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2章 未来のふたり(仮)
第15話 気まずい再会
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翌週の土曜日がやって来た。梅雨入りしたその日は生憎の雨で、朝から細かな雨がしとしとと降りそぼっていた。湿度も高く、肌がじっとりと不快だ。
用事が無ければ家にこもっていたい天気だが、紗奈は白と緑の縦ストライプのチュニックにネイビーのフレアスカートを着込み、黒のスニーカーを履いて、傘立てから赤い傘を持ち上げた。
「ちゃんと話して来るんやで」
見送ってくれる万里子の言葉に、紗奈は「うん」と頷く。表情がすでに硬くなってしまっているのが解る。緊張しているのだろうか。
「晩ごはんは外かどうか分からん。また連絡するわ」
仲直りができたら、そのままデートになるだろうから、晩ごはんは一緒に外か雪哉さんの家で食べることになるだろう。だが物別れに終わってしまったら、その場で解散することになる。
紗奈がどちらを願っているのか、自分でも良く判らない。紗奈と雪哉さんの縁がどうなるのか、それも判らない。だが話をきちんと聞いて判断をしなければ。
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
紗奈は万里子の笑顔に送られて、家を出た。
雪哉さんは紗奈の地元あびこまで来てくれた。デートの晩ごはんに紗奈を送りがてら来てくれることは良くあったので、雪哉さんにもそれなりに土地勘がある。
ふたりはカフェで待ち合わせをした。セルフサービスなので、注文カウンタでホットミルクティを頼んで席に向かう。
雪哉さんは奥まった4人掛けの席にいた。だが店内が明るく開けていて見晴らしが良いので、すぐにその後ろ姿を見つけることができた。
紗奈は小さく深呼吸をし、トレイを手にゆっくりと雪哉さんに近付いて行く。店内は空いていて、人の気配に気付きやすかったのか、紗奈がテーブルに着くより早く雪哉さんは振り向いた。もしかしたら待ちかねて何度も入り口を見ていたのかも知れない。
「紗奈」
「雪哉さん……」
紗奈は驚いて息を飲んだ。雪哉さんは面変わりしてしまっていた。元々ほっそりとした顔つきだったのだが、今は頬がこけて「やつれた」と言う表現がぴったりになってしまっている。肌もそう綺麗な方では無かったが、以前より荒れていた。
人はたった1週間でこんなにも変わってしまうものなのか。一体どうして。まさか自分との喧嘩が原因でこうなってしまったのか? いや、まさか。
紗奈は戸惑いつつも、テーブルにトレイを置き、雪哉さんの正面に腰を降ろした。紗奈は気まずい思いで雪哉さんの顔を見ることができず、つい雪哉さんの胸元あたりに視線を落としてしまう。
「紗奈」
口火を切ったのは雪哉さんだった。
「ほんまにごめん。悪かった」
そう言って、テーブルに頭がぶつかるほどに頭を下げた。メッセージでもあった通り、自分が悪いことをした自覚はあると言うことなのか。だが。
「雪哉さん、なんで私が怒ったか、判ってます?」
できる限り穏やかな声を心掛けて聞くと、雪哉さんは恐る恐るといった様子で顔を上げた。
「俺が、別れるって言った、から」
紗奈はゆっくりと首を横に振った。それは確かにショックではあったが。
「怒ったんは、雪哉さんが私に自分の価値観を押し付けようとしとったからです」
雪哉さんは目を見張った。そして顔を強張らせて「そんなつもりは」と消え入りそうな声を漏らした。
「私が雪哉さんの理想の人間にならへんかったら別れる、でもそうなって来たからこのまま続けてお付き合いをするって、そういうことや無いんですか?」
努めて落ち着く様に、責める様にならない様に、紗奈は言葉を紡いだ。すると今度は雪哉さんがぶんぶんと首を横に振った。
「そんなつもりや無かった。ただ俺は結婚がしたくて、するんやったらちゃんとした家庭を築きたかったから、そうできる相手を望んだだけで」
「ちゃんとした家庭っていうんもそれぞれやとは思いますけど、私も雪哉さんが言う支え合いとか寄り添い合うとか、素敵やと思います。でも私がそう思っているのと、雪哉さんがそうあるべきって言うのはちゃうんや無いかなって思うんです」
あれから1週間も経ったので、もう落ち着いただろうかと思っていたが、話しているとまた怒りがふつふつと沸いて来る。だがそれに任せてしまえばまともな話し合いなんててきない。自分が思っていることもろくに伝えられないだろう。
紗奈は「落ち着け、落ち着け」と自分を諌めながら言葉を選んでいた。
用事が無ければ家にこもっていたい天気だが、紗奈は白と緑の縦ストライプのチュニックにネイビーのフレアスカートを着込み、黒のスニーカーを履いて、傘立てから赤い傘を持ち上げた。
「ちゃんと話して来るんやで」
見送ってくれる万里子の言葉に、紗奈は「うん」と頷く。表情がすでに硬くなってしまっているのが解る。緊張しているのだろうか。
「晩ごはんは外かどうか分からん。また連絡するわ」
仲直りができたら、そのままデートになるだろうから、晩ごはんは一緒に外か雪哉さんの家で食べることになるだろう。だが物別れに終わってしまったら、その場で解散することになる。
紗奈がどちらを願っているのか、自分でも良く判らない。紗奈と雪哉さんの縁がどうなるのか、それも判らない。だが話をきちんと聞いて判断をしなければ。
「行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい」
紗奈は万里子の笑顔に送られて、家を出た。
雪哉さんは紗奈の地元あびこまで来てくれた。デートの晩ごはんに紗奈を送りがてら来てくれることは良くあったので、雪哉さんにもそれなりに土地勘がある。
ふたりはカフェで待ち合わせをした。セルフサービスなので、注文カウンタでホットミルクティを頼んで席に向かう。
雪哉さんは奥まった4人掛けの席にいた。だが店内が明るく開けていて見晴らしが良いので、すぐにその後ろ姿を見つけることができた。
紗奈は小さく深呼吸をし、トレイを手にゆっくりと雪哉さんに近付いて行く。店内は空いていて、人の気配に気付きやすかったのか、紗奈がテーブルに着くより早く雪哉さんは振り向いた。もしかしたら待ちかねて何度も入り口を見ていたのかも知れない。
「紗奈」
「雪哉さん……」
紗奈は驚いて息を飲んだ。雪哉さんは面変わりしてしまっていた。元々ほっそりとした顔つきだったのだが、今は頬がこけて「やつれた」と言う表現がぴったりになってしまっている。肌もそう綺麗な方では無かったが、以前より荒れていた。
人はたった1週間でこんなにも変わってしまうものなのか。一体どうして。まさか自分との喧嘩が原因でこうなってしまったのか? いや、まさか。
紗奈は戸惑いつつも、テーブルにトレイを置き、雪哉さんの正面に腰を降ろした。紗奈は気まずい思いで雪哉さんの顔を見ることができず、つい雪哉さんの胸元あたりに視線を落としてしまう。
「紗奈」
口火を切ったのは雪哉さんだった。
「ほんまにごめん。悪かった」
そう言って、テーブルに頭がぶつかるほどに頭を下げた。メッセージでもあった通り、自分が悪いことをした自覚はあると言うことなのか。だが。
「雪哉さん、なんで私が怒ったか、判ってます?」
できる限り穏やかな声を心掛けて聞くと、雪哉さんは恐る恐るといった様子で顔を上げた。
「俺が、別れるって言った、から」
紗奈はゆっくりと首を横に振った。それは確かにショックではあったが。
「怒ったんは、雪哉さんが私に自分の価値観を押し付けようとしとったからです」
雪哉さんは目を見張った。そして顔を強張らせて「そんなつもりは」と消え入りそうな声を漏らした。
「私が雪哉さんの理想の人間にならへんかったら別れる、でもそうなって来たからこのまま続けてお付き合いをするって、そういうことや無いんですか?」
努めて落ち着く様に、責める様にならない様に、紗奈は言葉を紡いだ。すると今度は雪哉さんがぶんぶんと首を横に振った。
「そんなつもりや無かった。ただ俺は結婚がしたくて、するんやったらちゃんとした家庭を築きたかったから、そうできる相手を望んだだけで」
「ちゃんとした家庭っていうんもそれぞれやとは思いますけど、私も雪哉さんが言う支え合いとか寄り添い合うとか、素敵やと思います。でも私がそう思っているのと、雪哉さんがそうあるべきって言うのはちゃうんや無いかなって思うんです」
あれから1週間も経ったので、もう落ち着いただろうかと思っていたが、話しているとまた怒りがふつふつと沸いて来る。だがそれに任せてしまえばまともな話し合いなんててきない。自分が思っていることもろくに伝えられないだろう。
紗奈は「落ち着け、落ち着け」と自分を諌めながら言葉を選んでいた。
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