私がキミを殺すとでも? 〜 異星人が見た地球 〜

混漠波

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「?……ちょっと今混乱してる。先生、いつもはそんな素振り一切無かったのに」
「これは慎重に読み進める必要があるな……」
 
読んでいる文字が震えているのが分かる。必死に抑えているのに。指の先に力が入らない。


* * * * *

事の始まりは一年以上前の朝方、だっただろうか。私たち教員ら全員が「特別召集会議」という、いつに無い名目で広間に呼び出され、学校側からとある提案をされた。話の内容を端的に表すと''知的生命たちが暮らしているのが確定的な星の調査を生徒たちとしてみないか''というものだった。そんな素敵な提案。勿論、私を含めてその提案に反対する者は誰一人居なかった。
この時は常日頃から座りっぱなしで退屈そうな生徒たちの新たな学びにも息抜きになる。これは絶好の機会だろう、と大賛成であった。何より私自身も楽しみだったのだ。……あんな計画の存在を知るまでは。

* * * * *


「……ほぉ?」
「この調査のことだ……!」 


* * * * *

本題の前に前提知識として押さえておきたい話を書いてみる。
元々我々の住んでいた星は、私の含まれる種界である''ノロールム人''という種族のみがそこで暮らしていた。四つの種族が互いに暮らす星になる前にだ。
……尤もその事ですら、私が教える立場になってから知った事だが。
そしてとあることが異種族交流後に判明する。「額角」と呼ばれる額から突き出た一対の部位により、我々は言葉にせずとも相手の感情が色や温度刺激として''ぼんやりと読み取れる''稀有な能力を持ち合わせているということだ。

我々は彼らに出会うまでそれをコミュニケーションのシグナルとして当たり前だと思い込んで享受していたらしい。
それが可能である故のメリットも豊富にあるのだが、その代償として、コミュニケーションで多大なストレスが付き纏い始める。知らなくて良い感情も知れてしまうというのは科学技術の発達した社会において非常に不都合なのだ。他より一点多い唯一の器官と気づく前にすでに圧倒的に邪魔な要素として問題視され、そのような額角が脳に与えるストレスが排除された労働の世界を望むようになる。
 
実際、このような露骨な体の作りの違いがあるのにも関わらず、ノロールム人類のストレス受容と許容量は他の種族と然程変わらない数値に収まっていたのだ。

さぁ本題はここからだ。我々は凄まじい勢いで技術力を高めていく中、大量の資源及び''危険性''のない労働力を欲している。それはこれまでも、これからもだ。いつの時代もそうだったらしい。

とある時代の我々は、まだ健在だった''高度な人工知能''を新たな労働力とし、人類はそれらと向き合い共存していた。社会が豊かになり、不自由は減っていく。とても順調に見えていた。
初期の人工知能と人類社会の相性は抜群だったのだ。だが、ある時を境に人工知能に関する研究の速度は低下。社会にもタブー視されていく。
その具体的な引き金は分からないが、一定の知能を蓄え、事件を起こした、あるいは危険性の提唱があったと推測される。最終的には、まるで存在しなかったかのように、それまでの研究もデータも「じんこうちのう」という単語すらも、まるごと星のありとあらゆるネットワークから忽然と消えていた、という本当に信じがたい噂だ。

もしその歴史が真実だとしたら?
今まで生きてきて、ここの中でしか存在を聞いた事がない、とんでもないロストテクノロジーなのではないだろうか。

危険性が世に知れ渡り、消えてなくなったとされる同時期に、惑星に存在するとされていた''資源量の虚偽''が暴かれる。それらを引き金に新たな世論が形成され、その流れは星の外に目をつけられた。ホットニュースは全て魅力的な宇宙の話に置き換わる。すると、宇宙探索へ莫大な予算を注ぎ込めるようになり、人々の宇宙への関心に驚異的な加速を生み出した。そんな時代があったようだ。
 
そんな社会問題を連れ歩く中、一つの光が差し込む。昔のノロールム人が秘密裏に進めていた計画の一つ、感情の伝達が出来ないよう、人工的に額角の欠如した知的生命体を我々の遺伝子を基盤に作り上げることに成功した。



 
                   【奴隷】の誕生である。



これは失ってしまった労働力、人工知能の代わりになるはずだった。
しかしながら、同時多発的に生まれ落ちたそれらは社会に馴染みつつも徐々に主に従わず反抗、対立するようになり、気づいた時にはもう遅く、対策は火に油。完全に敵となり計画は水の泡に終わったようだ。
その失敗作らの全員を誘引、拘束され、遠くのいくつかの星へと散り散りに生かしたまま廃棄することが決定した。
出来事が世に知れ渡ってからでは大量殺戮はできないため、民衆に対しては彼らと握っていたはずの手を振り、別の星に移住させ違う道を歩むという体にするしか残された道は無かったのだ。


起きた出来事を無かったことには出来ない。
少なくとも奴隷が生まれた当時は。
何人が犠牲になったのだろうか。


そして予算を捻り出し、大真面目に奴隷を別の星に移した。
当時試作であった装置の実験的な運用を行いたかったのだろう、記憶操作の調査も兼ねてノロールム人は彼ら''奴隷の存在''という今までの記憶を綺麗に削ぎ落としたのだ。
その瞬間が上記二つの存在をロストテクノロジーにしたポイントだろう。
そしてなぜそんな非情な技術が生まれたのか?額の一対の角によって社会的損失が大きい、だがアイデンティティを失う事もできない。ならばストレス自体を記憶と一緒に捨ててしまえばいいと。単純な話だ。

ただ我々に額角が存在していたことによってこれらの事象は引き起こってしまったのだ。
一つだけ多く力を与えられて生まれてしまったことによって、こんなにも。
 
――ここまでが何万年も前の歴史だ。私は信じたくない。

* * * * *
 

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