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#188 カルとミルの予想していた……
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夜営業がひと段落着いた頃。カルとミルが揃って食堂を訪れた。
マーガレットが空いた皿を手に、壱と茂造を呼びに厨房へ顔を出す。
「突然で申し訳無いけどぉ~、お話大丈夫かって~」
茂造と壱は顔を見合わせる。ああ、予想していた事が現実となったか?
「ふたりはどんな様子だったかの?」
茂造が訊くと、マーガレットは肩を竦める。
「カルは固い表情だったわぁ~、ミルはしくしく泣いていたわねぇ~。どうしたかは大体想像付いちゃうけどぉ~」
ミルの性質は村中が知っているだろうから、マーガレットも含め大半の人たちは予想出来ていたかも知れない。
「ふたりはもう食事は終わったのかの?」
「終わってるわよぉ~。このお皿、ふたりの分だったの~。サントぉ、洗い物よろしくね~」
マーガレットは言うと、サントの立つシンクに皿を入れた。
「やれやれ、また何とかミルを説得せんとのう。壱、行けるかの?」
「うん、大丈夫」
「ではカリル、サント、後はよろしくの」
壱と茂造はそうしてホールへ。
カルとミルが並んで掛ける席に近付くと、カルが立ち上がって深く頭を下げる。ミルは白いハンカチを手に静かに泣き続けていた。
壱と茂造がふたりの正面に座ると、カルも腰を落とす。あれ、サユリは、と見渡すと、酒盛りが始まっている席に捕まっていた。
「サユリさんはひと段落したら来るじゃろ。ええとのう、大体の予想は付いておるんじゃが」
「はい……」
カルが辛そうに項垂れる。
「ともに仕事をしているんですから、家の事も分担だと、自分の事は当然自分でと、他のご家庭もそうである様に……俺はそのつもりでした。結婚前に店長さんたちに説得されて、納得したんだと思ってました。ですが、家事は勿論俺の身の周りの事までされてしまうんです。文字通り上げ膳据え膳状態ですよ。それが心地良い人も村の外にはいるんだと思います。でもこの村は違います。俺は居心地が悪くて仕方が無いんです」
カルはそこまで一気に言うと小さく息を吐き、また口を開く。
「店長さんたちに頼らず、自分で何とかしようと思いました。だから出来るだけ傷付けない様に、俺なりに伝えたつもりです。そしたら泣かれてしまって」
「だ、だって!」
ここで漸くミルが声を上げた。
「仕事も続けています。誰にも迷惑を掛けてません。私は、私はただカルに尽くしたいだけなんです!」
大声では無いものの、まるで悲鳴の様だ。
「じゃが、それでカルに辛い思いをさせてる事は解っとるかの?」
茂造の声は静かで諭す様ではあったが、何時もの様な暖かみは込められていなかった。壱は胃に重いものを感じる。
「尽くされて心地良い人だっているじゃないですか。私はカルにもそうして欲しいんです」
「それは無理だよ、ミル」
訴えるミルを、カルはばっさりと拒む。
「結婚前にミルが専業主婦になりたいって言った時、確かにミルがしたい様にさせてあげたいって思った。でも駄目だったよ。考えてみたらそうだよな。だって俺、こん村で生まれてこの村で育ってるんだから。この村のシステムに馴染みきってて、それが当たり前だと思ってるんだから。結婚前に店長さんに言われたよな、専業主婦になりたいなら、この村を出るしか無いって。でも俺は思うよ。この村を出たら、多分俺たちは離婚する事になるって」
「離婚なんて嫌っ!」
ミルは叫ぶ。その声はホール内に響き渡って、それまで騒がしかった酒盛り組も一瞬静かになる。が、何事も無かった様にまたアルコールに興じる。
そしてそのタイミングでサユリがその場から離れ、壱たちのテーブルに上がって来た。
「やれやれ、やっと解放されたカピ」
「お疲れさま、サユリ」
壱がその背中を撫でてやると、サユリは心地良さそうに眼を細めた。そうして右前足を軽く上げると、空中でくるりと回す。そうしてまた眼を閉じる。
するとそれまで泣いていたミルが、鼻を啜りながらも漸く泣き止んだ。
「……そうですよね。私、この村でしか多分生きて行けない。この村で無いと、愛する人とも暮らせない。他の人だってやっているんだもの、私だって……! 私、頑張ります。尽くしたいって思うけど、その前にカルに嫌な思いをして欲しく無いから。店長さん、イチくん、サユリさん、ごめんなさい、ご迷惑をお掛けしました」
ミルは殊勝に言うと、壱たちに深く頭を下げた。その変わり身に隣のカルは半ば呆然とする。
「ミル、大丈夫なのか?」
カルがそう恐る恐る問うと、ミルは弱々しいながらも笑みを浮かべた。
「うん、大丈夫。カルもごめんね。これからはお仕事もだけど家事も一緒にやって、ふたりで支え合って行こうね。あ、でも少しだけ、お世話させてくれると嬉しいな」
「う、うん」
カルはその台詞に驚いたか、瞬きを繰り返した。
「うんうん、そうじゃのう。そうやって支え合って行くのがやはり良いと、儂も思うぞい。そうしたらきっと良い家庭が築けるからの」
「はい」
茂造の、先ほどとは違う暖かみのある台詞と声色に、ミルははにかんだ。
カルは驚いていたが、サユリがミルに対して魔法を使った事は、壱にも茂造にも解っていた。
「心理操作なんてしていないカピ。単にミルに対して加護を強めただけカピよ」
サユリはしれっとそう言った。真偽は判らないが、そう信じておくのが平和だろう。
ともあれこれで、カルとミル夫妻は安泰だろう。頼むから続いて欲しい。
「さての、厨房に戻ろうかの、壱よ」
茂造がそう言って立ち上がると、サユリも溜め息を吐きながら身体を起こした。
「ふぅ、またあの酒の席に戻る事になるのかカピか。酔っ払いの相手は面倒カピ」
「サユリも厨房に来る?」
「そうしたいのは山々カピが、これも我の仕事なのだカピよ。ま、適当にあしらって来るカピ」
「頑張って」
そうしてサユリは酒盛りの席に、壱と茂造は厨房に戻って行った。
マーガレットが空いた皿を手に、壱と茂造を呼びに厨房へ顔を出す。
「突然で申し訳無いけどぉ~、お話大丈夫かって~」
茂造と壱は顔を見合わせる。ああ、予想していた事が現実となったか?
「ふたりはどんな様子だったかの?」
茂造が訊くと、マーガレットは肩を竦める。
「カルは固い表情だったわぁ~、ミルはしくしく泣いていたわねぇ~。どうしたかは大体想像付いちゃうけどぉ~」
ミルの性質は村中が知っているだろうから、マーガレットも含め大半の人たちは予想出来ていたかも知れない。
「ふたりはもう食事は終わったのかの?」
「終わってるわよぉ~。このお皿、ふたりの分だったの~。サントぉ、洗い物よろしくね~」
マーガレットは言うと、サントの立つシンクに皿を入れた。
「やれやれ、また何とかミルを説得せんとのう。壱、行けるかの?」
「うん、大丈夫」
「ではカリル、サント、後はよろしくの」
壱と茂造はそうしてホールへ。
カルとミルが並んで掛ける席に近付くと、カルが立ち上がって深く頭を下げる。ミルは白いハンカチを手に静かに泣き続けていた。
壱と茂造がふたりの正面に座ると、カルも腰を落とす。あれ、サユリは、と見渡すと、酒盛りが始まっている席に捕まっていた。
「サユリさんはひと段落したら来るじゃろ。ええとのう、大体の予想は付いておるんじゃが」
「はい……」
カルが辛そうに項垂れる。
「ともに仕事をしているんですから、家の事も分担だと、自分の事は当然自分でと、他のご家庭もそうである様に……俺はそのつもりでした。結婚前に店長さんたちに説得されて、納得したんだと思ってました。ですが、家事は勿論俺の身の周りの事までされてしまうんです。文字通り上げ膳据え膳状態ですよ。それが心地良い人も村の外にはいるんだと思います。でもこの村は違います。俺は居心地が悪くて仕方が無いんです」
カルはそこまで一気に言うと小さく息を吐き、また口を開く。
「店長さんたちに頼らず、自分で何とかしようと思いました。だから出来るだけ傷付けない様に、俺なりに伝えたつもりです。そしたら泣かれてしまって」
「だ、だって!」
ここで漸くミルが声を上げた。
「仕事も続けています。誰にも迷惑を掛けてません。私は、私はただカルに尽くしたいだけなんです!」
大声では無いものの、まるで悲鳴の様だ。
「じゃが、それでカルに辛い思いをさせてる事は解っとるかの?」
茂造の声は静かで諭す様ではあったが、何時もの様な暖かみは込められていなかった。壱は胃に重いものを感じる。
「尽くされて心地良い人だっているじゃないですか。私はカルにもそうして欲しいんです」
「それは無理だよ、ミル」
訴えるミルを、カルはばっさりと拒む。
「結婚前にミルが専業主婦になりたいって言った時、確かにミルがしたい様にさせてあげたいって思った。でも駄目だったよ。考えてみたらそうだよな。だって俺、こん村で生まれてこの村で育ってるんだから。この村のシステムに馴染みきってて、それが当たり前だと思ってるんだから。結婚前に店長さんに言われたよな、専業主婦になりたいなら、この村を出るしか無いって。でも俺は思うよ。この村を出たら、多分俺たちは離婚する事になるって」
「離婚なんて嫌っ!」
ミルは叫ぶ。その声はホール内に響き渡って、それまで騒がしかった酒盛り組も一瞬静かになる。が、何事も無かった様にまたアルコールに興じる。
そしてそのタイミングでサユリがその場から離れ、壱たちのテーブルに上がって来た。
「やれやれ、やっと解放されたカピ」
「お疲れさま、サユリ」
壱がその背中を撫でてやると、サユリは心地良さそうに眼を細めた。そうして右前足を軽く上げると、空中でくるりと回す。そうしてまた眼を閉じる。
するとそれまで泣いていたミルが、鼻を啜りながらも漸く泣き止んだ。
「……そうですよね。私、この村でしか多分生きて行けない。この村で無いと、愛する人とも暮らせない。他の人だってやっているんだもの、私だって……! 私、頑張ります。尽くしたいって思うけど、その前にカルに嫌な思いをして欲しく無いから。店長さん、イチくん、サユリさん、ごめんなさい、ご迷惑をお掛けしました」
ミルは殊勝に言うと、壱たちに深く頭を下げた。その変わり身に隣のカルは半ば呆然とする。
「ミル、大丈夫なのか?」
カルがそう恐る恐る問うと、ミルは弱々しいながらも笑みを浮かべた。
「うん、大丈夫。カルもごめんね。これからはお仕事もだけど家事も一緒にやって、ふたりで支え合って行こうね。あ、でも少しだけ、お世話させてくれると嬉しいな」
「う、うん」
カルはその台詞に驚いたか、瞬きを繰り返した。
「うんうん、そうじゃのう。そうやって支え合って行くのがやはり良いと、儂も思うぞい。そうしたらきっと良い家庭が築けるからの」
「はい」
茂造の、先ほどとは違う暖かみのある台詞と声色に、ミルははにかんだ。
カルは驚いていたが、サユリがミルに対して魔法を使った事は、壱にも茂造にも解っていた。
「心理操作なんてしていないカピ。単にミルに対して加護を強めただけカピよ」
サユリはしれっとそう言った。真偽は判らないが、そう信じておくのが平和だろう。
ともあれこれで、カルとミル夫妻は安泰だろう。頼むから続いて欲しい。
「さての、厨房に戻ろうかの、壱よ」
茂造がそう言って立ち上がると、サユリも溜め息を吐きながら身体を起こした。
「ふぅ、またあの酒の席に戻る事になるのかカピか。酔っ払いの相手は面倒カピ」
「サユリも厨房に来る?」
「そうしたいのは山々カピが、これも我の仕事なのだカピよ。ま、適当にあしらって来るカピ」
「頑張って」
そうしてサユリは酒盛りの席に、壱と茂造は厨房に戻って行った。
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