33 / 45
4章 宝物に会うために
第3話 通じ合えたら
しおりを挟む
雅玖との子どもを儲けるかどうか。真琴はそう至るには、やはり夫婦同士の愛情が必要だと思っている。今、ふたりの間にはそれが無い。
雅玖との時間が終わり、自室のベッドで横になった真琴はつらつらと考える。暗く静かな中、悩み事があるとそれが頭の中で前面に出てきてしまう。
さっき、雅玖は言ってくれた。
真琴が雅玖との子を望んでくれるなら、とても嬉しい。真琴と幸せになりたいと思っている。
それは、雅玖も真琴にそれなりの好意を持ってくれているということなのだろうか。だとしたら。
まだ結論は出せない。だが明日の朝も早い。早く寝なければと真琴は布団を被って目を閉じた。
結局、あれからあまり寝られた気はしなかった。目を閉じると余計に意識が冴えてしまい、気にかかっていることがますます頭を巡る。疲れもあってうつらうつらはしたものの、ぐっすりというわけにはいかなかった。
身体のだるさを抱えながら、朝ごはんの用意をする。今日は洋食である。食パンを焼いてベーコンエッグを作る。お汁物はクラムチャウダーだ。朝なのであさりの缶詰とミックスベジタブルを使って手軽に作った。腹持ちが良くなる様に角切りにしたじゃがいもも使っている。
「ママちゃま、このクラムチャウダー美味しい。今度僕らにも作り方教えて!」
四音の目が輝いている。景五も真琴を見てこくこくと頷いている。真琴は笑みを浮かべた。
「ええよ。今度夜に一緒に作ろか。あやかしたちにも食べてもらおうな」
「うん!」
四音も景五も、包丁使いなどが大分上達してきた。今ではお肉もお野菜もたくさん切ってもらっている。ふたりが作ったお料理はあやかしたちにも好評で、ふたりは大満足の日々だった。
ふたりはまだ小さいので、さすがに火の元を任すわけにはいかないが、これからも作りたいと思ったものを教えていけたら良いなと思う。
お料理も好奇心のひとつである。作りたいと思ったものを上手に作ることができたら、次はあれ、その次はこれ、と欲も出てくるものだ。
今はまだ真琴が教えながら作っていることもあり、ふたりとも上手に仕上げることができている。そのうちふたりだけで、もしくはそれぞれで作れる様になるだろう。その時が今から楽しみだ。
子どもたちを送り出し、朝ごはんの洗い物を終えた真琴は家事を始めていた雅玖を捕まえる。
「はい。どうしました?」
真琴はごくりと喉を鳴らす。昨夜眠ったり眠れなかったりしながら、考えていたことだ。
「卑怯なこと、聞いてええ?」
「何でしょうか」
雅玖は柔和な笑みを絶やさない。真琴は少し震える口を開いた。
「雅玖は私のこと、どう思ってる?」
雅玖の笑顔がひゅっと引いた。目を見開き、愕然としている様に見える。
「雅玖?」
その様子に真琴が驚くと、雅玖は「あ、すいません」と、少し寂しそうに微笑んだ。
「今さら聞かれるとは思ってもみませんでした。真琴さん」
「はい」
雅玖の優しい眼差しが真琴を見据えた。
「私はずっとあなたをお慕いしておりますよ。初めて会った時から、私はあなたのものですよ」
真琴は思わず雅玖に駆け寄り、タックルするかのごとく雅玖の胸元に飛び込んだ。
「真琴さん!?」
雅玖の声がうろたえている。真琴は構わず雅玖の身体に回す腕の力を強めた。
「雅玖、ありがとう。嬉しい」
嬉しい。心の底からそう思った。多幸感が身体中を駆け巡る。ああ、私もやっぱり雅玖が好きやったんや。真琴はあらためて自分の思いに向き合った。
恥ずかしくて顔を上げることができなかったが、初めての雅玖のぬくもりに、真琴は安心する。結婚式を挙げて夫婦になっておよそ1年半。ようやく思いが通じ会ったのだ。
「真琴さんも、私のことを思っていてくれるのですか……?」
雅玖の声も震えていた。真琴が大きく頷くと、雅玖の両手が真琴の背に伸びた。
「ありがとうございます」
暖かな腕に抱き締められて、真琴はまた幸せを噛み締めた。
その日も無事あやかしタイムが終わり、真琴と雅玖はいつもの様にふたりの時間を作る。用意する飲み物もいつもと同じ。
だがいつもと違うのは、ふたりの距離感だった。いつもなら不用意に触れてしまったりしない様に距離があったのだが、もうその必要は無い。
とは言え、過度には近付かない。ふたりはようやく始まったばかりである。ゆっくりと進んで行けば良いのだ。
なんてことを言いつつ、話は子どものことになる。真琴は雅玖との子どもなら、産んでも良いと思う様になっていた。
「そうですか。真琴さんがそう言ってくれるなら、私も嬉しいです。きっと可愛い子が産まれるでしょうね」
確かに雅玖の子なら、多少真琴の血が混ざっても見目麗しい子が産まれそうだ。
「実は真琴さん、あやかし同士は子作りをする時、母体となる女性の身体に、男のあやかしが妖力を送るのです。異種同士のあやかしだと、どちらかに負担が掛かってしまうのですよ」
「そうなんや。ほな、もしかして私らもその方法で子ども作れるん?」
「はい。ただ、やはり産むときの痛み、苦しみはあります。そこは女性に、真琴さんに頑張っていただかなければならないのですが」
「大丈夫やと思う。その痛みを乗り越えてこそやろうし。あ、今は無痛分娩もあるんか。でもその前に、ちゃんと子どもらに言わんとね。もし反対されたら、やめよ」
「良いのですか?」
「うん。あの子らが大事やもん。ちゃんとあの子らに歓迎されて産まれて来て欲しい。あの子らにお兄ちゃんお姉ちゃんになって欲しい。せやから」
「そうですね」
雅玖は真琴の右手を取り、両手で優しく包み込んだ。
「きっと大丈夫です。明日は土曜日ですから、子どもたちに話してみましょう」
「うん」
真琴はもう片方の手を雅玖の手に重ね合わせ、そっと撫でた。
雅玖との時間が終わり、自室のベッドで横になった真琴はつらつらと考える。暗く静かな中、悩み事があるとそれが頭の中で前面に出てきてしまう。
さっき、雅玖は言ってくれた。
真琴が雅玖との子を望んでくれるなら、とても嬉しい。真琴と幸せになりたいと思っている。
それは、雅玖も真琴にそれなりの好意を持ってくれているということなのだろうか。だとしたら。
まだ結論は出せない。だが明日の朝も早い。早く寝なければと真琴は布団を被って目を閉じた。
結局、あれからあまり寝られた気はしなかった。目を閉じると余計に意識が冴えてしまい、気にかかっていることがますます頭を巡る。疲れもあってうつらうつらはしたものの、ぐっすりというわけにはいかなかった。
身体のだるさを抱えながら、朝ごはんの用意をする。今日は洋食である。食パンを焼いてベーコンエッグを作る。お汁物はクラムチャウダーだ。朝なのであさりの缶詰とミックスベジタブルを使って手軽に作った。腹持ちが良くなる様に角切りにしたじゃがいもも使っている。
「ママちゃま、このクラムチャウダー美味しい。今度僕らにも作り方教えて!」
四音の目が輝いている。景五も真琴を見てこくこくと頷いている。真琴は笑みを浮かべた。
「ええよ。今度夜に一緒に作ろか。あやかしたちにも食べてもらおうな」
「うん!」
四音も景五も、包丁使いなどが大分上達してきた。今ではお肉もお野菜もたくさん切ってもらっている。ふたりが作ったお料理はあやかしたちにも好評で、ふたりは大満足の日々だった。
ふたりはまだ小さいので、さすがに火の元を任すわけにはいかないが、これからも作りたいと思ったものを教えていけたら良いなと思う。
お料理も好奇心のひとつである。作りたいと思ったものを上手に作ることができたら、次はあれ、その次はこれ、と欲も出てくるものだ。
今はまだ真琴が教えながら作っていることもあり、ふたりとも上手に仕上げることができている。そのうちふたりだけで、もしくはそれぞれで作れる様になるだろう。その時が今から楽しみだ。
子どもたちを送り出し、朝ごはんの洗い物を終えた真琴は家事を始めていた雅玖を捕まえる。
「はい。どうしました?」
真琴はごくりと喉を鳴らす。昨夜眠ったり眠れなかったりしながら、考えていたことだ。
「卑怯なこと、聞いてええ?」
「何でしょうか」
雅玖は柔和な笑みを絶やさない。真琴は少し震える口を開いた。
「雅玖は私のこと、どう思ってる?」
雅玖の笑顔がひゅっと引いた。目を見開き、愕然としている様に見える。
「雅玖?」
その様子に真琴が驚くと、雅玖は「あ、すいません」と、少し寂しそうに微笑んだ。
「今さら聞かれるとは思ってもみませんでした。真琴さん」
「はい」
雅玖の優しい眼差しが真琴を見据えた。
「私はずっとあなたをお慕いしておりますよ。初めて会った時から、私はあなたのものですよ」
真琴は思わず雅玖に駆け寄り、タックルするかのごとく雅玖の胸元に飛び込んだ。
「真琴さん!?」
雅玖の声がうろたえている。真琴は構わず雅玖の身体に回す腕の力を強めた。
「雅玖、ありがとう。嬉しい」
嬉しい。心の底からそう思った。多幸感が身体中を駆け巡る。ああ、私もやっぱり雅玖が好きやったんや。真琴はあらためて自分の思いに向き合った。
恥ずかしくて顔を上げることができなかったが、初めての雅玖のぬくもりに、真琴は安心する。結婚式を挙げて夫婦になっておよそ1年半。ようやく思いが通じ会ったのだ。
「真琴さんも、私のことを思っていてくれるのですか……?」
雅玖の声も震えていた。真琴が大きく頷くと、雅玖の両手が真琴の背に伸びた。
「ありがとうございます」
暖かな腕に抱き締められて、真琴はまた幸せを噛み締めた。
その日も無事あやかしタイムが終わり、真琴と雅玖はいつもの様にふたりの時間を作る。用意する飲み物もいつもと同じ。
だがいつもと違うのは、ふたりの距離感だった。いつもなら不用意に触れてしまったりしない様に距離があったのだが、もうその必要は無い。
とは言え、過度には近付かない。ふたりはようやく始まったばかりである。ゆっくりと進んで行けば良いのだ。
なんてことを言いつつ、話は子どものことになる。真琴は雅玖との子どもなら、産んでも良いと思う様になっていた。
「そうですか。真琴さんがそう言ってくれるなら、私も嬉しいです。きっと可愛い子が産まれるでしょうね」
確かに雅玖の子なら、多少真琴の血が混ざっても見目麗しい子が産まれそうだ。
「実は真琴さん、あやかし同士は子作りをする時、母体となる女性の身体に、男のあやかしが妖力を送るのです。異種同士のあやかしだと、どちらかに負担が掛かってしまうのですよ」
「そうなんや。ほな、もしかして私らもその方法で子ども作れるん?」
「はい。ただ、やはり産むときの痛み、苦しみはあります。そこは女性に、真琴さんに頑張っていただかなければならないのですが」
「大丈夫やと思う。その痛みを乗り越えてこそやろうし。あ、今は無痛分娩もあるんか。でもその前に、ちゃんと子どもらに言わんとね。もし反対されたら、やめよ」
「良いのですか?」
「うん。あの子らが大事やもん。ちゃんとあの子らに歓迎されて産まれて来て欲しい。あの子らにお兄ちゃんお姉ちゃんになって欲しい。せやから」
「そうですね」
雅玖は真琴の右手を取り、両手で優しく包み込んだ。
「きっと大丈夫です。明日は土曜日ですから、子どもたちに話してみましょう」
「うん」
真琴はもう片方の手を雅玖の手に重ね合わせ、そっと撫でた。
27
あなたにおすすめの小説
王女殿下のモラトリアム
あとさん♪
恋愛
「君は彼の気持ちを弄んで、どういうつもりなんだ?!この悪女が!」
突然、怒鳴られたの。
見知らぬ男子生徒から。
それが余りにも突然で反応できなかったの。
この方、まさかと思うけど、わたくしに言ってるの?
わたくし、アンネローゼ・フォン・ローリンゲン。花も恥じらう16歳。この国の王女よ。
先日、学園内で突然無礼者に絡まれたの。
お義姉様が仰るに、学園には色んな人が来るから、何が起こるか分からないんですって!
婚約者も居ない、この先どうなるのか未定の王女などつまらないと思っていたけれど、それ以来、俄然楽しみが増したわ♪
お義姉様が仰るにはピンクブロンドのライバルが現れるそうなのだけど。
え? 違うの?
ライバルって縦ロールなの?
世間というものは、なかなか複雑で一筋縄ではいかない物なのですね。
わたくしの婚約者も学園で捕まえる事が出来るかしら?
この話は、自分は平凡な人間だと思っている王女が、自分のしたい事や好きな人を見つける迄のお話。
※設定はゆるんゆるん
※ざまぁは無いけど、水戸○門的なモノはある。
※明るいラブコメが書きたくて。
※シャティエル王国シリーズ3作目!
※過去拙作『相互理解は難しい(略)』の12年後、
『王宮勤めにも色々ありまして』の10年後の話になります。
上記未読でも話は分かるとは思いますが、お読みいただくともっと面白いかも。
※ちょいちょい修正が入ると思います。誤字撲滅!
※小説家になろうにも投稿しました。
同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました
菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」
クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。
だが、みんなは彼と楽しそうに話している。
いや、この人、誰なんですか――っ!?
スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。
「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」
「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」
「同窓会なのに……?」
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
異世界に行った、そのあとで。
神宮寺 あおい
恋愛
新海なつめ三十五歳。
ある日見ず知らずの女子高校生の異世界転移に巻き込まれ、気づけばトルス国へ。
当然彼らが求めているのは聖女である女子高校生だけ。
おまけのような状態で現れたなつめに対しての扱いは散々な中、宰相の協力によって職と居場所を手に入れる。
いたって普通に過ごしていたら、いつのまにか聖女である女子高校生だけでなく王太子や高位貴族の子息たちがこぞって悩み相談をしにくるように。
『私はカウンセラーでも保健室の先生でもありません!』
そう思いつつも生来のお人好しの性格からみんなの悩みごとの相談にのっているうちに、いつの間にか年下の美丈夫に好かれるようになる。
そして、気づけば異世界で求婚されるという本人大混乱の事態に!
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる