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2章 関節痛のお婆ちゃんと、骨を強くするご飯
第2話 丁寧語使われる方がむず痒いぜ
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翌日、朝8時に訪れたカロムとともに、塩漬け豚とチーズを挟んだクロワッサン、玉葱とレタスにシンプルなドレッシングのサラダ、燻製豚ときゃべつをブイヨンで煮込んだスープで朝食を取る。
それらはカロムが用意してくれたものだ。浅葱とロロアは8時に起きる事にしていて、カロムはその時間に合わせて来てくれる事になっている。
浅葱とロロアは自力で起きられるので、洗顔や歯磨き、着替えなど、朝の支度をしている間にカロムが朝食を準備し、3人でそれをいただく。
その後、コーヒーや紅茶などで一服する。
そうしてひと心地付いた後は、ロロアは工房で錬金術師としての仕事に精を出し、浅葱はその手伝い。カロムは家事と馬車の馬の世話に励む。
昼食を作るのは浅葱の役目だ。食べ終えると、浅葱とロロアはまた工房へ。
カロムは村へと戻り、翌日の昼食までの食材をメインとした買い出しだ。日用品などが足りなくなれば、この時に買い足す。帰って来たらまた馬の世話をして。
そして夕飯の支度も浅葱の仕事である。後片付けを終えると、カロムは帰って行く。
これが毎日の大まかな流れである。勿論その時々で何かがあれば、その限りでは無い。
さて、今日はカロムに村を案内して貰う事になっている。ついでに買い物だ。朝食の後片付けを終え、出掛ける準備をする。
と言ってもロロアは持ち物など無いし、カロムも買い物用の折り畳める大きなバッグと財布だけを入れた小振りなバッグを襷掛けにするだけだ。
浅葱はこの世界に来た時に持っていたボディバッグを背中に背負う。しかし中身は大分抜いて、自室の机の引き出しに入れていた。スマートフォンも紙幣も硬貨もカード類も、この世界では役立たずである。
財布の中には、この世界に来てからレジーナに貰った小遣いが幾らか入っている。これからは国からの手当てが浅葱たちの生活費及び研究費、小遣いである。
錬金術師には、国から研究費が支払われる。これはあくまで名目であって、生活費などもそこから捻出するのだ。
とは言えその額は充分で、錬金術師は余程の事が無ければ生活に困る事は無い。
そして浅葱はロロアの助手と言う事になっているので、その分も上乗せされる。
ちなみにロロアがレジーナの元にいた時も、弟子と言う身分だったので、当然上乗せされていた。その額は助手の浅葱の分より多い。しかし助手でもロロアの研究費と合わせれば充分だ。
「よし、行くか」
カロムの声に浅葱とロロアは「はい」「はいカピ」と頷き、家を出た。
カロムが操縦するオープンタイプの馬車に乗り、ガタゴトと細かく揺れる道を走る。歩くとそれなりの距離だが、馬車なら早い。10数分後には立ち並ぶ家々が見えて来た。
ちなみにカロムは、村と浅葱たちの家の往復は、鍛錬がてら走って来ているのだそうだ。だが買い物の時は荷物が出来る事もあって馬車を使う予定である。
馬車に乗ったまま村の中に入り、真っ直ぐに進んで行く。するとやがて見えて来たのは。
「わぁ、噴水だ」
浅葱が歓声に似た声を上げる。そう大きくは無いが、石造りの噴水がなみなみと水を噴き出していた。
「噴水はどの村や街にもあってな。それを中心に放射線状に道が広がってるんだ。で、噴水がちゃんと機能しているかどうかで、その村なんかの豊かさを計れるって言われてる。と言っても、乏しい村なんかはそう無いと思うんだがな。って、ロロアは知ってるか」
カロムが言うと、ロロアは「はいカピ」と頷いた。
「お師匠さまの村の噴水も、いつでも充分なお水が流れていましたカピ。このお国には様々な街や村がありますカピが、どこかが困窮しているというお話は聞いた事がありませんカピ。お国そものもが豊かなのだと思うのですカピ」
「表立って無いだけで、困ってるところもあるかも知れんがな。ま、ともあれこの村は安泰だ。さ、まずは村長んとこに行くぜ。役場にいる筈だ。馬車もそこに停める」
役場は噴水から眼と鼻の先だった。そう大きな建物では無かったが、馬車を停めるスペースは充分に取られていた。
カロムはそこに馬車を停めると、ひらりと身軽に地面に降り、馬を柱に繋いで「お疲れ」とでも言う様にその優しい頬をぽんぽんと撫でる様に叩いた。
浅葱とロロアも馬車から降り、馬に「ありがとう」と声を掛ける。すると馬は心なしか嬉しそうに「ひひん」と小さく鳴いた。
「そう言えば、この子に名前を付けてあげないとね。これから沢山お世話になるんだし」
この馬と馬車は、浅葱とロロアの独立前日、要は一昨日に用意したばかりのものだった。
「そうですカピね。是非強そうで優しそうなお名前を付けてあげたいですカピ」
「ま、追い追い考えようぜ。とっとと村長んとこに挨拶行って、その後村の案内な」
「はい」
「はいカピ」
歩き出したカロムに付いて行く浅葱とロロア。役場に入り、中で様々な業務に励んでいる人に適当に声を掛けるカロム。
「おはようございます。錬金術師さまを連れて来ましたぜ」
「あら、じゃあ村長を呼んで来ますね」
机で何やら書き物をしていた若い女性が立ち上がり、奥のドアへと小走りで向かう。ドアをノックして開くと、数秒後そこから顔を覗かせたのは壮年の男性だった。
「おやおやおや、錬金術師さま、ようこそ!」
満面の笑みで近付いて来る。人の良さそうな柔らかな笑顔である。
「私はこの村の村長で、ゲイブと申します。錬金術師さま、ようこそ我が村へ」
村長は躊躇い無くロロアの前に屈み、にこにこと自己紹介をする。
「こんにちはカピ、初めましてカピ。ロロアと申しますカピ。これからどうぞよろしくお願いしますカピ」
「いえいえこちらこそどうぞよろしくお願いいたします。本来でしたらこちらから伺わなければなりませんのに、ご足労をお掛けして申し訳ありません。そちらが助手のアサギさまですね?」
村長の視線がその格好のまま浅葱に移る。浅葱は慌てた。
「さ、さまは止めてください! はい、浅葱と言います。よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」
村長は立ち上がり、そう言って浅葱に頭を下げた。その視線が今度はカロムに移ると、それまで湛えていた笑みが形を潜めた。
「カロム、錬金術師さまやアサギさまに失礼はしていないだろうね? お前は少し人に馴れ馴れし過ぎるところがあるから」
「大丈夫ですよ。俺そんなに信用無いですかね?」
カロムが心外だと言う様に眼を見開く。
「お前の能力は信頼しているよ。だからこそお世話係を任せたのだから。問題は人との距離感だ。錬金術師さま、アサギさま、何か嫌な思いはしておられませんか?」
村長が訊くと、カロムは憮然とした表情になる。
「いえ、全然大丈夫なのですカピ。僕もアサギさんも、楽に接してくださった方が気が楽なのですカピ」
「はい。お陰さまで変な遠慮とかせずに、いろいろとお願いが出来ます」
「そう仰っていただけると助かるのですが」
浅葱とロロアの台詞に、カロムは「ほら見ろ」と言いたげに「ふふん」と小さく鼻を鳴らした。
「俺としては、ロロアとアサギにももっと楽にして欲しいんだけどな。ほら、その言葉使いとか。ふたりとも丁寧語だろ」
「でも、カロルさんは僕よりも年上でしょう? 多分」
「あんま変わらんだろ。なのに丁寧語使われる方がむず痒いぜ」
「そう? だったら、普通に話そうかな」
「おう、そうしてくれ。ロロア、お前さんもな」
「僕はこれが癖なのですカピ。なので変えるのは難しいのですカピ」
「ロロアは小さな子ども相手にも丁寧語だって言っていたもんね」
「そうなんか?」
「そうなのですカピ」
「じゃ、ロロアはそのままで良いか」
そんな浅葱たちの遣り取りを眺めていた村長が、呆れた様な大きな溜め息を漏らす。
「カロム、そういうところだぞ。まぁ、錬金術師さま方が良いと仰られるなら、私は何も言うまい」
「大丈夫ですって村長。俺ら上手くやってますから」
「本当にそう願うよ。錬金術師さま、アサギさま、もしこのカロムが不快だと感じましたらすぐに仰ってくださいね」
「大丈夫ですカピ」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「本当に、ありがとうございます」
村長は言うと、深く頭を下げた。浅葱とロロアは「頭を上げてください!」と慌ててしまう。
「じゃあ村長、俺らはこれで。これからロロアたちに村を案内するんで」
「くれぐれも失礼の無い様にな」
「解ってますよ」
また笑顔を取り戻した村長に見送られ、浅葱たちは役場を辞した。
それらはカロムが用意してくれたものだ。浅葱とロロアは8時に起きる事にしていて、カロムはその時間に合わせて来てくれる事になっている。
浅葱とロロアは自力で起きられるので、洗顔や歯磨き、着替えなど、朝の支度をしている間にカロムが朝食を準備し、3人でそれをいただく。
その後、コーヒーや紅茶などで一服する。
そうしてひと心地付いた後は、ロロアは工房で錬金術師としての仕事に精を出し、浅葱はその手伝い。カロムは家事と馬車の馬の世話に励む。
昼食を作るのは浅葱の役目だ。食べ終えると、浅葱とロロアはまた工房へ。
カロムは村へと戻り、翌日の昼食までの食材をメインとした買い出しだ。日用品などが足りなくなれば、この時に買い足す。帰って来たらまた馬の世話をして。
そして夕飯の支度も浅葱の仕事である。後片付けを終えると、カロムは帰って行く。
これが毎日の大まかな流れである。勿論その時々で何かがあれば、その限りでは無い。
さて、今日はカロムに村を案内して貰う事になっている。ついでに買い物だ。朝食の後片付けを終え、出掛ける準備をする。
と言ってもロロアは持ち物など無いし、カロムも買い物用の折り畳める大きなバッグと財布だけを入れた小振りなバッグを襷掛けにするだけだ。
浅葱はこの世界に来た時に持っていたボディバッグを背中に背負う。しかし中身は大分抜いて、自室の机の引き出しに入れていた。スマートフォンも紙幣も硬貨もカード類も、この世界では役立たずである。
財布の中には、この世界に来てからレジーナに貰った小遣いが幾らか入っている。これからは国からの手当てが浅葱たちの生活費及び研究費、小遣いである。
錬金術師には、国から研究費が支払われる。これはあくまで名目であって、生活費などもそこから捻出するのだ。
とは言えその額は充分で、錬金術師は余程の事が無ければ生活に困る事は無い。
そして浅葱はロロアの助手と言う事になっているので、その分も上乗せされる。
ちなみにロロアがレジーナの元にいた時も、弟子と言う身分だったので、当然上乗せされていた。その額は助手の浅葱の分より多い。しかし助手でもロロアの研究費と合わせれば充分だ。
「よし、行くか」
カロムの声に浅葱とロロアは「はい」「はいカピ」と頷き、家を出た。
カロムが操縦するオープンタイプの馬車に乗り、ガタゴトと細かく揺れる道を走る。歩くとそれなりの距離だが、馬車なら早い。10数分後には立ち並ぶ家々が見えて来た。
ちなみにカロムは、村と浅葱たちの家の往復は、鍛錬がてら走って来ているのだそうだ。だが買い物の時は荷物が出来る事もあって馬車を使う予定である。
馬車に乗ったまま村の中に入り、真っ直ぐに進んで行く。するとやがて見えて来たのは。
「わぁ、噴水だ」
浅葱が歓声に似た声を上げる。そう大きくは無いが、石造りの噴水がなみなみと水を噴き出していた。
「噴水はどの村や街にもあってな。それを中心に放射線状に道が広がってるんだ。で、噴水がちゃんと機能しているかどうかで、その村なんかの豊かさを計れるって言われてる。と言っても、乏しい村なんかはそう無いと思うんだがな。って、ロロアは知ってるか」
カロムが言うと、ロロアは「はいカピ」と頷いた。
「お師匠さまの村の噴水も、いつでも充分なお水が流れていましたカピ。このお国には様々な街や村がありますカピが、どこかが困窮しているというお話は聞いた事がありませんカピ。お国そものもが豊かなのだと思うのですカピ」
「表立って無いだけで、困ってるところもあるかも知れんがな。ま、ともあれこの村は安泰だ。さ、まずは村長んとこに行くぜ。役場にいる筈だ。馬車もそこに停める」
役場は噴水から眼と鼻の先だった。そう大きな建物では無かったが、馬車を停めるスペースは充分に取られていた。
カロムはそこに馬車を停めると、ひらりと身軽に地面に降り、馬を柱に繋いで「お疲れ」とでも言う様にその優しい頬をぽんぽんと撫でる様に叩いた。
浅葱とロロアも馬車から降り、馬に「ありがとう」と声を掛ける。すると馬は心なしか嬉しそうに「ひひん」と小さく鳴いた。
「そう言えば、この子に名前を付けてあげないとね。これから沢山お世話になるんだし」
この馬と馬車は、浅葱とロロアの独立前日、要は一昨日に用意したばかりのものだった。
「そうですカピね。是非強そうで優しそうなお名前を付けてあげたいですカピ」
「ま、追い追い考えようぜ。とっとと村長んとこに挨拶行って、その後村の案内な」
「はい」
「はいカピ」
歩き出したカロムに付いて行く浅葱とロロア。役場に入り、中で様々な業務に励んでいる人に適当に声を掛けるカロム。
「おはようございます。錬金術師さまを連れて来ましたぜ」
「あら、じゃあ村長を呼んで来ますね」
机で何やら書き物をしていた若い女性が立ち上がり、奥のドアへと小走りで向かう。ドアをノックして開くと、数秒後そこから顔を覗かせたのは壮年の男性だった。
「おやおやおや、錬金術師さま、ようこそ!」
満面の笑みで近付いて来る。人の良さそうな柔らかな笑顔である。
「私はこの村の村長で、ゲイブと申します。錬金術師さま、ようこそ我が村へ」
村長は躊躇い無くロロアの前に屈み、にこにこと自己紹介をする。
「こんにちはカピ、初めましてカピ。ロロアと申しますカピ。これからどうぞよろしくお願いしますカピ」
「いえいえこちらこそどうぞよろしくお願いいたします。本来でしたらこちらから伺わなければなりませんのに、ご足労をお掛けして申し訳ありません。そちらが助手のアサギさまですね?」
村長の視線がその格好のまま浅葱に移る。浅葱は慌てた。
「さ、さまは止めてください! はい、浅葱と言います。よろしくお願いします」
「よろしくお願いいたします」
村長は立ち上がり、そう言って浅葱に頭を下げた。その視線が今度はカロムに移ると、それまで湛えていた笑みが形を潜めた。
「カロム、錬金術師さまやアサギさまに失礼はしていないだろうね? お前は少し人に馴れ馴れし過ぎるところがあるから」
「大丈夫ですよ。俺そんなに信用無いですかね?」
カロムが心外だと言う様に眼を見開く。
「お前の能力は信頼しているよ。だからこそお世話係を任せたのだから。問題は人との距離感だ。錬金術師さま、アサギさま、何か嫌な思いはしておられませんか?」
村長が訊くと、カロムは憮然とした表情になる。
「いえ、全然大丈夫なのですカピ。僕もアサギさんも、楽に接してくださった方が気が楽なのですカピ」
「はい。お陰さまで変な遠慮とかせずに、いろいろとお願いが出来ます」
「そう仰っていただけると助かるのですが」
浅葱とロロアの台詞に、カロムは「ほら見ろ」と言いたげに「ふふん」と小さく鼻を鳴らした。
「俺としては、ロロアとアサギにももっと楽にして欲しいんだけどな。ほら、その言葉使いとか。ふたりとも丁寧語だろ」
「でも、カロルさんは僕よりも年上でしょう? 多分」
「あんま変わらんだろ。なのに丁寧語使われる方がむず痒いぜ」
「そう? だったら、普通に話そうかな」
「おう、そうしてくれ。ロロア、お前さんもな」
「僕はこれが癖なのですカピ。なので変えるのは難しいのですカピ」
「ロロアは小さな子ども相手にも丁寧語だって言っていたもんね」
「そうなんか?」
「そうなのですカピ」
「じゃ、ロロアはそのままで良いか」
そんな浅葱たちの遣り取りを眺めていた村長が、呆れた様な大きな溜め息を漏らす。
「カロム、そういうところだぞ。まぁ、錬金術師さま方が良いと仰られるなら、私は何も言うまい」
「大丈夫ですって村長。俺ら上手くやってますから」
「本当にそう願うよ。錬金術師さま、アサギさま、もしこのカロムが不快だと感じましたらすぐに仰ってくださいね」
「大丈夫ですカピ」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「本当に、ありがとうございます」
村長は言うと、深く頭を下げた。浅葱とロロアは「頭を上げてください!」と慌ててしまう。
「じゃあ村長、俺らはこれで。これからロロアたちに村を案内するんで」
「くれぐれも失礼の無い様にな」
「解ってますよ」
また笑顔を取り戻した村長に見送られ、浅葱たちは役場を辞した。
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