19 / 19
1章【緑の竜と新しき伝説】
18話─襲撃-2-
しおりを挟む
「…ん…んー…?」
「ん?おお、ようやく目覚めたようだのぉ」
「がく…えんちょう?……ということはここは天国ですか?」
「ちょっと…いや、結構ひどくないかのぉ」
リュークは体を起こした。
「…ここは?」
「学校の医療室じゃよ。お主が来たと思ったらすぐ倒れたからのぉ。他のものもすごい心配しておったぞ」
「そうですか…でもなんで倒れたんですか?」
リュークは自分が倒れた原因をわかっていなかった。
学園長は、リュークが気づいていないことにすこし驚きながらも、その疑問に答えた。
「…貧血と、魔力枯渇じゃよ」
「魔力枯渇…でもそこまで魔力使ってないですよ」
「あの場で魔封じをされたのは覚えておるじゃろ?」
「はい、魔法が一切使えませんでしたし」
「魔封じと言うものの効果、それは魔力を魔素化する。と言うものなのじゃ」
魔素、それは空気中に漂う魔力の名前である。
だが、魔力とはすこし異なるため魔素で直接魔法を使ったりはできない。
魔力を持ったもの─動物や植物など、生命のあるものが死ぬと、その体内に残っている魔力は魔素となる。
だが、死ぬ以外にも特別なものを用いることにより魔力を魔素に、または魔素を魔力に変換させることができる。
魔封じも変換させることの出来る物の一つである。
効果としては、体内から放出される魔力を魔素に変換するものである。
いくら体内の魔力を使おうと、魔素から魔力に変換させて使おうとも、魔素に変えられてしまうために魔法が使えなくなる。
「おそらく魔法を使ったときも、その魔封じの効果がのこっており、結果的に消費した魔力が多くなった。ということじゃろ」
「どういうことですか?」
「たとえばじゃ、火の魔法を使う時に通常なら1割消費する魔力が、魔封じの効果が残っており、1割ではなく8割使われた。ということじゃ。8割のうち、必要な量は魔法に、残る7割は魔素に変換させられてしまった。ということじゃ。」
「そうですか…それで、その後襲撃はありましたか?」
「いや、なかったぞ」
「よかった…えっと、みんなはどうしたんですか?」
「今かの?授業中じゃよ」
「…え?」
「お主はまる1日寝取ったからの。普通に授業中じゃよ」
そしてヴィイは座っている椅子から立ち、リュークに頭を下げた。
「すまなかった」
「が、学園長!?ど、どうしたんですか!?」
「あそこで襲われたのはお主じゃろ。だとしたら責任の一環はワシにもある」
「どういうことですか?」
「ワシの予想でじゃが…お主を襲うよう仕向けたのはマーリンじゃ」
「マーリンって…あの会議のときの?」
「そうじゃ」
そしてヴィイはマーリンの立場、なぜリュークを襲ったのかの予想を言った。
マーリンのことを知ったリュークはため息をついた。
「魔法属性の相性を否定するだけで十分に名声は得られると思うんだけどな…」
「ワシもそのことは言ったのじゃが…信じてくれなくてのぉ」
「…ん?学園長も属性相性がないことを知ってるのですか?」
「属性相性は若い魔法使いしか信じておらんよ。ただ否定するにも否定材料が少ないし、ワシらが気づかなくても誰かが気づくだろう。ということで若い者の名声のために老人は否定していないんじゃ」
「若い者の名声…そんなことまで考えているんですか」
「じゃから、この学校では属性相性なんて教えておらんじゃろ?」
ふと思い返してみれば、この学校に所属している教職員の口から「相性」なんて言葉が一度も出ていないことをリュークは思い出す。
「でも知っているならこの学校の教師の誰かが言ってもおかしくないような…」
「じゃから、断言できるほどの否定材料がないんじゃ。すこし前にも否定した者がおったが、あくまでも憶測や偶然などといって認可されなくてのぉ」
するとヴィイは何か思いついたのか手をポンと叩き、リュークを見た。
「お主なら否定材料を持っておるじゃろ?お主が言ってみてはどうじゃ?」
「嫌ですよ…目立ちたくないの知ってますよね」
「そうじゃった…忘れておったわい」
ヴィイは残念だとばかりに深いため息をつく。
「それで…僕はこの後授業に出た方がいいですかね?」
「今日は欠席扱いじゃから、出るも良いが休まなくて大丈夫かの?」
「欠席扱いであれば、自分の部屋で寝てきます…まだ眠いので」
「そうかそうか。ゆっくり休むんじゃぞ」
「はい、お疲れ様です」
リュークはヴィイに挨拶をすると、医療室を出て寮の自分の部屋で寝た。
☆☆☆
「どうしたら!どうしたらいいの!」
「マーリン様!落ち着いてください!」
「落ち着いていられないわよ!あの子供が欲しいの!なのに全く案が思いつかないの!」
マーリンは狂ったように部屋にある家具を投げたりしている。
彼女はリュークを欲していた。その理由はリュークの魔法だけではなかった。
「あんな魔力量があるなら!私のあの仮説も証明できるはずなのよ!」
リュークの捕捉に失敗した後、襲撃した者からの報告書により判明したことがある。
魔封じには複数の種類がある。
起動に時間がかかり、密室でしか使えないお香・煙型。
飲ませれば封じさせることが可能であり、量により変動はするが場所に縛りがない液体型。
完全に封じることが出来ないものの、風に乗せれば不特定多数にすることが可能な粉末型。
そして範囲は狭いが即効性のある波型。
今回使ったのは最後の波型魔封じだ。
これは特殊な空気の波で魔封じの効果を与えるものである。
だが強い風に弱く、風の吹かない、吹きにくいところでしか使えない。その効果を最大限引き出すのにも、土壁による密室は効果的であった。
だが、土壁が崩壊し、その崩壊による風が起きた。
その風で多少波の魔封じが乱れた。
そう、多少である。
最大限の魔封じはできないものの、それでもあの状況では9割の魔封じ効果があった。
そんな中、人を吹き飛ばすほどの風を放ち、浮遊魔法を使った。
浮遊魔法に使われる魔力量は不明であるのだが、あの状況での風魔法を見ただけでも彼の魔力量は最上位魔道士並の魔力量を持つことがわかる。
それを知ったマーリンは、自分を超える魔力を有しているリュークを強く求めるようになった。
「何か…何かいい案は…」
「…そうだ、私から案があります」
「!?い、言ってみてくれ」
マーリンの従者は、マーリンにふたつの案を出した。
一つは、内容は証拠の隠滅を徹底しないとすぐに犯人が分かってしまうハイリスクな物だ。
だが、成功確率は高いためハイリスクハイリターンな物となっている。
「…いや、それではだめだ。リスクが大きすぎる…」
「ではもう一つの方を。私の知り合いに、クルアーサル魔術学校に通っている人がいましてね」
「それで?」
「その人を使ってですね──────」
そして内容を話した。
それはリスクがない訳では無いが先ほどの提案より低く、成功確率も程々であるものだ。
「…!?そ、それだ!すぐに用意してくれ!」
「わかりました。ではあれの使用許可を」
「え?あ、あれはまだ未完成でだな…」
「未完成と言っても使用に予め必要となる魔力があるだけじゃないですか」
「それだけではない。継続して魔力を与えなければならないものだ」
「それは解決しています。魔封じの効果で空気中に出た魔素を魔力に変換させ、その魔力を直接与えれぼいいのですよ」
その発想は無かったのか、マーリンは驚いた様子で彼女を見る。
彼女の瞳には嘘をついているようには見えなかった。
「だが…失敗した時はどうするのだ?誤作動で爆発しました。であれば最悪私の命がなくなるぞ」
「それについては先ほどと実験を終えているので問題はありません」
「…聞いていないのだが?」
「報告書を持ってきたらマーリン様が自暴自棄になってたではありませんか」
「いや…あれは自暴自棄という訳ではなくてだな…」
思い出して少し恥ずかしいのか、少し顔を赤くしながら頬をかく。
「これが報告書になります。それでどうしますか?」
「うーん…だけどな…」
「これを使って効果があればリュークも捕まえられて、学会に提出できる案件も増えて、得々じゃないですか」
例え捕まえられなくても、これの効果さえちゃんと出ていれば学会で発表できますし。と彼女は付け加える。
マーリンは少し悩んだ末、頷いた。
「では、準備に取り掛かります」
「ああ、頼む」
そして彼女は部屋を出た。
残ったマーリンは、思考が冷静になり…部屋を見た。
「…頼むの忘れてた…………片付けるか」
☆☆☆
マーリンの従者である彼女─ノリスは、地下にある実験施設に来ていた。
「ノリス様、どうなされました?」
「325番を使うから取りに来た」
「そうですか、わかりました。お通り下さい」
実験施設の入り口には雇った警備が在中しており基本的にノリスとマーリン、そして実験を手伝う者しか入れない。
手伝う者も、マーリンかノリスと共にでなければ入ることは許されない。
理由としては実験途中の物の盗難対策の他に、未完成の物の誤作動による被害の最小限化、そして情報漏洩対策だ。
情報漏洩は実験途中の物はまだ良い。それよりも人の前に出せないようなもの、出してはいけないものの情報漏洩の方が危うい。
設計図や作成方法、物を消したとしても、痕跡や加護を使って作り方などが漏れてしまうかもしれない。
それだけは阻止しなければならないため、このように厳重となっている。
「……ん?」
ノリスは歩いている途中に一つの異変を感じた。
その異変を確認し、すぐに警備の人たちの所へ訪れた。
「の、ノリス様、どうなされました?」
「時間表を見せてくれ?」
「えっ?わかりました」
渡された時間表には、誰がどの時間に入ったかなどが書かれている。
これは変装や偽装などをして中に入った場合、分からないよりはわかった方が良いということからだ。
「…これ以外で誰か入った人はいる?」
「あっ、私が一瞬入りました」
「いつのこと?」
「つい10分程前です」
彼が言うには、10分ほど前に不審な音がしたという。
入ってみると、物が棚から落ちてたという。
「そうか…わかった。では他に異変はあったか?」
「いえ、特にはありませんでした」
「わかった」
ノリスはもう一度実験施設へ行き、盗まれている物がないか確認した。
手元にある木に書かれた物と、実際にある物を照らし合わせ、少しの異変も見逃さないように見た。
「…大丈夫か」
全てを確認し終えると、必要なものを取り出し、実験施設を出た。
☆☆☆
暗い暗い部屋の中。
白い光のみが照らす部屋に、一人の男が座っていた。
その男は机にある木の箱をいじっている。
「陛下、お待たせしました」
そんな部屋に、一人の女性が入ってきた。
「もうしてきたのか?」
「はい、報告を済ませ、今は作成途中のところです」
「そうか、わかった」
「…ところで陛下は何を作っているのですか?」
彼女は男のいじっている箱が気になり、無礼だなと思いつつ聞いてみた。
「これか?作成段階だが…コアの予定のものだ」
「コア?一応あの保険として別のものが、その保険として今回のがあるじゃないですか。一体何に使うのですか?」
「んー…保険の保険の保険の保険…かな?」
「保険が多くないですか?」
「あー、三つ目の保険はこれだから」
そう言いながら男は座っている椅子を足でつついた。
「…よく分かりませんが、つくった。ということですね」
「そゆこと。んじゃあ進展あったら報告よろしく」
「わかりました。では失礼します」
「ん?おお、ようやく目覚めたようだのぉ」
「がく…えんちょう?……ということはここは天国ですか?」
「ちょっと…いや、結構ひどくないかのぉ」
リュークは体を起こした。
「…ここは?」
「学校の医療室じゃよ。お主が来たと思ったらすぐ倒れたからのぉ。他のものもすごい心配しておったぞ」
「そうですか…でもなんで倒れたんですか?」
リュークは自分が倒れた原因をわかっていなかった。
学園長は、リュークが気づいていないことにすこし驚きながらも、その疑問に答えた。
「…貧血と、魔力枯渇じゃよ」
「魔力枯渇…でもそこまで魔力使ってないですよ」
「あの場で魔封じをされたのは覚えておるじゃろ?」
「はい、魔法が一切使えませんでしたし」
「魔封じと言うものの効果、それは魔力を魔素化する。と言うものなのじゃ」
魔素、それは空気中に漂う魔力の名前である。
だが、魔力とはすこし異なるため魔素で直接魔法を使ったりはできない。
魔力を持ったもの─動物や植物など、生命のあるものが死ぬと、その体内に残っている魔力は魔素となる。
だが、死ぬ以外にも特別なものを用いることにより魔力を魔素に、または魔素を魔力に変換させることができる。
魔封じも変換させることの出来る物の一つである。
効果としては、体内から放出される魔力を魔素に変換するものである。
いくら体内の魔力を使おうと、魔素から魔力に変換させて使おうとも、魔素に変えられてしまうために魔法が使えなくなる。
「おそらく魔法を使ったときも、その魔封じの効果がのこっており、結果的に消費した魔力が多くなった。ということじゃろ」
「どういうことですか?」
「たとえばじゃ、火の魔法を使う時に通常なら1割消費する魔力が、魔封じの効果が残っており、1割ではなく8割使われた。ということじゃ。8割のうち、必要な量は魔法に、残る7割は魔素に変換させられてしまった。ということじゃ。」
「そうですか…それで、その後襲撃はありましたか?」
「いや、なかったぞ」
「よかった…えっと、みんなはどうしたんですか?」
「今かの?授業中じゃよ」
「…え?」
「お主はまる1日寝取ったからの。普通に授業中じゃよ」
そしてヴィイは座っている椅子から立ち、リュークに頭を下げた。
「すまなかった」
「が、学園長!?ど、どうしたんですか!?」
「あそこで襲われたのはお主じゃろ。だとしたら責任の一環はワシにもある」
「どういうことですか?」
「ワシの予想でじゃが…お主を襲うよう仕向けたのはマーリンじゃ」
「マーリンって…あの会議のときの?」
「そうじゃ」
そしてヴィイはマーリンの立場、なぜリュークを襲ったのかの予想を言った。
マーリンのことを知ったリュークはため息をついた。
「魔法属性の相性を否定するだけで十分に名声は得られると思うんだけどな…」
「ワシもそのことは言ったのじゃが…信じてくれなくてのぉ」
「…ん?学園長も属性相性がないことを知ってるのですか?」
「属性相性は若い魔法使いしか信じておらんよ。ただ否定するにも否定材料が少ないし、ワシらが気づかなくても誰かが気づくだろう。ということで若い者の名声のために老人は否定していないんじゃ」
「若い者の名声…そんなことまで考えているんですか」
「じゃから、この学校では属性相性なんて教えておらんじゃろ?」
ふと思い返してみれば、この学校に所属している教職員の口から「相性」なんて言葉が一度も出ていないことをリュークは思い出す。
「でも知っているならこの学校の教師の誰かが言ってもおかしくないような…」
「じゃから、断言できるほどの否定材料がないんじゃ。すこし前にも否定した者がおったが、あくまでも憶測や偶然などといって認可されなくてのぉ」
するとヴィイは何か思いついたのか手をポンと叩き、リュークを見た。
「お主なら否定材料を持っておるじゃろ?お主が言ってみてはどうじゃ?」
「嫌ですよ…目立ちたくないの知ってますよね」
「そうじゃった…忘れておったわい」
ヴィイは残念だとばかりに深いため息をつく。
「それで…僕はこの後授業に出た方がいいですかね?」
「今日は欠席扱いじゃから、出るも良いが休まなくて大丈夫かの?」
「欠席扱いであれば、自分の部屋で寝てきます…まだ眠いので」
「そうかそうか。ゆっくり休むんじゃぞ」
「はい、お疲れ様です」
リュークはヴィイに挨拶をすると、医療室を出て寮の自分の部屋で寝た。
☆☆☆
「どうしたら!どうしたらいいの!」
「マーリン様!落ち着いてください!」
「落ち着いていられないわよ!あの子供が欲しいの!なのに全く案が思いつかないの!」
マーリンは狂ったように部屋にある家具を投げたりしている。
彼女はリュークを欲していた。その理由はリュークの魔法だけではなかった。
「あんな魔力量があるなら!私のあの仮説も証明できるはずなのよ!」
リュークの捕捉に失敗した後、襲撃した者からの報告書により判明したことがある。
魔封じには複数の種類がある。
起動に時間がかかり、密室でしか使えないお香・煙型。
飲ませれば封じさせることが可能であり、量により変動はするが場所に縛りがない液体型。
完全に封じることが出来ないものの、風に乗せれば不特定多数にすることが可能な粉末型。
そして範囲は狭いが即効性のある波型。
今回使ったのは最後の波型魔封じだ。
これは特殊な空気の波で魔封じの効果を与えるものである。
だが強い風に弱く、風の吹かない、吹きにくいところでしか使えない。その効果を最大限引き出すのにも、土壁による密室は効果的であった。
だが、土壁が崩壊し、その崩壊による風が起きた。
その風で多少波の魔封じが乱れた。
そう、多少である。
最大限の魔封じはできないものの、それでもあの状況では9割の魔封じ効果があった。
そんな中、人を吹き飛ばすほどの風を放ち、浮遊魔法を使った。
浮遊魔法に使われる魔力量は不明であるのだが、あの状況での風魔法を見ただけでも彼の魔力量は最上位魔道士並の魔力量を持つことがわかる。
それを知ったマーリンは、自分を超える魔力を有しているリュークを強く求めるようになった。
「何か…何かいい案は…」
「…そうだ、私から案があります」
「!?い、言ってみてくれ」
マーリンの従者は、マーリンにふたつの案を出した。
一つは、内容は証拠の隠滅を徹底しないとすぐに犯人が分かってしまうハイリスクな物だ。
だが、成功確率は高いためハイリスクハイリターンな物となっている。
「…いや、それではだめだ。リスクが大きすぎる…」
「ではもう一つの方を。私の知り合いに、クルアーサル魔術学校に通っている人がいましてね」
「それで?」
「その人を使ってですね──────」
そして内容を話した。
それはリスクがない訳では無いが先ほどの提案より低く、成功確率も程々であるものだ。
「…!?そ、それだ!すぐに用意してくれ!」
「わかりました。ではあれの使用許可を」
「え?あ、あれはまだ未完成でだな…」
「未完成と言っても使用に予め必要となる魔力があるだけじゃないですか」
「それだけではない。継続して魔力を与えなければならないものだ」
「それは解決しています。魔封じの効果で空気中に出た魔素を魔力に変換させ、その魔力を直接与えれぼいいのですよ」
その発想は無かったのか、マーリンは驚いた様子で彼女を見る。
彼女の瞳には嘘をついているようには見えなかった。
「だが…失敗した時はどうするのだ?誤作動で爆発しました。であれば最悪私の命がなくなるぞ」
「それについては先ほどと実験を終えているので問題はありません」
「…聞いていないのだが?」
「報告書を持ってきたらマーリン様が自暴自棄になってたではありませんか」
「いや…あれは自暴自棄という訳ではなくてだな…」
思い出して少し恥ずかしいのか、少し顔を赤くしながら頬をかく。
「これが報告書になります。それでどうしますか?」
「うーん…だけどな…」
「これを使って効果があればリュークも捕まえられて、学会に提出できる案件も増えて、得々じゃないですか」
例え捕まえられなくても、これの効果さえちゃんと出ていれば学会で発表できますし。と彼女は付け加える。
マーリンは少し悩んだ末、頷いた。
「では、準備に取り掛かります」
「ああ、頼む」
そして彼女は部屋を出た。
残ったマーリンは、思考が冷静になり…部屋を見た。
「…頼むの忘れてた…………片付けるか」
☆☆☆
マーリンの従者である彼女─ノリスは、地下にある実験施設に来ていた。
「ノリス様、どうなされました?」
「325番を使うから取りに来た」
「そうですか、わかりました。お通り下さい」
実験施設の入り口には雇った警備が在中しており基本的にノリスとマーリン、そして実験を手伝う者しか入れない。
手伝う者も、マーリンかノリスと共にでなければ入ることは許されない。
理由としては実験途中の物の盗難対策の他に、未完成の物の誤作動による被害の最小限化、そして情報漏洩対策だ。
情報漏洩は実験途中の物はまだ良い。それよりも人の前に出せないようなもの、出してはいけないものの情報漏洩の方が危うい。
設計図や作成方法、物を消したとしても、痕跡や加護を使って作り方などが漏れてしまうかもしれない。
それだけは阻止しなければならないため、このように厳重となっている。
「……ん?」
ノリスは歩いている途中に一つの異変を感じた。
その異変を確認し、すぐに警備の人たちの所へ訪れた。
「の、ノリス様、どうなされました?」
「時間表を見せてくれ?」
「えっ?わかりました」
渡された時間表には、誰がどの時間に入ったかなどが書かれている。
これは変装や偽装などをして中に入った場合、分からないよりはわかった方が良いということからだ。
「…これ以外で誰か入った人はいる?」
「あっ、私が一瞬入りました」
「いつのこと?」
「つい10分程前です」
彼が言うには、10分ほど前に不審な音がしたという。
入ってみると、物が棚から落ちてたという。
「そうか…わかった。では他に異変はあったか?」
「いえ、特にはありませんでした」
「わかった」
ノリスはもう一度実験施設へ行き、盗まれている物がないか確認した。
手元にある木に書かれた物と、実際にある物を照らし合わせ、少しの異変も見逃さないように見た。
「…大丈夫か」
全てを確認し終えると、必要なものを取り出し、実験施設を出た。
☆☆☆
暗い暗い部屋の中。
白い光のみが照らす部屋に、一人の男が座っていた。
その男は机にある木の箱をいじっている。
「陛下、お待たせしました」
そんな部屋に、一人の女性が入ってきた。
「もうしてきたのか?」
「はい、報告を済ませ、今は作成途中のところです」
「そうか、わかった」
「…ところで陛下は何を作っているのですか?」
彼女は男のいじっている箱が気になり、無礼だなと思いつつ聞いてみた。
「これか?作成段階だが…コアの予定のものだ」
「コア?一応あの保険として別のものが、その保険として今回のがあるじゃないですか。一体何に使うのですか?」
「んー…保険の保険の保険の保険…かな?」
「保険が多くないですか?」
「あー、三つ目の保険はこれだから」
そう言いながら男は座っている椅子を足でつついた。
「…よく分かりませんが、つくった。ということですね」
「そゆこと。んじゃあ進展あったら報告よろしく」
「わかりました。では失礼します」
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(65件)
あなたにおすすめの小説
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
襲撃者と土を作り出した人は別人です。
魔封じの仕組みは次の話あたりで出てきます…まだ作成途中なので予定ですが
別動隊と分かりにくかったため、少々補足しました
あまり少年達に胸糞を覚えないのは何故だろうか。
修正しました、報告ありがとうございます
面白いと言っていただけるとありがたいです。モチベがあがります