48 / 88
2幕 新婚旅行を満喫します!
48場 新たな旅立ち
しおりを挟む
「え? グレイグ、今年の夏休みは帰ってこないの?」
料理と酒が並んだテーブルを挟み、向かいに座った両親が神妙な顔で頷く。
今夜はアグニス家で食事会という名の家族飲み会だ。いつもの通り、祖父のトリスタンはお留守番。レイは閉店作業中である。
「そうなんだよ。なんか、魔法学校でなんとか選? があるから、ミルディアさんの手伝いをするんだってさ。あと、来年大学院? に進むから論文? 書かなきゃって」
ミルディアはグレイグが通う魔法学校の教師で、レイの元担任。そして、父親のお得意さまだ。メルディも子供の頃から可愛がってもらっていた。
そのミルディアにお願いされたら帰郷を諦めるのもやむなし……なのだろうが、アルティの説明には疑問符が多すぎてよくわからない。
「何そのはっきりしない説明。パパったら、ちゃんと聞いてないの?」
「いや、聞いたんだけどよくわからなくて。パパ、初等学校しか行ってないし」
「ママも十四歳で軍に放り込まれたからな。学生生活に関してはサッパリわからん」
大事な息子の進路なのに、そんなことでいいのだろうか。とはいえ、メルディも十歳で工房入りしたのでピンとこない。
「たぶん教授選だね。校長先生が歳で引退するって新聞に載ってたから」
親子三人で首を捻っていると、苦笑したレイがキッチンに入ってきた。店まで丸聞こえだったらしい。
「新しい校長先生を選ぶってこと? なんで校長選じゃないの?」
「語呂が悪いし、魔法学校で教授を名乗れるのは校長先生だけなんだよ。だから教授選。確か前回は五百年前じゃなかったかな。初代も二代目も純血のエルフだから、今回で二回目だね」
「ご、五百年……」
魔法学校の創立はラスタの建国と同じく、八百年前だ。わかってはいたものの、スケールの大きい話に目が丸くなる。
「じゃあ、論文ってのは?」
「アルティ、君、それでも父親? ちゃんと息子の話を聞いてあげなよ」
レイはアルティに呆れた顔を向けると、ピースサインのように指を二本立て、出来の悪い生徒に教えるが如く、ゆっくりとした口調で続けた。
「まず、論文には二種類ある。大学院に進むための論文と、研究室に入るための論文。大学院に進むための論文は、そのまんま。四年間学んだことの総まとめを提出して、筆記と実技と面接合わせて合格点だったら院に進める」
「へー、総合計なんだ。それなら合格率高そうだね。あの子は賢いし、リリアナさんに似て強いから、論文がダメでも筆記や実技でカバーできるし」
「残念だけど、そう甘くない。論文の出来によっては、採点がマイナスになる場合もあるからね」
アルティが黙った。不安になったのかもしれない。そんな夫のフォローのため、リリアナが「もう一つの論文って?」と口を挟む。
「大学院に進むと、自分の専攻する学科を決めて研究室に入るんだけど、人気のある研究室はすぐ埋まっちゃうから、少しでも希望のところに入れるように志望動機を書くんだよ。それが、魔法学校の研究室論文」
リリアナとメルディの口から、同時に「へえー」と感心の声が漏れた。アルティはまだ何かを考え込んでいる。
レイが言うには、研究室によって使える予算や機材、教師の力関係が変わってくるので、大学院に進む論文を書くよりも、こちらに気合を入れる生徒の方が多いのだそうだ。
かくいうレイも、現役時代は人を殴り殺せそうな厚さの論文を書き上げて、希望の研究室への切符をもぎ取ったらしい。
「グレイグって、ミルディア先生みたいな教師になりたいって言ってたよね。魔法紋師の道に進むのかな?」
メルディの疑問に、レイが腕を組んで「うーん」と唸る。
「将来を考えると、グレイグは魔法紋よりも魔戦術――魔法での戦いに特化した学科の方がいいだろうね。それに、あの子は教師に向いてないからなあ」
「まあ、向いてないな。母親が言うことじゃないけど」
「うん、確かに向いてないね。姉が言うことでもないけど」
アルティを除く全員で頷く。
末っ子だからか、それとも有能だからか、グレイグは「どう頑張っても上手くできない人」の気持ちに疎い。ものを教えるのも下手だ。
根気よく人の道を説いたおかげで、今でこそ多少マシになったが、子供の頃はメルディも何度か煮湯を飲まされた。
もし将来国軍入りするとしたら、部下の面倒を見られるようにならなければいけないが、そこは母親であり、上司のリリアナが教育していくだろう。デュラハンの腕力で。
「あのさあ、メルディ」
ひとしきり笑い合い、そろそろ乾杯しようか、という雰囲気になったところで、アルティがようやく硬直から解けて姿勢を正した。
「何? というか、いい加減ご飯食べようよパパ。お腹減った。お酒もぬるくなっちゃうし」
「うん、パパもお腹減ったけど、ちょっと待ちなさい。ビールの瓶置いて」
父親に言われては仕方ない。唇を尖らせつつ、手にした瓶をテーブルに戻す。
「悪いんだけど、グレイグの様子を見に行ってやってくれないかな? 旅費は出すからさ」
「え? なんでよ。これから闘技祭もあるし、年末に向けて忙しくなるじゃない。仕事はどうするのよ。鎧の生産管理だってあるし」
闘技祭は冬に首都で行われるイベントで、職人たちはこぞって参加する。年末はそれこそ駆け込み需要が多い。まだ夏とはいえ、早め早めに備えておかないと、時間というものはあっという間に過ぎてしまうのだ。
昨年レイと共同開発した「着るだけでマッチョになれる鎧」も、ありがたいことに受注が途切れず、下請け業者を増やしたところだ。信用できる職人を選別して依頼しているので、多少離れても大丈夫かもしれないが、メルディには開発者としての責任がある。
「仕事はパパと師匠がなんとかする。生産管理は製鉄所のガンツ社長に頼むよ。あの人なら職人たちも言うこと聞くし、安心だろ?」
「それはそうだけどさ。私、結婚してるんだよパパ。旦那さまの了解なしには行けませーん」
ツンとそっぽを向くと、眉を下げたアルティがレイに両手を合わせた。
「頼むよ、レイ。今までグレイグが長期休みに帰ってこないなんてなかったから心配なんだよ。できればレイも一緒に行ってもらって、その論文ってやつに悩んでるようだったら、先輩としてアドバイスしてやってほしいんだ。俺じゃ役に立たないからさ」
「中退したけどね」
展開を予想していたのか、狼狽えることなくレイが笑う。
「僕はいいよ。今は仕事も忙しくないし、八月からでいいなら調整する。あの子の論文の助けになるかはわかんないけどね」
「ありがとう、レイ! 恩にきるよ!」
「もー。パパったらグレイグに甘いんだから。ごめんね、レイさん」
「君の弟なら、僕の弟でもあるからね。でも、メルディはいいの? これ、新婚旅行ってことになるけど」
そういえばそうだった。
去年の夏に婚姻届を出し、今年の春に無事結婚式を挙げたのはいいものの、お互いの仕事が立て込んでいて、ずっと行きそびれたままだったのだ。
行くなら前々から憧れていた、ラスタ南端にあるサモニア海のリゾートに行きたかったのだが……。
そんなメルディの迷いを敏感に察知したのか、リリアナがすかさず口を挟む。
「行ってくれるなら、ママがお小遣いを出してやるぞ。十万エニでどうだ」
「えっ、本当?」
十万エニは初等学校卒の初任給ぐらいだ。思わず食いつくメルディに、リリアナが「本当だとも」と頷いた。
「サモニア海のリゾートには及ばないかもしれないが、魔法学校があるシエラ・シエルは昔から新婚旅行の定番だ。十分楽しめると思うぞ。メルディも小さい頃は気に入ってたじゃないか」
まあ、確かに。子供の頃は家族旅行でよく行った。
ラスタが誇る商業都市リッカと、この大陸に君臨するルクセン帝国に挟まれたシエラ・シエルには、美味しい料理の他に、珍しい武具や工具も集まってくる。店を冷やかしているだけでも楽しい。
それに、ミルディアには家族ぐるみでお世話になっている。授業の関係で結婚式には来てもらえなかったから、挨拶するいい機会かもしれない。レイも戦争が終わってから一度もシエラ・シエルには行っていないというし、懐かしいかも。
「んー……わかった! じゃあ、八月からお休みいただきまーす」
賑やかな夕食を終え、店の前で両親を見送る。独身の頃は「いいなあ」と羨みながら眺めていた大小の背中。レイと結婚して早一年。この光景もすっかり見慣れてしまった。
隣に立つレイの横顔を見上げ、笑みを浮かべる。
「レイさん、本当にありがとうね。グレイグのために、仕事の調整までしてもらっちゃって」
「新婚旅行に行けてないの、ずっと気になってからね。いい機会だったと思うよ。……それよりさあ、メルディ。僕たち結婚して一年経ったよね。そろそろ呼び捨てで呼んでほしいんだけど」
ぐ、と喉が詰まる。婚姻届を出した日から再三言われているのだが、どうしても気恥ずかしさが拭えなくて、まだ呼べずにいた。
「も、もうちょっと待って。だって、レイさんはレイさんなんだもん。呼び捨てなんて、考えるだけでドキドキして死んじゃう」
「……そっか」
熱くなった頬を冷ますように両手で顔を仰いていると、ぎゅうっと後ろから抱きしめられた。
「続きはベッドで聞こうかな?」
「えー? やだあ、レイさんのえっち」
外聞を憚らずにいちゃつく夫婦を見て、近くの通行人が「お熱いねえ!」と冷やかしていく。
だから、メルディは気づかなかった。背後でレイがどんな顔をしていたのか。
料理と酒が並んだテーブルを挟み、向かいに座った両親が神妙な顔で頷く。
今夜はアグニス家で食事会という名の家族飲み会だ。いつもの通り、祖父のトリスタンはお留守番。レイは閉店作業中である。
「そうなんだよ。なんか、魔法学校でなんとか選? があるから、ミルディアさんの手伝いをするんだってさ。あと、来年大学院? に進むから論文? 書かなきゃって」
ミルディアはグレイグが通う魔法学校の教師で、レイの元担任。そして、父親のお得意さまだ。メルディも子供の頃から可愛がってもらっていた。
そのミルディアにお願いされたら帰郷を諦めるのもやむなし……なのだろうが、アルティの説明には疑問符が多すぎてよくわからない。
「何そのはっきりしない説明。パパったら、ちゃんと聞いてないの?」
「いや、聞いたんだけどよくわからなくて。パパ、初等学校しか行ってないし」
「ママも十四歳で軍に放り込まれたからな。学生生活に関してはサッパリわからん」
大事な息子の進路なのに、そんなことでいいのだろうか。とはいえ、メルディも十歳で工房入りしたのでピンとこない。
「たぶん教授選だね。校長先生が歳で引退するって新聞に載ってたから」
親子三人で首を捻っていると、苦笑したレイがキッチンに入ってきた。店まで丸聞こえだったらしい。
「新しい校長先生を選ぶってこと? なんで校長選じゃないの?」
「語呂が悪いし、魔法学校で教授を名乗れるのは校長先生だけなんだよ。だから教授選。確か前回は五百年前じゃなかったかな。初代も二代目も純血のエルフだから、今回で二回目だね」
「ご、五百年……」
魔法学校の創立はラスタの建国と同じく、八百年前だ。わかってはいたものの、スケールの大きい話に目が丸くなる。
「じゃあ、論文ってのは?」
「アルティ、君、それでも父親? ちゃんと息子の話を聞いてあげなよ」
レイはアルティに呆れた顔を向けると、ピースサインのように指を二本立て、出来の悪い生徒に教えるが如く、ゆっくりとした口調で続けた。
「まず、論文には二種類ある。大学院に進むための論文と、研究室に入るための論文。大学院に進むための論文は、そのまんま。四年間学んだことの総まとめを提出して、筆記と実技と面接合わせて合格点だったら院に進める」
「へー、総合計なんだ。それなら合格率高そうだね。あの子は賢いし、リリアナさんに似て強いから、論文がダメでも筆記や実技でカバーできるし」
「残念だけど、そう甘くない。論文の出来によっては、採点がマイナスになる場合もあるからね」
アルティが黙った。不安になったのかもしれない。そんな夫のフォローのため、リリアナが「もう一つの論文って?」と口を挟む。
「大学院に進むと、自分の専攻する学科を決めて研究室に入るんだけど、人気のある研究室はすぐ埋まっちゃうから、少しでも希望のところに入れるように志望動機を書くんだよ。それが、魔法学校の研究室論文」
リリアナとメルディの口から、同時に「へえー」と感心の声が漏れた。アルティはまだ何かを考え込んでいる。
レイが言うには、研究室によって使える予算や機材、教師の力関係が変わってくるので、大学院に進む論文を書くよりも、こちらに気合を入れる生徒の方が多いのだそうだ。
かくいうレイも、現役時代は人を殴り殺せそうな厚さの論文を書き上げて、希望の研究室への切符をもぎ取ったらしい。
「グレイグって、ミルディア先生みたいな教師になりたいって言ってたよね。魔法紋師の道に進むのかな?」
メルディの疑問に、レイが腕を組んで「うーん」と唸る。
「将来を考えると、グレイグは魔法紋よりも魔戦術――魔法での戦いに特化した学科の方がいいだろうね。それに、あの子は教師に向いてないからなあ」
「まあ、向いてないな。母親が言うことじゃないけど」
「うん、確かに向いてないね。姉が言うことでもないけど」
アルティを除く全員で頷く。
末っ子だからか、それとも有能だからか、グレイグは「どう頑張っても上手くできない人」の気持ちに疎い。ものを教えるのも下手だ。
根気よく人の道を説いたおかげで、今でこそ多少マシになったが、子供の頃はメルディも何度か煮湯を飲まされた。
もし将来国軍入りするとしたら、部下の面倒を見られるようにならなければいけないが、そこは母親であり、上司のリリアナが教育していくだろう。デュラハンの腕力で。
「あのさあ、メルディ」
ひとしきり笑い合い、そろそろ乾杯しようか、という雰囲気になったところで、アルティがようやく硬直から解けて姿勢を正した。
「何? というか、いい加減ご飯食べようよパパ。お腹減った。お酒もぬるくなっちゃうし」
「うん、パパもお腹減ったけど、ちょっと待ちなさい。ビールの瓶置いて」
父親に言われては仕方ない。唇を尖らせつつ、手にした瓶をテーブルに戻す。
「悪いんだけど、グレイグの様子を見に行ってやってくれないかな? 旅費は出すからさ」
「え? なんでよ。これから闘技祭もあるし、年末に向けて忙しくなるじゃない。仕事はどうするのよ。鎧の生産管理だってあるし」
闘技祭は冬に首都で行われるイベントで、職人たちはこぞって参加する。年末はそれこそ駆け込み需要が多い。まだ夏とはいえ、早め早めに備えておかないと、時間というものはあっという間に過ぎてしまうのだ。
昨年レイと共同開発した「着るだけでマッチョになれる鎧」も、ありがたいことに受注が途切れず、下請け業者を増やしたところだ。信用できる職人を選別して依頼しているので、多少離れても大丈夫かもしれないが、メルディには開発者としての責任がある。
「仕事はパパと師匠がなんとかする。生産管理は製鉄所のガンツ社長に頼むよ。あの人なら職人たちも言うこと聞くし、安心だろ?」
「それはそうだけどさ。私、結婚してるんだよパパ。旦那さまの了解なしには行けませーん」
ツンとそっぽを向くと、眉を下げたアルティがレイに両手を合わせた。
「頼むよ、レイ。今までグレイグが長期休みに帰ってこないなんてなかったから心配なんだよ。できればレイも一緒に行ってもらって、その論文ってやつに悩んでるようだったら、先輩としてアドバイスしてやってほしいんだ。俺じゃ役に立たないからさ」
「中退したけどね」
展開を予想していたのか、狼狽えることなくレイが笑う。
「僕はいいよ。今は仕事も忙しくないし、八月からでいいなら調整する。あの子の論文の助けになるかはわかんないけどね」
「ありがとう、レイ! 恩にきるよ!」
「もー。パパったらグレイグに甘いんだから。ごめんね、レイさん」
「君の弟なら、僕の弟でもあるからね。でも、メルディはいいの? これ、新婚旅行ってことになるけど」
そういえばそうだった。
去年の夏に婚姻届を出し、今年の春に無事結婚式を挙げたのはいいものの、お互いの仕事が立て込んでいて、ずっと行きそびれたままだったのだ。
行くなら前々から憧れていた、ラスタ南端にあるサモニア海のリゾートに行きたかったのだが……。
そんなメルディの迷いを敏感に察知したのか、リリアナがすかさず口を挟む。
「行ってくれるなら、ママがお小遣いを出してやるぞ。十万エニでどうだ」
「えっ、本当?」
十万エニは初等学校卒の初任給ぐらいだ。思わず食いつくメルディに、リリアナが「本当だとも」と頷いた。
「サモニア海のリゾートには及ばないかもしれないが、魔法学校があるシエラ・シエルは昔から新婚旅行の定番だ。十分楽しめると思うぞ。メルディも小さい頃は気に入ってたじゃないか」
まあ、確かに。子供の頃は家族旅行でよく行った。
ラスタが誇る商業都市リッカと、この大陸に君臨するルクセン帝国に挟まれたシエラ・シエルには、美味しい料理の他に、珍しい武具や工具も集まってくる。店を冷やかしているだけでも楽しい。
それに、ミルディアには家族ぐるみでお世話になっている。授業の関係で結婚式には来てもらえなかったから、挨拶するいい機会かもしれない。レイも戦争が終わってから一度もシエラ・シエルには行っていないというし、懐かしいかも。
「んー……わかった! じゃあ、八月からお休みいただきまーす」
賑やかな夕食を終え、店の前で両親を見送る。独身の頃は「いいなあ」と羨みながら眺めていた大小の背中。レイと結婚して早一年。この光景もすっかり見慣れてしまった。
隣に立つレイの横顔を見上げ、笑みを浮かべる。
「レイさん、本当にありがとうね。グレイグのために、仕事の調整までしてもらっちゃって」
「新婚旅行に行けてないの、ずっと気になってからね。いい機会だったと思うよ。……それよりさあ、メルディ。僕たち結婚して一年経ったよね。そろそろ呼び捨てで呼んでほしいんだけど」
ぐ、と喉が詰まる。婚姻届を出した日から再三言われているのだが、どうしても気恥ずかしさが拭えなくて、まだ呼べずにいた。
「も、もうちょっと待って。だって、レイさんはレイさんなんだもん。呼び捨てなんて、考えるだけでドキドキして死んじゃう」
「……そっか」
熱くなった頬を冷ますように両手で顔を仰いていると、ぎゅうっと後ろから抱きしめられた。
「続きはベッドで聞こうかな?」
「えー? やだあ、レイさんのえっち」
外聞を憚らずにいちゃつく夫婦を見て、近くの通行人が「お熱いねえ!」と冷やかしていく。
だから、メルディは気づかなかった。背後でレイがどんな顔をしていたのか。
1
あなたにおすすめの小説
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。
琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。
ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!!
スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。
ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!?
氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。
このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?
はくら(仮名)
恋愛
ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。
※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
聖獣の卵を保護するため、騎士団長と契約結婚いたします。仮の妻なのに、なぜか大切にされすぎていて、溺愛されていると勘違いしてしまいそうです
石河 翠
恋愛
騎士団の食堂で働くエリカは、自宅の庭で聖獣の卵を発見する。
聖獣が大好きなエリカは保護を希望するが、領主に卵を預けるようにと言われてしまった。卵の保護主は、魔力や財力、社会的な地位が重要視されるというのだ。
やけになったエリカは場末の酒場で酔っ払ったあげく、通りすがりの騎士団長に契約結婚してほしいと唐突に泣きつく。すると意外にもその場で承諾されてしまった。
女っ気のない堅物な騎士団長だったはずが、妻となったエリカへの態度は甘く優しいもので、彼女は思わずときめいてしまい……。
素直でまっすぐ一生懸命なヒロインと、実はヒロインにずっと片思いしていた真面目な騎士団長の恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID749781)をお借りしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる