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3章 ある意味高低差のあるふたり
第4話 上等なさばき方
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門脇さんは絶句し、それでもどうにか絞り出す様に声を上げた。
「そんな、そんなにするんですか!? じゃあお酒を飲んだりしたら」
「お客さまによりますけど、1度で10万とかになったりしますから」
浮田さんが申し訳なさげに言うと、門脇さんは慌ててふるふると首を左右に振った。
「そ、それはとてもや無いですけど無理です。あ、でもボーナスが出た時やったら」
良いことを思いついたと言う様に門脇さんが言うと、浮田さんは冷静にゆっくりと首を振る。
「それは、あきません」
優しく言い含める様な口調だった。穏やかな微笑を浮かべられてはいるが真剣味があった。門脇さんもすっと表情を引き締める。
「お店に来はるんは自由やと思います。ですけどあれは娯楽です。娯楽は、これは持論なんですけど、ご自分の生活を圧迫したらあかんもんやと思うんです。あの、普通の会社にお勤めの方がお気軽に来られるんは難しい店やと思うんです。お給料を全部お小遣いにできても、お給料の額にもよると思いますけど、半額以上が持って行かれてしまうんや無いかと」
すると門脇さんはあからさまにうなだれた。
「その通りです……。僕は実家暮らしですけど、家にお金も入れてて、お給料も今はそんなに多く無い……。あ、そうか。浮田さんのお店に行ける様に稼げたらええんですよね!」
お話をしながら門脇さんの表情がどんどん輝いて行く。前向きなお考えでとても結構だが、そもそも数年でそうお給料は上がらない。よほど大きな成果を上げられたとか大幅な昇格などがあればともかく。
「門脇さん、それは現実的や無いです」
朔がつい口を挟んで目を伏せると、門脇さんは「え?」ときょとんとした様な表情を浮かべた。
「無理ですか?」
「無理とは思いませんけど、何年掛かるか」
双子の父は現在某大手企業の部長である。その役職を手に入れるために、何年も掛けて成果を出して来た。門脇さんの能力は判らないが、一朝一夕で成し遂げられるとは思えない。
父の場合はマリコちゃんのご加護もあり、それでも数年掛かっているのだから、門脇さんだってそれなりの時間を要するだろう。
「そうですか……」
門脇さんはがっくりと肩を落としてしまう。残念だがそう簡単に行くものでは無いと思う。父を見ていたこともあるが、これでも一応双子には社会人経験もあるのだ。その厳しさは知っているつもりである。
「あの、なんでうちのお店に来はりたいんですか? 新地だけでもクラブは色んなお店があって、お値段もそれこそピンキリです。スナックとかやったら結構気軽に飲んでいただけると思うのに」
浮田さんが訊くと、門脇さんは沈んだお顔のままぽつりと口を開いた。
「僕はただ、あの、浮田さんとお話がしたくて」
すると浮田さんは目を丸くして「あら」と口を押さえた。そして続けて「それやったら」と言う。
「別にうちのお店で無くても、この「あずき食堂」さんでやったらあきませんか? ええ、そうしませんか。それともクラブとかに興味がおありとか」
「す、少しだけ。でも僕は浮田さんとお話ができたらそれで」
門脇さんは照れて蚊の鳴く様な声で言う。実際のクラブ通いは、さすがに使う金額が金額なので、今は難しいだろう。でも「あずき食堂」でなら今までと変わらない。
「ならここでお話しましょう。私は決まった曜日とかに来れるわけや無いんで、連絡先を交換してくれはったら、来る時には連絡しますよ」
浮田さんはそう言って、カウンタ下の棚に置いていたショルダーバッグからスマートフォンを取り出した。それには門脇さんも、そして双子も慌ててしまう。
「浮田さん、そんな簡単に連絡先交換して大丈夫なんですか?」
陽が訊くと、浮田さんはにっこりと笑う。
「私、こう見えても仕事柄人を見る目はあるで。それにこうしてお話をするんは初めてやけど、ここで一緒になったことは何回もあるやろ? その時朔ちゃん陽ちゃんとお話してはるん聞こえて来ることもあるからね。えっと、確か門脇さん。門脇さんがええ方やってことぐらいは判るわ。それにここのお赤飯が好きな人に悪い人はおらんて思ってる」
「それやったら私らも嬉しいですけど」
朔が戸惑う様に言うと、浮田さんは「せやから大丈夫」とにっこりと口角を上げた。
「て言うてもメアドとかや無くて、チャットアプリのやけどね。門脇さん、アプリ入れてはります? これ」
そう言って浮田さんがスマートフォンのモニタで示したのは、双子でもインストールしている、一般的に広く使われている黄緑色のアイコンのチャットアプリだった。それこそお年寄りだってインストールして、お孫さんとのやりとりなどに使っているぐらいのメジャーなものだ。
「あ、は、はい」
門脇さんは慌ててジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出し、手帳型のカバーを開いた。
「じゃあ私のQRコードを読んでもろてええですか?」
「は、はい!」
浮田さんがスマートフォンに表示させたQRコードの上に、門脇さんがスマートフォンを軽く重ねた。そして門脇さんが自分のスマートフォンを操作する。無事に読み込めた様だ。
「あ、ありがとうございます!」
そう声を上げる門脇さんの頬は紅潮していた。門脇さんは「わぁ……っ」と嬉しそうにスマートフォンを見る。そこにはきっと浮田さんのアイコンとお名前が表示されているのだろう。
「いいえ。門脇さん、まずはあなたのことを教えて欲しいです」
「はい!」
浮田さんの綺麗で柔らかな笑顔に門脇さんはすっかりと浮き足立って、満面の笑みを浮かべた。
「うむ、やはり桜湖はさすがじゃな」
持ち帰り用のタッパーに入れなかったお惣菜を食べながら、マリコちゃんは満足げに言う。
「店を教えていれば客になっただろうに、そうはせんかった」
「それが浮田さんのええところやで。お店とかにもよるんかも知れへんけど、お金持ってるお客さまからどれだけ引き出すか、やからね。門脇さんからはそう取れへんでしょ」
朔があっけらかんと言うと、陽は「うわぁ」と顔をしかめる。
「あんた、人の良さげな顔して、たまにどぎついこと言うやんな」
「そう? ああいう世界って表はきらびやかやけど、裏はそんなもんなんや無いの?」
「いや、そりゃあそうかも知れへんけどさ」
「浮田さんは一流やから、あれへんとこから引っ張ろうとはしはれへんよ。お客さまに借金させるんは二流以下やからね。せやから門脇さんにああいう対応をしはったんよ。あのアプリで得られる個人情報はお相手のお名前ぐらいやし、ここで会う分には安全やからね。私らがおるし、浮田さんを気に入ってるマリコちゃんもおる」
「そうじゃな。赤飯は門脇から桜湖を守るぐらいはできるじゃろ」
「マリコちゃんのご加護ってそんなことまでできるんか?」
「少しだけ良いことがある。それは嫌な気持ちになるのを避けることにも繋がるからの。そうじゃのう、門脇への加護はまだ微妙なところの様じゃ。奴め、桜湖との繋がりには熱心じゃったのに、仕事にはそう真面目では無いのかの。そんなことでは桜湖の店に客として行くなんて夢のまた夢じゃぞ。今日桜湖に巡り会えたのは少しぐらいの加護が働いたからかも知れんがの。情けと言うやつじゃ」
マリコちゃんの言には少しばかり怒りが含まれている。このまま悪印象を持たなければ良いのだが。マリコちゃんは基本頑張る人の味方なのだ。朔は心の中で門脇さんにエールを送った。
「とりあえず浮田さんと門脇さんはお知り合いにはなれたんやから、あとは門脇さん次第や無いかなぁ。今んとこは浮田さんが1段も2段も上手やと思うけど、人の心なんてどうなるか判らへんからねぇ」
「まぁな。浮田さんが絆される可能性かてあるわけやし」
「わしは桜湖がおかしな男と一緒になるのは嫌じゃぞ」
マリコちゃんが盛大に眉をしかめると、朔は「あはは」とおかしそうに笑う。
「きっと大丈夫やで。そもそも浮田さんは結婚願望が強ぅ無いから、今のお仕事でせっせと貯金してはるんやからさ」
「そう言えばそうじゃったの」
マリコちゃんはほっと安心した様に小さく息を吐く。
「まぁわしは桜湖が幸せになるのならそれで良い。頑張っている者は報われて欲しいとわしは思っておるからの。わしが赤飯を介してできることはそう大きくは無い。わしはそもそも五十嵐家に憑いておるんじゃからの。赤飯はほんのおすそ分けじゃ」
「それがあるか無いかで変わって来ることって結構多いと思うで」
「うん。私もそう思う。ありがとうね、マリコちゃん」
朔がにっこりと笑うと、マリコちゃんは「ふふん」と得意げに鼻を鳴らした。
「そんな、そんなにするんですか!? じゃあお酒を飲んだりしたら」
「お客さまによりますけど、1度で10万とかになったりしますから」
浮田さんが申し訳なさげに言うと、門脇さんは慌ててふるふると首を左右に振った。
「そ、それはとてもや無いですけど無理です。あ、でもボーナスが出た時やったら」
良いことを思いついたと言う様に門脇さんが言うと、浮田さんは冷静にゆっくりと首を振る。
「それは、あきません」
優しく言い含める様な口調だった。穏やかな微笑を浮かべられてはいるが真剣味があった。門脇さんもすっと表情を引き締める。
「お店に来はるんは自由やと思います。ですけどあれは娯楽です。娯楽は、これは持論なんですけど、ご自分の生活を圧迫したらあかんもんやと思うんです。あの、普通の会社にお勤めの方がお気軽に来られるんは難しい店やと思うんです。お給料を全部お小遣いにできても、お給料の額にもよると思いますけど、半額以上が持って行かれてしまうんや無いかと」
すると門脇さんはあからさまにうなだれた。
「その通りです……。僕は実家暮らしですけど、家にお金も入れてて、お給料も今はそんなに多く無い……。あ、そうか。浮田さんのお店に行ける様に稼げたらええんですよね!」
お話をしながら門脇さんの表情がどんどん輝いて行く。前向きなお考えでとても結構だが、そもそも数年でそうお給料は上がらない。よほど大きな成果を上げられたとか大幅な昇格などがあればともかく。
「門脇さん、それは現実的や無いです」
朔がつい口を挟んで目を伏せると、門脇さんは「え?」ときょとんとした様な表情を浮かべた。
「無理ですか?」
「無理とは思いませんけど、何年掛かるか」
双子の父は現在某大手企業の部長である。その役職を手に入れるために、何年も掛けて成果を出して来た。門脇さんの能力は判らないが、一朝一夕で成し遂げられるとは思えない。
父の場合はマリコちゃんのご加護もあり、それでも数年掛かっているのだから、門脇さんだってそれなりの時間を要するだろう。
「そうですか……」
門脇さんはがっくりと肩を落としてしまう。残念だがそう簡単に行くものでは無いと思う。父を見ていたこともあるが、これでも一応双子には社会人経験もあるのだ。その厳しさは知っているつもりである。
「あの、なんでうちのお店に来はりたいんですか? 新地だけでもクラブは色んなお店があって、お値段もそれこそピンキリです。スナックとかやったら結構気軽に飲んでいただけると思うのに」
浮田さんが訊くと、門脇さんは沈んだお顔のままぽつりと口を開いた。
「僕はただ、あの、浮田さんとお話がしたくて」
すると浮田さんは目を丸くして「あら」と口を押さえた。そして続けて「それやったら」と言う。
「別にうちのお店で無くても、この「あずき食堂」さんでやったらあきませんか? ええ、そうしませんか。それともクラブとかに興味がおありとか」
「す、少しだけ。でも僕は浮田さんとお話ができたらそれで」
門脇さんは照れて蚊の鳴く様な声で言う。実際のクラブ通いは、さすがに使う金額が金額なので、今は難しいだろう。でも「あずき食堂」でなら今までと変わらない。
「ならここでお話しましょう。私は決まった曜日とかに来れるわけや無いんで、連絡先を交換してくれはったら、来る時には連絡しますよ」
浮田さんはそう言って、カウンタ下の棚に置いていたショルダーバッグからスマートフォンを取り出した。それには門脇さんも、そして双子も慌ててしまう。
「浮田さん、そんな簡単に連絡先交換して大丈夫なんですか?」
陽が訊くと、浮田さんはにっこりと笑う。
「私、こう見えても仕事柄人を見る目はあるで。それにこうしてお話をするんは初めてやけど、ここで一緒になったことは何回もあるやろ? その時朔ちゃん陽ちゃんとお話してはるん聞こえて来ることもあるからね。えっと、確か門脇さん。門脇さんがええ方やってことぐらいは判るわ。それにここのお赤飯が好きな人に悪い人はおらんて思ってる」
「それやったら私らも嬉しいですけど」
朔が戸惑う様に言うと、浮田さんは「せやから大丈夫」とにっこりと口角を上げた。
「て言うてもメアドとかや無くて、チャットアプリのやけどね。門脇さん、アプリ入れてはります? これ」
そう言って浮田さんがスマートフォンのモニタで示したのは、双子でもインストールしている、一般的に広く使われている黄緑色のアイコンのチャットアプリだった。それこそお年寄りだってインストールして、お孫さんとのやりとりなどに使っているぐらいのメジャーなものだ。
「あ、は、はい」
門脇さんは慌ててジャケットの内ポケットからスマートフォンを取り出し、手帳型のカバーを開いた。
「じゃあ私のQRコードを読んでもろてええですか?」
「は、はい!」
浮田さんがスマートフォンに表示させたQRコードの上に、門脇さんがスマートフォンを軽く重ねた。そして門脇さんが自分のスマートフォンを操作する。無事に読み込めた様だ。
「あ、ありがとうございます!」
そう声を上げる門脇さんの頬は紅潮していた。門脇さんは「わぁ……っ」と嬉しそうにスマートフォンを見る。そこにはきっと浮田さんのアイコンとお名前が表示されているのだろう。
「いいえ。門脇さん、まずはあなたのことを教えて欲しいです」
「はい!」
浮田さんの綺麗で柔らかな笑顔に門脇さんはすっかりと浮き足立って、満面の笑みを浮かべた。
「うむ、やはり桜湖はさすがじゃな」
持ち帰り用のタッパーに入れなかったお惣菜を食べながら、マリコちゃんは満足げに言う。
「店を教えていれば客になっただろうに、そうはせんかった」
「それが浮田さんのええところやで。お店とかにもよるんかも知れへんけど、お金持ってるお客さまからどれだけ引き出すか、やからね。門脇さんからはそう取れへんでしょ」
朔があっけらかんと言うと、陽は「うわぁ」と顔をしかめる。
「あんた、人の良さげな顔して、たまにどぎついこと言うやんな」
「そう? ああいう世界って表はきらびやかやけど、裏はそんなもんなんや無いの?」
「いや、そりゃあそうかも知れへんけどさ」
「浮田さんは一流やから、あれへんとこから引っ張ろうとはしはれへんよ。お客さまに借金させるんは二流以下やからね。せやから門脇さんにああいう対応をしはったんよ。あのアプリで得られる個人情報はお相手のお名前ぐらいやし、ここで会う分には安全やからね。私らがおるし、浮田さんを気に入ってるマリコちゃんもおる」
「そうじゃな。赤飯は門脇から桜湖を守るぐらいはできるじゃろ」
「マリコちゃんのご加護ってそんなことまでできるんか?」
「少しだけ良いことがある。それは嫌な気持ちになるのを避けることにも繋がるからの。そうじゃのう、門脇への加護はまだ微妙なところの様じゃ。奴め、桜湖との繋がりには熱心じゃったのに、仕事にはそう真面目では無いのかの。そんなことでは桜湖の店に客として行くなんて夢のまた夢じゃぞ。今日桜湖に巡り会えたのは少しぐらいの加護が働いたからかも知れんがの。情けと言うやつじゃ」
マリコちゃんの言には少しばかり怒りが含まれている。このまま悪印象を持たなければ良いのだが。マリコちゃんは基本頑張る人の味方なのだ。朔は心の中で門脇さんにエールを送った。
「とりあえず浮田さんと門脇さんはお知り合いにはなれたんやから、あとは門脇さん次第や無いかなぁ。今んとこは浮田さんが1段も2段も上手やと思うけど、人の心なんてどうなるか判らへんからねぇ」
「まぁな。浮田さんが絆される可能性かてあるわけやし」
「わしは桜湖がおかしな男と一緒になるのは嫌じゃぞ」
マリコちゃんが盛大に眉をしかめると、朔は「あはは」とおかしそうに笑う。
「きっと大丈夫やで。そもそも浮田さんは結婚願望が強ぅ無いから、今のお仕事でせっせと貯金してはるんやからさ」
「そう言えばそうじゃったの」
マリコちゃんはほっと安心した様に小さく息を吐く。
「まぁわしは桜湖が幸せになるのならそれで良い。頑張っている者は報われて欲しいとわしは思っておるからの。わしが赤飯を介してできることはそう大きくは無い。わしはそもそも五十嵐家に憑いておるんじゃからの。赤飯はほんのおすそ分けじゃ」
「それがあるか無いかで変わって来ることって結構多いと思うで」
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