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番外編①卒業式の夜に

③大聖堂へ

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 養成校のドラゴンランディングでは、公爵の愛竜フィズとぼくの愛竜ムートが待っていた。

 初めて出会ったときは子犬みたいにちっちゃかったムートも、今では立派な成龍だ。

 竜神だから、身体の大きさは元々自在に変えることができるみたいだけれど。長時間実体を保ち続けるのが楽な大きさは、この世界に実体を持ったときからの経過時間に比例しているらしい。

「ルディ。養成校に入校したばかりのころは、服に着られているかのようだったが、すっかりその制服も板についてきたな」

 王立騎士養成校の制服をまとったぼくを見て、フィズが感慨深げに目を細める。

「この制服を着るのも今日で最後なんだって思うと、ちょっと寂しくなるよ」

 養成校の卒業生のなかには、王立騎士団に入団する者だけでなく、ぼくのように地元で領主見習いになる者、国境警備など、辺境での職務に携わる者など、さまざまな道に進む者がいる。

 みんなと過ごせるのもこれで最後なんだって思うと、謝恩会に出ておくべきだったかなぁとも思うのだけれど――。

 公爵に、『お前は女子の目を惹きすぎる。年ごろの令嬢が婿探しをする場なんぞに顔を出せば、それこそ砂糖に群がるアリのように、女子(おなご)たちが我先にと押し寄せてくるぞ』と脅され、不安な気持ちになってしまったのだ。

 実際問題として、ルディの容姿は目立ちすぎる。

 きらっきらに煌く金色の髪と、晴れ渡った空みたいに真っ青な瞳。陶器のようになめらかな白い肌に、少年らしいあどけなさをかすかに残しながらも、凛とした美しい顔立ち。

 さすがは、ゲームのなかで『顔だけは世界一いいけれど、中身が最低最悪』と言われていた悪役令息だ。

 どこにいても、老若男女の注目を集めてしまう。

 それが嫌で、できるだけ目立たないよう控えめに、周囲の反感を買わないよう、穏やかに笑顔で過ごすよう心がけていたのだけれど。逆に、それがよくない方向に働いてしまったのかもしれない。

『華やかで外見がずば抜けて優れているのに、決して顔のよさを鼻にかけることなく、謙虚で心優しい好青年』という、実物を思いっきり美化しすぎた評判が広まってしまったのだ。

 公爵家には、謝恩会前からライバルに出遅れまいと、『謝恩会ではぜひいっしょにダンスを踊って欲しい』と名家の令嬢やその親御さんから申し込みの手紙が殺到している。

 この国では、ツァイトガイスト公爵家は王家に次ぐ名門だ。

 許嫁がいるわけでもないのに、むやみやたらとダンスの誘いを断れば、当然角が立つ。

 かといって、全員と踊るのは物理的に不可能だし、そもそも、ルーカス主催の謝恩会でぼくが特定の令嬢をエスコートして、彼が黙っているとも思えない。

 ヤンデレ独占欲を全開にしたルーカス陛下の、ぼくへの執着ムーブ。

 前国王陛下のつよつよ公爵だからこそ、あんなふうに軽くいなすことができるけれど。

 うら若き乙女があの調子で詰め寄られたら、それこそ一生涯心に爪痕の残る、トラウマになってしまうのではないだろうか。

 ぐったりとうなだれつつ、ムートに騎竜しようとしたぼくに、公爵が告げる。

「ルディ、城に帰る前に、大聖堂に寄るぞ」

「大聖堂って、公爵領の、ですか?」

「ああ」

 短く頷き、公爵はふわりと宙に舞い上がるように軽やかに、フィズに飛び乗る。

 ぼくもようやくムートに飛び乗れるようになったけれど、公爵みたいにスマートな乗り方はできない。

 えいっと気合を入れてジャンプし、跳び箱を飛ぶみたいにして、またがることしかできない。

 いつか、公爵みたいにかっこよくキメられるようになりたいなぁ、と思いつつ、今はまだ修行中の身だ。

「今日、なにか宗教行事、ありましたっけ?」

 頭のなかで、スケジュールを確認してみる。

 だけど、なんの予定も思い出せそうになかった。

「行くぞ」

 なぜ大聖堂に行くのか教えてくれないまま、公爵はフィズに飛び立つよう命じる。

 ぼくは不思議に思いながらも、ムートとともに公爵たちを追いかけた。
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