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2章 碧、あやかしと触れ合う
第8話 趣味と夢と
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乾杯をしてそれぞれがグラスを傾けると、さっそく! とばかりにみんながお料理にお箸を伸ばした。久慈さん渾身のごちそうに、お父さんと碧の手作り。大きなローテーブルに並べられたお料理は壮観である。
碧もさっそく、久慈さんのポテトサラダを取り皿により分ける。人気なので、早くにキープをしておかないと無くなってしまうのだ。この場に遠慮はいらない、弱肉強食である。兄弟姉妹がいたら、食卓は日々こんな感じなのだろうか。
笠野の祖父母にはお母さんが寄り添っている。黙っていたらどんどんお料理は減っていくので、お母さんが「何食べたい?」なんて聞きながら、取り分けをしていた。
陽くんは碧の横で、甘酢団子を頬張っていた。
「旨いな、これ」
「ほんま? わたしが作ったんよ。春巻きと唐揚げはお父さん」
「へぇ、また上達したんちゃう? 甘酢ええ甘みと酸味やし、団子ふわふわ」
「ええ食レポありがとう」
碧が笑うと、横で黒助くんが「おれも! おれも!」と甘酢団子をがっつきながら騒ぐ。それまで唐揚げを食べていたのに、陽くんとの会話を聞いて、さっそく取りにいったのだろう。
「碧の団子がいちばん旨い! おれが全部食べる!」
弱肉強食とはいえ、それはマナー違反である。
「全部はあかんよ。みんなで分けてね」
「知らん!」
そう言いながらも、きっと黒助くんは独り占めにはしないだろう。なぜか碧にご執心なのだが、普段からお世話になっている都倉本家への恩は忘れていないはずだ。
「さてと、わたしも久慈さんのポテサラ~」
取り皿のポテトサラダをお箸ですくい上げ、わくわくと口に運ぶ。舌に触れると、ああ、ねっとりしていて、何て美味しい。
じゃがいもはなめらかになっているところと、荒く潰されているところがあって、その違いが楽しい。そこにしゃきしゃきの塩もみ玉ねぎときゅうり、シンプルなハムに、ふわふわのスクランブルエッグ。卵からはバターの香りもして、それが味わいを引き上げている。
味付けのメインはマヨネーズなのだろうが、きっと他の調味料も使われていて、深い味になっているのだ。
ポテトサラダは「とくら食堂」でも出していて、碧はお父さんが作るものも大好きである。なのに、久慈さんのポテトサラダに特別感を感じてしまう。半年に1度しか食べられないことも、エッセンスになっているのかも知れない。
ポテトサラダを綺麗に平らげて、次は、お父さんの春巻き。グリル機能で温めたので、皮はさくさくに仕上がっている。
中の具は水溶き片栗粉でまとめられているので、しっとりとしている。どこをかじっても口に入ってくる豚ひき肉はほろりとしていて、しゃきっとした筍に、にらの香り、つるりとした春雨。
オイスターソースが使われているものの、くせは少なく優しい味わいで、あっさりと食べることができる。さすがお父さんの味付けだ。甘さと塩味のバランスがちょうど良いのである。
「うちのポテサラ、久慈さんのを参考にさせてもろてるって、お父さん言うてた」
「へぇ、久慈さんの料理もめっちゃ旨いもんな。叔父さんに認められるぐらいなんや」
陽くんはほのかに目を丸くし、今度は和風カルパッチョを取り分ける。生の玉ねぎスライスとレタスの上に、サーモンとまぐろ、鯛の切り身が放射線状に美しく並べられていて、緑色のソースが全体に良い塩梅に掛かっている。ソースは久慈さんお手製である。
「うん。お父さんは多分柔軟なんやと思う。でも久慈さんのポテサラ、自分の力で再現するって言うてる。そこはプライドなんかなぁ」
「料理人の、ちゅうやつか」
「多分。わたしはまだまだ未熟やからさ」
碧は言いながら、カルパッチョを小皿に乗せた。ソースの味が特に気になった。何が使われているのか。透明感の無い緑色である。
ソースが掛かったサーモンをぱくりと口に入れる。ねっとりとしたサーモンに合わさっているソースは、ベースがなめらかに潰したアボカドだった。まろやかなコクの中でぴりっとするのは、きっとわさび。それをめんつゆの様なもので伸ばしている様だ。なるほど、これは美味しい。お魚にすごく合う。
「お父さんの様には思えへんのよ。お料理番組とか見ても、お料理家の人たち、凄いなぁて思う。多分お父さんもそう思ってて、でも長年培ってきた料理人の競争心みたいなんがね、あるんかなって」
「ふぅん?」
陽くんはあまりぴんとこないのか、かすかに首を傾げる。
「それを言うたら、おれもまだまだ未熟ってことかな」
「税理士の?」
「いや、そっちはそもそも、今のおれは実家に甘えてる立場やから。そうやなくて、カメラ」
「ああ」
陽くんの趣味はカメラなのだ。大学のときは写真サークルにも入っていた。お勉強もあってアルバイトをする時間は無かったので、それまで貯めていたお年玉などで一眼レフのデジタルカメラを買った。
陽くんは実際のお仕事はともかく、都倉本家のために税理士資格を取得しなければならなかった。それでもカメラは続けたかった。
そこで陽くんは自分が撮りたいものを撮るために、お仕事を税理士に決め、カメラは趣味にとどめることにしたのだ。
カメラマンと言っても、いろいろなお仕事がある。例えばアートスタジオで人さまの記念のシーンを撮ったり、芸能人ゴシップを狙ったり、学校で行事写真を撮るだったり。
だが、陽くんは芸術カメラマンになりたかったのだと思う。自分が得意とするジャンルの芸術性で、身を立てることができるカメラマン。でも、そうあれる人は、きっとほんの一握りなのだ。高い実力と運が必要な世界となるのだと思う。
陽くんが割り切れるまで、どれだけの葛藤があったのかは分からない。やんごとなき家庭に長男として生まれてしまった責任を背負いながら、いろいろなものを諦めてきたのかも知れなかった。
碧もさっそく、久慈さんのポテトサラダを取り皿により分ける。人気なので、早くにキープをしておかないと無くなってしまうのだ。この場に遠慮はいらない、弱肉強食である。兄弟姉妹がいたら、食卓は日々こんな感じなのだろうか。
笠野の祖父母にはお母さんが寄り添っている。黙っていたらどんどんお料理は減っていくので、お母さんが「何食べたい?」なんて聞きながら、取り分けをしていた。
陽くんは碧の横で、甘酢団子を頬張っていた。
「旨いな、これ」
「ほんま? わたしが作ったんよ。春巻きと唐揚げはお父さん」
「へぇ、また上達したんちゃう? 甘酢ええ甘みと酸味やし、団子ふわふわ」
「ええ食レポありがとう」
碧が笑うと、横で黒助くんが「おれも! おれも!」と甘酢団子をがっつきながら騒ぐ。それまで唐揚げを食べていたのに、陽くんとの会話を聞いて、さっそく取りにいったのだろう。
「碧の団子がいちばん旨い! おれが全部食べる!」
弱肉強食とはいえ、それはマナー違反である。
「全部はあかんよ。みんなで分けてね」
「知らん!」
そう言いながらも、きっと黒助くんは独り占めにはしないだろう。なぜか碧にご執心なのだが、普段からお世話になっている都倉本家への恩は忘れていないはずだ。
「さてと、わたしも久慈さんのポテサラ~」
取り皿のポテトサラダをお箸ですくい上げ、わくわくと口に運ぶ。舌に触れると、ああ、ねっとりしていて、何て美味しい。
じゃがいもはなめらかになっているところと、荒く潰されているところがあって、その違いが楽しい。そこにしゃきしゃきの塩もみ玉ねぎときゅうり、シンプルなハムに、ふわふわのスクランブルエッグ。卵からはバターの香りもして、それが味わいを引き上げている。
味付けのメインはマヨネーズなのだろうが、きっと他の調味料も使われていて、深い味になっているのだ。
ポテトサラダは「とくら食堂」でも出していて、碧はお父さんが作るものも大好きである。なのに、久慈さんのポテトサラダに特別感を感じてしまう。半年に1度しか食べられないことも、エッセンスになっているのかも知れない。
ポテトサラダを綺麗に平らげて、次は、お父さんの春巻き。グリル機能で温めたので、皮はさくさくに仕上がっている。
中の具は水溶き片栗粉でまとめられているので、しっとりとしている。どこをかじっても口に入ってくる豚ひき肉はほろりとしていて、しゃきっとした筍に、にらの香り、つるりとした春雨。
オイスターソースが使われているものの、くせは少なく優しい味わいで、あっさりと食べることができる。さすがお父さんの味付けだ。甘さと塩味のバランスがちょうど良いのである。
「うちのポテサラ、久慈さんのを参考にさせてもろてるって、お父さん言うてた」
「へぇ、久慈さんの料理もめっちゃ旨いもんな。叔父さんに認められるぐらいなんや」
陽くんはほのかに目を丸くし、今度は和風カルパッチョを取り分ける。生の玉ねぎスライスとレタスの上に、サーモンとまぐろ、鯛の切り身が放射線状に美しく並べられていて、緑色のソースが全体に良い塩梅に掛かっている。ソースは久慈さんお手製である。
「うん。お父さんは多分柔軟なんやと思う。でも久慈さんのポテサラ、自分の力で再現するって言うてる。そこはプライドなんかなぁ」
「料理人の、ちゅうやつか」
「多分。わたしはまだまだ未熟やからさ」
碧は言いながら、カルパッチョを小皿に乗せた。ソースの味が特に気になった。何が使われているのか。透明感の無い緑色である。
ソースが掛かったサーモンをぱくりと口に入れる。ねっとりとしたサーモンに合わさっているソースは、ベースがなめらかに潰したアボカドだった。まろやかなコクの中でぴりっとするのは、きっとわさび。それをめんつゆの様なもので伸ばしている様だ。なるほど、これは美味しい。お魚にすごく合う。
「お父さんの様には思えへんのよ。お料理番組とか見ても、お料理家の人たち、凄いなぁて思う。多分お父さんもそう思ってて、でも長年培ってきた料理人の競争心みたいなんがね、あるんかなって」
「ふぅん?」
陽くんはあまりぴんとこないのか、かすかに首を傾げる。
「それを言うたら、おれもまだまだ未熟ってことかな」
「税理士の?」
「いや、そっちはそもそも、今のおれは実家に甘えてる立場やから。そうやなくて、カメラ」
「ああ」
陽くんの趣味はカメラなのだ。大学のときは写真サークルにも入っていた。お勉強もあってアルバイトをする時間は無かったので、それまで貯めていたお年玉などで一眼レフのデジタルカメラを買った。
陽くんは実際のお仕事はともかく、都倉本家のために税理士資格を取得しなければならなかった。それでもカメラは続けたかった。
そこで陽くんは自分が撮りたいものを撮るために、お仕事を税理士に決め、カメラは趣味にとどめることにしたのだ。
カメラマンと言っても、いろいろなお仕事がある。例えばアートスタジオで人さまの記念のシーンを撮ったり、芸能人ゴシップを狙ったり、学校で行事写真を撮るだったり。
だが、陽くんは芸術カメラマンになりたかったのだと思う。自分が得意とするジャンルの芸術性で、身を立てることができるカメラマン。でも、そうあれる人は、きっとほんの一握りなのだ。高い実力と運が必要な世界となるのだと思う。
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