異世界で人間社会を裏切って何かを貫いた(I・NUN)

亜阿愛亜

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転生章

其の1 浜田まさき「列車で痴漢」

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青春ってなんだろう。

青春は、『一生に一度しか訪れることのない輝ける貴重な瞬間』だと、人気の歌やドラマで知った。

青春は、『一瞬で過ぎ去るが、永遠の思い出として人生に刻まれる』らしい。

新しい出会い。恋。挫折。仲間。冒険。信頼。そして夢。

14歳の僕には一つもない。

何もないまま、中学校生活が終わろうとしていた。

そんなことはあるのだろうか。

そんな人は他にいるのだろうか。

クラスメイトのカップルがクリスマスイブの話を楽しそうにしていた。

クリスマスイブにもクリスマスにも、僕には何もなかった。

クラスメイトの男子生徒たちが卒業旅行の計画を楽しそうにしていた。

僕にはこの先の楽しみなんて何もない。

なぜこの世界は平等ではないのだろうか。


「あなた!今、私の太もも触っていたでしょ!」


女性の怒号でふと我に返った。振り返ると25歳くらいのOL風の女性が、物凄い形相で僕をにらんでいた。

ここは出勤や登校でごった返す満員列車の中だ。女性の声に周囲がざわめいた。

「痴漢よね!あなた今、私に痴漢行為してましたよね!」

そう言うと彼女は、何が起こったのかまったく理解できずに茫然と立ち尽くしている僕の腕を掴んで、強引に頭上に掲げた。

他の乗客が一斉に僕を見た。まるで害虫でも見るかのような冷たい視線、怒りの視線、軽蔑の視線。

この3年間、中学校の教室で感じてきたものと同じだ。

「きみがやったのか?」

隣に立っていた中年のサラリーマンが強い口調で僕に詰め寄ってくる。

僕は何も答えられなかった。

いつもそうだ。誰に何を言われようと反論などできない。反論したところで、僕を味方してくれる人など誰もいないからだ。そうやって僕は生きてきた。

「次の駅で降りなさい!」

僕の腕を掴んでいる女性は勝ち誇ったような表情でそう言い放った。

ざわめく周囲の雑音の中に僕が通う中学校の名前があった。制服で判断したのだろう。

「浜田くん、本当に痴漢なんてしたの?」

少し離れたところから僕の名前を呼ぶ女の子の声がした。クラスメイトで合唱部に所属しているこだった。その表情は青ざめていた。

この事件は今日中に彼女を通じて学校の隅々にまで広がるだろう。

「ひとの脚をしつこく触る度胸があるのに、ばれたら何も言えないわけ?とんだ卑怯者ね!学生だからって痴漢行為をするような卑劣な奴は許さないわよ!」

列車が次のホームに停車すると、僕の腕を掴んで離さない女性は、人込みをかき分けながら列車を出た。

「駅員さーん!痴漢です!ここに痴漢がいます!!警察呼んでください!!」

女性は周りの視線など気にすることなく大声で駅員を呼んだ。

ホームにいる人たちの豹変した視線が一斉に僕に注がれる。

(僕じゃない。僕は痴漢なんてしていない)

心の中で何度も叫んだ。でも誰にも届かない。いつもと同じだ。僕の心の内など理解しようとしてくれる人などどこにもいない。

「あなた名前は?学校は?自宅の住所と電話番号、親の仕事先、全部聞かせてもらうわよ!」

怒りの形相の女性はそう言って、うつむいている僕の顔をのぞき込んだ。

かすかに甘い香りがした。大人の女性の香りだ。

肩まで伸びた髪の先がわずかに僕の顔に触れた。

下から僕の顔をのぞき込んできたから、自然と女性の胸元が視界に入ってくる。真っ白な肌。胸の谷間。

「あなた名前は?名前くらい答えられるでしょ?」

「・・・・・・浜田、、です」

「ふーん。浜田くんね。私の名前は。職業は何だと思う?当たったら逃がしてあげてもいいよ」

「ほ、本当ですか。え、えーと、会社員ですか」

「会社員?ずいぶんとずる賢い答えね。どんな会社に勤めていてもみんな会社員じゃない」

「当たっていますか」

すると女性はニヤリと笑った。

「ブー。はずれ。残念でした」

「え?じゃあ何なんですか?」

女性はフーッとため息をつきながら、
「昨日まで風俗嬢。でも今は無職なの」

「ふ、風俗・・・・・・無職?」

「そうよー。ニートね。だからお金がないの。あなたの両親と話しさせてもらって、条件次第では示談に応じるわ。もちろんそれなりの謝礼は支払ってもらうけど。息子が痴漢で補導されたって公表されたら両親も大変でしょう。あなたも今後、生きにくくなるわよー。フフ」

はめられた。

僕はようやく気が付いた。最初からお金目当てで痴漢行為をでっちあげたんだ。

(逃げなきゃ・・・・・・ここから一刻も早く逃げなきゃ)

僕は女性の手を振り払って、駆け出した。目前の階段から警察が下りてくるのが見えた。背後では女性が叫んでいる。周囲の人たちが僕を見た。

誰もかれもが、まるでゴキブリでも見つけたような目をしている。

僕はホームから線路に飛び降りた。

胸の鼓動が激しい。心臓が口から飛び出しそうだ。こんなスリルを味わうのは初めての経験だった。

(これが青春ってものなのか)

何かの気配に気が付いて振り返ると、目前に反対方向から列車がもうスピードで迫っていた。

青春は一瞬で過ぎ去っていくものだと、僕はこのとき考えていた。















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