現世に馴染めなかった雪女は異世界転生でリミットブレイク

ざとういち

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雪女、vs運命

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ローグとの戦いが終結した後、ユキは気を失っていた。どれほどの時間が経ったのか。ユキの耳に薄っすらと声が聞こえてきた。

「……ん… 」

「…キ君…!」

「ユキ君!大丈夫か!?
 …ユキ君ッ!?」

「……あ。」

ユキの目に映ったのはミスティ先生の姿だった。ミスティ先生の隣にはエレナとモエが心配そうな顔で立っていた。

「…せんせ…。
 どう…して…?」

目が覚めたばかりなのとダメージで頭がぼーっとする。口が上手く回らない。

「私が先生に
 知らせたんす…!」

「みんなボロボロに
 なって倒れてて…!だから
 助けてくださいって…!」

「すまない…。
 私が早く気付いていれば
 こんなことには…。」

ユキはようやくほっとしていた。鈴子に大人は信じるなとは言われていたが、ミスティ先生は信頼出来る。根拠はないが不思議とそう思えた。

ここでユキは、満身創痍で心から抜け落ちてしまっていた大事なことを思い出した。

「…リンちゃんは!?」

「私は今ここに
 着いたばかりで…。
 まだリン君の姿は
 発見出来ていない…。」

ミスティ先生も不安そうな表情を浮かべていた。ユキはずっとここで激しい戦いを繰り広げていたのだ。それなのにリンは物音を気にすることもなく、姿を現さなかった。ユキの心はざわざわした…。

ユキは倒れている場合ではないと、力を振り絞り立ち上がる。モエは膝が笑っているユキの体を支えた。

ユキが戦っていたこの広い空間には、RINが出て来た破壊された扉の他に、まだ2つ鉄の扉が設置されている。

背後を気にすることもなく、今度こそ手分けして探すことにするユキたち。ユキとモエは左にある扉、ミスティ先生とエレナは右にある扉の先を確認する。

ユキの前には、ゴチャゴチャといろんな物が置かれている物置きのような光景が広がっていた。部屋の一角にはトイレと思われるドアやら、生活に必要な設備が設置されているようであった。

特に気になる箇所はない。ユキはリンが見つからないのに何故かほっとしていた。おかしい。そんなの異常だ。それは自分でも分かっている。

でも怖かった。発見されるリンは、本当に自分たちの知っているリンなのか…。モエは顔色が悪いユキのことを心配そうに見ていた。

「リン君…!!」

遠くからミスティ先生の声が響く。心臓の鼓動が激しさを増す。ユキはただでさえ重い体を引きずりながら、重い足取りで声の元へ向った。

…やめよう。悪い想像をするのは。きっと大丈夫。私が心配しすぎているだけで、きっとリンちゃんは普段通り素直になれないけど優しくて、ちょっぴり見栄っ張りの、そんな元気な姿を見せてくれるだろう…。

「お願いします…。」

「薬をください…。」

「なんでもしますから…。」

「お願いします…。」


モエちゃんは隣で泣き崩れている。エレナは顔を伏せて拳を握り締めている。ミスティ先生は、地面に座り込んで同じ言葉をずっと繰り返しているリンちゃんの横で様子を伺っているが、唇を噛み締めている。

ああ見えて繊細なリンちゃんは、魔物化の幻覚の時点で壊れてしまったのか。自分の運命に絶望してしまったのか。それとも…他にも何かあったのか。それは私には分からなかった。

世の中にはどうすることも出来ないことがあるのは分かっている。私もそうだった。雪山には仲間はいなかったし、力が暴走して止められなくなったし、鈴子ちゃんはいじめられてたし、トラックに撥ねられて元の世界には戻れなくなったし…。

それでも、私はそれを全部「仕方ない」と思って受け入れていた。どうすることも出来ないから無理やり納得していた。そうするしかなかった。

…じゃあこれも「仕方ない」のか?それで納得しろと言うのか…?私は嫌だ…。ワガママだとしても、無茶苦茶だとしても、ご都合主義だとしても、こんなの嫌だ…!!


ユキは突然、リンの胸ぐらを掴んで右手を振りかぶっていた。驚愕する一同。

『パァンッ!!』

リンの頬が平手打ちされる音が辺りに響く。激しく叩かれ赤くなってしまっている。

「やめろッ!!ユキ君ッ!!」

ミスティ先生が制止しようとするがユキは止まらない。もう一発加えようとしている。

「ユキさん…ッ!!
 やめてください…ッ!!」

「お願いします…。」

「なんでもしますから…。」

悪夢のような光景にエレナは口を押さえて震えている…。

「なんでもするなら…!」

『パァンッ!!』

「帰って来い…!!」

「馬鹿リン…ッ!!」

『パァンッ!!』

「やめろと言っているのが
 分からないのか…ッ!?」

ミスティ先生はユキを羽交い締めにしているが止まらない。お構いなしにリンの前に乗り出すユキ。言うことを聞く気配もない。ミスティ先生はやむを得ず、ユキを無理やり眠らせようとしていた。

「…うるさいわね。」

止まった。この場にいる全員の時が止まっているかのようだった。…リン以外は。

ユキは右手を震わせて顔を伏せている…。リンは元に戻ったかもしれない…。だが、それはたまたま運が良かっただけだ…。“神様の気まぐれ”でこんなことが起きているだけ。

そうでなければ、自分はいつまでもリンを殴り続けて、さらに取り返しの付かないことをしていただろう…。ユキは罪悪感に苛まれていた。

その時。

『パァンッ!!』

ユキの頬が思いっきりビンタされた。リンだった。突然のことに目を丸くして、リンを見つめるユキ。

さらに。

『パァンッ!!』

「痛っ…ちょ!?」

2発目の往復ビンタ。ユキは訳が分からずただただリンに叩かれ続けている。他のみんなもポカンとしながらそれを見ている。

そして。

『パァンッ!!』

3発目のビンタが決まった。ユキは思いっきり吹っ飛んでいた。リンは腰に手を当てながらユキを見下ろしている。

「3発よ。」

「……え?」

「あんたがあたしを
 叩いた回数。」

「これでおあいこよ!!
 …馬鹿ユキ。」

笑顔でユキを見つめるリン。何が正しくて何が間違っているのか。それは分からない。だが、今回のことは、ユキとリンの間で“チャラ”になっていた。
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