24 / 25
雪女、vs運命
しおりを挟む
ローグとの戦いが終結した後、ユキは気を失っていた。どれほどの時間が経ったのか。ユキの耳に薄っすらと声が聞こえてきた。
「……ん… 」
「…キ君…!」
「ユキ君!大丈夫か!?
…ユキ君ッ!?」
「……あ。」
ユキの目に映ったのはミスティ先生の姿だった。ミスティ先生の隣にはエレナとモエが心配そうな顔で立っていた。
「…せんせ…。
どう…して…?」
目が覚めたばかりなのとダメージで頭がぼーっとする。口が上手く回らない。
「私が先生に
知らせたんす…!」
「みんなボロボロに
なって倒れてて…!だから
助けてくださいって…!」
「すまない…。
私が早く気付いていれば
こんなことには…。」
ユキはようやくほっとしていた。鈴子に大人は信じるなとは言われていたが、ミスティ先生は信頼出来る。根拠はないが不思議とそう思えた。
ここでユキは、満身創痍で心から抜け落ちてしまっていた大事なことを思い出した。
「…リンちゃんは!?」
「私は今ここに
着いたばかりで…。
まだリン君の姿は
発見出来ていない…。」
ミスティ先生も不安そうな表情を浮かべていた。ユキはずっとここで激しい戦いを繰り広げていたのだ。それなのにリンは物音を気にすることもなく、姿を現さなかった。ユキの心はざわざわした…。
ユキは倒れている場合ではないと、力を振り絞り立ち上がる。モエは膝が笑っているユキの体を支えた。
ユキが戦っていたこの広い空間には、RINが出て来た破壊された扉の他に、まだ2つ鉄の扉が設置されている。
背後を気にすることもなく、今度こそ手分けして探すことにするユキたち。ユキとモエは左にある扉、ミスティ先生とエレナは右にある扉の先を確認する。
ユキの前には、ゴチャゴチャといろんな物が置かれている物置きのような光景が広がっていた。部屋の一角にはトイレと思われるドアやら、生活に必要な設備が設置されているようであった。
特に気になる箇所はない。ユキはリンが見つからないのに何故かほっとしていた。おかしい。そんなの異常だ。それは自分でも分かっている。
でも怖かった。発見されるリンは、本当に自分たちの知っているリンなのか…。モエは顔色が悪いユキのことを心配そうに見ていた。
「リン君…!!」
遠くからミスティ先生の声が響く。心臓の鼓動が激しさを増す。ユキはただでさえ重い体を引きずりながら、重い足取りで声の元へ向った。
…やめよう。悪い想像をするのは。きっと大丈夫。私が心配しすぎているだけで、きっとリンちゃんは普段通り素直になれないけど優しくて、ちょっぴり見栄っ張りの、そんな元気な姿を見せてくれるだろう…。
「お願いします…。」
「薬をください…。」
「なんでもしますから…。」
「お願いします…。」
モエちゃんは隣で泣き崩れている。エレナは顔を伏せて拳を握り締めている。ミスティ先生は、地面に座り込んで同じ言葉をずっと繰り返しているリンちゃんの横で様子を伺っているが、唇を噛み締めている。
ああ見えて繊細なリンちゃんは、魔物化の幻覚の時点で壊れてしまったのか。自分の運命に絶望してしまったのか。それとも…他にも何かあったのか。それは私には分からなかった。
世の中にはどうすることも出来ないことがあるのは分かっている。私もそうだった。雪山には仲間はいなかったし、力が暴走して止められなくなったし、鈴子ちゃんはいじめられてたし、トラックに撥ねられて元の世界には戻れなくなったし…。
それでも、私はそれを全部「仕方ない」と思って受け入れていた。どうすることも出来ないから無理やり納得していた。そうするしかなかった。
…じゃあこれも「仕方ない」のか?それで納得しろと言うのか…?私は嫌だ…。ワガママだとしても、無茶苦茶だとしても、ご都合主義だとしても、こんなの嫌だ…!!
ユキは突然、リンの胸ぐらを掴んで右手を振りかぶっていた。驚愕する一同。
『パァンッ!!』
リンの頬が平手打ちされる音が辺りに響く。激しく叩かれ赤くなってしまっている。
「やめろッ!!ユキ君ッ!!」
ミスティ先生が制止しようとするがユキは止まらない。もう一発加えようとしている。
「ユキさん…ッ!!
やめてください…ッ!!」
「お願いします…。」
「なんでもしますから…。」
悪夢のような光景にエレナは口を押さえて震えている…。
「なんでもするなら…!」
『パァンッ!!』
「帰って来い…!!」
「馬鹿リン…ッ!!」
『パァンッ!!』
「やめろと言っているのが
分からないのか…ッ!?」
ミスティ先生はユキを羽交い締めにしているが止まらない。お構いなしにリンの前に乗り出すユキ。言うことを聞く気配もない。ミスティ先生はやむを得ず、ユキを無理やり眠らせようとしていた。
「…うるさいわね。」
止まった。この場にいる全員の時が止まっているかのようだった。…リン以外は。
ユキは右手を震わせて顔を伏せている…。リンは元に戻ったかもしれない…。だが、それはたまたま運が良かっただけだ…。“神様の気まぐれ”でこんなことが起きているだけ。
そうでなければ、自分はいつまでもリンを殴り続けて、さらに取り返しの付かないことをしていただろう…。ユキは罪悪感に苛まれていた。
その時。
『パァンッ!!』
ユキの頬が思いっきりビンタされた。リンだった。突然のことに目を丸くして、リンを見つめるユキ。
さらに。
『パァンッ!!』
「痛っ…ちょ!?」
2発目の往復ビンタ。ユキは訳が分からずただただリンに叩かれ続けている。他のみんなもポカンとしながらそれを見ている。
そして。
『パァンッ!!』
3発目のビンタが決まった。ユキは思いっきり吹っ飛んでいた。リンは腰に手を当てながらユキを見下ろしている。
「3発よ。」
「……え?」
「あんたがあたしを
叩いた回数。」
「これでおあいこよ!!
…馬鹿ユキ。」
笑顔でユキを見つめるリン。何が正しくて何が間違っているのか。それは分からない。だが、今回のことは、ユキとリンの間で“チャラ”になっていた。
「……ん… 」
「…キ君…!」
「ユキ君!大丈夫か!?
…ユキ君ッ!?」
「……あ。」
ユキの目に映ったのはミスティ先生の姿だった。ミスティ先生の隣にはエレナとモエが心配そうな顔で立っていた。
「…せんせ…。
どう…して…?」
目が覚めたばかりなのとダメージで頭がぼーっとする。口が上手く回らない。
「私が先生に
知らせたんす…!」
「みんなボロボロに
なって倒れてて…!だから
助けてくださいって…!」
「すまない…。
私が早く気付いていれば
こんなことには…。」
ユキはようやくほっとしていた。鈴子に大人は信じるなとは言われていたが、ミスティ先生は信頼出来る。根拠はないが不思議とそう思えた。
ここでユキは、満身創痍で心から抜け落ちてしまっていた大事なことを思い出した。
「…リンちゃんは!?」
「私は今ここに
着いたばかりで…。
まだリン君の姿は
発見出来ていない…。」
ミスティ先生も不安そうな表情を浮かべていた。ユキはずっとここで激しい戦いを繰り広げていたのだ。それなのにリンは物音を気にすることもなく、姿を現さなかった。ユキの心はざわざわした…。
ユキは倒れている場合ではないと、力を振り絞り立ち上がる。モエは膝が笑っているユキの体を支えた。
ユキが戦っていたこの広い空間には、RINが出て来た破壊された扉の他に、まだ2つ鉄の扉が設置されている。
背後を気にすることもなく、今度こそ手分けして探すことにするユキたち。ユキとモエは左にある扉、ミスティ先生とエレナは右にある扉の先を確認する。
ユキの前には、ゴチャゴチャといろんな物が置かれている物置きのような光景が広がっていた。部屋の一角にはトイレと思われるドアやら、生活に必要な設備が設置されているようであった。
特に気になる箇所はない。ユキはリンが見つからないのに何故かほっとしていた。おかしい。そんなの異常だ。それは自分でも分かっている。
でも怖かった。発見されるリンは、本当に自分たちの知っているリンなのか…。モエは顔色が悪いユキのことを心配そうに見ていた。
