19 / 38
2章 それは、あなたなんです
第14話 ずっと家族一緒に
しおりを挟む
那津がカウンタ席に座ると、スイがのそりと顔を上げる。するりと猫かごから出てくると、すいすいとカウンタを渡り、那津のところに来て丸まった。
「にゃおん」『やれやれやにゃあ』
那津はスイの背中をそっと撫でる。今日もありがとう、お疲れさま、そんな気持ちを込めて。
「当たり前やけど、スイはなっちゃんには懐いとるよなぁ。おれんとこにはなかなか来てくれんのに」
お酒の用意をしながら、お兄ちゃんが小さく拗ねたように言う。那津は「ふふ」と笑みをこぼす。
「でも、お兄ちゃんのことが嫌いやとか、そんなことはないはずなんよ。そのうち来てくれるようになると思うんやけどなぁ」
那津がスイの喉をくすぐると、スイはごろごろとその喉を鳴らす。
「にゃご」『ま、蛍次第にゃ』
那津から見たお兄ちゃんは充分なのだと思うのだが、スイの視点ではまだのようだ。厳しい。
スイにはスイの基準があるのだろう。それは那津には分からないところだが、那津にとっては大切なお兄ちゃんなので、いつかはもっと懐いてくれたら、と思っている。
そうしてスイとじゃれていると、お酒ができてきて、カウンタにみっつのドリンクが置かれる。保さんとお兄ちゃんの水割りのグラス、那津のハイボールのタンブラーだ。スイの前にはお水が入った小皿を置いてくれた。
「ありがとう」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「にゃ」『ありがとにゃ』
お兄ちゃんも客席に回ってきて、やはり保さんの横、那津との間に座った。グラスを手にすると、3人は自然にグラスを合わせる。かつん、と小さな音が響いた。
こくりとタンブラーを傾けると、しゅわっとした炭酸の爽快さと、「知多」が持つなめらかな香ばしさが流れてきた。
お仕事のあとのお酒は本当に美味しい。那津はいつも、お家に帰ったら缶ビールを開けるのだが、同じ炭酸だからなのか、疲れが癒されていく気がする。
那津は思わず心地のよい息を吐いた。
「お兄ちゃん、美味しい」
「よかった」
お兄ちゃんは那津に笑顔をよこしてくれる。那津はそれにも癒される。スイはぴちゃぴちゃとお水を飲んでいる。
那津の視線に気づいたのか、スイが顔を上げる。
「にゃ?」『なんにゃ?』
「なんでもないよ、ゆっくり飲み」
すると、またスイは小皿に頭を突っ込む。喉が渇いていたのだろうか。営業中にもお水はあげているのだが。
「……なっちゃん、おれのお願い、聞いてくれへんか? 重いかも知れんけど」
「なに?」
那津がお兄ちゃんの顔を見ると、心なしか硬くなっているような気がした。那津は思わず背筋を伸ばす。
「なっちゃん、これからもずっと、おれと家族でおってくれるか?」
思わぬことを言われ、那津は思わずきょとんとしてしまう。
「そんなん、当たり前やん。なんで今さらそんなん」
那津がこともなげに言うと、お兄ちゃんはほっとしたような表情を見せた。
「おれにはさ、保もおるけど、保は家族とかそんなんやなくて。やっぱりなっちゃんがおらんとあかんよなって。スイと、ふたりと1匹で、これからもおりたいんよ」
それは、那津には願ってもないことだ。だが。
「……保さんは、それでええんですか?」
「もちろん。ぼくは相手が嫌やて言うてんのに、無理強いするほどあほやないつもりやで。こうしてほぼ毎日、ここでこうして会えるだけで充分なんやわ」
保さんは穏やかな笑顔でそう言う。愚問だった。お兄ちゃんが那津にこんな話をするということは、保さんとはとっくに話し合い済みで、保さんは納得しているということだ。
「将来、なっちゃんが結婚とかするときには、そりゃあ家を出るやろ。でもそれまででもええから一緒におりたいんや」
那津はまだ、お兄ちゃんと一緒にいてよいのだ、いられるのだ。それは那津にとって、これ以上なく嬉しいことで、幸せなことで。
那津には結婚願望がないし、誰かを好きになったり愛したりすることも想像できない。お兄ちゃんが那津から離れない限り、那津はお兄ちゃんと一緒にいられるということだ。
ブラコンと言われてもよい。那津にはまだお兄ちゃんが必要なのだ。
「うん。わたしは、ずっとお兄ちゃんと一緒におるよ。もちろんスイもね」
すると、スイが小皿から顔を上げ、「にゃおん」と鳴いた。
『仕方ないにゃね』
ちょっと呆れたようなスイの声が、那津の頭に流れ込んでくる。那津はくすりと笑みをこぼし、スイの頭を優しく撫でた。
「ありがとう、なっちゃん、スイ」
そういって柔らかく笑ったお兄ちゃんの笑顔はとてもきれいで、那津は柄にもなくどきりとしてしまったのだった。
「にゃおん」『やれやれやにゃあ』
那津はスイの背中をそっと撫でる。今日もありがとう、お疲れさま、そんな気持ちを込めて。
「当たり前やけど、スイはなっちゃんには懐いとるよなぁ。おれんとこにはなかなか来てくれんのに」
お酒の用意をしながら、お兄ちゃんが小さく拗ねたように言う。那津は「ふふ」と笑みをこぼす。
「でも、お兄ちゃんのことが嫌いやとか、そんなことはないはずなんよ。そのうち来てくれるようになると思うんやけどなぁ」
那津がスイの喉をくすぐると、スイはごろごろとその喉を鳴らす。
「にゃご」『ま、蛍次第にゃ』
那津から見たお兄ちゃんは充分なのだと思うのだが、スイの視点ではまだのようだ。厳しい。
スイにはスイの基準があるのだろう。それは那津には分からないところだが、那津にとっては大切なお兄ちゃんなので、いつかはもっと懐いてくれたら、と思っている。
そうしてスイとじゃれていると、お酒ができてきて、カウンタにみっつのドリンクが置かれる。保さんとお兄ちゃんの水割りのグラス、那津のハイボールのタンブラーだ。スイの前にはお水が入った小皿を置いてくれた。
「ありがとう」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「にゃ」『ありがとにゃ』
お兄ちゃんも客席に回ってきて、やはり保さんの横、那津との間に座った。グラスを手にすると、3人は自然にグラスを合わせる。かつん、と小さな音が響いた。
こくりとタンブラーを傾けると、しゅわっとした炭酸の爽快さと、「知多」が持つなめらかな香ばしさが流れてきた。
お仕事のあとのお酒は本当に美味しい。那津はいつも、お家に帰ったら缶ビールを開けるのだが、同じ炭酸だからなのか、疲れが癒されていく気がする。
那津は思わず心地のよい息を吐いた。
「お兄ちゃん、美味しい」
「よかった」
お兄ちゃんは那津に笑顔をよこしてくれる。那津はそれにも癒される。スイはぴちゃぴちゃとお水を飲んでいる。
那津の視線に気づいたのか、スイが顔を上げる。
「にゃ?」『なんにゃ?』
「なんでもないよ、ゆっくり飲み」
すると、またスイは小皿に頭を突っ込む。喉が渇いていたのだろうか。営業中にもお水はあげているのだが。
「……なっちゃん、おれのお願い、聞いてくれへんか? 重いかも知れんけど」
「なに?」
那津がお兄ちゃんの顔を見ると、心なしか硬くなっているような気がした。那津は思わず背筋を伸ばす。
「なっちゃん、これからもずっと、おれと家族でおってくれるか?」
思わぬことを言われ、那津は思わずきょとんとしてしまう。
「そんなん、当たり前やん。なんで今さらそんなん」
那津がこともなげに言うと、お兄ちゃんはほっとしたような表情を見せた。
「おれにはさ、保もおるけど、保は家族とかそんなんやなくて。やっぱりなっちゃんがおらんとあかんよなって。スイと、ふたりと1匹で、これからもおりたいんよ」
それは、那津には願ってもないことだ。だが。
「……保さんは、それでええんですか?」
「もちろん。ぼくは相手が嫌やて言うてんのに、無理強いするほどあほやないつもりやで。こうしてほぼ毎日、ここでこうして会えるだけで充分なんやわ」
保さんは穏やかな笑顔でそう言う。愚問だった。お兄ちゃんが那津にこんな話をするということは、保さんとはとっくに話し合い済みで、保さんは納得しているということだ。
「将来、なっちゃんが結婚とかするときには、そりゃあ家を出るやろ。でもそれまででもええから一緒におりたいんや」
那津はまだ、お兄ちゃんと一緒にいてよいのだ、いられるのだ。それは那津にとって、これ以上なく嬉しいことで、幸せなことで。
那津には結婚願望がないし、誰かを好きになったり愛したりすることも想像できない。お兄ちゃんが那津から離れない限り、那津はお兄ちゃんと一緒にいられるということだ。
ブラコンと言われてもよい。那津にはまだお兄ちゃんが必要なのだ。
「うん。わたしは、ずっとお兄ちゃんと一緒におるよ。もちろんスイもね」
すると、スイが小皿から顔を上げ、「にゃおん」と鳴いた。
『仕方ないにゃね』
ちょっと呆れたようなスイの声が、那津の頭に流れ込んでくる。那津はくすりと笑みをこぼし、スイの頭を優しく撫でた。
「ありがとう、なっちゃん、スイ」
そういって柔らかく笑ったお兄ちゃんの笑顔はとてもきれいで、那津は柄にもなくどきりとしてしまったのだった。
1
あなたにおすすめの小説
とくら食堂、朝とお昼のおもてなし
山いい奈
キャラ文芸
25歳の都倉碧は、両親と一緒に朝昼ごはんのお店「とくら食堂」を営んでいる。
やがては跡を継ぐつもりで励んでいた。
そんな碧は将来、一緒に「とくら食堂」を動かしてくれるパートナーを探していた。
結婚相談所に登録したり、紹介してもらったりしながら、様々な男性と会うのだが?
前職でのトラブルや、おかしなお見合い相手も乗り越えて。
25歳がターニングポイントになるのか。碧の奮闘記です。
冷たい舌
菱沼あゆ
キャラ文芸
青龍神社の娘、透子は、生まれ落ちたその瞬間から、『龍神の巫女』と定められた娘。
だが、龍神など信じない母、潤子の陰謀で見合いをする羽目になる。
潤子が、働きもせず、愛車のランボルギーニ カウンタックを乗り回す娘に不安を覚えていたからだ。
その見合いを、透子の幼なじみの龍造寺の双子、和尚と忠尚が妨害しようとするが。
透子には見合いよりも気にかかっていることがあった。
それは、何処までも自分を追いかけてくる、あの紅い月――。
あやかし警察おとり捜査課
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
キャラ文芸
※第7回キャラ文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
二十三歳にして童顔・低身長で小中学生に見間違われる青年・栗丘みつきは、出世の見込みのない落ちこぼれ警察官。
しかしその小さな身に秘められた身体能力と、この世ならざるもの(=あやかし)を認知する霊視能力を買われた彼は、あやかし退治を主とする部署・特例災害対策室に任命され、あやかしを誘き寄せるための囮捜査に挑む。
反りが合わない年下エリートの相棒と、狐面を被った怪しい上司と共に繰り広げる退魔ファンタジー。
烏の王と宵の花嫁
水川サキ
キャラ文芸
吸血鬼の末裔として生まれた華族の娘、月夜は家族から虐げられ孤独に生きていた。
唯一の慰めは、年に一度届く〈からす〉からの手紙。
その送り主は太陽の化身と称される上級華族、縁樹だった。
ある日、姉の縁談相手を誤って傷つけた月夜は、父に遊郭へ売られそうになり屋敷を脱出するが、陽の下で倒れてしまう。
死を覚悟した瞬間〈からす〉の正体である縁樹が現れ、互いの思惑から契約結婚を結ぶことになる。
※初出2024年7月
黄泉津役所
浅井 ことは
キャラ文芸
高校入学を機にアルバイトを始めようと面接に行った井筒丈史。
だが行った先は普通の役所のようで普通ではない役所。
一度はアルバイトを断るものの、結局働くことに。
ただの役所でそうではなさそうなお役所バイト。
一体何をさせられるのか……
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
あまりさんののっぴきならない事情
菱沼あゆ
キャラ文芸
強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。
充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。
「何故、こんなところに居る? 南条あまり」
「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」
「それ、俺だろ」
そーですね……。
カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。
神木さんちのお兄ちゃん!
雪桜 あやめ
キャラ文芸
✨ キャラ文芸ランキング週間・月間1位&累計250万pt突破、ありがとうございます!
神木家の双子の妹弟・華と蓮には"絶世の美男子"と言われるほどの金髪碧眼な『兄』がいる。
美人でカッコよくて、その上優しいお兄ちゃんは、常にみんなの人気者!
だけど、そんな兄には、何故か彼女がいなかった。
幼い頃に母を亡くし、いつも母親代わりだったお兄ちゃん。もしかして、お兄ちゃんが彼女が作らないのは自分達のせい?!
そう思った華と蓮は、兄のためにも自立することを決意する。
だけど、このお兄ちゃん。実は、家族しか愛せない超拗らせた兄だった!
これは、モテまくってるくせに家族しか愛せない美人すぎるお兄ちゃんと、兄離れしたいけど、なかなか出来ない双子の妹弟が繰り広げる、甘くて優しくて、ちょっぴり切ない愛と絆のハートフルラブ(家族愛)コメディ。
果たして、家族しか愛せないお兄ちゃんに、恋人ができる日はくるのか?
これは、美人すぎるお兄ちゃんがいる神木一家の、波乱万丈な日々を綴った物語である。
***
イラストは、全て自作です。
カクヨムにて、先行連載中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる