2 / 3
その2
しおりを挟む
白樺の群生地はかなり寒かった。
リモーネはここまで寒いと思っていなかったので、少し震えている。
カテン侍従が、焚火を始めた。
「この白樺のオイルは火にあてるととても良い香りがするのですよ」
少し焚火の上にシュッとかけてみる。
ふわあっと木の皮の良い香りが漂う。
いっしょにきた兵達も皆、鼻をクンクンさせて笑顔になっている。
「いい香りですね!来て良かったですわ!」
「そうか?それは良かった!」
俺の手柄のようにふるまっているが、オイルを撒いたのは侍従である。
けっ!ふざけるな、という顔をカテン侍従はした。
リモーネは目くばせをする。
うなずく、侍従と護衛のフリーズ。
背中を焚火にあたりながら、リモーネは林を指差しながら話をする。
「カーム様、この白樺はここだけですの?」
「ああ、今の所はな」
「向こうの荒野は広げられないのですか?」
「どうだろうな。難しいかもな。なぜだ?」
「いえ、こんなに素敵なオイル、少ししか取れないと言う話でしたから、白樺林を増やしたらたくさん撮れるのかなと思いまして」
「気に入ったのか?このオイル」
「ええ、とっても。ですからたくさんあったら嬉しいなと思いました。無理なら仕方ないですね」
「いいや、そのくらい開拓してみせる!見ててくれリモーネ!君のために、白樺林を広げよう!」
「まあ、素敵、さすがカーム様ですね!燃えていらっしゃるのですね!凄いですわ!」
「おお、体が熱いぞ!」
「カーム様がやる気に満ち溢れているのですよ!とても凄いですわ!」
「何か、何でもできそうだ!見ててくれ、リモーネ!君のためにこの荒野を切り開くよ!」
ぷぷっ。
ばーか、本当に背中が燃えているのに、気が付かないって本当にバカなのね?
焚火越しに、フリーズが魔法でこっそりセーターに火をつけたのだ。
背中中に広がるまで、カテン侍従が周りの目を他へ誘導していた。
だから、手遅れになる寸前まで誰も気が付かなかった。
「王子!燃えています!」
「ああ、俺は今、最高に熱い!」
当たり前だ!
カテンではない、お付きの侍従が、慌てて服をはたいて消そうとしているが、なかなか消えない。
わあわあとお付きのものや兵士や森の管理人が騒ぎたて、事が大きくなってきた。
だが、中々背中の火が消えない。
そりゃあそうよ、ケープ領の羊の毛糸ですもの。
油をたくさん含んだままの毛糸をわざとセーターにしましたから。
体に張り付いて、大変ですわね。
がんばって消してくださいな。
ほらほら、はいたいたら余計に燃えますよ?
脱げたらいいのにね。
無理でしょ。
あらあら、地面に転がって消すの?
どろんこですわね。
母国の旗印が泥まみれですわ!
「リモーネ様は危ないので、お戻りを!」
周りの声に押され、馬車でケープ屋敷に向かった。
その馬車の中に、父親のヴェルガーが隠れていた。
「心配でな、ついてきちゃったよ」
「お父様、笑うなら、お屋敷に帰ってから笑ってくださいな?」
「だって…お前…」
ぷぷぷと我慢してはいたのだが、押さえられなかったようだ。
うわははは!!とヴェルガーは帰り道の馬車の中で大声で笑った。
「バカだ、あいつは!」
「だから言っておりますでしょ?無能だって」
「俺は最高に熱い!とか言っているんだぞ?背中が火の海なんだもの当たり前だよ!あはは!」
「髪の毛が燃えた嫌なニオイしかしませんわ。本当に不愉快な男!」
「本当だ!しかし、あんな男とは思わなかったな。セレーサは婚約解消して良かった!」
「私が今度付きまとわれておりますのに!」
「でもお前は、楽しんでいないか?」
ふふっとリモーネは笑った。
「そりゃあ、黒海の牙と異名を持つ父上の娘ですもの?」
「婚約者どのは、きっと大やけどをされただろうから、特性の塗り薬でも送っておくといい。いや、体を温める、特製の入浴剤がいいかもな?」
笑いすぎて涙目の父親の提案に、ぶーっ!とリモーネは笑った。