「リン君…!!」
遠くからミスティ先生の声が響く。心臓の鼓動が激しさを増す。ユキはただでさえ重い体を引きずりながら、重い足取りで声の元へ向った。
…やめよう。悪い想像をするのは。きっと大丈夫。私が心配しすぎているだけで、きっとリンちゃんは普段通り素直になれないけど優しくて、ちょっぴり見栄っ張りの、そんな元気な姿を見せてくれるだろう…。
「お願いします…。」
「薬をください…。」
「なんでもしますから…。」
「お願いします…。」
モエちゃんは隣で泣き崩れている。エレナは顔を伏せて拳を握り締めている。ミスティ先生は、地面に座り込んで同じ言葉をずっと繰り返しているリンちゃんの横で様子を伺っているが、唇を噛み締めている。
ああ見えて繊細なリンちゃんは、魔物化の幻覚の時点で壊れてしまったのか。自分の運命に絶望してしまったのか。それとも…他にも何かあったのか。それは私には分からなかった。
世の中にはどうすることも出来ないことがあるのは分かっている。私もそうだった。雪山には仲間はいなかったし、力が暴走して止められなくなったし、鈴子ちゃんはいじめられてたし、トラックに撥ねられて元の世界には戻れなくなったし…。
それでも、私はそれを全部「仕方ない」と思って受け入れていた。どうすることも出来ないから無理やり納得していた。そうするしかなかった。
…じゃあこれも「仕方ない」のか?それで納得しろと言うのか…?私は嫌だ…。ワガママだとしても、無茶苦茶だとしても、ご都合主義だとしても、こんなの嫌だ…!!
ユキは突然、リンの胸ぐらを掴んで右手を振りかぶっていた。驚愕する一同。
『パァンッ!!』
リンの頬が平手打ちされる音が辺りに響く。激しく叩かれ赤くなってしまっている。
「やめろッ!!ユキ君ッ!!」
ミスティ先生が制止しようとするがユキは止まらない。もう一発加えようとしている。
「ユキさん…ッ!!
やめてください…ッ!!」
「お願いします…。」
「なんでもしますから…。」
悪夢のような光景にエレナは口を押さえて震えている…。
「なんでもするなら…!」
『パァンッ!!』
「帰って来い…!!」
「馬鹿リン…ッ!!」
『パァンッ!!』
「やめろと言っているのが
分からないのか…ッ!?」
ミスティ先生はユキを羽交い締めにしているが止まらない。お構いなしにリンの前に乗り出すユキ。言うことを聞く気配もない。ミスティ先生はやむを得ず、ユキを無理やり眠らせようとしていた。
「…うるさいわね。」
止まった。この場にいる全員の時が止まっているかのようだった。…リン以外は。
ユキは右手を震わせて顔を伏せている…。リンは元に戻ったかもしれない…。だが、それはたまたま運が良かっただけだ…。“神様の気まぐれ”でこんなことが起きているだけ。
そうでなければ、自分はいつまでもリンを殴り続けて、さらに取り返しの付かないことをしていただろう…。ユキは罪悪感に苛まれていた。
その時。
『パァンッ!!』
ユキの頬が思いっきりビンタされた。リンだった。突然のことに目を丸くして、リンを見つめるユキ。
さらに。
『パァンッ!!』
「痛っ…ちょ!?」
2発目の往復ビンタ。ユキは訳が分からずただただリンに叩かれ続けている。他のみんなもポカンとしながらそれを見ている。
そして。
『パァンッ!!』
3発目のビンタが決まった。ユキは思いっきり吹っ飛んでいた。リンは腰に手を当てながらユキを見下ろしている。
「3発よ。」
「……え?」
「あんたがあたしを
叩いた回数。」
「これでおあいこよ!!
…馬鹿ユキ。」
笑顔でユキを見つめるリン。何が正しくて何が間違っているのか。それは分からない。だが、今回のことは、ユキとリンの間で“チャラ”になっていた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
ブックマーク・評価、宜しくお願いします。
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~
名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる