異世界もふもふ食堂〜僕と爺ちゃんと魔法使い仔カピバラの味噌スローライフ〜

山いい奈

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#84 海で昆布採りをしよう

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 海は村を裏から出て、そこそこ歩いたところにあった。

 あおい海、白い浜辺が広がっている。見事だった。これは上質なバカンスが出来る! そう思わせる透明度の高い海水に、粒子の細かいサラサラの砂。

 壱は特に泳ぎが好きでも得意でも無いが、これには眼を輝かせた。

「凄いな! すっごい綺麗な海!」

 壱が興奮して言うと、サユリは首を傾げた。

「日本は島国カピ。海なんて珍しく無いカピ?」

「いやいや、日本でここまで綺麗な海は少ないんだよ。昔あった水質汚染とかもあるかも知れないけど、太陽の加減とかもあるのかな。沖縄って南の島の県は綺麗らしいんだけど、俺らが住んでたところとかは、汚いって程では無いけど、碧いって感じはまるで無かったな」

 幼い頃の夏には、交代で休みを取っていた父親か母親に、妹の柚絵ゆえと一緒に連れて行って貰ったり、ある程度大きくなった頃には、夏休みなどに友人と行ったりした。近場の綺麗とは言えない海だ。

 それはそれで楽しい思い出だが、海の美しさは度外視だった。

 壱は沖縄には行った事が無い。映像や写真で見ただけだ。そして海外のリゾート地なども同様で。

 なのでここの海は、壱がこれまで肉眼で見た中で、最高に綺麗な海だった。

「ところで壱、漁師たちはこの辺りから漁に出るカピよ」

「あ、そうなんだ」

 見ると、やや離れた波打ち際には数隻すうせきの小振りな船があり、その付近の浜辺には小屋が建てられていた。

 船は壱の知る漁船というおもむきでは無い。エンジンが付いているボート、と言う感じが近いだろうか。サイズは大きめであるが。

「もうそろそろ漁から戻る時間だと思うカピ。あの船はスペアだカピな。もしエンジンが壊れてしまったら、修理を待ってはいられないカピ。小屋は倉庫と漁師の休憩所を兼ねているカピ」

「なるほどなー、って、エンジン? そんな機械この村にあるの?」

「街から購入したカピよ。前は手漕てごきだったカピ。けど、それでは漁師の負担も大きいカピからな」

 確かにそれは大変だ。

「街っていろいろ進んでるんだな」

「そうカピね。この村はこの村でやって行きたいカピが、便利なものは適度に取り入れるカピ。それで村人のストレスを生んでも何の得も無いカピよ。彼らには精々せいぜいすこやかに働いて貰わなければならないカピ」

「そっか」

 いろいろ考えられている様だ。次期村長候補として、勉強せねば。

「では、我は潜って来るカピ。昆布がどういうものか解っているつもりではあるカピが、それがそのものかどうかは壱の判断に寄るカピ。他の人間に見付かる前に済ませたいカピ」

「うん、よろしく!」

 壱が言うと、サユリは俊敏しゅんびんに動き、波打ち際に足を掛けると、躊躇ためらい無く進んで潜って行った。見ている壱が慌ててしまうぐらいだ。

 そして数十分後、サユリが口に大きな海藻かいそうくわえて、海面に上がって来た。

 浜辺に三角座りで待っていた壱は咄嗟に立ち上がり、砂に足を取られながら波打ち際に駆け寄る。

 海から上がったサユリは、海藻を砂浜に落とした。2枚あった。

「これが昆布だと思うカピ。勿論毒も無いカピ。どうカピか?」

「うん!」

 サユリが昆布を採ってくれるとなって、壱は心待ちにして何度もスマートフォンで画像を見た。

 これで間違い無い筈だ。幅も長さも充分で、そして厚い。これは上質な昆布の予感。匂いもいでみたのだが、しおの香りが強く、何とも判断出来なかった。

 だが大丈夫だろう。壱は頷くと、その海藻を2枚重ねて丸め、桶に入れた。

「ありがとうサユリ。これでメニューも広がるよ」

「なら良かったカピ」

 そう言うサユリを見ると、言っていた通り、少しも濡れていなかった。息も充分った様子。魔法の凄さと有り難みをあらためて感じる。

 そうして壱たちは海を離れた。



 昆布の加工は後でするとして、このまま固まったりくっ付いてしまったりしない様に、サユリに時間魔法を掛けてもらい、桶を食堂の裏庭の日陰に置く。

 厨房に声を掛けた後、壱は急いで田んぼ予定地に戻る。

 サユリが「そう慌てる必要は無いカピ」と言いのんびり歩くので、壱は「じゃあ先に行ってるからゆっくり来てよ」と言い置いて歩を進めた。

 到着すると、ガイたちは集まって談笑だんしょうしていた。田んぼを見ると、煉瓦は綺麗に3段積まれていた。

「あ、イチくん、お帰りなさい」

「お帰りっす! 煉瓦終わったっすよ! 流石さすがに疲れたんで、少し休憩してたっす!」

 午前中の穴掘りから、ほぼ休憩無しで働いてくれたのである。体力自慢であっても疲れて当然だ。

「ありがとうございます。お願いですからしっかり休憩してくださいね。と言っても、実はセメントが乾くまで、ここで出来る事は無いんです」

 次は米の苗を作らねばならないが、種籾たねもみは発芽させる為に、7日~10日ほど流水にさらさなければならない。

 最初の米作りの時には、サユリの時間魔法のお陰でほんの数分で終わったので、失念してしまっていた。

 煉瓦作りを始める前に、川に仕掛けておけば良かった。

 しかし今更言っても仕方が無い。これからやれば良いのだ。

「効率が悪い事になってしまってごめんなさい。これから種籾の準備をします。食堂の裏庭に行きましょう」

 その頃にはサユリも到着していて、蜻蛉返とんぼがえりさせる事になってしまった。しかし煉瓦や道具を運んだ荷車をついでに食堂に戻すので、サユリはそれに当然の様に乗り込む。

 そうしてサユリが乗った荷車をガイが、道具を乗せたもう1台をナイルが引き、壱たちは食堂に向かった。
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