そうしましょう!海の国の入浴剤を試していただきたいですわ。
そして、大やけどを負ったカームの元へ、贈り物が届く。
「ああ、優しいな。火傷跡に良く効く風呂に入れる薬か。なるほど、もう少しして風呂に入れるようになったらいれてみよう」
体が動かせるようになったカームは、さっそく優しい婚約者のリモーネから送られた、入浴剤を入れた風呂を作らせた。
私の代わりにカーム様を温められるように、と書かれていた。
「いいな、そそられる内容だ!」
おえーと思いながら、リモーネは書いていた。
「うん、薬草の匂いだな」
「優しいですな、リモーネ様は」
「うむ、無表情のセレーサとは大違いだ!」
そう言って、湯に体を勢いよく沈めた。
城中にカームの悲鳴が響いたのは当たり前である。
火傷が治りきらないのに、高濃度の塩水に体を浸したのだ。
真水で洗いなおしても、皮膚が塩で焼けた痛みはしばらくは治らない。
寝返りも打てず、少し動くと雷に打たれたかのように背中が痛む。
カームはうつぶせのまま何日も熱い体にうなされた。
カテン侍従から悲鳴が10日間ほど続いたことを秘密の手紙で教えてもらったリモーネとヴェルガーは、屋敷で大爆笑をした。
「わ、笑い死にしてしまう!あの男、何も疑わないんだな?」
「あははっ!あたたまったかしらね?!父上、あんなのが国王になるって怖いですね」
「まったくだ!陛下はそろそろ帰国されるはずだ。さあ、どうなるかな?」
国王陛下が諸国外交から帰ってきた翌日、ケープ領の2人に呼び出しがきた。
本当は、姉上にも城へ来るようにいわれていたが、さすがに無理だという事で、ヴェルガーとリモーネのみである。
「長女セレーサとの婚約破棄はしかと承りました。また次女のリモーネは、現在ラント殿との婚約を交わしております。その解消ができ次第ということになります」
「うるさい!早く、城に上がって来い、リモーネ!この前は毒のような入浴剤を送ってきて!」
「まあ、もしかしてカーム様、火傷が治らないうちにお入りになったのですか?あれは、火傷の跡に良く効く薬草風呂ですわ。治ってから入りませんと、激痛がしますよ?送った者が伝えたはずですが」
「う、うむ…」
聞いていたが早く感想を言いたくて傷が治る前に自分で入ったのだ。
もちろんスパイのカテン侍従がそう仕向けて、そそのかしたのだが。
「カーム、お前が悪い」
「っ!父上!」
「黙れ、女性の髪の毛を剣で、それも皆の前で切るなど、侮辱行為も甚だしい。少し反省しろ!」
もっと言ってください!陛下!
わくわくしながら、リモーネはひざまづいていた。
ふと、殺意をおびた視線があるのに気が付いた。
顔を下げたまま、その方向を見ると、黒髪の騎士団の制服を着ている男性に目が留まった。
この人、あの夜の!
カーム様を憎んでいらっしゃる目だ。
間違いない、月明かりの夜に姉上様をなぐさめて抱きしめていた人。
そうだ、思い出した!
陛下の15才年下の弟君、アラミス殿下だ。
え、姉上様はアラミス様がお好きだったの?!
確か近衛兵の団長をされていて。
陛下と共に外交に行っていたはず…
じゃあ、馬を飛ばして姉上様のために、あの夜だけお戻りに?
『……!』
リモーネは、アラミス殿下の心境を思うと涙が出そうだった。
きっと一報が入ったと同時に馬を飛ばし、駆けつけたに違いない。
姉上様をなぐさめて、そしてまた陛下に付き添いに戻られた…
斬り殺したいだろうな。カーム様を。
ご安心くださいませ、そのお役目、私が承ります!
「大体父上、髪の毛を切られたくらいで病気になって修道院にこもるなど、心が弱すぎます。元気な俺とは元々合わなかったんですよ。その点リモーネは丈夫そうだから安心だ。なあ?」
陛下のあきれ顔を見ても平気だ、このバカ王子。
父上の殺意がわからないのだろうか?
アラミス殿下の手は剣を抜くのを我慢しているのが見えないんだろうか?
私をギリギリ侮辱寸前は許されると思っているのか?
お前はそんなに高潔な人間か?
この王子はこの婚約破棄騒動の他にも色々とやらかしている。
取り巻きの貴族の坊ちゃんたちから誘われて怪しげなものを吸って奇声をあげるのはしょっちゅう。
すごい時は、素っ裸のまま馬に乗って街中を走り回ったり。そして覚えていない。
宝石を誰彼構わずばら撒き、自分の地位を誇示しようとしたり。
おもえば、姉上とカーム王子の婚約は、カーム王子が姉上を園遊会で一目ぼれしたことによるものだ。
姉上に好きな人がいて、父上が断りに断りを重ねてもしつこく婚約しろとせまってきた。
挙句の果てに未来の国王に逆らうのかと言ってきた。
その時の父上のお怒りは凄まじいものだった。
『臣下に自分の欲望を押し付ける者は上に立つ資格がない!』
国王陛下に直談判したらしい。
国王は、バカ息子のしたことをよくよく知っていて、申しわけないと言われたらしい。
きっとすぐに飽きるだろうから、形だけ婚約ということになっていた。
いつでも解消しても大丈夫なように、手出しはさせないようにして。
だが、このたびの解消の仕方は許されるものではない。
言葉で言えば終わる所を、みんながいる前で髪の毛を切り落とすという侮辱行為だ。
それも国王に断らず勝手に解消、そして私に乗り換えだ。
ちなみに、まだ書類は作成されていない。
私は、ボスコ領のラント様の婚約者のままだ。
「では、カーム様、我がケープ領で療養ください。海の幸が豊富でございます。波の穏やかな時に船で海に繰り出せば、きっとお気持ちもやすらぎます。姉上様は領地はずれの修道院に入っておりますから会うこともございません」
ニコニコしながら、リモーネはカームを誘った。
「う、うーん」
あまり気乗りしないようだった。
父上は、スパイのカテン侍従に目くばせする。
「王子、海風は気持ちよさそうですよ。それに婚約者のリモーネ様のご領地を見聞されるのも有意義な時間かと思われます」
「ああ、そうか。そうだな。じゃあしばらく滞在してもよいだろうか?」
素晴らしい!カテン侍従!
リモーネはこころの中で賛辞を送った。
お前の墓場はケープ領だ!
二度とこの王城に戻ってこられないと思え!
そう思って親子そろって陛下のお顔を見つめた。
父上の殺気はとめられない。
そうだろうな、仕方ないとばかり、陛下は肩でため息をついておられた。
少し顔を上げていたリモーネは、アラミス殿下と目が合った。
にやっとリモーネは笑い、意味ありげに軽く2回うなずき、ゆっくりとまばたきをした。
『!』
少し驚いたようだが、恐らく意図は伝わったと思われる。
アラミス殿下は、そっと腰の剣に触れた。
『後は頼む』
『承りました』
リモーネはここまで寒いと思っていなかったので、少し震えている。
カテン侍従が、焚火を始めた。
「この白樺のオイルは火にあてるととても良い香りがするのですよ」
少し焚火の上にシュッとかけてみる。
ふわあっと木の皮の良い香りが漂う。
いっしょにきた兵達も皆、鼻をクンクンさせて笑顔になっている。
「いい香りですね!来て良かったですわ!」
「そうか?それは良かった!」
俺の手柄のようにふるまっているが、オイルを撒いたのは侍従である。
けっ!ふざけるな、という顔をカテン侍従はした。
リモーネは目くばせをする。
うなずく、侍従と護衛のフリーズ。
背中を焚火にあたりながら、リモーネは林を指差しながら話をする。
「カーム様、この白樺はここだけですの?」
「ああ、今の所はな」
「向こうの荒野は広げられないのですか?」
「どうだろうな。難しいかもな。なぜだ?」
「いえ、こんなに素敵なオイル、少ししか取れないと言う話でしたから、白樺林を増やしたらたくさん撮れるのかなと思いまして」
「気に入ったのか?このオイル」
「ええ、とっても。ですからたくさんあったら嬉しいなと思いました。無理なら仕方ないですね」
「いいや、そのくらい開拓してみせる!見ててくれリモーネ!君のために、白樺林を広げよう!」
「まあ、素敵、さすがカーム様ですね!燃えていらっしゃるのですね!凄いですわ!」
「おお、体が熱いぞ!」
「カーム様がやる気に満ち溢れているのですよ!とても凄いですわ!」
「何か、何でもできそうだ!見ててくれ、リモーネ!君のためにこの荒野を切り開くよ!」
ぷぷっ。
ばーか、本当に背中が燃えているのに、気が付かないって本当にバカなのね?
焚火越しに、フリーズが魔法でこっそりセーターに火をつけたのだ。
背中中に広がるまで、カテン侍従が周りの目を他へ誘導していた。
だから、手遅れになる寸前まで誰も気が付かなかった。
「王子!燃えています!」
「ああ、俺は今、最高に熱い!」
当たり前だ!
カテンではない、お付きの侍従が、慌てて服をはたいて消そうとしているが、なかなか消えない。
わあわあとお付きのものや兵士や森の管理人が騒ぎたて、事が大きくなってきた。
だが、中々背中の火が消えない。
そりゃあそうよ、ケープ領の羊の毛糸ですもの。
油をたくさん含んだままの毛糸をわざとセーターにしましたから。
体に張り付いて、大変ですわね。
がんばって消してくださいな。
ほらほら、はいたいたら余計に燃えますよ?
脱げたらいいのにね。
無理でしょ。
あらあら、地面に転がって消すの?
どろんこですわね。
母国の旗印が泥まみれですわ!
「リモーネ様は危ないので、お戻りを!」
周りの声に押され、馬車でケープ屋敷に向かった。
その馬車の中に、父親のヴェルガーが隠れていた。
「心配でな、ついてきちゃったよ」
「お父様、笑うなら、お屋敷に帰ってから笑ってくださいな?」
「だって…お前…」
ぷぷぷと我慢してはいたのだが、押さえられなかったようだ。
うわははは!!とヴェルガーは帰り道の馬車の中で大声で笑った。
「バカだ、あいつは!」
「だから言っておりますでしょ?無能だって」
「俺は最高に熱い!とか言っているんだぞ?背中が火の海なんだもの当たり前だよ!あはは!」
「髪の毛が燃えた嫌なニオイしかしませんわ。本当に不愉快な男!」
「本当だ!しかし、あんな男とは思わなかったな。セレーサは婚約解消して良かった!」
「私が今度付きまとわれておりますのに!」
「でもお前は、楽しんでいないか?」
ふふっとリモーネは笑った。
「そりゃあ、黒海の牙と異名を持つ父上の娘ですもの?」
「婚約者どのは、きっと大やけどをされただろうから、特性の塗り薬でも送っておくといい。いや、体を温める、特製の入浴剤がいいかもな?」
笑いすぎて涙目の父親の提案に、ぶーっ!とリモーネは笑った。
そうしましょう!海の国の入浴剤を試していただきたいですわ。
そして、大やけどを負ったカームの元へ、贈り物が届く。
「ああ、優しいな。火傷跡に良く効く風呂に入れる薬か。なるほど、もう少しして風呂に入れるようになったらいれてみよう」
体が動かせるようになったカームは、さっそく優しい婚約者のリモーネから送られた、入浴剤を入れた風呂を作らせた。
私の代わりにカーム様を温められるように、と書かれていた。
「いいな、そそられる内容だ!」
おえーと思いながら、リモーネは書いていた。
「うん、薬草の匂いだな」
「優しいですな、リモーネ様は」
「うむ、無表情のセレーサとは大違いだ!」
そう言って、湯に体を勢いよく沈めた。
城中にカームの悲鳴が響いたのは当たり前である。
火傷が治りきらないのに、高濃度の塩水に体を浸したのだ。
真水で洗いなおしても、皮膚が塩で焼けた痛みはしばらくは治らない。
寝返りも打てず、少し動くと雷に打たれたかのように背中が痛む。
カームはうつぶせのまま何日も熱い体にうなされた。
カテン侍従から悲鳴が10日間ほど続いたことを秘密の手紙で教えてもらったリモーネとヴェルガーは、屋敷で大爆笑をした。
「わ、笑い死にしてしまう!あの男、何も疑わないんだな?」
「あははっ!あたたまったかしらね?!父上、あんなのが国王になるって怖いですね」
「まったくだ!陛下はそろそろ帰国されるはずだ。さあ、どうなるかな?」
国王陛下が諸国外交から帰ってきた翌日、ケープ領の2人に呼び出しがきた。
本当は、姉上にも城へ来るようにいわれていたが、さすがに無理だという事で、ヴェルガーとリモーネのみである。
「長女セレーサとの婚約破棄はしかと承りました。また次女のリモーネは、現在ラント殿との婚約を交わしております。その解消ができ次第ということになります」
「うるさい!早く、城に上がって来い、リモーネ!この前は毒のような入浴剤を送ってきて!」
「まあ、もしかしてカーム様、火傷が治らないうちにお入りになったのですか?あれは、火傷の跡に良く効く薬草風呂ですわ。治ってから入りませんと、激痛がしますよ?送った者が伝えたはずですが」
「う、うむ…」
聞いていたが早く感想を言いたくて傷が治る前に自分で入ったのだ。
もちろんスパイのカテン侍従がそう仕向けて、そそのかしたのだが。
「カーム、お前が悪い」
「っ!父上!」
「黙れ、女性の髪の毛を剣で、それも皆の前で切るなど、侮辱行為も甚だしい。少し反省しろ!」
もっと言ってください!陛下!
わくわくしながら、リモーネはひざまづいていた。
ふと、殺意をおびた視線があるのに気が付いた。
顔を下げたまま、その方向を見ると、黒髪の騎士団の制服を着ている男性に目が留まった。
この人、あの夜の!
カーム様を憎んでいらっしゃる目だ。
間違いない、月明かりの夜に姉上様をなぐさめて抱きしめていた人。
そうだ、思い出した!
陛下の15才年下の弟君、アラミス殿下だ。
え、姉上様はアラミス様がお好きだったの?!
確か近衛兵の団長をされていて。
陛下と共に外交に行っていたはず…
じゃあ、馬を飛ばして姉上様のために、あの夜だけお戻りに?
『……!』
リモーネは、アラミス殿下の心境を思うと涙が出そうだった。
きっと一報が入ったと同時に馬を飛ばし、駆けつけたに違いない。
姉上様をなぐさめて、そしてまた陛下に付き添いに戻られた…
斬り殺したいだろうな。カーム様を。
ご安心くださいませ、そのお役目、私が承ります!
「大体父上、髪の毛を切られたくらいで病気になって修道院にこもるなど、心が弱すぎます。元気な俺とは元々合わなかったんですよ。その点リモーネは丈夫そうだから安心だ。なあ?」
陛下のあきれ顔を見ても平気だ、このバカ王子。
父上の殺意がわからないのだろうか?
アラミス殿下の手は剣を抜くのを我慢しているのが見えないんだろうか?
私をギリギリ侮辱寸前は許されると思っているのか?
お前はそんなに高潔な人間か?
この王子はこの婚約破棄騒動の他にも色々とやらかしている。
取り巻きの貴族の坊ちゃんたちから誘われて怪しげなものを吸って奇声をあげるのはしょっちゅう。
すごい時は、素っ裸のまま馬に乗って街中を走り回ったり。そして覚えていない。
宝石を誰彼構わずばら撒き、自分の地位を誇示しようとしたり。
おもえば、姉上とカーム王子の婚約は、カーム王子が姉上を園遊会で一目ぼれしたことによるものだ。
姉上に好きな人がいて、父上が断りに断りを重ねてもしつこく婚約しろとせまってきた。
挙句の果てに未来の国王に逆らうのかと言ってきた。
その時の父上のお怒りは凄まじいものだった。
『臣下に自分の欲望を押し付ける者は上に立つ資格がない!』
国王陛下に直談判したらしい。
国王は、バカ息子のしたことをよくよく知っていて、申しわけないと言われたらしい。
きっとすぐに飽きるだろうから、形だけ婚約ということになっていた。
いつでも解消しても大丈夫なように、手出しはさせないようにして。
だが、このたびの解消の仕方は許されるものではない。
言葉で言えば終わる所を、みんながいる前で髪の毛を切り落とすという侮辱行為だ。
それも国王に断らず勝手に解消、そして私に乗り換えだ。
ちなみに、まだ書類は作成されていない。
私は、ボスコ領のラント様の婚約者のままだ。
「では、カーム様、我がケープ領で療養ください。海の幸が豊富でございます。波の穏やかな時に船で海に繰り出せば、きっとお気持ちもやすらぎます。姉上様は領地はずれの修道院に入っておりますから会うこともございません」
ニコニコしながら、リモーネはカームを誘った。
「う、うーん」
あまり気乗りしないようだった。
父上は、スパイのカテン侍従に目くばせする。
「王子、海風は気持ちよさそうですよ。それに婚約者のリモーネ様のご領地を見聞されるのも有意義な時間かと思われます」
「ああ、そうか。そうだな。じゃあしばらく滞在してもよいだろうか?」
素晴らしい!カテン侍従!
リモーネはこころの中で賛辞を送った。
お前の墓場はケープ領だ!
二度とこの王城に戻ってこられないと思え!
