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転生章

其の3 浜田まさき「異常な健康状態」

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ここはいったいどこなのだろうか。砂漠の光景がどこまでも続いている。間違いなく東京ではない。

鳥取県には砂丘があるというから、もしかすると意識を失っていたときに鳥取県まで連れてこられてきたのかもしれない。そうすると東京とどのくらい離れているのか。

(あれ?僕はどうして意識を失っていたんだ?何かとても大事なことを忘れている気がする・・・・・・)

という男性が運転する乗り物に乗せてもらっているが、これはバイクとは違う。そもそも地面と接着している部分がないのだ。地面から20cmは浮いて進んでいる。しかも信じられないほど高速だ。

(いや、これは僕が知らないだけで、新しく開発されて流行している乗り物なのかもしれない)

そもそも僕はバイクなど乗ったことがない。乗りたいとも思ったことはなかった。興味を持てないから知らない世界などいくらでもある。これもその一つなのだと僕は自分に言い聞かせた。

背後を振り返ると、凄まじい砂しぶきがあがっており、その間には同じような乗り物を運転してついてくるの姿があった。

ゴーグルをつけていて表情まではわからないが、肩まで伸びた黒髪をなびかせ、ノースリーブに白い肌、スラリと伸びた脚、抜群のスタイルだった。まるでTVに登場してくるモデルや女優のようだ。とても自分と同じ人種だとは思えない。こういった女性には一生係わることがないだろうと思い込んでいただけに、なぜかドキドキが止まらない。

(何を考えているんだ僕は。今はそれどころじゃない。いつの間にか見知らぬ場所に誘拐されているんだ)

事態が目まぐるしく変化しているのでついていけていないが、よく考えてみると僕はかつてない危機を迎えていた。スマホで現在地を確認しようにも、スマホはバックの中だし、バックは運転手の板尾に奪われている。バックの中には僕の唯一の友達であるDONAも入っていた。

(それにしても鳥取砂丘はどれだけ広いんだ?)

これだけの高速で進んでいるのに光景は何も変わらない。もう1時間経過しているだろう。

(時速150km/hだとして、目覚めた場所から150kmか・・・・・・。新宿からだと山梨県の甲府市に到着できるくらいの距離ってことになる。鳥取砂丘ってそんなに広大だったのか。もしかすると、鳥取県って全面積が砂丘なのかな)

鳥取県にも砂丘にも興味を持てなかったから僕にはまったく知識がなかった。いかに狭い世界の中で生活してきたのかということを痛感させられた。


やがて、板尾が右手を横に広げ、後ろからついてくる松本ゆいにサインを出した。

夕闇が迫っていた。

目前には崩れかけた建物が並ぶ廃墟が現れ、その中をスピードを落として進んでいく。人の気配はまったくしない。監禁場所にはもってこいなのだろう。見るからに犯罪集団の巣窟だった。

「着いたぞ」

板尾がそう言った。そこは崩れかけているという表現が適さない、完全に崩れ果てた建物があった。乗り物は入り口らしき狭い空間に無理やり入っていく。

コンクリートの壁から飛び出た鉄骨のようなものにぶつかりそうになりながら薄暗い建物内を進んでいくと、崩れたがれきの山に道をふさがれた。周囲は静まり返っている。仲間がいるようなことを話していたが、どこにも見当たらなかった。

「小手先だけの隠れ蓑だよ」

板尾は苦笑しながらリモコンのような物を取り出してスイッチを押した。

すると驚くことに、がれきの山が一瞬で消えたのだ。そして棚や机や椅子のある広い空間が出現した。

唖然としている僕の横を松本ゆいが何事もなかったかのように通り過ぎていった。板尾も乗り物から降りて、進んでいく。いつの間にかその先には二つの人影があった。

「おお、誰かと思ったらソーズのリーダーと副リーダーじゃないか!こんな僻地に何の用?」

人影の一つは男性だった。身長は170cmくらいだろうか。声質は若々しい。高校生のように僕は感じた。

「久しぶりだな。他のメンバーはどうした?」

板尾がそう質問すると、もう一つの人影が答えた。

「ピンズのリーダーは呼び出しを受けて本拠地よ。は軍師様と調査に出かけてるとこ」

女性の声だ。松本ゆいよりも大人びた感じがする。30歳くらいだろうか。

「よかったー。あのバカいないんだ」

松本ゆいは嬉しそうな表情をしながらソファーに腰をおろして、タバコを口にくわえた。

(喫煙する女性なんだ・・・・・・)

僕はその姿を見て、やっぱりかという気持ちと、なぜか残念な気持と両方を感じていた。

「あら、もうすぐで帰ってくるわ。チーピンも会いたがっていたわよ」

「スーちゃん、具合の悪くなるような冗談はやめてもらえる?ただでさえ気色の悪いガキの背中見ながら走ってきたんだから」

「この子、どこで拾ってきたの?」

どうやらその気色の悪いガキというのは僕のことのようだった。否定する気はない。ただ、ここまで目の前ではっきり言われたのは初めてだった。

、わるいが急いでこの子の体を調べてもらっていいか?どうやら貴族(アッパー)のようだ」

板尾がそう言うと、スーちゃんやスーピンと呼ばれた女性は僕のところに近づいてきた。薄暗い室内だったが、近づくとはっきりと顔が見える。

金髪のパーマに黒縁の眼鏡。唇はややあつく、色は白い。白衣のようなものを着ていて、その中はスカイブルーのタンクトップ。驚くことに大きなバストのふくらみの先がはっきりとわかった。

僕は慌てて顔をそらした。

(そんなはずはない。いやでも待てよ、アスリートでも見られることを気にせずプレーしている女性選手がいたような気が・・・・・・。大人の女性にしてみればごく普通のことなのだろうか?そういった形状のブラジャーという可能性もあるし。見せかけなのかもしれない)

もう一度、女性の方を見たが、ブラジャーをしているようには思えない。

「痛!」

突然、右腕に痛みを感じて僕は叫んだ。

この女性が僕の右腕に注射のようなものをしていた。その驚きとは別に、圧倒的な迫力の胸の谷間が視界に入る。

「ごめんなさい。痛かった?もう終わりよ。ちょっとだけ確認させてもらうわね」

注射器にはスマホのスクリーンのようなものが付いていて、そこにグラフや数値が表示されていた。女性は真剣な表情でそれを見て、分析結果を口にする。

「成分は人間のものね。アンドロイドではないわ。追跡や位置確認などの装置も体内になさそう。何この数値?信じられない。この子、健康状態が異常よ」

そんな検査所見を直接口に出されるのも初めての経験だった。











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