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#76 ツナ料理の朝ご飯。その2
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「いただきます」
フォークを手にし、まずは味噌汁を啜る。流れに付いて来た卵白がふわふわに仕上がっている。じゃがいもを食べると、こちらもほくほくになっていた。
ブイヨン出汁の味噌汁も、すっかり慣れた味になった。具は出来るだけ変えたいものだが、どうしても味噌汁に使える野菜の種類が少ないので難しい。葉物がもう少しあれば良いのだが。
次にオムレツ。これは卵の焼き加減が勝負だ。表面しっとり、中身とろりが理想である。さて、ちゃんと出来ているか。
フォークを入れると、中から程良い半熟の断面が顔を出した。これはなかなか巧く行ったのでは無いだろうか。
掬って口に入れる。うん、塩加減も良い感じ。ツナのオイルを使ったからか、ツナの風味が全体に行き渡っていて、卵の甘みとバターのコクに良く合っている。
最後の一品、ツナの握り。一口目からツナマヨネーズが届く様に、具は細長いめに置いた。さて、その狙いは的中する。
安定のツナマヨ握り。微塵切りの玉ねぎが良いアクセントになっている。味をさっぱりもさせてくれる。
ツナとマヨネーズだけでも充分だろうが、やはり玉ねぎ入りが壱は好きである。自分ではなかなか面倒になって、そこまで凝る事は無かったが。
今朝は久々に食べたくなって、頑張ってみた。残っていた玉ねぎもあったので丁度良かった。
この世界では、食べたいものは自分で作らなければありつけないのである。
「ツナマヨのお握りは懐かしいのう。儂らの世代にはハイカラな食べ物じゃの。おや、玉ねぎも入っておるんじゃな。シャキシャキして良いのう」
「無くても美味しいけどね。今回はお握りに入れるから微塵切りにしたけど、もっとざく切りで和え物にしても良いだろうし、きゅうりの塩揉みと和えても良いし」
「おお、成る程の。ツナは色々な食べ方があるんじゃのう」
サユリと似た様な事言ってる。壱は可笑しくなってつい微笑む。
「オムレツも味噌汁も旨いぞい。壱は料理上手じゃのう」
「うむ。連れて来て正解だったカピ」
「そう言って貰えると、作った甲斐があるよ」
壱は少し照れて、小さく笑った。
朝食の洗い物を済ませ、茂造は厨房へ。壱とサユリはフロアに出て、壱は椅子に、サユリはテーブルに上がる。
するとそのタイミングでドアが開き、カリルとサントが出勤して来た。
「あ、イチ、サユリさん、おはよう!」
カリルが元気な挨拶。サントは小さく頭を下げた。
「おはようカピ」
「おはよう。俺、今日は田んぼ作りに行くんだ。だから仕込みとか営業中もいなくて、忙しいのにご免」
「気ーにすんなって。米育てんだろ? 楽しみだな! 前に食べたの旨かったしさ。でもイチ、こっち来る時、米と種両方持ってたのか?」
「え、あ、」
サユリが種籾を持ち込み、時間魔法で育てたなんて言えない。壱が応えに窮すると、サユリが助けてくれた。
「米を持っていたのは壱カピが、種籾を持ち込んだのは我カピ。向こうの世界で壱と会う前に手に入れたのだカピ」
「へぇ、成る程な。じゃ、俺らは仕込み行くな! 昼はイチは客として来るんかな?」
「あ、どうだろ。田んぼ作りの進みにもよると思うんだけど」
「そうだな! じゃ、また後でな!」
カリルが言い、サントがまた頭を下げると、ふたりは厨房に入って言った。
さて壱は、手にしているメモに眼を落とす。田んぼの作り方が書いてある。昨夜あらためてスマートフォンで調べたものだ。
現状仕上がっている筈の煉瓦でどの広さの田んぼが出来るのかを算出し、各辺に並べる個数を書いてある。
幸い、この世界の数字の描写とスケールは壱たちの世界と同じだった。お陰で計算しやすかった。
そんなに大きな田んぼは作れない。しかしいつでも新米に近い美味しい米が食べられる様に、幾つか田んぼを作り、時間差で育てて行く予定だ。
今日はそのひとつめを作るのである。
みんなに作業をして貰うのに、こちらがもたついていたら話にならない。壱は頭の中でシミュレーションしながらメモを見つめる。
すると、その表情が余程強張っていたのか、サユリがやや呆れた様に溜め息を吐いた。
「壱、そんなに構えなくても大丈夫だカピ。大方ちゃんと指導出来るかどうか、そんな事を気に掛けているのだろうカピが、壱なら出来るカピ」
「いや、それも勿論心配だけど、俺、新参者だからさ。村の人みんな良い人で、煉瓦一緒に作ってそんなの解ってんだけど、あの時は教えて貰う立場だったからさ。いや今回もだけど。俺煉瓦積みとかした事無いし。万が一偉そうとか思われて、亀裂でも走ろうもんなら、これから先難しくなるかもって」
「そんな心配は無用カピ。村人はみんな我の、そして茂造のお眼鏡に適った者ばかりカピ。それに加え我の加護もあるカピ。そう大きな村では無いのだカピ、そんな事にはならない様にしてあるカピよ。派閥だの何だの、そんなものが出来たら面倒だカピからな」
「そ、そっか。少し安心した」
壱は小さく息を吐く。
「勿論過度に尊大な態度は禁物だカピ。それはそもそも人として駄目だカピ。だが、まだ短い期間ではあるカピが、壱はそもそも敵を作るタイプでは無いと、我は見ているカピ。だから大丈夫カピ」
サユリが何気無く言う。きっと褒めてくれているのだと思う。壱は微笑んだ。
「ありがとう、サユリ」
サユリは返事の代わりに鼻を鳴らした。
その時、食堂のドアが開き、ジェンが顔を覗かせた。
「おはよっす! 今日からよろしくっす!」
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
壱は笑みを浮かべて、ジェンを迎えた。
フォークを手にし、まずは味噌汁を啜る。流れに付いて来た卵白がふわふわに仕上がっている。じゃがいもを食べると、こちらもほくほくになっていた。
ブイヨン出汁の味噌汁も、すっかり慣れた味になった。具は出来るだけ変えたいものだが、どうしても味噌汁に使える野菜の種類が少ないので難しい。葉物がもう少しあれば良いのだが。
次にオムレツ。これは卵の焼き加減が勝負だ。表面しっとり、中身とろりが理想である。さて、ちゃんと出来ているか。
フォークを入れると、中から程良い半熟の断面が顔を出した。これはなかなか巧く行ったのでは無いだろうか。
掬って口に入れる。うん、塩加減も良い感じ。ツナのオイルを使ったからか、ツナの風味が全体に行き渡っていて、卵の甘みとバターのコクに良く合っている。
最後の一品、ツナの握り。一口目からツナマヨネーズが届く様に、具は細長いめに置いた。さて、その狙いは的中する。
安定のツナマヨ握り。微塵切りの玉ねぎが良いアクセントになっている。味をさっぱりもさせてくれる。
ツナとマヨネーズだけでも充分だろうが、やはり玉ねぎ入りが壱は好きである。自分ではなかなか面倒になって、そこまで凝る事は無かったが。
今朝は久々に食べたくなって、頑張ってみた。残っていた玉ねぎもあったので丁度良かった。
この世界では、食べたいものは自分で作らなければありつけないのである。
「ツナマヨのお握りは懐かしいのう。儂らの世代にはハイカラな食べ物じゃの。おや、玉ねぎも入っておるんじゃな。シャキシャキして良いのう」
「無くても美味しいけどね。今回はお握りに入れるから微塵切りにしたけど、もっとざく切りで和え物にしても良いだろうし、きゅうりの塩揉みと和えても良いし」
「おお、成る程の。ツナは色々な食べ方があるんじゃのう」
サユリと似た様な事言ってる。壱は可笑しくなってつい微笑む。
「オムレツも味噌汁も旨いぞい。壱は料理上手じゃのう」
「うむ。連れて来て正解だったカピ」
「そう言って貰えると、作った甲斐があるよ」
壱は少し照れて、小さく笑った。
朝食の洗い物を済ませ、茂造は厨房へ。壱とサユリはフロアに出て、壱は椅子に、サユリはテーブルに上がる。
するとそのタイミングでドアが開き、カリルとサントが出勤して来た。
「あ、イチ、サユリさん、おはよう!」
カリルが元気な挨拶。サントは小さく頭を下げた。
「おはようカピ」
「おはよう。俺、今日は田んぼ作りに行くんだ。だから仕込みとか営業中もいなくて、忙しいのにご免」
「気ーにすんなって。米育てんだろ? 楽しみだな! 前に食べたの旨かったしさ。でもイチ、こっち来る時、米と種両方持ってたのか?」
「え、あ、」
サユリが種籾を持ち込み、時間魔法で育てたなんて言えない。壱が応えに窮すると、サユリが助けてくれた。
「米を持っていたのは壱カピが、種籾を持ち込んだのは我カピ。向こうの世界で壱と会う前に手に入れたのだカピ」
「へぇ、成る程な。じゃ、俺らは仕込み行くな! 昼はイチは客として来るんかな?」
「あ、どうだろ。田んぼ作りの進みにもよると思うんだけど」
「そうだな! じゃ、また後でな!」
カリルが言い、サントがまた頭を下げると、ふたりは厨房に入って言った。
さて壱は、手にしているメモに眼を落とす。田んぼの作り方が書いてある。昨夜あらためてスマートフォンで調べたものだ。
現状仕上がっている筈の煉瓦でどの広さの田んぼが出来るのかを算出し、各辺に並べる個数を書いてある。
幸い、この世界の数字の描写とスケールは壱たちの世界と同じだった。お陰で計算しやすかった。
そんなに大きな田んぼは作れない。しかしいつでも新米に近い美味しい米が食べられる様に、幾つか田んぼを作り、時間差で育てて行く予定だ。
今日はそのひとつめを作るのである。
みんなに作業をして貰うのに、こちらがもたついていたら話にならない。壱は頭の中でシミュレーションしながらメモを見つめる。
すると、その表情が余程強張っていたのか、サユリがやや呆れた様に溜め息を吐いた。
「壱、そんなに構えなくても大丈夫だカピ。大方ちゃんと指導出来るかどうか、そんな事を気に掛けているのだろうカピが、壱なら出来るカピ」
「いや、それも勿論心配だけど、俺、新参者だからさ。村の人みんな良い人で、煉瓦一緒に作ってそんなの解ってんだけど、あの時は教えて貰う立場だったからさ。いや今回もだけど。俺煉瓦積みとかした事無いし。万が一偉そうとか思われて、亀裂でも走ろうもんなら、これから先難しくなるかもって」
「そんな心配は無用カピ。村人はみんな我の、そして茂造のお眼鏡に適った者ばかりカピ。それに加え我の加護もあるカピ。そう大きな村では無いのだカピ、そんな事にはならない様にしてあるカピよ。派閥だの何だの、そんなものが出来たら面倒だカピからな」
「そ、そっか。少し安心した」
壱は小さく息を吐く。
「勿論過度に尊大な態度は禁物だカピ。それはそもそも人として駄目だカピ。だが、まだ短い期間ではあるカピが、壱はそもそも敵を作るタイプでは無いと、我は見ているカピ。だから大丈夫カピ」
サユリが何気無く言う。きっと褒めてくれているのだと思う。壱は微笑んだ。
「ありがとう、サユリ」
サユリは返事の代わりに鼻を鳴らした。
その時、食堂のドアが開き、ジェンが顔を覗かせた。
「おはよっす! 今日からよろしくっす!」
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします」
壱は笑みを浮かべて、ジェンを迎えた。
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