そう思って親子そろって陛下のお顔を見つめた。
父上の殺気はとめられない。
そうだろうな、仕方ないとばかり、陛下は肩でため息をついておられた。
少し顔を上げていたリモーネは、アラミス殿下と目が合った。
にやっとリモーネは笑い、意味ありげに軽く2回うなずき、ゆっくりとまばたきをした。
『!』
少し驚いたようだが、恐らく意図は伝わったと思われる。
アラミス殿下は、そっと腰の剣に触れた。
『後は頼む』
『承りました』
23
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
妹の身代わりだった私に「本命は君だ」――王宮前で王子に抱き潰され、溺愛がバレました。~私が虐げられるきっかけになった少年が、私と王子を結び付
唯崎りいち
恋愛
妹の身代わりとして王子とデートすることになった私。でも王子の本命は最初から私で――。長年虐げられ、地味でみすぼらしい私が、王子の愛と溺愛に包まれ、ついに幸せを掴む甘々ラブファンタジー。妹や家族との誤解、影武者の存在も絡み、ハラハラと胸キュンが止まらない物語。
邪魔者な私なもので
あんど もあ
ファンタジー
婚約者のウィレル様が、私の妹を食事に誘ったと報告をしてきました。なんて親切な方なのでしょう。でも、シェフが家にいるのになぜレストランに行くのですか?
天然な人の良いお嬢さまが、意図せずざまぁをする話。
婚約破棄されたので、隠していた聖女の力で聖樹を咲かせてみました
Megumi
恋愛
偽聖女と蔑まれ、婚約破棄されたイザベラ。
「お前は地味で、暗くて、何の取り柄もない」
元婚約者である王子はそう言い放った。
十年間、寡黙な令嬢を演じ続けた彼女。
その沈黙には、理由があった。
その夜、王都を照らす奇跡の光。
枯れた聖樹が満開に咲き誇り、人々は囁いた。
「真の聖女が目覚めた」と——
事務仕事しかできない無能?いいえ、空間支配スキルです。~勇者パーティの事務員として整理整頓していたら、いつの間にか銅像が立っていました~
水月
恋愛
「在庫整理しかできない無能は不要だ」
第一王子から、晩餐会の場で婚約破棄と国外追放を告げられた公爵令嬢ユズハ。
彼女のギフト【在庫整理】は、荷物の整理しかできないハズレスキルだと蔑まれていた。
だが、彼女は知っていた。
その真価は、指定空間内のあらゆる物質の最適化であることを。
追放先で出会った要領の悪い勇者パーティに対し、ユズハは事務的に、かつ冷徹に最適化を開始する。
「勇者様、右腕の筋肉配置を効率化しました」
「魔王の心臓、少し左にずらしておきましたね」
戦場を、兵站を、さらには魔王の命までをも在庫として処理し続けた結果、彼女はいつしか魔王討伐勇者パーティの一人として、威圧感溢れる銅像にまでなってしまう。
効率を愛する事務屋令嬢は、自分を捨てた国を不良債権として切り捨て、再出発する。
真実の愛を見つけた王太子殿下、婚約破棄の前に10年分の王家運営費1.5億枚を精算して頂けます?
ぱすた屋さん
恋愛
「エルゼ、婚約を破棄する! 私は真実の愛を見つけたのだ!」
建国記念祭の夜会、王太子アルフォンスに断罪された公爵令嬢エルゼ。
だが彼女は泣き崩れるどころか、事務的に一枚の書類を取り出した。
「承知いたしました。では、我が家が立て替えた10年分の王家運営費――金貨1億5800万枚の精算をお願いします」
宝石代、夜会費、そして城の維持費。
すべてを公爵家の「融資」で賄っていた王家に、返済能力などあるはずもない。
「支払えない? では担保として、王都の魔力供給と水道、食料搬入路の使用を差し止めます。あ、殿下が今履いている靴も我が家の備品ですので、今すぐ脱いでくださいね?」
暗闇に沈む王城で、靴下姿で這いつくばる元婚約者。
下着同然の姿で震える「自称・聖女」。
「ゴミの分別は、淑女の嗜みですわ」
沈みゆく泥舟(王国)を捨て、彼女を「財務卿」として熱望する隣国の帝国へと向かう、爽快な論理的ざまぁ短編!
婚約破棄? 私、この国の守護神ですが。
國樹田 樹
恋愛
王宮の舞踏会場にて婚約破棄を宣言された公爵令嬢・メリザンド=デラクロワ。
声高に断罪を叫ぶ王太子を前に、彼女は余裕の笑みを湛えていた。
愚かな男―――否、愚かな人間に、女神は鉄槌を下す。
古の盟約に縛られた一人の『女性』を巡る、悲恋と未来のお話。
よくある感じのざまぁ物語です。
ふんわり設定。ゆるーくお読みください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる