな。)

(魔力はほとんどない。
 Fランクの雑魚。話にならない。)

敵は心の中でユキを見下した。そして、ユキに向けて弓を構える。明確な殺意を持っていた。

「ブリズッ!!」

リンは魔法で敵を狙い続けるが当たらない。身動きが取れず右腕しか使えない。そのせいで攻撃が単調になり、相手に全部読まれてしまう。

「ユキ…っ!!
 お願いだから
 早く逃げて…!!」

だが、ユキは逃げる素振りを見せない。

「なんでよ…!!
 逃げなさいよ…!!」

思わず涙を零してしまうリン。

「…リンちゃん。」

「私の“魔法”使うけど、
 良いよね…?」

「……え?」

ユキは今までずっと守っていた。

『魔法は危険な力です。
 あなたの力は特に強大です。
 思わぬ被害を出さぬために
 魔法の使用は控えてください。』

ユキはリンに言われたこの言葉をずっと守っていたのである。

(…死ね。Fランク。)

ユキに向かって花のように開いた軌道で5本の光の矢が放たれる。リンはなんとかそれを魔法で撃ち落とそうとするが、矢の速度が速くて間に合わない…!

「ユキ…ッ!!」

5本の矢は全て刺さっていた。

…巨大な氷の壁に。

「……なッ!?」

突如現れた謎の氷の壁に驚愕する敵。
そんな物は今までなかった。周りには雪ひとつない。何が起きたのかさっぱり分かっていなかった。

「……これは!」

リンは記憶を辿る。リンだけには似たような現象に心当たりがあった。

「……くッ!!」

氷の壁を回り込み、敵は再びユキに狙いを付ける。5本の矢を瞬時に射る。

今度は壁は現れない。

だが、代わりに矢は空中で全て凍りつき、重量に逆らえなくなり力なく地面に突き刺さる。

「くそっ!!なんだこれは!!」

謎の自然現象に襲われ苛立つ敵。必死に思考を巡らせるが原因が特定出来ない。

答えは目の前を見れば明らかだった。

黒髪を逆立てながら、自分の真似と言わんばかりに、Fランクの魔法学生が氷の弓を構えていた。

「そ…そんな…!?」

その光景に唖然となる敵。Sランクの自分と同じ芸当をFランクの人間に出来る訳がない。現実を受け入れることが出来なかった。

「…ふっ!!」

ユキが氷の矢を放つ。敵の右足に激痛が走った。

「……うあッ!?」

氷の矢が冷気を発しながら自分の足に突き刺さっている。傷だけならまだしも、このまま放置すれば凍傷になる恐れがある…。敵は戦慄した。

足を失うかもしれない。その恐怖にローブの奥の顔色が変わっているようであった。

「……。」

ユキは追撃する意思を見せていない。このまま立ち去れば見逃す。早く足に適切な処置を施せと、そう目で訴えていた。

「……ッ!!」

ユキの慈悲に苛立ちながら、足を引きずりながら敵は暗闇に姿を消した。

「ユキ、あんた…。」

やっぱり魔法が使えるのねと言い掛けたが、確かにユキはFランクであった。先生ですらその判定を疑っていない。
それならば、今ユキが見せた力はなんなのか…。それはユキ自身もよく分かっていなかった。
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